不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!

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小噺6連発+1です。正確にはオムニバスと言えるものではないですが。
今回は話毎に視点が変わります。けどメインはミコトのつもりです。



長すぎィ!!

2016/08/11 22:54 あとがきに追記
2016/08/12 20:13 あとがきに追記の逃げ道


四十五話 日常オムニバス 複

1.八神家の食卓(ミコト)

 

 現在八神家には12人の家族がいる。オレ、はやて、フェイト、ソワレ、アリシア、ブラン、ミステール、アルフ、シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ。

 このうちアルフとザフィーラについてはペットポジション(ザフィーラは厳密には違う)のため、10人と2匹と言い換えることが出来る。

 10人。一家庭の食卓を囲むには、やや多い人数だ。このため、食事のときは大小二つのテーブルを使って、人数を分けて席に着いている。

 椅子を使った六人掛けのダイニングテーブルと、三人掛けソファ×2のミニテーブルの組み合わせだ。席次は決まっておらず、毎回それぞれの気分で席を取っている。

 来客があったときやギルおじさん滞在中は、少し席を詰めてダイニングテーブルに八人座ったりすることで対応している。

 オレとはやてのみのときには広い家だと感じていたが、これだけ人数が集まると少々手狭に感じる。もっとも、住む場所があるだけ恵まれているわけであり、文句を言うつもりなどない。

 

 はやてが車椅子だった頃は、常にオレが介助するために近くに座っていたが、松葉杖を使って自由に動けるようになったことで、時折離れた場所に座ることがある。

 そうなると「待ってました」とばかりにオレの隣の席を取り合う面子が、フェイト、アリシア、ソワレの娘組と、ヴィータ、シグナムの騎士組だ。

 ……ヴィータはシグナムとは違い宣誓こそ行っていないものの、オレをはやてと同じかそれ以上に「主」として見ている節がある。本人にも自覚があり、頻繁にオレのことを守ると言っている。

 シグナムにとっての主が「主君」であるとするならば、今のヴィータにとっての主とは「家長」なのだろう。そういう意味で言えば、確かにこの家の長と言うべきは、はやてとオレの二人だ。

 だから、実際に行動することの多いオレに従ってきたために、このような逆転現象が起きたのだろうと推測している。……最初からオレの方に懐いていたような気がしないでもないが、騎士としては違う。はずだ。

 ちなみにシグナムはちゃんとはやてが本来の主であると意識している。あくまでそれが存在原義なのだからと口を酸っぱくして教えたからな。

 話を戻すが、この五人はとにかくオレの隣に座りたがるのだ。さすがにはやてを押しのける真似はしないが、チャンスが転がり込んでくれば逃しはしない。

 ……愛されている証拠なのだろうが、ちょっとむずがゆい。贅沢な悩みではあるのだが。

 

「ヴィータはおとといいっしょにたべたでしょ! こんどはアリシアのばんだもん!」

「アリシアは先週おねえちゃんの膝に乗ってご飯食べさせてもらってたじゃない! だから今日はわたしの番だよ!」

「二人とも、よさないか。ケンカなどするものではない。ここは私が隣に座り、主のお世話をするべきだろう」

「さらっと要求してんじゃねぇーよ!」

 

 姦しく騒ぐ4人。何故4人かというと、ソワレは既にオレの膝の上に乗っているからだ。本当は自分の席で食べてもらいたいのだが、甘えん坊期間に入ってしまったようだ。まあ、おっぱいを吸われるよりはマシか。

 

「4人とも、その辺にしておけ。あまり時間をかけては、せっかくの料理が冷めてしまう。君達は冷えて固くなったハンバーグがお望みか?」

 

 今日はひき肉が安かったからハンバーグにした。大人組のおかげでワインが手に入るようになったので、最近はデミグラスソースで作るようにしている。

 オレ達が手間暇かけて作った料理を台無しにするのは気が咎めたようで、4人は静かになる。ちなみに騒ぎに参加していない面子はダイニングテーブルの方で既に食事を始めていた。

 最初に動いたのは、フェイト。

 

「……わたしはミコトの前に座る。おねえちゃんだもん、我慢できるもん」

「待てよ。そんだったらあたしもミコトの前だ。あたしが一番お姉さんだってこと忘れんなよな」

 

 触発されて動くヴィータ。年下扱いで譲られるのは、さすがに我慢ならなかったようだ。子ども扱いは彼女のコンプレックスなのだ。

 同じ騎士が遠慮をしたことで、将であるシグナムも筋を通す。

 

「ヴィータが自制したのであれば、私も倣わぬわけにはいくまい。私は主の正面に座る」

「おいちょっと待てよ。誰が真ん前まで譲るっつった!?」

「ヴィータだって、今回はわたしに譲ってよ!」

「えへへー、ミコトおねえちゃんのとなりだー」

 

 今度は誰が正面に座るかでもめ始めたところで、アリシアは全く遠慮せずに隣に滑り込んできた。末っ子扱い故に妙なプライドに拘る必要がないということなのだろう。

 そんなアリシアを3人は批難するが、彼女は聞く耳持たず。そもそもソファは三人掛けなのだから、少なくとも1人はこちらに座らなければならない。おかしなことではないのだ。

 結局3人は牽制し合ったまま、対面に座って食事を始めた。なお、正面に座ったのはヴィータであった。

 

「あの5人はほんま懲りんなー。前も似たようなことやっとったよね」

「これで4回目ね。やっぱり、ミコトちゃんの隣にははやてちゃんがいないとダメかしら」

「まさしく「相方」の定位置じゃな。ま、あれはあれで見てる分には面白おかしいがのう、呵呵っ」

「ダメですよ、ミステールちゃん。あの子達は真剣なんだから」

 

 食事自体はごくごく平和に進んだ。別に仲が悪いわけではないのだから、自然なことだ。

 仲が良いからこそ、譲らない。解決することがない贅沢な悩みに、苦笑とため息が漏れた。

 

 

 

 

 

2.お呼ばれして高町家(フェイト)

 

 今日はミコトとはやての三人で高町家に遊びに来ています。

 家の手伝いとかもあって、わたしはあまり友達の家に遊びに行ったことがない。すずかの家に一回と、いちこの家に呼ばれた三回だけ。

 ミコト達も高町家の中に入ったことは実はなかったらしくて(正確に言えば、ミコトは4年前に一度だけ入ってる)、念話でなのはから是非と誘われた。

 アリシアはプロジェクトの方に行っていて、ソワレとヴィータはお留守番です。あんまり大勢で行くのも迷惑だろうし、ソワレはちょっと嫌がってたんだよね。

 何でかって言うと、ソワレはなのはに少しだけ苦手意識があるみたい。元がジュエルシードで、なのはの乱暴な封印を見てしまったからだとか。……あの頃のなのはは駆け出しだったし、仕方ないかな。

 それで、ソワレ一人だけお留守番だと可哀そうだから、ヴィータも残ってくれた。「あたしはお姉さんだからな」って言ってた。でも、一番おねえちゃんなのはわたしなんだから。

 

 そして高町家に遊びに来て最初に案内されたのは、何故か道場でした。

 

「何か、お兄ちゃんがお姉ちゃんとの組手?を見てもらいたいんだって」

「そ、そうなんだ。……どうして?」

「なのはもわかんない。お部屋でおしゃべりしたかったのに」

 

 プンプンと可愛らしく怒って見せるなのは。武術一家な高町家の子供の中で、なのはだけは家の剣術に興味がないらしく、女の子らしい遊びをしたかったみたい。

 その分なのはは魔法の方で攻撃(というか砲撃)に傾倒してるところがあるから、結局士郎さんの血が出てるんだろうね。探査魔法は相変わらず苦手なのに、砲撃魔法はバリエーションが増えているなのはだった。

 妹の抗議に苦笑しつつ、恭也さんが意図を話す。

 

「大したことじゃないんだ。なのはが魔法訓練でミコトに助言をもらって、すごく助かったって話を聞いたからな。俺達も何か得られるんじゃないかと思ったんだ」

「特にわたしがねー。ジュエルシード事件があってから、恭ちゃんとの差が開くばっかりなんだもん」

「はあ。まあ、そういうことなら理解出来ないでもないですが。あいにくとオレは武術の心得などありませんよ」

 

 どことなく胡乱な目でミコトは返す。心得はないし興味もない、ということだろう。ミコトは、口調はこんなだけど、実際はとっても女の子らしい子だから。

 「気軽に見てくれればいいんだ」と恭也さんは軽く笑って、美由希さんと向き合う。美由希さんの方は既に構えを取っていた。

 対して恭也さんは……構えを取らず、自然体。え、この状態からスタートするの?

 

「最近恭ちゃんの人外度がほんと酷くってさー。掠りさえさせてくれないの。わたし才能ないのかなーって思っちゃう」

「腐るな。この構えにもちゃんと意味はあるんだ。別に美由希のことをナメてるわけじゃない」

「分かってます、よっ!」

 

 美由希さんが床を蹴り、突然組手が開始された。恭也さんと同じ剣を習得しているだけあって、一歩の速さが桁外れだ。

 だというのに恭也さんの方は微動だにせず、木刀小太刀を構えることすらせずに立っていた。

 そして美由希さんの剣が振るわれ……まるで蜃気楼でも切ったかのように、一撃は外れていた。え、なにそれ?

 

「なるほど、「無形の位」というやつか」

「知っとるんか、ミコちゃん!?」

 

 何かノリノリで実況と解説(?)を始めたミコトとはやて。二人とも、色々言いながら楽しんでない?

