不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!

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まったり回です。敵が存在しないって平和なことですよね。

2016/09/07 「クロノへの報告」パートを全てカギ括弧で括りました。


二十五話 パーティー

「ふう、少し話が盛り上がり過ぎたな。いつの間にやら「本題」に入り込んでいるじゃないか。ちょっとここらで休憩を入れないか。

 ……何をアホ面を晒している。お前がやっても間抜けなだけだぞ。まあ、普段のイメージと違う一面が見れて、面白くはあるかな。

 オレとシグナムの関係が今と違い過ぎるって? そんなもの、当たり前だろう。むしろ今の関係が「どうしてこうなった」だ。いまだに意味が分からん。

 オレ達の性格を考えれば、相性が最悪なことなんて明白だろう。片や頭でっかちの相手の裏をかく小娘で、片や戦闘狂入った騎士道精神の塊だ。最初の関係が本来あるべき姿だろうよ。

 お互いに"リーダー"であったことも、反発の原因だろうな。船頭多くして何とやらというやつだ。

 ともかく、主である彼女にオレの言うことを聞くよう命令されて、実際聞いているうちに、気付いたらああなっていたよ。

 ん? 今のオレの方はシグナムをどう考えているかだって? ……評価を上方修正するだけのことはあったよ。向こうからの評価が180°変わってしまったせいで、むずがゆくて仕方がないがな。

 まあ、今のオレ達はそれなりに上手くやれてるんだ。昔がどうだったとか、それこそどうでもいい話じゃないか。……報告書にまとめるためには必要、か。お堅いね、お前も。

 

 さて。それじゃあ1時間ほど休憩して、関係ない話をしようじゃないか。茶でも煎れて来よう。

 人に頼むから、わざわざオレが動く必要はない? バカを言え、そんなことをしてもし提督御自ら"リンディ茶"を出されたらどうする。オレはあんなもの飲みたくないぞ。

 それとも、オレが煎れた茶は、飲みたくないのか? ……ククク、冗談だよ、冗談。エイミィの言ってた通り、この手の弄りには本当に耐性がないな、お前は。分かった分かった、悪かったって。

 ……ふむ、紅茶か。うちでは茶と言えば緑茶だし、翠屋ではコーヒーだな。たまにはそれもいいな。

 なんで紅茶を飲まないのか? それは、あれだよ……何となく高そうじゃないか。悪かったな、バリバリの庶民なんだよ、オレは。

 まあいい。食堂で煎れてくるから、お前はデスクの上の資料を片付けておいてくれ。お茶請けに、クッキーか何かでももらってきてやるよ。楽しみにしておけ」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

『はやてちゃん、お誕生日、おめでとー!!』

 

 翠屋にて、はやての誕生日パーティが開かれる。

 パーティの参加者は、八神家総勢に加え高町家全員、アリサ・バニングス、月村姉妹、海鳴二小5人衆。あ、変態もいたか。

 プラスして、本日の診察を終えた石田医師にもご参加いただいている。――それに当たり、先ほど管理世界絡みの事情も説明しておいた。意外とすんなり納得してもらえたのは驚きだった。

 要するに、はやての関係者と言える全員がこの場に集まっていた。店内はそれなりの広さがあるとはいえ、これだけ集まればさすがに狭い。パーティ中は屋外席も使うことになるだろう。

 パン、パンとクラッカーが鳴り、紙テープがばら撒かれる。次いで、皆からの拍手。主役であるはやては、車椅子の上で恥ずかしそうに頭をかいた。

 

「皆、ありがとなー。こんな盛大に祝ってもらえるとは思っとらんかったわ」

「水臭い事言わないの! それに、めでたいこともあったんでしょ? だったら、このぐらいで妥当ってもんよ!」

「そうだよ、はやてちゃん。遠慮なんかしないでね!」

 

 アリサ・バニングスと月村が、はやての両サイドを固めている。本来その位置にいるべき(と本人は思っているであろう)シグナムは、ぐぬぬという顔で離れた位置からオレを見ていた。

 ……ここまで一切触れてこなかったが、今までの彼女達の格好は、闇の書から召喚された時のままだった。胴体のみを覆う黒いボディスーツ。そのまま外に出たら職質待ったなしだった。

 そこで、シグナムとシャマルにはブランの服を貸し、ヴィータにははやてのを貸した。ザフィーラは、アルフとともに狼形態になっている。

 私服姿のヴォルケンリッター(女性陣)は、髪色と容姿が日本人離れしている以外は、普通の人間と変わりなかった。つまり、海鳴では普通なので問題ないということだ。

 ちなみにシグナムがオレを睨んでいる理由は、「はやてが友達と交流をとるのを邪魔しないように」と指示を出したからだ。他はまだしも、今の彼女がはやての邪魔をしないとは思えなかった。

 奴は、言ってしまえば「度を超した忠誠心を持つ騎士」だ。何かあればすぐにはやての世話を焼くことが目に見えている。そんなことでは、はやても落ち着いて会話を楽しむことが出来ない。そういう配慮だ。

 なので奴がオレを睨むのは逆恨みでしかなく、これは奴自信が招いた悪因悪果なのだ。

 

「そっかー。はやての足が動かなかったのって、ミッドの魔法関係だったんだねー。意外なところで答えにつながったね」

 

