不思議なヤハタさん   作:センセンシャル!!

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お待たせしました。水着回です。
あと二、三回はやりたいですね。温泉回も。

2016/11/06 地の文の一人称が一部「俺」になってたので「オレ」に修正。


二十話 プール

 翠屋のバイト……もとい"お手伝い"に入るようになって、約二週間。オレもブランも、この新しい"職場環境"に、それなりに慣れたように思う。

 翠屋のホールの仕事は、一言で言ってしまえば「ゆるい」。楽というわけではなく、労働における制約を出来る限り取っ払っているという印象だ。

 接客一つ取っても、マニュアルは最低限――注文の取り方とキッチンへの伝達方法、業務内容程度のものしか存在しない。あとは完全に従業員の采配任せだ。

 一度恭也さんと一緒のシフトに入ったときがあったのだが、なのはや高町姉ともまるで違う、どちらかといえばオレに近い、無愛想な接客だった。それでマスターも客も許容しているのだ。

 それはつまり、その態度は彼の個性であるとして、この店に受け入れられているということだ。家族経営なのだから、身内の個性を尊重するのはある意味当然なのか。

 ともあれ、昼や夕のピークなどの忙しい時間帯は存在するものの、それでも精神的には非常に負担が少ない職場なのだ。正直、こんな恵まれた環境があっていいのかと思ってしまう。

 ――寝る前にはやてにポロリとこぼしてしまったときがあり、「ミコちゃんが今まで頑張った分が報われてるんよ」と言われてちょっと感極まった。報いの最後には、はやての足の完治があって欲しいと切に願う。

 そんなわけで、オレの仏頂面+棒読みの機械的な接客は、むしろ笑って受け入れられた。"お手伝い"を始める前になのはが言っていた通りになって、ちょっと癪だ。

 

「それじゃ、お先上がりまーす。チーフも早く帰るんだよー!」

「誰がチーフだ、誰が」

 

 高町家の子供でない、ホールのバイトをやっている女子高生(高町姉の同級生だそうだ)が、シフトを終えて退店する。……現在オレがホールスタッフの間でどんな扱いなのか、わかっていただけたかと思う。

 たったの二週間だ。たった二週間、オレはオレに出来ることを全力で、いつも通り容赦なくやっただけなのだ。そうしていたら、いつの間にかバイト全員から「チーフ」と呼ばれるようになってしまった。

 よく考えろ。オレは小学生だぞ。君達高校生や大学生より、10歳近くも年下だぞ。そんな小娘をチーフと持ち上げるのはどうなんだ。君達はそれで納得しているのか。

 たかが、ピークのときにスタッフがバラバラだったから全体を調整したり、シフト調整に少し口を挟んだだけだぞ。そんな微力を尽くしただけで昇進できるなら、世の中苦労するお父さんはいなくなるだろうが。

 解せぬ。最近口癖になりつつある言葉が胸中を満たした。

 

「チーフはチーフじゃん。もう遅いし、家まで送ろうか?」

「ブランがいる。送り狼されても困るから、遠慮しておく。お前もとっとと帰れ」

「俺、ロリコンじゃねえんだけど。あ、でもチーフなら大人っぽいし、小学生でも全然いけるかもね」

「とっとと帰れと言っている。捻り潰すぞ」

 

 「おお、こわいこわい」と言って、軽薄な印象のある男子大学生も退店した。あれで恭也さんの大学での友人だそうだ。彼が友人と言っているのだから、見た目どおりの性格ではないのだろうが。

 はあ、と溜め息をつきながらクローズ作業をする。現在時刻は午後8時。翠屋は家族経営であるため、閉店時間がやや早い。ご夕食の際はお早めに、ということだ。

 今日は午後4時から入った。シフトに入る最低時間が4時間という条件のため、ブランとともにクローズスタッフをやっているのだ。

 シャッターを下ろして振り向くと、テーブルを拭いているブランが微笑みながらオレを見ていることに気付いた。

 

「手が止まっているぞ」

「あ、ごめんなさい。……ミコトちゃんが皆に受け入れられているのが、嬉しくって」

「……まあ、な」

 