 

「あえて構えず「見」に徹することで相手の動きを全て把握し、最小限の動きで攻撃を回避する無刀の剣技……と、以前読んだ小説に書いてあった」

「小説かい! ってまあ、わたしらがそういう知識得るのは、普通に考えたらフィクションしかないわな」

「いや、けどそれって凄く理に適ってることだよ。消耗せずに攻撃を無効化出来るんだもん。本当に可能なら、これ以上の防御術は存在しないよ」

「ふ、ふぅちゃん?」

 

 何故かなのはが困惑していたけど、ミコトの解説で納得した。恭也さんはこの「ムギョウノクライ」っていう防御術を完全なものにしようとしてるんだ。

 

「凄い……これって剣術だけじゃなくて、魔法戦闘にも通じることだよ。シールドでの防御は魔導師の基本だけど、それすら必要ないなら戦闘を圧倒的有利に進められる!」

「ふ、ふぅちゃーん!? お願いだから戻ってきてー!?」

 

 涙目になったなのはにすがられてしまった。……ちょっと熱くなっちゃったかも。反省。

 道場の真ん中では、相変わらず美由希さんが恭也さんを捉えられずやっきになっていた。

 

「こんのっ……こうなったら!」

 

 美由希さんが後ろに飛んで距離を取る。彼女は額から汗を流しているのに対し、恭也さんは息一つ乱していない。消耗の差が明白だった。

 だから彼女は、必殺の一撃にかけることにしたのだろう。美由希さんが纏う空気が、張りつめたものに一変した。

 小太刀を引く構え。その姿は、まるで矢をつがえ引き絞られた弓のように見えた。

 そして彼女は、放たれた矢のようなスピードで恭也さんに肉薄した。同時放たれる、右の一閃。

 

「御神流・虎切!」

 

 前進とともに広範囲を切り裂く横の一閃は……外れ。既にそこに恭也さんの姿はなかった。

 大技を繰り出した美由希さんは隙だらけ。いつの間にか彼女の後ろに回り込んでいた恭也さんが、後ろ頭に小太刀の柄をコツンと当てた。

 

「はい、俺の勝ち。苦し紛れで奥義を使うな」

「無茶、言わない、でよっ……! こっちは、こっちで、必死だったん、だから!」

 

 あっさりと勝ちを拾った恭也さんに対して、美由希さんは倒れてしまうんじゃないかっていうぐらい息が切れていた。

 凄い試合だった。恭也さんはもちろんだけど、美由希さんも――ある程度戦えることは知ってたけど、ここまでだとは思ってなかった。

 多分だけど、桃子さんを除いた高町家の中で、魔導師であるはずのなのはが一番戦えない。そのぐらい、美由希さんの剣の腕は凄かった。

 総合戦闘力は魔法ありのわたしと同じか、ちょっと下ぐらいなんじゃないかな。もちろん、距離や環境によって変わってくるけど。

 パチパチと拍手をする。はやてもしていたけど、なのはは何故だか落ち込んでいて、ミコトは無言で考えていた。

 

「……最初に言った通り、オレは武術に関してはさっぱりです。だから、二人の技だとか、そういったものに対するコメントはできない」

「それはそうだろうな。むしろ出来るなら、ミコトにも御神の剣を教えたいぐらいだ」

「やめてくださいしんでしまいます」

 

 胡乱な目つきで拒絶するミコト。……ミコトの場合、わたし達に指示を出して動かしてくれるのが一番だと思う。わたしも、おねえちゃんに戦ってほしくはないな。

 恭也さんの方は冗談だったようで、快活に笑った。美由希さんは相変わらず息切れ中。

 

「その上で見て感じたことを率直に述べるなら、恭也さんは「危なっかしい」です」

 

 相変わらずズバッと切り込む意見で、わたしは驚いた。あんなに安定した戦い方をしていた恭也さんに対して「危なっかしい」だなんて。わたしはとてもそうは思えなかった。

 だけどミコトがそう言うなら、何かしら理由があるはずだ。恭也さんも表情を真面目なものにして続きを聞く。

 

「恭也さんが更なる剣の高みを目指しているのは伝わってきました。だけど、「無形の位」は御神の技ではないですよね」

「まあな。俺が扱う御神流は、ちょっと物騒な話になるけど、「殺られる前に殺る」剣だ。活人剣の手法である「無形」とは対極だな」

「だからでしょうね。オレには今の技と恭也さんの剣が、ケンカしているように見えました」

 

 全然、そんな風には見えなかった。……だけど言われてみれば、今の組手で恭也さんが手を出したのは一回だけ。ムギョウノクライ以外の剣技は一切使ってない。

 もしあれが、「使わなかった」のではなく「使えなかった」のだとしたら。その答えは、恭也さんのばつの悪そうな苦笑が示していた。

 

「より高みに上れば二つの技を融合させることも出来るのかもしれませんが、今の恭也さんにはまだ早いんじゃないかと」

「それが、「危なっかしい」ってことか。だけど、鍛錬を積まなきゃいつまで経っても出来なくないか?」

「……オレのたとえやすい話をしますが、和食の修行をしている料理人がフレンチとの融合を考えてそっちに手を出したとして、上手く行くと思いますか?」

 

 「なるほどな……」と得るものがあったのか、恭也さんは顎に手を当てて考え込んだ。

 

「とはいえ、これは武術を分からない素人の意見です。どう判断するかは恭也さん次第ですが……士郎さんの意見も聞いた方がいいのでは?」

「「お前の好きにするといい」って言われちゃったからなぁ。まあ、貴重な意見として参考にするよ。ありがとう、ミコト」

「大したことはしてません」

 

 やっぱり、ミコトは凄い。「武術は分からない」なんて言いながら、自分の分かる範囲で分析して、恭也さんが求めている回答を出した。

 そういうことが出来るから、誰よりも頼りになる。安心できる。だからミコトは、わたしの自慢のおねえちゃんなんだ。

 謙遜(本人は本心から大したことではないと思ってるんだろうけど)するミコトを褒める恭也さんを見て、自分が褒められたみたいに嬉しくなった。

 

「で、美由希だが……生きてるか?」

「だ、大丈夫。そろそろ息整ってきたから」

「そうか。君の場合はもっと簡単だ。落ち着け。以上だ」

「なにそれ!? ちょっと簡潔過ぎない!?」

「あ、それならわたしも分かるかも。当てられないって分かってるのに無駄な攻撃をして、体力を消耗しちゃってるってことだよね」

「そういうことだ。その辺りの判断は、フェイトの方がよっぽど出来ている。年長者としてもっとしっかりしてもらいたいものだな」

 

 頑張ったのに一切褒められなかった美由希さんは、悲しそうに項垂れた。慌ててフォローする。

 

「美由希さんの剣も、凄かったよ!? だ、だから元気出して!」

「……ぅう~、フェイトちゃんはいい子だなぁ~」

 

 抱きしめられてしまった。力はわたしよりもずっとあるので、抜け出すことが出来ない。ちょっと、苦しいかも……。

 

「むぅー……。もう剣のお話終わった? なのは、早く皆でおしゃべりしたいの!」

「なはは、わたしら完全に蚊帳の外やったなぁ」

 

 不満を漏らすなのはと、あっけらかんと楽しそうなはやて。話題に取り残されていても反応が違って、ちょっと面白かった。

 

 道場を出る際、最後にミコトが恭也さんに一言。

 

「そうそう。組手の内容とは関係ありませんが……嫌がる女の子を無理やり薄暗い部屋に連れ込むのは、どうかと思いますよ」

「なぁ!? ちょ、ミコト!?」

 

 恭也さんの抗議を無視し、ミコトは道場を後にし、わたしも慌てて着いて行った。

 多分、道場に連れてこられたのが嫌だったんだと思うけど……なんで恭也さんは狼狽えてたんだろう?

 

 

 

 

 

3.引き続き高町家(なのは)

 

 改めて、ミコトちゃん達をわたしのお部屋にご案内です。三人とも「わぁー」とか「ほー」とか「ふむ……」とか反応してくれて、それだけで誰が誰か分かるよね。個性的なの。

 わたしのお部屋は、すずかちゃんやアリサちゃんとは違って、そこまで広いわけじゃない。一人で行動する分には十分広いけど、4人だとちょっと狭いかもしれない。

 ベッドの上にお座布団を二つ。それから勉強机の椅子を引いて、わたしはパソコン机の椅子に座る。ふぅちゃんが椅子を使って、はやてちゃんとミコトちゃんはベッドに座りました。

 

「あんまり、お人形とか飾ってないんだね。なのはのイメージから、もっと飾ってるのかと思ってたよ」

「にゃはは、お人形さんも嫌いじゃないんだけど、どうしても実用重視になっちゃうっていいますか……」

 

 わたしは、小さい頃からあんまり人形や小物を集める趣味がなく、その代わりにパソコンみたいな実用品に興味が向く性格だったみたいです。

 全く集めてないわけじゃなくて、枕元のキツネさんや勉強机のネコさんみたいに、気に入ったものは飾っています。……そのぐらいだけど。

 

「まあ、高町家の子供だな。実用重視、大いに結構。オレは嫌いではない」

「わたしらの部屋も、あんま小物とか置いとらんからなー。そういうのはさっちゃんの十八番やで」

「そういえばさっちゃんって「可愛いもの大好き」って言ってるんだっけ」

 

 海鳴二小組の皆とはまだあんまり話を出来ていないから、全員のキャラクターを掴めているわけではない。さっちゃんのイメージは、ミコトちゃんより小っちゃくてのんびりしてる子って感じかな。

 ……この間の運動会では、明らかになのはより動けてました。仲間だと思ってたむーちゃんも、ミコトちゃんみたいなかっこいいことしてたし……。

 

「は、はやてちゃんは運動苦手だよね……」

「急にどーしたんや、なのちゃん。そらまあ、この足やから得意なわけないけど」

「大方運動会を思い出して危機感でも覚えたのだろう。ジョギングでも始めたらどうだ?」

「うぅ、魔法の朝練のときにちょっとはしてるんだよ……」

『Don't worry, Master. You have many advantages. Cheer up.(気にし過ぎてはダメですよ、マスター。あなたにはあなたの素晴らしいところがたくさんあります。元気を出してください)』

 

 首から下げたわたしのデバイス・レイジングハートが励ましてくれた。味方はレイジングハートだけだよぉ……。

 なのは達の様子を見て、ふぅちゃんがどことなく寂しそうに笑った。ほんのちょっぴり、だけど。

 

「なのははいいなぁ、レイジングハートが融通の利くデバイスで。バルディッシュなんて、そんな気の利いたこと言ってくれないんだから」

『...Sorry, Sir(申し訳ありません、サー)』

 