 オレと会話をしているのは、5人衆の中では最も繋がりの深いあきらこと、矢島晶。なのはに次いでオレの友達に近い少女だ。

 彼女に対しては、形にならない感情を持っている。近すぎず遠すぎず、不可思議な感覚だ。それが定まったとき、きっとオレは彼女を「友」と呼ぶことが出来るんだろう。

 

「"真の召喚体"が作れなかったときにはどうなることかと思ったが、世の中意外となるようになるものだな」

「ほんとにね。これなら、アリシアを助けて正解だったって思えるんじゃない?」

「愚問だな。そんなもの、最初から間違いだったとも思っていない。オレの娘に向ける愛情を侮ってもらっては困るな」

「ははっ、ほんとミコトってば、すっかりママの顔になったね」

 

 どんな顔なんだか。オレにはよく分からん。相変わらず、ただの仏頂面なんじゃないか?

 そんな会話を繰り広げていると、ヴィータがオレのところに逃げるように駆けこんできた。

 

「み、ミコト! 助けてくれ!」

「どうした……って、また亜久里か」

「またって酷いなー。あたしが可愛いもの大好きって、ミコトちゃん知ってるでしょー?」

 

 どうやら亜久里が纏わりついて、耐えきれなくなったヴィータがオレに助けを求めたというところのようだ。

 オレにしがみついて警戒するヴィータと対照的に、亜久里はのほほんとした様子を崩さない。

 

「ミコトちゃんの周りって可愛い子が多いから、あたしゃ幸せだよー」

「確かにヴィータも可愛いタイプだよね。ソワレ、フェイト、アリシア……ミコトが娘にするのって、ひょっとして可愛い子限定?」

「どうしてそうなる。それに関してはただの結果論だ。もしオレの娘達が可愛いと思うなら、それはオレの可愛がり方が正しいという証明じゃないか?」

 

 オレは世間一般の女の子ほど可愛いという感覚が分かるわけではないが、それでもうちの娘達は全員可愛いと思う。だからこそ可愛がり、それが彼女達をより可愛く見せているのではないだろうか。いやきっとそうだ。

 オレ達としてはいつも通りの会話をしているつもりだったのだが、ここには前提知識を持たないヴィータがいる。顔を赤くして、もじもじと指先を弄る。

 

「あいつらがミコトの娘ってことは、そ、その……ミコトって、ゴニョゴニョ、したことあるのか?」

「……ヴィータ、君は意外と耳年増……というわけでもないのか。そもそも闇の書自体は古くから存在してるんだったな」

 

 見た目がオレ達と同じぐらいだからそう扱っていたが、知識面で言えば比較にならないはずだ。ひょっとしたら「プリセット」とタメを張れるかもしれない。

 オレのせいでやたらと知識が先行したあきらと亜久里は、顔を赤くして黙った。ここはオレが訂正をするしかないようだ。

 

「そういうわけではなく、事情があってオレが引き取ったというだけだ。戸籍上は妹だよ。というか……そもそも、"アレ"が来てないのに、子供が作れるわけないだろ、まったく」

 

 最後の方は、さすがにオレも顔が赤くなる。この場には男性もいるのだ。彼らに聞かれたくはない話題だ。自然と声が小さくなった。

 

「そ、そうだよな! っていうか……ミコトもそういう顔するんだな。あたしらが召喚された直後は、全く表情変わらなかったから、もっと冷たい奴かと思ってたよ」

「初見だとそう誤解する人も多いんだよね。実際、わたしらも最初そう思ってたし」

「けど、付き合ってみると結構愉快で可愛い女の子なんだよー。ちょっと不思議ちゃんなだけで」

「不思議ちゃんは確定事項か……」

 

 オレ自身否定出来る要素が少ないので、最初から放置気味ではあったが。……この評価は、どうにも腑に落ちない感覚がある。

 

「あと、言葉遣いだよな。自分のことを「オレ」って言ってるし、もっと男みたいな性格だと思ってた」

「わっかってないなぁ、ヴィータ。これが可愛いんじゃん!」

 

 ドンッという効果音を背負いそうな感じで仁王立ちするあきら。相変わらずオレには理解できない評価である。

 

「言葉遣いに関しては、女言葉が死ぬほど似合わないだけだ。男だと血を吐いて倒れるレベルだ」

「またまた、言葉だけで血を吐くなんてあるわけねーじゃん。……ねーよな?」

「真実はときに残酷なんだよー、ヴィータちゃん」

「ほんと、あれだけはいまだ解けない謎だよね……」

 

 彼女にとって信じがたい現実に直面し、ヴィータは驚愕した。

 

 

 

 ヴィータと会話をしていると、はやてと聖祥三人娘、それから伊藤もやってきた。ちょっとしてから、おまけで美由希も。

 なのはを見たとき、ヴィータはちょっと警戒した。魔導師だからだろう。

 

「いや、警戒する必要はないって聞いてたんだけど、条件反射って言うかな……」

「そうなの? でも大丈夫だよ! ここは管理外世界だから、魔法関係の悪い人はいないよ!」

 

 管理外世界だから、というのは根拠にならないが、この場に魔法で悪事を働こうとする人間がいないのは事実である。変態も、変態ではあるが犯罪には手を染めていない。合法的に変態を働こうとするからタチが悪い。