 オレの性格は、決して万人受けするものじゃない。翠屋の環境は、はっきり言って稀というレベルじゃない。奇跡と言ってもいいかもしれない。安い奇跡があったものだ。

 だが、考えてみれば当然なのかもしれない。あのマスターが、雇う人間を決定しているのだ。確かな人格を持つ人間しか雇ってもらえないのだろう。

 

「ミコトちゃんの「いいところ」は、中々見えにくいのかもしれない。けど、見る人が見れば分かるものだよ」

 

 カウンターの掃除をしていたマスターが、オレ達の会話に参加する。オレのいいところ、か。自分では、それが何処なのかがさっぱり分からない。

 当たり前だ。それを決めるのは、オレを見る誰か。その誰かが「こいつにはいいところがない」と思えば、オレにいいところはないのだ。そして、逆もまた然り。

 

「君のおかげで、皆助かっているということだよ。その結果が「チーフ」というあだ名だろうね」

「ホールのチーフはマスターが兼任しているはずでは?」

「オレは君のためにチーフスタッフという役職を作ってもいいと思っているよ」

 

 よしてくれ。そんなしがらみは、あっても嬉しくない。そう返すと、彼は優しく微笑んだ。

 

「冗談ではなく、俺はミコトちゃんの時給……もとい、"お駄賃"を上げてもいいかと思っているよ」

「気が早いですよ。まだ始めて二週間です。ここから先、何処かでボロが出てくるかもしれない」

「そうかい。まあ、受け取る気になったら早めに声をかけてくれ。また君に借りを作ってしまうのは、心苦しいからね」

 

 給与、もとい"お駄賃"は受け取っているのだから、貸しにはなっていないはずだが。マスターの考えることだから、オレに分かるはずもないか。

 クローズを終え、エプロンを外してスタッフルームに荷物を取りに行こうとすると、マスターから呼び止められた。

 

「代わりというわけじゃないけど、これを受け取ってもらえないかな」

 

 その手には何かのチケットが複数毎。手に取って見ると、それは近所の温水プール施設のものだった。枚数は8。つまり、現在の八神家の人数分。

 

「実は4月にもなのは達が遊びに行ったんだけどね。そのときちょうどジュエルシードの暴走があって、最後まで遊ぶことが出来なかったらしいんだ」

「オレ達が合流する前の話ですか。……なのは一人で封印したんですか?」

「いや、あのときの全員が一緒だったはずだよ。君が合流する前だったから、統制が取れてなくて相当苦戦したみたいだけど」

 

 ――後に当事者である恭也さんに話を聞いたところ。

 

「何故か女物の水着に反応する暴走体だったせいで、なのはばっかり狙われて全然攻撃できなかったんだ。……お前がいれば、きっと上手い策を考えてくれたんだろうな」

 

 とのことだった。あまり期待をされても困るのだが。

 

「つまり、なのは達と一緒に遊びに行ってほしい、と」

「ダメかい?」

「……いえ。シフトのない日なら、別に構いません。オレも……最近は、子供みたいに遊んでみてもいいかなって、思えますから」

「ミコトちゃん……」

 

 ブランが感激したように口元を押さえた。大げさな反応だと思うが、大げさでもないのかもしれないな。今までのオレを考えたら。

 オレの感情が以前より発達したからなのか。それとも、周りのレベルが上がったからなのか。最近は、はやてといるとき以外でも「楽しい」と感じられることが多くなった気がする。

 原因ははっきりしないけど、それは事実だ。その感情に逆らう気はない。オレにとって都合のいいことのはずだから。

 オレの返答を聞いて……マスターはオレの頭に手を乗せ、優しく撫でた。恭也さんの荒々しいのとは違う、兄ではなく、「父親」の撫で方。

 

「ありがとう、ミコトちゃん」

「オレの都合です。感謝をするのはこちらだと思うのですが」

「いや、君にはいくら感謝してもし足りないんだ。だからせめて、この言葉を遠慮せずに受け取ってほしい」

「……困った「お父さん」ですね、マスターは」

 