 言われてみると、レイジングハートと違ってバルディッシュはおしゃべりな感じがしない。何ていうか、必要なことだけを言葉にする「出来るひと」って感じ。

 別にレイジングハートが出来ない子ってわけじゃないんだけど、バルディッシュは雰囲気がかっこいいよね。レイジングハートはどっちかっていうと柔らかい雰囲気だから。

 自分のデバイスの話になり、今度ははやてちゃんが明るく笑った。

 

「返事してくれるだけ十分やって。今わたしが使ってるストレージは、AIがついてないからなーんにも教えてくれへんのやもん」

「そういえばそうなんだっけ。……それって、何だか寂しいの」

「言っておくが、向こうでは非AI型のデバイスの方が主流だぞ。AI型は値段が高いし、「勝手に魔法を使ってしまうことがある」から本来は上級者向けだ」

 

 そ、そうだったの? レイジングハートは色々助けてくれるから、てっきり初心者向けだと思ってたの……。

 ふぅちゃんが苦笑しながら教えてくれた。ミッドチルダでは、普通は杖型のストレージデバイスを使って魔法を習うんだそうです。それから本人の適性によって色々なデバイスに変えていくんだって。

 わたしは事情が事情だったので、最初からインテリジェントデバイスを使ってたけど、これはあんまり一般的じゃないみたい。ふぅちゃんも、実は最近までストレージを使ってたそうです。

 

「バルディッシュは、リニス……わたし達の先生が、いなくなる前に作ってくれたデバイスなんだ」

「ふぅちゃん……。ごめんね、悲しいことを思い出させちゃったよね」

「ううん、大丈夫。お別れの言葉を言えなかったのは残念だけど、今のわたしには大切な人がたくさんいる。こんなことでしょげてたら、リニスから怒られちゃうよ」

 

 ふぅちゃんは翳りのない笑顔でそう言ってくれた。……本当に強くなったよね、ふぅちゃん。初めて会ったときからは想像できないほどに。

 敵対してた頃のふぅちゃんの最初の印象は、「悲しい瞳の女の子」。だけど今の彼女にそんな様子は微塵もなく、毎日を楽しく生きていることが伝わってくる。

 だからわたしは、謝罪ではなく笑顔を返した。一緒に笑ってる方が、なのはもふぅちゃんも、はやてちゃんもミコトちゃんも、絶対幸せだから。

 

「うん! なのは、ふぅちゃんのこと大好き!」

「え、えへへ……ありがとう、なのは」

「なんや、アツアツやなぁ。わたしらもラブラブなとこ見せよか、ミコちゃん」

「対抗するな。人目をはばからずそういうことを言うから同性愛疑惑を持たれるんだ、まったく」

 

 ミコトちゃんも、口元は柔らかく笑ってました。

 

 それからわたし達は、色んなお話をしました。楽しいことからくだらないこと、男の子のことや趣味の話、本当に色んなお話でした。

 

「そういえば、ミコちゃんって高町家の中入るのは、これで二度目なんよな。一度目のときってなのちゃんの部屋まで上がったん?」

 

 話題の一つとして、はやてちゃんが「四年前の出来事」について尋ねました。それはなのはの恥ずかしい記憶にも繋がっているため、慌てて話題を変えようとしたんですが……。

 

「いや、リビングまでだ。あのときのなのはがオレを自分の部屋に上げるわけがないだろう。何せオレを男だと思っていたからな」

「にゃあああ!?」

 

 ミコトちゃんが鮮やかに切り返したため、逃げ道がなくなってしまいました。うう、ミコトちゃんのいじわるー!

 この話はふぅちゃんも気になる話題だったようで、ずいと身を乗り出している。味方がいないの。

 

「わたしにはいまだに理解できないよ。なのはは、どうしてミコトのことを男の子だと思ったの?」

「うぅ、そ、それはー……」

「桃子さんも言うとったよなー、最初から可愛い女の子やったって。一体なにしゃべり方がなのちゃんに勘違いさせたんやろうなー」

「答えを言ってるじゃないか」

 

 そうなんです。なのはもほとんど覚えてないけど、ミコトちゃんのことを男の子だと思った最大の理由は、「しゃべり方」だったのです。

 よくよく見れば(というかパッと見で十分だけど)女の子らしい顔をしていたはずだし、仕草や行動なんかも女の子がすることをしてたはずなんです。

 たとえば、歩き方。男の子はドタドタと歩く子が多いけど、ミコトちゃんはなんていうか、しなやかに歩く。これは今の話だけど、昔からそういう歩き方をしていた記憶が、本当にわずかだけど残ってる。

 あとは、髪のかき分け方なんかも手の甲でスッてやってて、今から思えばとっても「お嬢様」って感じでした。

 そういう一切合財を「この子は自分のことを「オレ」って言ってるから男の子なんだ」という先入観によって無視していたのです。

 

「オレとしては、非常に分かりやすい行動があったのに、それでもなのはが男だと思い続けていたという事実が驚愕だよ」

「え? そんなのあったの?」

 

 ミコトちゃんから驚愕の事実が明かされる。そんな分かりやすい行動あったっけ。

 

「簡単な話だ。「オレは女子トイレを使った」。男がそんなことをしたら、公園で遊んでいた幼児たちが大騒ぎ待ったなしだ」

「……あれ?」

 

 そ、そうだったっけ? 全然記憶にないの。っていうか、ミコトちゃんがおトイレに行ったっていう記憶自体が……。

 

「……まあ、あのとき君は砂場遊びに夢中だったから、大方聞き流していたのだろうが。如何にオレを見ていなかったかがよく分かる」

「うぅ、自覚してるの……」

 

 結局、最近に到るまでわたしはミコトちゃんの「イメージ」しか見ていなかったのです。わたしが勝手に作り出した、現実とは違うミコトちゃんの「イメージ」。

 とっても失礼な話で、こうやって時々弄られることなんか我慢しなきゃいけないぐらい酷い事をしました。なのはだって、何年間も男の子だと思われてたら嫌なの。

 だからミコトちゃんは……とっても優しい女の子だって思う。そんなわたしとだって、こうして友達になってくれたのだから。

 

「けど、勘違いを継続させたんはミコちゃんにも責任あるんちゃう? 一回で関係切らなかったら、間違いを正す機会はあったはずやん」

「当時のオレにそれを求められてもな。今は君のおかげで丸くなったが、あのときは感情が未熟というレベルじゃなかったんだ。もし続けていたら、多分オレはここにいない」

 

 そういえば、ミコトちゃんは(覚えてないわたしの提案で)うちの子になるかもって話があったんだっけ。……なのはにはよく分からないけど、ミコトちゃんが無理だっていうなら、重大な理由があったんだろう。

 なら、今の関係があるべき形であって、なのははミコトちゃんの友達になれた。それで十分なの。

 ……十分、なんだけど。

 

「? どうした、なのは。いきなり抱き着いてきて」

「えへへー。ミコトおねえちゃーん」

 

 ちょっと甘えたくなった。"ありえない可能性"でなのはのおねえちゃんになってくれたかもしれないミコトちゃんに、抱きしめてもらいたくなった。

 だって……それがなのはとミコトちゃんを繋ぐ、一番の"絆"だから。

 

「あー!? だ、ダメだよなのは! ミコトはわたしのおねえちゃんなのっ! 取っちゃダメー!」

「にゃははー、ミコトちゃんやわらかくていい匂いー」

「……はあ、まったく。やはり高町家の魔の手からは絶対に逃れられないみたいだな」

「と言いつつ満更でもなさそうなミコちゃんであった、まる」

 

 わたしは満足するまで、ミコトちゃんの暖かくて柔らかな匂いに包まれていました。

 

 この後、ふぅちゃんとはやてちゃんもミコトちゃんに抱き着きました。ちなみに、一番長かったのははやてちゃんでした。一番しつこかったのもはやてちゃんでした。

 

 

 

 

 

4.翠屋での一幕(ミコト)

 

 その日、翠屋のバイト(お手伝い)に入っていたのは、オレとなのは、そして恭也さんの大学の友人である須藤(男性)の三人だった。

 八神家のメイン収入源となっているシャマルとブランであるが、別に毎日シフトに入っているわけではない。彼女達にも安息日は必要だ。

 今日は平日であり、ピークを過ぎたこの時間帯はそこまで忙しくもない。ホールスタッフが三人だけでも十分回せる。

 

「ありがとうございましたー! またのお越しをお待ちしてまーす!」

 

 一組のお客さん(女性二人組)がお帰りの際、須藤が上機嫌にお見送りをした。恭也さんの友人という割には軽薄そうな見た目をしており、実際中身もお調子者である。

 他の知り合いと比較すると、ガイに近いタイプだ。奴との違いは、三枚目役を意図しているかしていないかだろう。あとは変態性の有無か。

 

「今のお客さんのテーブルを片付けたら、三人ともしばらく休憩してくれて構わないよ」

 

 客足が落ち着いたので、士郎さんから休憩の指示を出された。最初こそ業務中の休憩に難色を示したオレであるが、今はもう受け入れることにしている。気にするだけ無駄な労力なのだ。

 士郎さんの言葉通りテーブルを使えるように片付け、オレとなのはは飲み物(彼女はミルクたっぷりのアイスコーヒー、オレは水)を持ってそこに座った。

 そして何故か、須藤も同じ場所に座る。普段彼はオレ達と一緒の席には座らない。小学生と大学生、男性と女性で話が合わないからだ。

 

「今日俺ら三人だけだし、士郎さんも桃子さんとイチャつき始めたからさー」

「もー……、二人とも恥ずかしいの」

 

 話し相手になってくれそうな士郎さんが病気(人目をはばからずイチャイチャする病、はやてとなのはも患っている)を発症したためにこちらに来たそうだ。

 そういうことなら、邪険にするわけにもいくまい。というかする必要もない。オレ達と彼の間には、業務上の信頼関係は存在しているのだ。

 オレとなのははそれぞれの飲み物で口を湿らす。その動きを見て、須藤は何かに気が付いたようにごちる。

 

「そーいや、チーフってなのはちゃんと同じ左利きなんだよな」

「チーフ言うな。今更過ぎるぞ、オレがシフトに入って何ヶ月目だ」

 