 ……闇の書は、管理世界の品ではあるわけだから、本来ならば管理局に届け出るのが合法なのだろう。だが、今のところそれをする気はない。

 局員である程度の信用が置ける人物が存在することは確かだが、イコール管理局が信用できるわけじゃない。巨大な組織であればあるほど、一枚岩であることは難しいのだ。

 それと、もう一つ。これまでの闇の書の主が行ってきたことが問題だ。

 

「はは……管理局からしたら、あたしらの方が悪者なんだろうけどな」

 

 皮肉気に笑うヴィータ。自分の意志ではなく、主の意志で人を傷つけてきたことの証明だろう。守護騎士という"プログラム"である以上、主に逆らうことは許されないのだ。

 けれどそれは、向こうには関係がない。「人の姿をしたものが管理世界の人間を殺傷した」という事実でしかない。記録に残っている可能性も高い。

 そうなれば、実際に届け出た場合に彼らがどう扱われるか。ロクな扱われ方をされない未来が見えてしまう。現在の主であるはやてにまで飛び火する可能性がある。それだけは絶対に避けなければならない。

 闇の書の主が犯してきた罪と守護騎士が切り離されることと、闇の書を所有するはやてに誤解が及ばないこと。この二つが絶対に保証されない限り、管理局に届け出ることは出来ない。

 ヴィータの言葉が理解できなかったようで――というかそもそも闇の書の事情を知らないからだろう、なのはを初めとした面々が頭上にはてなを浮かべる。

 はやては、車椅子を操作してヴィータの手を取る。その存在を離さないように、両手でしっかりと。

 

「大丈夫や。もうヴォルケンリッターが望まない戦いに巻き込まれることはない。なにせ、こっちには悪巧みさせたら海鳴一のリーダーがついとるんや」

「オレは悪巧みをした覚えはないぞ。事実を正確にとらえて、自分の都合のいいように状況をコントロールしただけだ。ついでに、オレ以上のリーダーなど腐るほどいるだろう」

 

 勝手に海鳴一にしないでくれと言いながら、ヴィータを後ろから抱きしめる。ヴィータの身長は高くないが、それでもオレよりは高かった。

 抱きしめられ、ヴィータは動揺する。オレは彼女を宥めるように、左手で頭を撫でる。

 

「だが、オレが戦いを望まない以上、家族を戦いに巻き込ませるつもりもない。憂いなく平和を享受してくれ」

「う、うあぁ……なんだこれぇ、気持ち良くて力が抜けるぅ……」

「にゃはは、ミコトちゃんのママ力が炸裂してるの」

 

 この歳で三人の「娘」を育てているのだ。この程度はな。

 伊藤が気を利かせてオレの後ろに椅子を差し挟んでくれたので、ヴィータを抱えたまま座る。彼女は顔を真っ赤にしながら、されるがままだった。

 

「いいなーヴィータちゃん。わたしもミコトちゃんに抱き着かれたいよ。抱き着いたことはあるけど、わたしの方がおねえちゃんなんだしなー」

 

 感想を述べたのは美由希。そういえば、先日の"お手伝い"のときに名前呼びにしてやったら、感極まって抱きしめられたんだったな。姉妹そろって抱き着き癖のある連中だ。

 要するに「お姉ちゃんぶりたいから抱き着いてくれ」ということだ。だが、以前「高町姉」と呼んでいたことから、彼女の扱いを察していただきたい。

 

「そもそもオレは年上に抱き着いたりはしたことがないんだが。どちらかと言えば、庇護したい相手に向けて行うものだ。いっそ妹分になってしまえばいいんじゃないか?」

「なにそれー! ふーんだ、いいもん! わたしの方から抱き着いちゃうんだから!」

 

 椅子の上から覆いかぶさってくるように抱き着いてくる美由希。正直鬱陶しいが、まあ……好きなようにさせておくか。

 そんなオレ達の様子をすぐ近くで見ていた伊藤は、幸せそうに笑っていた。

 

「ミコトちゃん、本当にいい表情するようになったね。見てると、幸せな気分になるよ」

「そうか? 鏡を見ると、相変わらずの仏頂面なんだがな」

「そうかもしれないけど。でも、わたしには分かるよ。ずっと見てきたんだもん」

 

 そうか。そういえば伊藤は……伊藤だけじゃない。亜久里も、田中も、田井中……はアホだから分からんが。こんなオレのそばに居続けてくれた。「コマンド」作成なんていう正気を疑うようなことにも付き合ってくれた。

 なのはの件で「友情」を理解していたからだろう。オレは……今までのオレは、何とも「友達」がいのない奴だったろう。そう、心の底から思えた。

 それでも繋がりを持ち続けてくれた彼女達に、感謝のような念を抱く。オレが「変わる」まで待ってくれた、とても強い少女達に対して。

 

「君には随分助けられてきたんだな。……ありがとう、むつき」

「――えっ? み、ミコトちゃん、今……っ!」

「おー! やったな、むーちゃん! ミコちゃんに名前で呼んでもらえたやん!」

「うん! わたし、やったよ、はやてちゃん!」

 

 大げさだな。いや、大げさでもないか。彼女にとってそれだけの価値がなければ、今までオレとの繋がりを持ち続けてくれたわけがないんだから。……少し、嬉しい。

 涙の粒を零して喜ぶむつきを見て、オレはちょっとだけ、口角を上げた。

 フリーズして再起動した亜久里が、ガタガタッと駆け寄ってくる。

 