 苦笑。マスターの言葉にも、撫でられている手から伝わる体温も、蕩けそうになるほど嬉しいと感じている自分がいて、参ってしまう。

 満面の笑みは、まだ出来ない。だけど小さく笑うことは出来る。口の端だけで、小さく感情を「伝えた」。

 伝わったかは分からない。だけどマスターは、やっぱり優しく笑っていた。ブランも、優しく見守っていた。

 

 

 

 

 

 のっけからクライマックスだったが、話を進めよう。次の日曜日まで時計の針を進める。

 オレ達は八神家勢ぞろいで「海鳴ウォーターパラダイス」までやってきていた。海鳴市最大のウォーターテーマパークだそうだ。

 屋外プールながら温水であり、冬期以外いつでも利用可能。普通のプール、浅いプール、深いプール、50mプール、流れるプール、波の出るプール、ウォータースライダー、飛び込み台などなど、種類も充実している。

 その分一回のお値段は張るが(なんと子供料金で1,000円オーバー。我が家ではとても手が出せない)、それでも人気の絶えることがないレジャー施設だそうだ。

 そして今回、我々はマスターからいただいたタダ券を使って入ることが出来る。まったく、翠屋と高町家には足を向けて寝られん。

 

「ハロー! 八神家は全員揃ってるわね!」

「おはよう、皆! なのはちゃん達はまだ?」

 

 入り口前で、バニングスと月村、及び月村の姉である忍氏と合流する。楽しみにしていたのだろう、バニングスなどは最初からハイテンションだ。

 まだ揃っていないのは、なのはと恭也さん。それと、藤原凱も一応呼んでいるらしい。前回は彼もいたらしいし、それもまた必然か。

 

「思い返してみれば、あの変な水ってジュエルシードの仕業だったのねー。色のない空間は、ユーノが張った結界?ってやつで」

「君達はそのとき結界に巻き込まれていたのか?」

「うん。あのときは何がなんだか分からなかったけど、知ってる今、冷静に思い出してみればそうだったなって」

 

 なるほどな。管理外世界の人間が管理世界の厄介ごとに巻き込まれても、ある程度までなら誤魔化せることが証明された。理解を放棄させればいい。機会があれば、ハラオウン提督あたりに教えてやるか。

 そんな会話をしていると、すっかり聞き慣れてしまった少年の声が聞こえてきた。

 

「おっはよーう! 皆、今日も可愛いねっ!」

 

 変態にしてハーレム思考の女の敵。真面目なときはシールドの天才、魔導少年・藤原凱。テンションマックスだったバニングスは、彼の声を聞いて「んあ」と言いながらテンションをダダ下げた。

 

「おうおう、なんだよアリサー。ご挨拶だなー」

「やかましいのよ。あんたが来ることは分かってたけど、後からこっそり着いて来るぐらいの気を利かせなさいよ」

「やだよ! 可愛い女の子達と一緒にいて、男達の嫉妬の視線を一人占めするんだZE☆」

 

 うざい。そして嬉しくない一人占めだな、オレだったらそんな鬱陶しいもの、ごめんこうむりたいものだ。男の気持ちが分からないというより、この男の気持ちが分からないし分かりたくない。

 それにオレ達は小学三年生だ。大人組は、忍氏は恭也さんの恋人。ブランははやてに付きっ切り。アルフは人型になっているが、実際は狼だ。可愛いかどうかは分からないが、子供だらけで嫉妬の視線を浴びるだろうか?