 当たり前の話だが、オレは注文を受けるとき、右手に伝票を、左手にペンを持って記入している。その光景はこれまでに何度も展開されているはずだ。

 最初の日にアリサが(皆に後れをとって)言及したことでもあり、改めて触れるまでもない話題でしかない。

 ……が、この利き手の話題になると、なのはは嬉しそうな表情になる。どうにもオレとお揃いであることが嬉しいようだ。飽きもせずよく話す気になれるものだ。

 

「えへへ、そうなの! ミコトちゃんは、なのはと一緒なの!」

「……あっれー、なんでだろ。話振ったのは俺なのに、何だか凄い疎外感を感じるぞー?」

「自業自得だ、愚か者め。何故今更利き手の話を振った」

「ああそうだった。左利きって大変じゃね?って話」

 

 それは、まあそうだろう。世の中は右利きの人間が大半を占めており、必然的に社会の構造が右利き用に作られる。

 オレがそれを一番身近に感じるのは、包丁だ。料理をしない人間には馴染みがないかもしれないが、包丁にも右利き用と左利き用があり、使いやすさがまるで違う。

 八神家にははやての厚意によって左利き用の包丁があるのだが……右利き用に比べて値が張るのだ。安くても1.5倍程度割高となっている。

 だから一人暮らし時代は右利き用を無理やり使っていた。はやてに左利き用を買ってもらって初めて使ったときは、その扱いやすさに少々戸惑ったほどだ。

 こうした私生活関連だけでなく、公共施設の構造なども基本的には右利き向けとなっている。オレは使ったことがないが、駅の自動改札がいい例だろう。

 

「確かにそういった面はあるが、生きるのが困難というほどではない。少なくとも、オレは左利きで不自由したことは一度もない」

「なのはも、そうかな。もしかしたら、これから先困ることがあるかもしれないけど」

「んー、そんなもんかー。もっと大変なもんだと思ってたけど、考えてみりゃ本人にしたら当たり前のことだもんな」

 

 何か一人で納得している須藤。どうでもいいが、大学生の男が女子小学生二人と喫茶店で話している図は、端から見たらどう映るのだろうか。どうでもいいが。

 

「いやさ、そこまで大変じゃないなら、俺も左利きのままがよかったなーって思ってなー」

「あれ? ゆーやさんって右利きですよね?」

 

 ちなみにこの男、フルネームは須藤熊野(すどうゆや)という。なのはにとっては発音しづらいらしく、こうして伸ばして呼ばれている。どうでもいいが。

 

「実は小三まで左利きだったんだよ。習字で右に直されたんだけどさ」

「ああ、そういう話は聞くな。確か書道では右手で筆を持たなければいけないんだったか」

 

 うちの学校ではまだ書写の授業がないため、オレには無縁の話だが。海鳴二小では五年からだったはずだ。果たしてオレはどうなることやら。

 

「今は左でやってもあんまり怒られないらしいけど、俺のときって厳しくてさー。無理矢理右手で書かされて、気が付いたら何するのも右にされてたってわけ」

「……本当に今更だが、それは体罰に当たるんじゃないか? 本人の意思を無視した矯正だ。この国が基本的人権を保証している以上、教育の在り方として間違っている」

「なのはは難しいことは分からないけど、やっぱりおかしいって思います。ゆーやさんは左手の方が使いやすかったのに、そんな無理矢理右に直されるって……」

 

 オレの方は論理的に導出した結論だが、なのはは少し感情的になっていた。そんなつもりではなかったらしく、須藤は慌ててフォローする。

 

「ああいやいや! 右に直されたからって不自由はなかったし、別に文句があるわけじゃないんだよ。実際、文字って右手で書くように作られてるから、楽っちゃ楽だったし」

「だがお前はさっき「左利きのままがよかった」と言った。思うところはあるんだろう?」

 

 彼は苦笑し、頬をかく。図星……ということではないようだ。結局、何が言いたいんだ。

 オレとなのはの疑問に、彼は咳払いをしてから答えた。

 

「左利きの方が、モテそうじゃん」

 

 ……。沈黙するしかない。真面目な話をしているのかと思いきや、とてつもなくくだらない話だった。

 

「いやね、これ年頃の男としては死活問題。少しでも他の奴らと違うところ見せないと、マジで埋もれるのよ。つーか彼女ほしい」

「小学生の女子にする話ではないな。お前がモテない理由がよく分かった」

「も、モテなくはねーし!? 大学でも「須藤君っていい人ね」ってよく頼られてるし!?」

 

 「都合がいい」という意味だろう。こいつを心配する義理はないのだが、悪い女に引っかかるんじゃないかと将来を憂いてしまう。

 先ほどとは逆に、なのはが須藤をフォローする。

 

「そ、そんなに無理しなくても、ゆーやさんなら素敵な恋人を見つけられますって!」

「なのはちゃん……ほんっといい子だなぁ。どう? 今なら俺、フリーだけど」

「人の妹をたぶらかそうとするな」

 

 パカンと良い音を立てて、須藤の頭頂に拳骨が炸裂した。恭也さんが大学から帰ってきたのだ。

 彼とあいさつを交わし、恭也さんは再び須藤の方を向く。

 

「第一、なのはには好きな相手がちゃんといる。若干不安はあるが、俺も認めている相手だ」

「えーマジでー? 大人しそうな顔して、やるねぇ」

「にゃ、にゃはは……向こうは相変わらずなんだけど」

 

 本当にあの男はどうにかならんのか。お互いに気持ちが通じていて、なのはからこれだけのアプローチを受けて、何故首を縦に振らん。実はハーレム思考すら隠れ蓑で、本当はホモなんじゃないか?

 何処まで本気か分からない男故に、本音が何処にあるのかもよく分からなかった。理解する気も起きないが。

 

「ならさー、ミコトちゃんはどうよ? 俺、最近マジでミコトちゃんが本命になりつつあるんだけど」

「さて、110番に通報しなければ」

「待ってやめて俺が悪かったから!?」

 

 立ち上がりガチ目のトーンで(実際身の危険を感じた)放った言葉で、須藤が平謝りをしてくる。

 そして当然というか、オレのことを妹のように思っているこの人も黙っているわけがなく。

 

「須藤。お前がミコトに手を出そうというなら、俺は友を斬る覚悟すらある。そう覚えておけ」

「やだなぁ高町クン冗談だよ冗談だからそんな殺せそうな目で僕を見ないでくれよおねがいしますしんでしまいます」

 

 恭也さんの本気の視線を受けて、一般人である須藤が耐えられるわけもなく。冷や汗をだらだら流しながら、その場に平伏した。

 ……本当の妹のときよりも、妹的な他人のときの方が本気なのはどうなのだろうか。恭也さんに関しては今更の話であるが。

 須藤が実は矯正された元左利きであり、あの手この手で彼女を欲しがっているというくだらない事実を理解してしまったところで休憩は終了。

 それからは恭也さんと、少し遅れて美由希も加わり、五人でホールを回した。

 ――須藤は帰り際に、士郎さんからも威圧されていた。やっぱりオレ関連である。

 

「最低でも恭也より強い男でないと、ミコトちゃんは任せられないよ。本当に本命なら、それを覚えておいてくれ」

「……大人しく身の丈にあったところで探します」

「うん、それが賢明だ」

 

 とばっちりでユーノが目指すべきハードルが上がったわけであるが……オレの知ったことではないか。

 

 

 

 

 

5.聖祥大付属小学校、秋のレクリエーション大会(ガイ)

 

 本日は聖祥大付属・秋のレクリエーション大会の日。今年の内容は「海鳴ウォークラリー」だ。

 名門私立としてこの地域に名を知られる聖祥だけど、何も勉強しかしないというわけじゃない。生徒達の情操教育にも力を入れており、こういった課外活動や芸能鑑賞なども行われている。

 で、レクリエーション大会は春と秋の二回行われるんだけど、その内容は毎回違う。この課外活動は思考の柔軟性を養うためのものであり、同じことの繰り返しだと思考が硬化してしまうから……らしい。

 分からないでもないし、生徒達は楽しんでるから、理由なんて何でもいいだろう。俺もこの行事は毎回楽しみにしている。

 ちなみに今年の春はクラス対抗ドッヂボール大会だった。初等部の全学年が入り乱れて戦い、3年1組が優勝した。……すずかが大活躍だったと言っておく。

 正直なところを言って、春は個人的に失敗だったと思ってる。すずかのワンマンプレーで事が済んでしまい、ちょっと面白みがなかった。

 これがミコトちゃんみたいなスーパーリーダーが別チームにいたら、盛り上がったんだろうけどな。海鳴二小の運動会では大活躍だったってなのはから聞いてる。

 ま、過ぎたことをうだうだ言ってもしょうがない。今はウォークラリーについてだ。

 

 この「海鳴ウォークラリー」は、文字通り海鳴の各所を歩きまわってから聖祥へ戻るという簡単な競技……競技でいいか、一応順位はつくから。

 一風変わってるのは、チェックポイントが設けられておらず、回るコースも自分達で決めていいということになっている。

 そして通った場所を班ごとに配られたデジカメで撮影し、採点してもらうというルールになっている。

 あまり遠出しすぎてもタイムに影響が出るし、逆に近場だけだと大した得点にならない。最低限のルールだけで、生徒達の判断にゆだねられる部分が大きいのだ。

 乗り気でない生徒にとっては余計につまらないルールかもしれないが、俺はこっちの方が面白いと思う。決まりきったことをやるわけではなく、自分達で何をするか決めるのだから。

 俺だけでなく、少なくとも3年1組の生徒達には受けがよかったので、このルール設定は良かったんだろうな。

 

 んで、俺の班なんだけど、剛田と藤林の二人が当たり前に組んできた。確かに男子の中では仲のいい連中なんだけど、たまには別の面子で行動するのも面白いんじゃないかと思ったりもするんだが。

 まあ、結局この三人になった。そして当たり前にリーダーを任された。やめてくれよ……(震え声)

 いやさ、剛田はともかくとして藤林は翠屋FCのキャプテンだろ? そこんとこどうなのよ。「僕はまだ未熟だから、頼れる藤原君に任せるよ」? あ、そっすか……。

 正直言って、俺はリーダーなんてガラじゃない。どっちかっていうと、リーダーから命令されて「はい喜んでー!」っつって動く小間使いタイプだ。具体的にはミコトちゃんの指示な。

 なので、リーダーなんか任されても上手くやれる気はしないんだけど……任された以上は、手を抜けねえよなぁ?