「あ、あたしは!? あたしは名前で呼んでもらえるの!?」

 

 ということらしい。確かに、この子も名前で呼んでいい程度ではあるのだが……。

 

「……すまん。「あぐり」という音が気に入ってしまった。「さちこ」という感じでもないしな、君は」

「なんですとー!?」

 

 ショックを受ける亜久里。だが……この名字、いいものだと思うぞ。とても綺麗な音だ。だから、名前呼びに変えて「あぐり」と呼べなくなるのが嫌なのだ。

 

「君が結婚なりして名字が変われば、「さちこ」と呼んでやる。それまでの我慢だな」

「うう……あたしだけ名前呼びまでのハードルが高いよぅ……」

「あっはっは。ドンマイやで、さっちゃん」

「……なーんか納得いかないわね。見せつけられた感じで」

「しょうがないよ。むーちゃん達は二年間も一緒だったんだから。わたし達は、これからだよ」

 

 そうだな。特にアリサ・バニングスは、オレに少しでも「面白い」と思わせたんだ。こんなところで諦めてくれるなよ。オレの愉悦のために。

 

 

 

 

 

 はやてのことはヴィータが見てくれるということで、オレはもう一度士郎さんに挨拶をすることにした。

 士郎さんは、桃子さんと一緒にいた。話している相手は、ブランとシャマル、おまけのようにミステールがちょこんとついている。

 

「士郎さん、桃子さん。はやての誕生日会を開いていただき、ありがとうございます。それと、シャマルの働き口の件も」

「やあ、ミコトちゃん。少しでも君達の力になれたなら、それが何よりだよ」

 

 これが、第二次八神家エンゲル係数危機の解消法だった。人数が増えた分、働く人数を増やす。それをヴォルケンリッターの常識担当に任せるというのは、妥当な判断だろう。

 ちなみにシグナムも手を挙げたのだが、奴に翠屋のホールを任せられるわけがないので却下。そもそも人数が足りているところに無理矢理ねじ込んでもらうのだから、先方の負担も少ない方がいいに決まっている。

 いずれはシグナムにも家計に貢献してもらうつもりでいるが、今のところ彼女が活躍できる場面はない。雌伏のときを過ごしてもらう。

 相変わらず士郎さん、そして桃子さんは、オレ達のことを娘同然に扱っているようだ。まあ……今はそれも悪くないと思えるかな。

 そうすると、最初のとき桃子さんに言った言葉は、内容はともかく態度は謝った方がいいかもしれない。

 

「今更ですが、あのときは我ながら大変失礼な態度だったと思います。その件の謝罪と、それでも関係を保ってくれたことへの感謝を」

「気にしないで。あれのおかげで、本当の意味でなのはに寂しい思いをさせずに済んだんだから。あのぐらいすっぱり言ってくれなきゃ、当時の私じゃ分からなかったと思うわ」

「俺も、あの言葉を桃子伝手で聞いたとき、衝撃だったよ。「家族を顧みず、俺は何をやっていたんだろう」ってね。俺が危ない仕事から完全に足を洗ったきっかけの一つだよ」

 

 それほど、オレの言葉は二人の人生に、そしてなのはの人格に影響を与えてしまったという証左だ。オレは、その責任から逃げるつもりはない。精神の自由を得た代償だと思っている。

 ただ、代償の内容が彼らから家族同然に思われるという、何とも緩いものだ。釣り合いは取れているんだろうか。ちょっと自信がない。

 オレと高町家の関係は既に聞いていたのか、シャマルがニコニコ笑ってオレを見ている。

 

「やっぱりミコトちゃん、優しいじゃない。わたしだけじゃなくて、皆そのことを分かっているみたいよ」

「オレはただ自分のために行動し続けただけだ。確かに多少は他者も顧みるようになったが、以前のオレはそんな言葉とは無縁だったはずだ」

「だからこそ、だろうね。君は筋を違えるようなことは絶対にしない。容赦なく筋を通すからこそ、ちゃんと真っ直ぐ見られさえすれば、優しさが見える。そういうものさ」

 

 オレ自身を客観視するのは無理だから、どの程度の信憑性があるのかは分からないが、ブランとミステールを含めた全員が士郎さんの意見に納得した。ため息が漏れる。

 

「本当に自分本位ならば、他者の利害など完全に無視してしまえばよい。それが出来ぬのが、主殿の優しさじゃよ。呵呵っ」

「その場しのぎをするつもりがないだけだ。長期的に見れば、それが一番こちらの損が少ないやり方だ」

「つまり、長期に渡って関係を維持する可能性を視野に入れているということじゃ。それを人は優しさと呼ぶんじゃないかの?」

 

 沈黙。オレとしては、その場限りで切り捨ててきたつもりだ。あくまで可能性は可能性。だけど……実際その可能性が現実になってしまっているのだから、返せる言葉はなかった。

 マスターを言い負かした"理の召喚体"はもう一度「呵呵っ」と笑う。

 

「まあ、クール気取りで実は恥ずかしがり屋な主殿は、「優しい」などと言われては恥ずかしくてしょうがないかのぉ」

「クールを気取ってるわけでもないし、恥ずかしいわけでもない。自己評価との差で収まりが悪いだけだ」

「呵呵っ。そういうことにしといてやろう」

 