 まあ、何処まで本気か分からない男の妄言だ。話半分に聞いておくのでちょうどいい。

 

「みんなー、お待たせーってわあっ!?」

「こら、慌てるとまた転ぶぞ。俺達が一番遅かったみたいだな」

 

 最後の二人がやってきて、片方が走り出して転びそうになり、恭也さんに支えてもらったおかげで事なきを得た。なのはの運動神経は相変わらずのようだ。

 

「これで全員だな。とるものとりあえず、中に入って水着に着替えよう。おしゃべりならその後でも出来るからな」

「りょーかいです、チーフ!」

「……翠屋以外でその呼び方はやめてくれないか」

 

 相変わらずオレの言うことには二つ返事で従うなのはだが、最近余計なステータスが追加された気がする。

 

 着替えを長々と語ってもしょうがないので(更衣室に入る際、変態がナチュラルに女子更衣室についてこようとしてつまみだされた。察しろ)、プールに出たあとまで進む。

 現在、オレ達はプールサイドの入り口に来ている。男勢は既に待っており(着るものが少ないから早いようだ)、後から来た形になる。

 オレ達の姿を見て微妙な表情をした男性二人。そしてやや遅れてバニングス、月村、なのはの順にやってきて、やはりそれぞれ微妙な顔をした。

 

「……あんた達。その格好は、どういうつもり?」

「え? え、えっと、おかしい、かな?」

 

 明るい白のセパレートを着用したバニングスの険の混じった問いかけに、フェイトがもじもじしながら尋ね返す。

 

「みずぎでしょ? これからプールにはいるんだから。まちがってないよ!」

「そういうことじゃないんだよ、シアちゃん……」

 

 フェイトとは対照的に、「自分は間違ったことはしていない」と自信満々のアリシアに、苦笑い気味の月村の突っ込み。彼女は黒に近い紫のワンピースだ。

 だが、フェイトもアリシアも間違っていない。オレ達は正しく水着姿である。何の問題があろうというのか。

 オレの正論にソワレがこくこくと頷き、バニングスが深い溜め息をついた。

 

「いや、確かに合ってるわよ。合ってるけど、何で皆スクール水着なのよ……」

「これ以外にないからだが? それに、全員ではないだろう」

 

 オレ、フェイト、ソワレ、アリシアの四人が着るのは、学校指定の紺色の水着。四人揃って胸のところに「やはた」とでっかく書かれているものだ。

 八神家組で市販の水着を着用しているのは、アルフとブランのみ。ミステールは変化能力を使って水着姿になっているようだ。彼女の髪の色と同じ、紫色のワンピースタイプ。

 アルフは、魔力光の色と同じオレンジのセパレート。ブランは白のワンピースにパレオを巻いている。今日のプールのために、はやてが見繕ったものだ。

 現在の家計でその出費は痛かったが、彼女たちにもプールを楽しんでもらいたい。オレとブランの稼ぎで対処可能だったのは助かった。

 が、さすがに全員分は無理だ。そういう理由で、学校指定の水着があるオレ達二人と、将来的に必要になるアリシア、それとオレとおそろいがいいと言ったソワレは、この格好と相成ったわけだ。

 ちなみにはやては水着に着替えていない。彼女は着替えるのが大変だし、着替えたところで水の中には入れない。その代わり、首からデジカメを三台もかけていた。釣瓶撮りでもするつもりか。

 

「君たちは忘れてないか? オレ達は「公立に通う小学生」だぞ」

「忘れちゃいないけど、こんなところでカルチャーショックを受けるとは思ってなかったわ……」

 

 「あはは」と苦笑する月村。この二人は言うに及ばず、なのはの家、即ち高町家も、一般家庭に比すれば裕福な部類に入るだろう。変態は詳しいことを知る気もないが、「私立に通える」だけではあるはずだ。

 それに対してうちはつい先日生活費の尽きかけた庶民の中の庶民、いわばザ・庶民だ。経済的バックグラウンドが違いすぎる。

 現実を目の当たりにしたバニングスは「はあ」と溜め息をつく。

 

「ここ、水着も売ってたわよね……選択肢が限られてるってのが気に食わないけど、いいわ。あたしがあんた達四人の水着を買ってやろうじゃないの」

「何のつもりだ。施しなら受けるつもりはないぞ、ブルジョワジー」

「そんなんじゃないわよ、プロレタリアート。単にあたしのプライドの問題。あんた達四人は、容姿に関して言えばあたし達レベル。「水着のおかげで勝てた」って思われるのは癪なのよ」