 そんなわけで、下は海鳴臨海公園、上は桜台登山道までを練り歩く、男三人の歩き旅が始まったのである。

 

 

 

「ちょ、タンマ……これ、マジ死ぬる……」

「知ってたけど、お前バカだろ。知ってたけど。自分が歩けない行程考えるって何やってんだよ」

「だ、大丈夫、藤原君。ちょっと休憩はさもっか?」

 

 俺は決して体力がないわけじゃない。平均よりはあるはずだ。それでも、海から山までを歩くという行程はキツかった。速足で歩いてるからなおさらだ。

 そんな俺に対して、スポーツマン二人は余裕のよっちゃん。藤林の方は少し息が切れてるみたいだけど、ほんのちょっとだ。剛田に至っては汗一つかいてない。この人間ジャイアンが!(意味不明)

 

「あ、あそこ。ベンチがあるよ。あそこでちょっと小休止入れようよ」

「……仕方ねえな。おら、藤原。もうちょっとだけ気張れ」

「ひぃー……くやしいのぅ、くやしいのぅ……」

「何か、こいつ余裕ありそうじゃねえ?」

「藤原君は余裕なくてもネタを挟んでくるから分からないよ?」

 

 条件反射だからな。ジッサイ余裕はありません。息をするのもしんどいレベルです。

 剛田に肩を貸してもらいながら、ベンチまで歩く。座ると、これまで体にため込んでいた熱が一気に立ち上って、気温が一気に上昇したように感じた。

 今は十月半ば。そろそろ暑さも落ち着いてきたころだが、それでも日が差す昼間は暑い。外で運動していれば、それは顕著になる。一息つくと、汗がドバーッと流れ始めた。

 

「ちょっとスポーツドリンク買ってくるわ。リクエストあるか?」

「アクエリィ……(小声)」

「ゲータレードあったらお願い。なければ適当でいいから」

 

 剛田が好きなのはマッチだっけ。三人ともバラバラだなぁ。別にいいけど。

 藤林はベンチに座らず、屈伸運動やストレッチなんかをして、足の調子を整えていた。さすがはスポーツマン、俺はそんなマメにはなれねえな。

 

「……おん?」

 

 ベンチに背を預けて楽にしていると、左手の先に小学校と思われるものが見えた。……あれ、海鳴二小か?

 そういえばと気付く。地理的に見たら、この辺は八神家の近くだ。空から見てはいたが、こうして足で歩くのは初めてだった。

 今日は平日。聖祥以外の学校は普通に授業がある。あそこでは今、ミコトちゃんやはやてちゃん達が授業を受けているのだ。

 つまり、むつきちゃんもあそこにいるということだが……。

 

「ふーん……」

「? どうしたの、藤原君。さっきから唸って」

「んー。剛田にお節介かましてやろうと思ったんだけど、さすがに無理あるかなぁってな」

「???」

 

 藤林はむつきちゃんと剛田の関係を知らない。こいつは自分の彼女にかかりきりだから、他の連中の男女関係なんかに気を回してる余裕はないはずだ。っつーかそれ以前に空気読めないからな、こいつ。

 寄り道して海鳴二小を訪問したところで、都合よくむつきちゃんが校門のところに来てくれるわけじゃない。あの子が単独で念話出来るなら呼び出せたかもしれないけど、無茶な話だよな。

 ま、しゃーねーわ。今回は都合が悪かったってことで。

 

「ほいよ、ゲータレード。藤原はアクエリなかったから、H2Oで我慢しろ」

「ニッチ過ぎんぞ、おい!?」

 

 何でマイナースポドリ(偏見)が置いてあってアクエリはないんですかねぇ。コレガワカラナイ。

 水分を投げ渡してきた剛田は、さっきまで俺が見ていた方を見た。視線を細めて、じっと見続けている。

 

「そーいや剛田って家この辺だよな。海鳴二小の学区っつー話なんだから」

「そうだったの? 僕、その話聞いたことないなぁ」

「わざわざ言うことでもねーだろ。こいつが知ってるのは、まあ、ちょっとあったんだよ」

「こいつの幼馴染が海鳴二小通ってて、ミコトちゃんと知り合いだったんだよ。ほれ、海のときもいた眼鏡の子だよ」

「ああ、伊藤さん。だから剛田君は伊藤さんと親しそうだったんだ」

 

 藤林の空気読めてない発言に、曖昧に笑う剛田。……はー、こいつもなかなか踏ん切りつかねえやつだよなぁ。俺も人のこと言えねーけど。

 が、ここで藤林のナチュラルボーンKYが、思わぬ方向に運んでくれた。

 

「せっかく近くまで来たんだし、ちょっと海鳴二小に寄ってかない? 授業中だとは思うけど、校門前までならいいでしょ」

「え? いや、別に俺は……」

「そう遠慮しないで。藤原君、そろそろ行けそう?」

「ん、水分補給出来たし、とりあえずはオッケー」

「おい、藤原……」

 

 藤林の提案に乗る俺に小声で抗議する剛田。「ヒヒヒ」と笑ってそれを無視した。

 むつきちゃんに会わせてやれるわけじゃないけど、近くまで行って剛田の慌てる反応を見るのもまた一興、ってな。

 

「おーっし。んじゃ一旦進路変更して海鳴二小へー。せっかくだし、あすこの写真も撮っとこうぜ」

「いいね、僕達がズルせず海から山まで歩いた証拠になるかも」

「おい、だから俺は……人の話聞けよ!?」

 

 俺と藤林は剛田を引っ張って(こっそり足の裏に粘着シールド貼って踏ん張った)、海鳴二小の校門へと向かった。剛田の抗議はとことん無視した。

 

 偶然とは恐ろしいものである。

 

「マジかよ……」

「わーお……これは予想外」

「……あれって、チーフさんだよね。目立つから遠くからでもよく分かるなぁ」

 

 この時間、どうやらミコトちゃんのクラスは校庭で体育の授業だったようだ。縄跳びをやっており、藤林の言う通りミコトちゃんの長い髪が揺れて、めちゃくちゃ目立ってた。

 ミコトちゃんのクラスということは、はやてちゃんとフェイトちゃん、そして海鳴二小5人衆もその場にいるということだ。つまり、剛田が会いたくて会いたくないむつきちゃんもいる。

 それを理解した瞬間、俺の思考はすぐさま切り替わり、はやてちゃんに向けて念話を飛ばす。

 

≪アロー、てすてす。はやてちゃーん聞こえますかー≫

≪およ? ガイ君? なんでこんな時間に念話飛ばして来とん?≫

≪ちょいと校門のとこ見てくだせーな≫

≪……あらー。なしておるん? 一緒におるのって、たける君とユウ君やよね≫

≪秋のレクリエーション大会でウォークラリー中。ちょっと海から山まで歩いてる最中に近く通ったんで寄りました≫

≪何やっとんねん。かなり距離あるやないか≫

 

 だよねー。正直俺もミスったと思ってる。が、まあ今は結果オーライなのである。

 

≪それはそれとしてだぜ、はやてちゃん。ここに剛田がいて、そこにはむつきちゃんがいる≫

≪……つまり、挟み撃ちの形になるな≫

≪Bene(よし)! こっちは剛田引き留めとくから、むつきちゃんの方は任せたぜ!≫

 

 はやてちゃんはノリがいいから助かる。見学していた彼女は松葉杖をついて動き出し、むつきちゃんのそばに寄って行った。

 

「それにしても、チーフさんの人気凄いねー。ほら、男子がほとんど見てる。妹さんの方も見てるみたいだけど、チーフさん狙いが多いんだね」

「そらなー。フェイトちゃんも可愛いけど、なんつってもミコトちゃんには「色気」があるからな。ああたまんねえ」

「お、おい藤原。藤林も、もういいだろ。そろそろ行こうぜ」

「まー待てよ剛田よー。ミコトちゃんの体操着姿なんて滅多に拝めねえんだからさー、もうちょっと見させろよなー」

「おまっ……分かっててやってんだろ!?」

 

 さあなんのことだかなー。こっちに向かってきてる眼鏡の子なんて、俺は分からないなー。

 

「たける君っ! どうしてここに!?」

「あっ……や、やあ、むつきちゃん。お久しぶり……」

「こんにちは、伊藤さん。今日はレクリエーション大会なんだ。それで近くを通ったから」

 

 藤林が丁寧に説明しているが、もはやむつきちゃんの目には剛田しか映っていない。恋する女の子は強いですわ、ホント。

 にしても、剛田のやつ。ちゃんとむつきちゃんと会ってるのかと思ったら、全然だったなこの野郎。家近いんだから横着してんじゃねえよこの野郎。

 嬉しそうに話しかけるむつきちゃんに対して、剛田の狼狽えっぷりが凄まじい。普段の正義のジャイアンっぷりは何処行った。

 

「はやてからあらかたは聞いたが……お前達は何をやっているのか」

「あ、こんにちは、チーフさん。今日も可愛いですね」

「次に翠屋の外でチーフと呼んだらただでは済まさん」

 

 むつきちゃんに続いてこちらにやってきたミコトちゃん。息をするように褒めた藤林に、ミコトちゃんからはガチなトーンの脅しが返ってきた。基本的に空気読めないんだよなぁ、藤林。

 しかし……遠目だったから平気だったが、こう近くでミコトちゃんの体操着姿を見ると、なんというか……一部分がお元気になってしまう。具体的にはマーラ様。

 つつっと視線を斜めに逸らしながらミコトちゃんと話をする。太ももが眩しくて直視できません。

 

「こういうチャンスでもないと、剛田のヤローむつきちゃんと会わねーみたいだからさ。ちょっとお節介焼いたった」

「……まあ、むつきが嬉しそうだから、別にいいんだが」

「ちょっと、藤原君。海鳴二小に寄ろうって言ったのは僕だよ。それと、ちゃんと相手の目を見て話さないと失礼だよ」

 

 だあらっしゃい! ほんと空気読めてないな、このイケメン野郎は! さっきのファインプレーはまぐれか!