 ちょっとカチンときた。ミステールに触れながら、「コマンド」を発動する。

 

「『"理の召喚体"ミステール、在りし姿に戻れ』」

「あ、ちょ、こら!?」

 

 すぐさま彼女は姿を変じ、ブランの基礎状態とは色違い、紫のひし形の宝石核の姿となる。苦笑するブランにそれを手渡した。

 

「しばらくその姿で反省していろ。覚えていたら、パーティが終わらないうちに元に戻してやる」

『ぐぬぬ……さすがにこの姿では変化出来ぬわ』

「あんまり意地悪しちゃダメですよ、ミコトちゃん」

「これがミコトちゃんの"魔法"……本当に全く魔力を感じないのね。どうなっているのか、非常に興味深いわ」

 

 ヴォルケンリッター頭脳担当は、初めて「コマンド」の使用を目の当たりにして、興味を惹かれたようだ。顎に手を当ててしきりに頷いている。

 と、苦笑をした石田医師が輪に加わる。

 

「ミコトちゃん、本当に"魔法使い"だったのね。シャマルさんの魔法は見せてもらったけど、あなたのはこれが初めてね」

 

 シャマルは、診察に行くときに着いて来てもらった。石田医師にもはやての足の原因を説明してもらうためだ。彼女が管理世界について知ったのは、そういう経緯だ。

 その際、一応の配慮ということで遮音結界を張ってもらった。シャマル達が使用するベルカ式の魔法陣を見ているのだ。

 

「まさか魔法が原因の病気だったとはね。通りで検査に引っかからないわけだわ」

「……オレとしては、異能を知らなかったはずのあなたが、そこまであっさりと納得したのが意外です」

「目の前で見せられてしまって、その現実を否定するわけにはいかないわよ。それは命を扱う医者として、やってはいけないことだもの」

 

 なるほど。そういう理屈だったのか。オレが思っていた以上に、この人は「先生」だったようだ。

 

「魔法が原因じゃ、この世界の医術しか知らない私に出来ることは、もう何もないわ。ずっと見てきた私が治してあげられないのは悔しいけど……後はお願いするわね、ミコトちゃん」

「それがオレの悲願でもある。あなたに頼まれずとも、途中で投げ出したりはしない。……思いは受け継がせてもらいます、石田先生」

「やっぱり優しいじゃないですか、ミコトちゃん」

 

 いい加減それを引っ張るのはやめろ、シャマル。

 

 

 

 ミステールのことを元に戻して、移動する。そろそろ奴の様子でも見てやるかと思ってそこに行くと、何故かはるかとアリシアに囲まれていた。何故に。

 シグナムは警戒しながら、二人との距離を保つ。どうでもいいほど謎の緊張感が満ちていた。

 

「……これはどういうことなんだ?」

「えーっと……シグナムが持ってるデバイスが"アームドデバイス"っていうわたし達のとは違うものだったから、アリシアとはるかの琴線に触れちゃった……かな?」

 

 困り顔で傍に佇んでいたフェイトに聞くと、そんな答えが返ってきた。事実、三人の会話というのが。

 

「お願いします! ちょっと触らせてもらうだけだから!」

「ええい、聞き分けのない! 騎士が他人にそう易々と己の剣を預けるものか!」

「だいじょうぶ! わたしはかぞくだよ! へんなことはしないから!」

「私は主の命に従っただけで、心を許したわけではない! 寄るな!」

 

 こんな感じだった。別にシグナムでなくとも、ヴィータかシャマルに頼めば普通に見せてくれると思うが。

 まあ彼女達はそれぞれに会話を楽しんでいるわけだから、壁の花となっていたシグナムが標的になるのは自明の理ということか。

 ……田井中め、幼馴染の制御を放って何処かに逃げたな。店内を見回してみると姿はなく、入口のドアの向こうでアルフとザフィーラをもふもふしている姿が見えた。

 この分は、あとで田井中に請求することにしよう。

 

「二人とも、そこまでにしておけ。所有者が同意していないのに見せてもらうのは、筋が通っていないだろう。後でシャマルかヴィータにでも声をかけろ」

「うーん、是非とも"剣の騎士"のデバイスを見ておきたかったんだけどねぇ。リッターで変換資質持ってるのって、シグナムさんだけなんでしょ? しかもふぅちゃんの電気とは違う、炎熱の」

 

 君はいつの間にそこまで管理世界の魔法に詳しくなった。下手したらオレより詳しいんじゃないか?

 内心驚くオレに誇らしげな顔を向けるアリシア。なるほど、君の仕業か。

 言い寄られていたシグナムはというと、疲労の濃い表情だ。敵意なくにじり寄られるという経験がなかったのか、対処法が分からなかったらしい。

 

「これが貴様の主の周辺環境だ。慣れろ」

「っ、貴様に言われずとも分かっているッ!」

「わぁお、険悪。さりげなくミコトちゃんの二人称が初出だし。シアちゃん、この二人上手くいってないの?」

「ほうこうせいのちがいってやつだねー。あるいみにたものどうしなんだけど」

 

 誰が似た者同士だ。こんな脳筋と似ているなど、思いたくもない。向こうも同じだろう。

 

「もう……ちゃんと仲良くしないと、はやてが悲しむよ?」

 