 

 くいっと親指で差した先にいるのは、変態。中身がどうであれ、男に見られているという意識を持っているようだ。

 瞳に嘘の色は見られない。今彼女が吐いた言葉も、間違いなく真実なのだ。

 

「言ったでしょ、あたしはあんたに「友達になりたい」って思わせてやるって。器の違いを見せてやろうじゃない」

「確かに器の違いは見れたな。自分のプライドにこだわるという小さな面が」

「でも、高級品よ。世の中なんでも大きけりゃいいってもんでもないわよ」

 

 なるほど、それも確かに道理だろう。以前オレに言われるがままだった少女は、自身のプライドに従って、言い合えるまでに自己の変革をしてみせた。

 ならば彼女の言葉に嘘偽りはなく、小さくとも貴い器だ。まずは一つ、認めよう。

 

「いいだろう、アリサ・バニングス。君の挑発に乗ってやる。オレの娘達を最高に輝かせるコーディネートをしてみせろ」

「あの子達だけじゃなくて、あんたもよ。泣いて感謝するぐらいの出来にしてやるから、覚悟しなさい」

 

 こうしてオレ達は一旦戻り、新たに水着を用意することになった。

 

「……なんでただ水着を買うだけなのに、言い合ってたの? しかも二人とも、結構楽しそうだったの」

「あはは。……いいなぁ、アリサちゃん。わたしも、いつか……」

 

 

 

 そうしてオレ達は、フルアーマー状態(?)となって、改めてプールサイドに降り立つ。

 

「えっと……変じゃないよね」

 

 彼女のバリアジャケットと同じような、黒のワンピースに変わったフェイト。バリアジャケットとは着心地が違うのか、心許なそうにもじもじしている。

 これに対して、同じ顔立ちのアリシアは青のワンピース。彼女の愛らしさを全面に出すためか、フリルも気持ち多めだ。

 

「だいじょーぶだよ! フェイト、かわいいよ!」

「うん。アリシアも、かわいい。ソワレも、かわいい?」

「うんうん、ソワレもかわいい! アリサおねえちゃん、ありがとう!」

「ふふん、いっぱい感謝しなさい! あたしもいい仕事したと思うわ!」

 

 ソワレは、どういうわけかヘソ出しの黒いワンピースタイプ。いや似合っているとは思うのだが、何故ヘソ出しにしたのか。似合うからか、そうか。

 だが、一番解せないのは、オレの水着だ。

 

「理由を聞こうか、アリサ・バニングス。何故四人の中で、オレだけセパレートタイプなのか……もっと言えばビキニなのか、納得いく説明をしてもらいたい」

 

 そう、黒のビキニだ。子供らしい意匠ではなく、どちらかというと大人のものに近い。だがオレの歳でこんなものを着ては、「背伸びをしている痛い子供」だ。オレを辱める意志でもあったのだろうか。

 そんなオレの内心に取り合わず、むしろ彼女は誇らしげですらある。

 

「そんなもの、「似合うから」の一言よ。雰囲気なのか見た目なのか、大人っぽい格好が似合うのよ、あんたは」

 

 100%善意のようだ。……やはり、解せぬ。別に大人っぽいと言われて気に食わないわけではないが、オレの感覚と合致していないせいで理解できない。

 アリサ・バニングスの意見はオレ以外の女性陣にとっては納得いくものであったらしく、皆一様に「うんうん」と頷いている。

 ここは、男性陣の意見も取り入れるべきだろう。

 

「……どうですか、恭也さん。変じゃ、ないですか?」

 

 ? なんだ、妙に気恥ずかしい。慣れない格好のせいだろうか。心拍が上がっているせいで、言葉がつっかえつっかえになってしまう。

 恭也さんは……ポケーっとした表情をして、オレの声が届いていないように見える。

 

「あの、恭也、さん?」

「……はっ!? あ、ああ、その……見違えたぞ、ミコト」

 

 目を逸らしながらそんなことを言われた。右手を顔に当てているが、その隙間から見える彼の頬は、心なし赤くなっている気がする。

 そんな彼にスススッと近づいた忍氏が、わき腹に強烈な肘を入れる。

 