 藤林の抗議はガンスルー。ってかこいつはなんでミコトちゃんを直視して平気なんだ。不能者なのか? それとも彼女以外には反応しないってのか? 彼女持ちは爆発すればいいのに。

 

「そーそー、なのはから聞いたんだけど、運動会の団体競技で優勝したんだって?」

「まあな。もっとも、あれは白組女子全員の協力があって出来たことだ。オレ自身が優勝したわけではない」

「ははっ、ミコトちゃんらしい自己評価だな」

 

 ミコトちゃんは、基本的に自分への評価が低い。本人は「このぐらいが妥当」と思って評価してるみたいなんだけど、周りから見たら卑下してるんじゃないかって邪推してしまうぐらいに低い。

 彼女はなんていうか、「自分が手を下した内容」しか評価していないんじゃないかと思う。チームが成果を上げたとして、それは「チーム」が達成したことであり、自分は「コントロールしただけ」であるという感じに。

 「自己完結している」というミコトちゃんらしい評価ではある。だけど彼女を「リーダー」だと思っている皆からすれば物足りない。それが、俺達とミコトちゃんの評価の差だ。

 

「ま、ミコトちゃんが評価低い分、俺達が評価するからいいんだけどな」

「だからそうやって過大評価するなと毎回言っているだろう。何故そういうことになるのか、理解できん」

「えー、凄いじゃないですか! もっと素直に喜んでいいと思いますよ、チーフさん!」

「……ガイ、耳を塞げ。むつきは剛田の耳を塞いでやれ」

 

 あ、ガチでキレてるわこれ。俺は心の中で十字を切りながら、巻き込まれないように耳を塞いだ。

 

 数秒後、地面に突っ伏して白目を剥いて泡を吹きながらやばい痙攣をする藤林の姿がそこにはあった。南無い。

 

 ミコトちゃん達と別れた後、俺達は二人で藤林を運んでウォークラリーを続けたが……目標は達成できず、タイムも散々だったと言っておこう。

 なお、ミコトちゃんの女言葉を喰らって気絶した藤林であるが。

 

「二人とも、明日はウォークラリーだね。優勝出来るように頑張ろう!」

「こいつ……今日一日の記憶が飛んでやがる!?」

「相変わらず恐ろしい威力だぜ、ミコトちゃんの「括弧付け」……」

 

 無限ループってこわくね?

 

 

 

「何だったんだ、あの男達は……」

「俺達の女神・ヤハタさんと親しげだったぞ。……何たる冒涜ッ!」

「処すべきか爆するべきか、それが問題だ」

「あの制服は聖祥大付属のものだ。大至急身元を調べろ」

「畜生にも劣る下劣な行為……見逃すほどの腑抜けではないわァ!」

「生かして帰さんッ!!」

「貴様に朝日は拝ませねェ!!」

 

 ……なんか、背筋が寒くなってきた。しばらく夜は外を歩かない方がいいかな……。

 

 

 

 

 

6.はじめてのバニングス家(はやて)

 

 久々におじょーさまなお茶会にお呼ばれしたでー。今日の会場はアリサちゃんのおうちや。

 すずかちゃんちで予想はしとったけど、まー大層な豪邸やわ。一般庶民のわたしらにはちょっとハードルが高い。

 門から玄関までの距離が異様に長かったり、前庭に噴水があったり、邸内の移動がリムジンだったり。月村家が「地元の名士」やったとしたら、バニングス家は「お金持ち」やな。

 

「にゃはは、そんな緊張しなくてもいいのに」

「そ、そんなこと言われたって……わたし達こういうのは初めてなのよ!」

 

 もう慣れっこになってしまっているらしいなのちゃんに宥められても、あきらちゃんは落ち着けなかったみたいや。

 そう、あきらちゃん。海鳴二小の矢島晶ちゃんや。他にもさっちゃん、むーちゃん、いちこちゃんとはるかちゃんも来とる。今日は5人衆も一緒なんや。

 夏に海に行ったとき、アリサちゃんが「いつかうちに招待する」って口約束をしたらしいんや。で、意外に細かいアリサちゃんは律儀に約束を守って、わたしら全員を招待したってわけや。

 八神家からは小学生三人に加えて、シアちゃんとソワレ、ヴィータも一緒。子ども組勢揃いやな。

 これに本来の参加者である聖祥三人娘を加えた面子が、今日のお茶会メンバーや。

 なお、月村家のお茶会には参加するらしいガイ君は、今日はおらんかった。アリサちゃんのお父さんから目の仇にされてしまうため、バニングス家のお茶会には参加出来ないそうや。……グレアムおじさんと同じな予感。

 わたしら八神家組はすずかちゃんちで耐性があるから(ヴィータはないはずやけど、リムジンの外を眺めて「すげーすげー!」って言っとる)平気やけど、他の皆はそうではない。

 ……あ、いや、はるかちゃんだけは平気みたいや。ってシアちゃんのプロジェクトで月村家に出入りしとるし、そらそうやな。

 

「最初は落ち着かないかもしれないけど、その内慣れるよ。お茶会が始まる頃には気にならなくなってるんじゃない?」

「おお、はるかが眩しい……オトナのオンナだ」

「大げさなのよ。あんた達には馴染みがないかもしれないけど、ここはあたしの家よ。普通に生活出来る環境に決まってるでしょ」

「六畳一間の生活してたら、ちょっと馴染めないかもー」

「そんな生活はしてないだろうに。それは二年前のオレの部屋だ」

「ミコトちゃん、昔はどんな生活を……」

 

 さっちゃんはいつものペースを崩しとらんけど、ちょっと表情が固い。知らん人は分からんやろうけど、付き合いの深いわたしらには緊張を隠せていなかった。

 緊張が一番ひどいのは、むーちゃんや。カチンコチンに固まってしまってて、さっきから一言も発せてない。すずかちゃんが気にかけてくれとんのやけど、効果はないみたい。ひこうタイプにじめんタイプや。

 

「そんなに緊張するっていうなら、お茶会の前にうちの子達と遊んでく?」

「うちの子って、アリサちゃん子供おったん?」

「いるわけないでしょっ! うちで飼ってるワンちゃん達のことよ!」

 

 冗談に本気で反応を返してくれるアリサちゃん。いやー、楽しいなぁ。ガイ君がアリサちゃんをからかう理由、よう分かるわー。

 「ワンちゃん」という単語に強く反応したのは、わたしらの中では一番の犬好きであるいちこちゃん。

 

「アリサ、ワンちゃん飼ってるの!? たくさん!?」

「そりゃもうたくさんよ。皆大人しくていい子達よー。いちこ、興味あるの?」

「あるある、めっちゃある! ねえ、皆いいでしょ!?」

「いや、別にわたしは構わないけど……むーちゃんがなぁ」

「い、犬はちょっと、苦手……」

 

 対照的に唯一犬が苦手なむーちゃんが、さらに縮こまってしまった。……うちのアルフとザフィーラなら平気なんやけど、あの子らの場合は言葉で意思疎通が可能やから、また違うんやろうな。

 ちなみにわたしらの中で犬派はいちこちゃん、ふぅちゃん、わたし。猫派はむーちゃん、はるかちゃん、シアちゃん。可愛いもの大好きはさっちゃん。他は「どちらでもない」や。

 固まるむーちゃんを、なのちゃんが元気よく励ました。

 

「大丈夫なの! アリサちゃんも言ってたけど、本当に大人しい子ばっかりなの! 吼えたり噛んだりしないよ!」

「う……が、がんばってみる」

「なら、先に庭の方に行ってむつきの犬嫌いを直しましょうか。鮫島、聞いた通りよ」

「かしこまりました、アリサお嬢様」

 

 今更やけど、リムジンの運転手を務めてる鮫島さんは、アリサちゃん付きの執事さんだそうな。すずかちゃんにとってのファリンさんみたいなもんやな。

 わたしらの乗ったリムジンはゆっくりと迂回し、お屋敷の裏手にあるという庭の方へと徐行した。

 

 すずかちゃんちが猫屋敷だとしたら、アリサちゃんちは犬屋敷。そのぐらいたくさんのワンちゃんが、緑溢れる庭を駆けまわっていた。

 いちこちゃんから感激の吐息。目がキラキラ輝いとって、普段からは想像できないぐらい乙女な顔をしていた。

 

「ご、ゴールデンレトリバー! ね、ねえアリサ、触りに行ってもいい!?」

「はいはい落ち着きなさい。そんな慌てなくても、あの子は逃げやしないわよ」

 

 「おいで」とアリサちゃんが手招きをすると、体の大きなワンちゃんがのっしのっしとこちらへやってくる。あきらちゃんの後ろに隠れているむーちゃんが「ヒッ」と小さく悲鳴を上げた。

 せやけどアリサちゃんの言う通り、本当に大人しい子やった。飼い主の指示に従い、その場で伏せをし、鼻先をいちこちゃんの方に向けた。

 アリサちゃんに確認を取り、いちこちゃんはゆっくり手を伸ばし、ゴールデンレトリバー(エリザベスという名前の雌らしい)の体をわしゃわしゃと撫でる。

 大人しくされるがままのエリザベスに、感極まったいちこちゃんは思いっきり抱き着いた。それでもやっぱり、大人しいままやった。

 

「ああ……しあわせ~」

「ほんとにワンちゃん大好きなのね。いちこは飼ってないの?」

「そんなの無理ー。親が許してくれないよー」

 

 蕩けきった顔で間延びしたしゃべり方をするいちこちゃん。なはは、ほんと幸せそうやわ。

 いちこちゃんは気が済むまでエリザベスと戯れさせることにして、アリサちゃんはむーちゃんの方を見た。

 