 フェイトが困った顔で、はやてを引き合いに出してオレを説得しようとする。が、それでも無理なものは無理だ。

 

「オレに歩み寄りが出来ないことは君も知っているだろう。まして相手は対極に位置する者。抗争にならないだけマシというものだ」

 

 はやてを悲しませてしまうということだけは心苦しいが、条件的に不可能なことを成立させる力を持ち合わせているわけじゃない。オレに出来ることは、出来ることのみなのだ。

 それに、オレはヴォルケンリッターの中でこいつだけは「家族」として認めていない。まだ利害が一致していないのだ。

 

「少なくとも、こいつが「蒐集禁止」という方針に賛成出来るまでは、同じ家にいるだけの他人だ」

「我らは蒐集を助けるための騎士だ。自身の使命に従うことの何がおかしい」

 

 他のヴォルケンリッターとの違い。それは、こいつがいまだ蒐集を諦めていないということだ。

 さすがに主の命令に背くような奴ではないが(騎士道の塊だから)、現状に不満を持っていることに間違いはない。

 理由は今シグナムが述べた通りなのだろうが、それでもはやてが主体となって方針を決めていたら、大人しく従っただろう。問題は「オレがメインで決めた」ということだ。

 頭脳担当であるシャマルは、オレの決定の仔細を理解している。ヴィータは、はやてとオレに懐いてくれている。ザフィーラは、泰然として受け入れている。

 だがこいつだけは、主を除けば自身がチームの方針を決める立場だ。はやての「相方」たるオレだが、こいつにとっては「主の側にいるだけの部外者」なのだ。しかも、年齢一桁の小娘だ。

 平たく言ってしまえば「面白くない」という感情の問題で、こいつは反対意見を表明している。それを「使命」だの何だのの言葉で誤魔化しているだけだ。

 

「使命などという御上から与えられたものでしか動けない輩に、全体決定を覆す権利は危うくて与えられないと気付かないのか」

「主に対する忠義はなく、自身の都合で振り回しているだけの貴様の言葉に、何故我がリッターが従っているのかが分からない。口八丁の詐欺師め」

「聞いていなかったのか? それが貴様の主の命令だからだ。貴様は朝の記憶すら怪しい痴呆なのか、そうか」

「……表に出ろ。レヴァンティンの錆にしてくれる」

 

 店内だというのにデバイスを起動する非常識な騎士が一人。フェイトが慌ててシグナムを止める。そもそもオレは表に出る気はない。誰が好き好んで相手の土俵で勝負するか。

 オレ達が睨み威圧しあっていると、パンパンという手を叩く音。はやてだった。

 

「はいはい、そこまで。シグナム。ミコちゃんに傷一つでもつけたら許さんって言うたで。ヴォルケンリッターのリーダーなんやから、少しは我慢しぃ」

「……申し訳ありません、主」

「普通にはやてって呼びや。今すぐとは言わんけど、徐々に慣れてもらわな困るで」

「はっ! 主の御心のままに!」

「全然分かっとらんな。……ミコちゃんもミコちゃんやで。ソリが合わんのは分かるけど、争ってええことなんて何一つないのは、ミコちゃんが一番分かっとるはずやろ」

「だが、敵対者ではないとはいえ協力関係とも言えない。こちらから合わせる義理がない以上、性格の不一致による衝突は必然だ」

「こっちもこっちで難儀やなぁ。無理に合わせてもらっても、それはそれで嬉しくないからしゃあないけど」

 

 「どうしたもんかなぁ」と唸るはやて。とりあえず、シグナムがはやてに向けてひざまずいたため、睨み合いは終了した。

 シャマルが会話に参加してくる。彼女は名案を思い付いたと手を打った。

 

「じゃあ、二人でお散歩してきてもらうというのはどうでしょう。ゆっくり歩きながらお話すれば、きっと打ち解けられますよ。ミコトちゃんもシグナムも、本当はいい子なんだから」

「ちょっと待てシャマル。私にこいつと二人っきりで散策しろと言うのか? 正直言って切り捨てない自信がないぞ」

「遺憾ながら反対という点ではシグナムと同意見だ。オレだって命は惜しい。何が悲しくて首輪の付いてない猛獣の隣を歩かなきゃならん」

「なら、ボディーガード付ければええんやな? 恭也さーん!」

「ん、俺に用か? すまんな、忍。ちょっと行ってくる」

「またミコトちゃんー? 恭也、あなた本当にあの子に何もないのよね?」

「あってたまるか、社会的に死ぬ」

 

 忍氏とイチャコラしていた恭也さんがオレ達のところにやってきて、はやてとシャマルから事情の説明を受ける。彼は「なるほど」と頷いた。

 

「俺もミコトには気持ちよく生活してもらいたいからな。協力しよう」

「さっすが恭也さん、話の分かるお人やで! あ、ついでやしアルフとザフィーラのお散歩も兼ねよか」

「……一応聞こう。オレ達の意志は?」

「聞くわけないやろ」

 

 ですよね。

 

 かくして、オレは何故かシグナムとともに、しばらくの間その辺を散策することになった。

 遺憾ながら、オレとシグナムの胸中は同じ言葉で満たされていただろう。「解せぬ」と。

 

 

 

 

 