「グハッ!? し、忍!?」

「きょうや~? なーに小学生相手に鼻の下伸ばしてるのかしら?」

「ち、違う! これは、あれだ! 妹の成長を喜ぶ兄的な!」

「あなたがミコトちゃんに初めて会ったのって一月半ちょっと前よねぇ? 何をそんなに悦んでるのかしら」

「字が違う!?」

 

 ……なんだろう。目の前の光景をオレの水着姿が生み出したかと思うと……恥ずかしいけど、超面白い。

 そんな風に感じたため、オレはちょっと悪ノリをしてみることにした。

 

「恭也さん……オレのことは、妹としてしか見れませんか?」

「へあ!? み、ミコト!? お前何を言って……」

「きょ・う・や~っ!?」

「だから違うって! ミコト、悪ふざけはやめてくれ! 俺の寿命が物理的に縮む!」

 

 さすがに彼の寿命を縮める気はないので、このぐらいにしよう。なるほど、実に興味深い。

 

「……あんた、将来悪女になりそうね」

「本気で弄ぶ気はない。洒落で済む範囲なら、問題はないだろう」

「相手が本気になったら洒落じゃ済まないわよ、全く……」

 

 ガシガシと頭をかくアリサ・バニングス。ともあれ、恭也さんの反応からして、この格好が痛々しくはないということは分かった。

 一応もう一人の、同年代の男子ということで、変態に目線を向ける。

 彼は……腰を引いて前かがみになっていた。変な体勢だな。

 

「何を珍妙な格好をしている、藤原凱。普段ハーレムハーレム言ってるくせに、女の子の水着一つ褒められないのか?」

「え!? お、おう! すっげぇ似合ってるぞ、ミコトちゃん! ちょっと、部分的におげんきになっちゃうぐらい!」

 

 何がおげんきになったというのか。怪しいことを考えていないか、威圧するために一歩前に出る。

 奴は、ズササササという勢いで10歩ぐらい下がった。どういう反応だ、それは。

 

「お、おおおおお、俺、先プール入ってるぅーーーっ!!」

 

 オレが口を開くより早く、彼は踵を返して走り去った。プールサイドを走るな、転ぶぞ。まあ奴なら平気だろうが。

 彼の反応はいまいち分からないが、それでも一つだけ確かなことがある。

 

「やはり、ヘタレだったな」

「あたしにも理解できたわ。あの変態は、こうやって対処すればいいのね」

 

 ――後で彼女がオレと同じように対処しようとしたところ、鼻で笑われてムカついたので蹴り飛ばしたそうだ。基準が分からん。

 

「問題ないということも分かったし、オレ達も行くか。皆、水に入る前にはちゃんと準備運動をするように」

「りょーかいです、チーフ!」

 

 なのは、二度ネタはウケないぞ。あと翠屋以外でチーフと呼ぶなと言っただろう。

 ちょっとイラッと来たので、なのはには梅干をしておいた。ネコのような悲鳴が上がった。

 

 

 

 

 

 オレの格好に問題がないことは証明されたはずだったのだが、何だかさっきからジロジロと見られている気配を感じる。主に男性客から。女は視線に敏感な生き物なんだぞ、そんな風に見るんじゃない。

 

「なのはは見られていないのになぁ」

「にゃはは……ミコトちゃんがとっても可愛いから、皆も見ていたいんだと思うよ」

 

 50mプールで一泳ぎし、現在休憩中。パラソルの下のはやての横で(ブランには泳ぎに行ってもらった。彼女にも楽しんでもらいたい)、なのはと一緒にプールサイドに座っている。そうしていたらこの有様だ。

 水の中ならそこまででもないが、水から上がった途端にこれだ。プールに入る前も見られていたと思うが、一気に増えた。何故だ。

 

「あれやな、水も滴るいい女ってやつや。ミコちゃんのキレーな黒髪がいい感じにしっとりしとるから、お色気ムンムンなんやと思うよ」

「お色気って……オレは8歳の子供だぞ? 君達と同い年だ。そんなものがあってたまるか」

「でも、分かる気がするの……」

 