「ほら、むつき。いつまでもあきらの後ろに隠れてないで、こっち来なさい。怖くないから」

「で、でもぉー……」

「やれやれ。君は勇猛なのか臆病なのか、よく分からんな。先日オレに挑戦した君は何処に消えた」

「そ、そんなのわかんないよぉ……」

「なのはがそんなこと言ってたわね。その勇気があれば簡単よ。一歩踏み出すだけなんだから」

 

 「さあ」と手を出すアリサちゃん。せやけどむーちゃんはどうしても怖いらしくて、ますますあきらちゃんを盾にする。間に挟まれたあきらちゃんは、困ったように頭をかいた。

 ミコちゃんもこういう場合にはいいアイデアが浮かばない。こういうときはわたしの出番や。

 

「アリサちゃん、小型の子を呼んでもらえへん?」

「? 別にいいけど。アルー、おいでー!」

 

 アルと呼ばれた小型犬(ポメラニアンやな)が、嬉しそうに駆け寄ってきた。尻尾を振りながらアリサちゃんの周りを走り回り、待ての合図でお座りする。

 本当はわたしが抱っこしてあげたいとこなんやけど、松葉杖なしじゃ歩けへんわたしには無理や。だから、手伝ってもらうことにする。

 

「ふぅちゃん、その子抱っこしたって。平気やね、アリサちゃん」

「ええ。アルは遊び盛りだけど、ちゃんと躾けてあるから大人しくしてくれるわ」

「じゃあ、ちょっと失礼して……」

 

 ふぅちゃんがかがみ、アルを抱き上げる。アリサちゃんの指示通り、大人しくふぅちゃんの腕の中に抱かれていた。

 ほんなら、次はいよいよご対面や。

 

「そしたらふぅちゃん、その子をむーちゃんのとこに連れてったって」

「え!? い、いいのかな……」

「だ、ダメぇ……ふぅちゃん、やめてぇ……」

「かまへんかまへん。この子なら、むーちゃんも絶対平気やから」

 

 自信を持って断言する。ふぅちゃんは半信半疑ながら、なおも隠れようとするむーちゃんのところへアルを連れて行った。

 あきらちゃんがさっとどいて、むーちゃんはポメラニアンと真正面から向き合った。「ひぅっ!?」と小さな悲鳴を上げて、涙目になる。

 

「ほら、むつき。全然怖くないよ。そんなに怖がったらこの子がかわいそうだよ」

「そうよ。動物は人間の気持ちに敏感なんだから。あんたが怖がったら、アルも怖いって感じるのよ」

「う、うぅ……」

 

 後ろはあきらちゃんから押されており、逃げ場を失ったむーちゃんに出来ることは、ふぅちゃんからアルを受け取ることのみ。

 こわごわ、恐る恐る、手を伸ばすむーちゃん。ふぅちゃんはアルが落っこちないように、丁寧にむーちゃんの腕の中に収めた。

 至近距離でアルと見つめ合うむーちゃん。その表情から、徐々に徐々に恐怖の色が消えていったのを、確かに感じ取った。

 

「ね、怖くないでしょ?」

「……うん。……可愛い」

「ま、こんなとこやな。むーちゃん、アルフとザフィーラは平気なんやから、犬そのものが苦手ってわけやないやん。安心安全って分かれば、他のワンちゃんも平気やろ」

「そういえばそうだったな。結局、吼えられたり噛まれたりするのが嫌だったということか」

「だからうちの子はそんなことしないって最初から言ってたじゃない。疑り深いわね」

「ご、ごめんねアリサちゃん。その……幼稚園の頃、犬に追い掛け回されたことがあって」

 

 それで苦手になったってわけかぁ。トラウマってほど深くなかったみたいやけど、そういうことならしゃーないんかな?

 ちなみにそのときは、たける君が追っ払ってくれたそうや。根っからのヒーロー気質なんやなぁ、あの子。

 まあともあれ、これにてむーちゃんの犬嫌い克服作戦は成功かな?

 

「あはっ、くすぐったいよ。アルって甘えんぼさんだね」

「そうでもないわよ。ちゃんと我慢できる子だし、もうだいぶ大きくなったからね」

「そうなの? ……あはは、ちょ、やめて、ほんと、お願い……」

 

 ……おや? 何か様子がおかしいような。

 

「あの、アル、ちょ、顔、舐めすぎ……」

「……なんかおかしいわね。アルがこんなに人に甘えることって、今までなかったはずなんだけど」

「それは知らないが、そろそろ止めた方がよくないか? またむつきが犬嫌いになってしまいそうだ」

「そうね。アルー、いい加減そのお姉さんから離れなさいー。……アルー?」

 

 アリサちゃんの言うことを聞かず、むーちゃんの顔を舐め続けるアル。尻尾がブンブン振られており、喜んでいることは間違いないんやけど。

 

「アル、やめてってば、ねえ、お願いだからぁ……」

「いかん、むつきが泣きそうだ。仕方がない、力ずくで引っぺがすぞ」

「ああもう、どうなってんのよ!?」

 

 その後、アリサちゃん、ミコちゃん、あきらちゃんの三人がかりで、ようやくむーちゃんからアルを引っぺがすことに成功した。

 ……アルに顔をこれでもかというぐらい舐められたむーちゃんは、よだれでベトベトになってしまった。

 後に知ったんやけど、むーちゃんは極端に動物好かれする体質らしく、幼稚園の頃に犬の追われたのも、じゃれつかれただけの可能性が高いということだった。

 

 むーちゃんはシャワーを借りてアルのよだれを洗い流した。結局、犬嫌いは克服できなかったみたいや。

 その代わりアリサちゃんちに対する緊張はなくなったから、一応最初の目的は果たせたってことにはなるかな。

 

 この後、アリサちゃんのお部屋でお茶会をした。予想通りというかなんというか、10人以上が上がってもまだまだ余裕があるぐらい広いお部屋やった。

 ソワレとシアちゃん、ヴィータなんかは、じっとしてられなくて走り回ってた。途中からさっちゃんといちこちゃんも混じって、部屋の広さを堪能しとった。

 あと印象に残ってるのは、お茶会の途中でアリサちゃんのお父さんとご挨拶したことや。ウィリアムさんっていうアメリカ出身の方で、大企業の社長さんとは思えないほど気さくな感じのおじさんやった。

 ただアリサちゃん曰く「極度の親バカ」だそうで、男の子を連れてきた日には厳戒態勢待ったなしなんやって。やっぱりグレアムおじさんと同じやないか(呆れ)

 それ関係やろうけど、ミコちゃんの男言葉を聞いたときに、一瞬だけ物凄い形相をしとった。ミコちゃんはどこからどう見ても女の子やから、すぐ普通に戻ったけども。

 確かにお金持ちかもしれへんけど、月村家よりもわたしらの生活に近い感じがする。それがバニングス家の感想だった。

 

 お茶会を終えて八神家に帰った後のこと。

 

「……エリザベス、アルフより、モフモフしてた。もっとモフモフして、アルフ」

「んな無茶な。一応あたしは元野生の狼だよ? 愛玩犬と比べられたって困るってば」

「あー、アルは可愛かったなー。それに比べてザフィーラの愛想のなさだよ。せめて小型化ぐらいしろっての」

「俺にそれを求めるな」

 

 アリサちゃんちのよく躾けられたワンちゃん達で味を占めたソワレとヴィータから、うちのペットポジションが無茶振りされとった。

 ――これが元で、後日「子犬フォーム」なる変身魔法が開発されたとかされなかったとか。真実は闇の中や。

 

 

 

 

 

7.チーム名決定(ミコト)

 

「……へえ。見事なものだな」

 

 次なる仕事の依頼を持ってきたハラオウン執務官が、オレの姿を見て感嘆を漏らす。オレ、というより、正確にはオレとミステールになるか。

 ミステールは現在、本来の姿となってオレの左腕に収まっている。そして彼女はとある魔法をエミュレート中だ。

 オレ達が管理世界で依頼を受ける際に必須とも言っていい魔法だ。これで今後は管理外世界の調査以外の案件も受けることが出来る。

 

『プログラムそのものは解析出来ておったからの。時間がかかったのは、どんな姿にするかの決定じゃよ』

「シャマルと三人で色々相談したんやでー。わたしのミコちゃんに変な格好はさせられへんからな」

「オレは別にどんな格好でも構わなかったんだが……」

 

 いつもより若干低い声。声も、今の姿に相応しい声質に変化させている。大人の女性らしい落ち着いた声質だ。

 そう。今のオレの姿は、身長160cm前後の大人の姿になっている。胸やくびれなんかもしっかりとある、大人の女性だ。ミステールがエミュレートしているのは変身魔法なのだ。

 長い黒髪は金色へ。瞳は青に。顔立ちは変化なしだが、それでもまるで別人のような印象を受ける。それほどに上手くカモフラージュされていた。

 

「あーかーん。可愛いミコちゃんが可愛いかっこしとらんかったら、変身の意味ないやん。そんなん認められへんわ」

「そもそもただのカモフラージュにそこまで凝る必要などあるのか……」

 

 ――オレ達が管理世界で活動するためには、身元を隠す必要がある。これは、オレ達の生活を管理世界のしがらみから切り離すには必須と言っていいことだ。

 それには容姿も含まれる。出身世界や身分を隠しただけでは、容姿・体格から追跡される可能性を無視することは出来ない。

 そのための変身魔法だ。本来の姿からかけ離れた姿をとることによって、追跡を避ける必要があるのだ。

 だから、極端な話をすれば「オレだと分からない姿」であればなんだっていいのだが、はやてはそれをよしとしなかったようだ。

 

「可愛さはミコちゃんの立派な個性やで。カモフラージュやからってそれを消していい理由にはならんわ」

「……はやてを説得できるとは思っていないさ。だからこうして完成を待ったんだからな」

「だが実際に似合っている。君の容姿で金髪碧眼はどうかと思ったけど、違和感がないもんだな」

 

 和風な顔立ちであるオレが黒髪黒目以外の色で平気なのかと思うところではあるが、主観としては違和感がない。他者からの視点でも、少なくともハラオウン執務官は違和感を感じないようだ。

 