 結局アルフは残り(田井中が「二匹とも連れてかないで! 片方は残して!」と涙目で懇願したため)、オレがザフィーラのリードを持って三人と一匹で歩く。

 アルフにしろザフィーラにしろ、本来はリードは必要ないのだが、こうしておかないとその辺の人からクレームを付けられる可能性がある。リードを付けない犬の散歩は社会問題なのだ。

 オレとシグナムの間で会話は一切ない。時たまに、空気に耐えられなくなった恭也さんが、オレかシグナムに声をかけ、短い会話が発生するのみ。実にサイレントな散歩だ。

 

「……はあ。本当に仲が悪いんだな、お前達は」

 

 そんなオレ達の様子に呆れた恭也さんが、ため息を漏らして両方に声をかける。仲が悪い、か。

 

「それは少し違うかと。向こうはどうか知りませんが、オレは感情の問題で邪険にしているわけじゃない。単純な利害の不一致です」

 

 それが原因でイラつくことはあるが、シグナム当人に対しては何の感情も持っていない。オレの基準では、彼女は無価値な存在なのだ。

 オレは思った通りをありのままに言ったのだが、奴はオレのことを「詐欺師」と言った。信じていない様子だ。

 

「どうだかな。貴様は、認めたくないことだが、シャマルを丸め込むだけの知性がある。私が気に入らないという理由で、それを悪用していないとも限らない」

「何をもって悪としているのか、……と、言うだけ無駄か。貴様にはブーメランという言葉を贈呈しよう、ありがたく思え」

「……どういう意味だ」

 

 言葉通りだ。オレを気に入らないからという理由で腕力と魔力を「悪用」しようとしているのは、何処の誰だという話だ。

 相変わらず険悪ムードなオレ達に、恭也さんがもう一つため息を吐く。

 ザフィーラが、双方にフォローを入れた。

 

「子供相手にムキになるな、シグナム。将の名が泣くぞ」

「ザフィーラ! ……いや、お前は正しい。ヴォルケンリッターの将がこれでは、皆も困ってしまうな」

「全くその通りだ」

「煽るな、ミコト。俺は君を認めているが、それでも君が自身の感情を完全に把握できているとは思っていない。君がシグナムに向けている感情は、間違いなくあるはずだ」

 

 ……確かに、そうなのかもしれない。本当に何も思っていないなら、オレはここまで饒舌にはならないはずだ。二言三言核心をついて黙らせて、あとは存在しないものとして扱うだろう。

 では彼女に対して何を思っているのか? ……やはり、オレには分からない。オレはまだ、その感情を「識らない」のだろう。だから上手く御することが出来ないのかもしれない。

 

「お前はまだまだ子供なんだよ、ミコト。焦るな」

「……その通りです。だけど、焦るなというのは無理な話だ。ようやく、道が見えたんだから」

 

 恭也さんに返した言葉は、ひょっとしたら、それこそ子供の逸る気持ちを抑えきれていなかったのかもしれない。だけど、今のオレは目の前に現れた希望に向けて、走らずにはいられないのだ。

 真っ直ぐ前を見るオレの横顔を見たシグナムは、しばし沈黙し。

 

「……貴様が主を助けたいと本気で願っていることだけは、認めている」

 

 オレとは反対方向を向きながら、そんなことを呟いた。オレに聞かせる気があるのかどうかも怪しい音量だ。

 なら、オレもそれに倣おう。

 

「平和な世界では役に立たないが……それでも貴様が数々の戦いを勝ち抜いてきたことを、なかったことにする気はない。そして、はやてに対する絶対の忠誠も」

 

 きっと、それが彼女の人格の大事な柱となっている。騎士の道。オレのような小娘では絶対に成しえないことだ。ひょっとしたら、恭也さんでも無理かもしれない。

 頭が固くて話を聞かず、結論を決めたら意地でも通そうとする、まさにオレの苦手の塊のような人格ではあるが。それでも、非凡であることには間違いないのだ。

 良いことなのか悪いことなのか、それは分からないが。

 ――後のオレが今のオレを見たら、きっとその感情の正体を知っているだろう。「同族嫌悪」という、仲間意識と対抗意識がないまぜになった感情を。

 恭也さんとザフィーラは――ザフィーラの方は分からないが――顔を見合わせ、苦笑した。

 

 

 

 ぐるりと駅周辺を回って戻ってくると、駅前に移動のクレープ屋が来ていた。そういえば、オレはクレープを食べたことがない。

 翠屋ではコスト面の問題なのか分からないが、クレープを取り扱っていない。食べようと思うと、こういった移動販売車に遭遇するしかない。

 それでなくともオレは贅沢を嫌う節約家だ。必然、こういうものとは疎遠となる。興味がないわけではないのだが。オレだって女の子だ、甘いものは嫌いじゃない。

 

「……買っていくか?」

 

 オレがクレープ屋を視界に収めていたのに気付いた恭也さんが、オレに向けて微笑みながら聞いてくる。"妹"にはとことん甘い御仁である。

 

「いえ、目的にはないので。別の機会にしましょう」

「遠慮はしなくていい。食べたことないんだろう? 素直に甘えてくれていいんだぞ」

 

 それがオレには出来ないと分かっていて言ってるのだから、この人も意外とお茶目である。……忍氏は、そういうところに惹かれたんだろうか。

 恭也さんはオレが止めるのも聞かず、クレープ屋の方に向かってしまった。一応彼はボディーガードという名目で着いて来たと思うのだが、いいんだろうか。ああ、何かあれば一瞬で駆けつけられる距離なのか。