「そのために顔は弄らなかったんやで。ミコちゃんの見た目レベルなら、色違いぐらいどうにかなるもんや」

「そんなものか。……実際そうなっているわけだが」

「君の容姿がズバ抜けているというのは僕も同意だ。君にだって、自覚はあるんだろ?」

「客観的認識として人目を引くことを知っているだけだ。ナルシストみたいに言わないでもらいたいな」

『主殿の場合、謙遜が過ぎて逆に嫌味になるかもしれんのう。呵呵っ』

 

 笑いごとじゃないぞ、まったく。周囲の認識との差の中でバランスを取るのも一苦労なんだ。

 

「ともかく、これでオレ達の側も管理世界での依頼を受ける準備が出来た。ミステールとシャマル、フェイトの三人で変身魔法を行使すれば、全員をカバー可能だ」

「そうみたいだな。とはいえ、次の依頼は主にヴォルケンリッター向けだから、全員で動く必要はないんだが」

 

 変身を解き、ソファの方に移動する。あっちの姿にも慣れなければいけないとは思うが、今はこちらの方が楽だ。視点が高くては落ち着いて話をすることも出来ない。

 彼は「ヴォルケンリッター向け」と言った。それはつまり、夜天の魔導書のイメージアップにつながる依頼であるということだ。ようやく調整がついたということなのだろう。

 

「今回の依頼だが、聖王教会騎士団の新人訓練をお願いしたいと思っている。つまり、ヴォルケンリッターへの特別講師依頼というわけだ」

「聖王教会……というとベルカ文化圏だったな。まずはホームを固める、ということか」

 

 以前話題にも上がった「聖王教」の宗教組織だ。時空管理局同様、管理世界に大きな影響力を持ち、かつベルカ圏ということでリッターへの理解も得られやすい場所ということになる。

 無論のこと、今回は夜天の魔導書のことは秘匿して行われる。あくまでただの「希少な古代ベルカ式の騎士」という扱いになっている。

 

「場所はミッドチルダ北部・ベルカ自治領内の聖王教会本部。管理局の影響が及びにくい場所というのも、この依頼のメリットだな」

「自身の所属する組織を悪く言っていいのか?」

「客観的認識として、今の段階で夜天の魔導書を管理局に知られるわけにはいかないからな。僕だって管理局全てが清廉な組織だとは思っていないよ」

「ククッ、言うようになったものだな」

 

 出会ったばかりの頃ならば、ここまではっきりと言うことはなかっただろう。彼もまた、オレとの関わりの中で変化しているということか。

 

「管理世界への正式な情報開示は、全ての保護体制が整ってからだ。ずっと先の話になるよ」

「その辺りは執務官殿の判断に任せよう。そういった政治的なことは、オレよりもお前の方が正確に判断が出来る」

「君ならば少し勉強すれば簡単に僕を追い越せると思うけどな」

「オレに出来るのは身の回りの判断だけだ。買いかぶるな」

 

 ともあれ、今は「その時」ではないという認識に違いはないようだ。話を先に進めよう。

 

「リッターが断ることはないと思うが、いつも通り彼らの意思確認をしてから返事を出す。それで問題はないな」

「ああ、大丈夫だ。先方にも「可能であれば」という程度にしか話をしていない。いつも通り、気負う必要もない」

 

 オレ達はこれまでの依頼を一切断っていない。これまで、と言ってもたったの二つだが。

 一つはシルバーウィークの無人世界探索。そしてもう一つは、つい先日行った遺跡探索だ。もやしアーミーが大活躍であった。

 報告の際に「動いてしゃべるもやし」という存在を初めて目の当たりにしたハラオウン執務官は、それはそれは面白いほど驚いてくれたものだ。

 彼が持ってくる依頼の報酬がうまあじなのは間違いなく、余程こちらに不利益・不都合がない限り断らない方が得である。

 

 依頼については以上だが、実は先日から決めかねていることが一つあった。

 

「それで……いい加減、君達のチーム名は決まったか?」

 

 これである。オレとしては、別にチーム名などなくとも「匿名民間協力団体」でいいと言ったのだが、残念ながら通らなかった。

 かといって今後も「チームミコト」とオレの名前を使った呼び名も困る。管理世界で活動するときは、名前も秘匿するつもりだ。

 そしてオレにセンスのある名前を考えられるわけがなく、結局これもはやてに丸投げとなってしまった。

 

「何個かアイデア作ってあるから、クロノ君の意見も聞きたいんよ。手伝ってもらえる?」

「構わないが……ミコトはいいのか?」

「ネーミングに関して、オレの出る幕はない。性質をそのまま表した名前しか付けられん」

 

 ハラオウン執務官は苦笑した。話のメインをはやてに移し、オレはソワレを抱きしめながら成り行きを見守ることにした。

 

「まず一つ目。「クロニクル・エディター」って名前なんやけど」

「この国の言葉に意訳すると、「歴史の編纂者」ってところか。どういう意味合いだ?」

「「夜天の魔導書を正す者」ってことや。今のわたしらがやってる内容から付けてみたんやけど」

 

 ふむ。音の響きは非常にいい名前だ。さすがは召喚体の名付け親であるはやてだな。

 しかしハラオウン執務官は、この名前に難色を示した。

 

「修復が終わったら解散するわけじゃないんだから、その名前は適切じゃない。それにデスクワーク専門みたいに聞こえる。君達の実態を考えると、そういう誤解は嬉しくないだろう」

「んー、そっかー。これも結構いい名前だと思ったんやけど」

「……あと、さりげなく僕の名前を入れてるところ。ヒストリーじゃなくてクロニクルを使ってる辺り、悪戯が過ぎる」

 

 「たはー」と頭をかくはやて。そういう意図もあったのか。

 ともあれ、第一案はなしということになり、はやては次の名前を提示する。

 

「二つ目は「エーデルリッター」。ベルカ語で「高貴なる騎士」って意味や」

「習ったばかりの言葉を使いたかっただけだろう。本家のベルカ団体から抗議を受けるから却下」

 

 こちらはあっさりと廃案になった。実際にオレ達は魔導師・非魔導師・騎士混成の団体であるため、ベルカの言葉で「高貴な騎士」と断定してしまえば、反感を喰らう可能性もある。

 この名前は結構自信があったらしく、あっさり却下されたことにはやては不満を持った。無駄な諍いの原因にはなりたくないので、オレからも説得して次に進める。

 

「そしたらあと一個しかないんやけど……「マスカレード」、仮面舞踏祭や」

 

 最後に出てきた名前は、前二つとは違い非常に単純だった。だからだろう、はやてはちょっと不満げだ。

 しかしこの名前……オレは悪くないと思う。管理世界で活動することになるオレ達の姿を端的に表しており、奇抜すぎもしない。単語も一つだけであり、ちょうどいい塩梅だ。

 ハラオウン執務官としても腑に落ちたようだ。これは、決定だな。

 

「えー。これにするん? それやったら「クロニクル・エディター」の方がかっこええやん」

「僕に対する嫌がらせか。リーダーが「マスカレード」でお気に召したんだから、それでいいじゃないか」

「せやけどー。パッと浮かんだ名前が採用されて、色々考えた名前が不採用ってのは癪やん」

「その辺にしておけ、はやて。「コマンド」のときと同じように、対外的には「マスカレード」と呼び、オレ達の内部では「クロニクル・エディター」と呼べばいいだけのことだろう」

「その手があったか!」

「僕としては、とっととその名前を捨ててほしいんだが……」

 

 それに、こんなものは書類上でオレ達を扱えるように記号付けしているだけのことだ。そこまで凝る必要はないのだ。

 最終的にはソワレの一番気に入った名前が「マスカレード」であったため、はやても納得してくれた。

 

 

 

「それじゃあ、「チームミコト」改め「マスカレード」。今後もよろしく頼む」

「互いの利害が一致している限り、な。こちらこそ、よろしく」

 

 ――匿名民間協力団体「マスカレード」の次の活動は、11月頭に決まった。




長すぎィ!!(二度目) 本編の日常話としては最後(の予定)だしま、多少はね?

これにて「チームミコト」の正式名称が決定いたしました。「マスカレード」、仮面舞踏祭です。ウェイクアップはしません(ロマサガ3)
作中でも語っている通り、変身魔法で素顔を隠し活動する彼女達の様子を端的に表したものです。コードネームはまだ考え中。
変身魔法でも顔は変えてない(はやての強い希望)ので、実際に活動する際は全員マスクで顔を隠すことになります。まさに仮面舞踏祭。

作中10月はあっという間に終わり(あれ、9月はいつ終わったっけ?)11月に。物語も最終盤です。
次回からいよいよ夜天の魔導書復元に向けた最終ステップが始まることになります。ミコト達は無事復元を完了できるのか、それとも……。
先がどうなるかは作者にも分かりません。祈りましょう(行き当たりばったりで書く創作者の屑)

リリカルなのは原作の方ではほとんど触れられなかったアリサの家について書いてみました。父親については資料が見つからなかったので、完全に創作です。
父はウィリアム、母はコーデリアという名前です。一体なにフロンティア2なんだ……(ナイツ家)
今更ですが、作者はサガシリーズ大好きです。サガフロリメイクあくしろよ。

今回は早く書き上がりましたが、次回以降は本当に未定です。
またいつか。

※追記
なのはWiki見たらアリサの父親は「デビッド」という名前であるとありました。小説版では(名前だけ)出てたんですねー。
とはいえ大勢に影響なしですし、この程度でも公開後の修正はNGなので(致命的な矛盾ではない)、この作品では「ウィリアム」がアリサの父親の名前とします。無意味なオリジナル設定が増えてしまい申し訳ない。

※追記の逃げ道
よくよく見てみたら「デビッド」じゃなくて「デビット」ですね。デイビッドのノリで間違えました。
無意味なオリジナル設定は避けられませんが、原作設定との差異を少なくするということで、アリサ父の名前は「デビット・W・バニングス」ということにしたいと思います。これなら「デビット」でも「ウィリアム」でもOKです。はやては「デビット」よりも「ウィリアム」の方を気に入ったということで一つ。
母親の方は変更なし。普通に「コーデリア・バニングス」です。やっぱりサガフロ2じゃないか(固執)

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