 ともあれ、残されたのはオレとヴォルケンリッターの二人。ザフィーラはペット状態で我関せずなので、実質オレとシグナムのみ。……ああ、そういうことか。一対一で対話させようっていう。

 

「ふん。気取っていても、やはり小娘だな。底が知れた」

 

 先制ジャブはシグナムから。今のやり取りで一人合点したようだ。

 

「オレはちゃんと自制したと思うが。恭也さんが勝手にやってくれたことだ」

「だが、結果として彼の者に甘えた。甘味にうつつを抜かし、男にうつつを抜かした。貴様はその程度の器だったということだ」

「そもそもオレは自分の器を大きく見せた覚えはない。今の発言で、貴様は自身の目が節穴であることを証明しただけだ」

 

 甘味はともかくとして、オレがいつ男にうつつを抜かしたというのか。

 恭也さんのことを言っているなら、彼は忍氏の恋人であり、オレのことは妹として見ているだけだ。オレの方も、兄のように思っているだけだ。

 そもそも「異性を意識する」という感覚を理解できていないオレが、どうやって男にうつつを抜かすというのだ。先入観のみで物を語っている。

 

「それと今のは、世の女性の大半を敵に回す発言だぞ。女にとって甘い物とコイバナは至福そのものだ。仮にも女なのだから、それぐらいは認めたらどうだ」

「私には必要ない。騎士道に娯楽など不要だ、軟弱者め」

「オレは騎士ではないのだがな。それと、逃げ言葉に聞こえるぞ」

「……貴様、よほどレヴァンティンの錆になりたいようだな」

「でえええい! ストップストップ!」

 

 オレとシグナムの間に、いつの間にか現れていた藤原凱が割り込んでくる。ここはもう翠屋の近くだから、彼がいてもおかしくはない。

 

「二人ともいい加減にしろって! 公共の場でケンカなんかすんなよ! いや公共の場じゃなきゃいいわけじゃないけども!」

「売ってきたのは向こうの方だ。オレは必要な返答をしただけに過ぎない」

「買った時点で同レベルだよ。ほら、これをやるから機嫌を直せ」

 

 ストロベリーソースのかかったクレープを渡される。甘い香りが食欲をそそる。シグナムは、チョコバナナクレープを押し付けられて目を白黒させていた。

 

「恭也サーン。なんで放って行っちゃうんスかねー」

「ザフィーラがいたからな。本当に危なくなったら止めてくれると判断した。お前もクレープか?」

「おじょーさま方に買ってこいって言われちゃいましてねー。女所帯だと男は肩身が狭いっスわ、ハハッ」

「お前はむしろそれを望んでいるんだろう? ハーレム思考が真実なら、な」

「はっはっはっはっは。……ザッフィーはリアルハーレム状態なんだよね。代わってくんない?」

「やめておけ、お前が思っているほどいいものではない」

 

 男同士で会話を始める三人。青年、少年、犬(狼)とバラバラではあるが、不思議な連帯感を感じる。

 ……この、なんだろう。彼らを見ていると胸の真ん中がじんわりしてくる感覚があるのは。疎外感、というわけではないが、「自分が異性である」ということを意識すると、心臓がキュッと縮む気がする。

 よく分からず、ストロベリークレープを食む。クリームの甘みと、いちごの酸味が、口の中に広がった。

 

「……何を見ている、"剣の騎士"」

「え? あ、ああ……別に、何でもない」

 

 こっちを見てポケーっとしていたシグナムに反応を返してやると、奴は鼻の頭をかきながら、オレから視線を逸らした。意味が分からん。

 それから二、三言葉を交わし、藤原凱もまたクレープ屋に走った。

 その途中。

 

 

 

「あ、そーそー! 今度闇の書について俺が知ってること、詳しく話すわ! じゃ、また後でなー!」

 

 世間話でもする気軽さで、割と重要なことを口走った気がした。

 

「……あいつは一体、何者なんだ?」

「特大の秘密を抱えただけの、ただの変態だよ。正直オレ達も扱いに困っている」

「そ、そうか……」

 

 

 

 

 

 翠屋で行われたはやての誕生日パーティは、特に問題も発生せず、滞ることなく平和に終了したのだった。




これで管理世界組以外は一通り絡ませられたかな? 抜け・漏れあったら教えてください。
あと二話ほど、ガイ君による情報開示と全体調整があってから、長い長いA's編のまったり日常が繰り広げられます。水着回とお風呂回は最低一回、出来れば二回やりたいです(切実)

ミコトの内面の変化が如実に表れました。異性を意識することはまだ出来ていませんが、無意識するぐらいは出来るようになったみたいです。シグナムさんも思わず見惚れてしまいました。しかし残念なことに、サブルートの男連中が現れるのはまだまだ先なんだよなぁ……。
この話の本筋はミコトとはやての百合百合生活なのでま、多少はね?

※お詫び
第三話あとがきにも追記しましたが、「亜久里」というのはファーストネームに使うものであり、名字としては不適切でした。
しかしながら修正原則に引っかかる点、ミコト及び作者が「あぐり」という名字を気に入ってしまったことなどから、今後も彼女は「亜久里幸子」でいてもらいます。
全国各地の亜久里さんには心よりお詫び申し上げます。

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