 分かるのか。解せぬ。一体何の違いでそんなことになってしまうというのか。外面的なことなら、人格は関係ないだろうし……。

 ちなみになのはは、桜色と白の花柄の、ワンピースタイプの水着。フリルもついていて、彼女の明るく平和な印象と非常にマッチしている。実に「子供らしい」。

 自分の水着を見下ろしてみる。黒のビキニ。柄はなし。なのはとは対照的と言っていいだろう。しかしオレの体型は、なのはと同じ、いやなのはよりも幼児体型である。

 今日来た面子の中で、一番背が低いのは流石にアリシアとソワレだが、その次にはオレが来る。オレは、あまり身長が高くないなのはにも負ける程度しかないのだ。

 胸も、そもそも二次性徴を迎えていないオレ達が大きくなるわけがない。相応に子供であり、今はまだ男と区別がつかない程度でしかないだろう。将来的にどうなるかは分からない。

 あとは何があるか……肉付きはそれほどよくないな。どうにもオレは肉があまりつかない体質らしく、食生活もあいまってほっそりとした体格だ。ガリガリではないが。

 くびれなんかも、大人の女性ほどあるわけじゃない。体格面で見たら、やはりどう見たって子供だ。

 

「本当にこの水着は似合っているのか? いやむしろ、視線を集めるのはやっぱりこの水着のせいなんじゃないのか?」

「わたしら全員似合ってるって言うたやろ。わたしがミコちゃんにお世辞とか言わんの、ミコちゃんが一番知っとるやろ?」

「……君の次にな。では、一体何故……」

「感覚的な話やし、理屈では説明できへんよ。せやから、ミコちゃんもシミュレーションしてみりゃええねん。わたしやなのはちゃん、ふぅちゃんに、ミコちゃんの着とる水着が似合うかどうか」

 

 言われたとおり、「プリセット」を用いた高精度シミュレーション、「確定事象」を用いて想像してみる。

 はやて……もう少し成長すればどうか分からないが、現段階では残念ながら全く似合わない。彼女はもっと明るい色で子供らしいのが似合う。

 なのは……基本的にははやてと同じ。だが、彼女の場合は成長しても黒は似合わない気がする。この少女とは対極に位置する色だ。

 フェイト……成長すれば確実に似合うだろう。色も文句なし。ただ、やはり今の体格でビキニはミスマッチだ。子供である以上、どうしようもない。

 最後に、自分自身……客観的に見ると、全く違和感がない。どういうことだ。意味が分からない。

 

「な?」

「確かに、皆客観的事実のみを語っているのは分かった。だがそれはそれとして、やはり解せないものは解せない」

 

 もっとも、オレにはオレの主観しかないのだから、どれだけ考えても人がどう見てるのかを本当の意味で理解することは出来ないのだが。

 

「そういうものとして割り切るしかない、ということか」

「せやねー。当事者には分からんもんやろうし、それしかないなー」

「色々言ってたのに、最後はあっさりなの……」

 

 結論が出ないのにいつまでも引っ張ってもしょうがないだろう。なら、すっぱりと割り切ってしまった方が、時間も無駄にならないし効率もいい。

 だからといって考えないでいいわけじゃない。「結論が出ない」というところまで検証しなければ、それはただの怠慢だ。今回だけでなく、何事もそういうものだ。

 

「……まあ、プールに来てまでする話題ではなかったか」

「でも、とってもミコトちゃんらしいなって思うよ。なのはは、そんなミコトちゃんが大好きだよっ!」

「そうか」

 

 満面の笑みをオレに向けてくれるなのはに、小さく笑みを浮かべて撫でてやる。

 

 ……ありえなかった仮定の話をしてもしょうがないが、オレが高町家に入っていれば、この子はオレの妹になっていたのか。

 恭也さんに妹として、マスターに娘として。当時だったら耐えられなかった扱いも、今のオレなら受け入れられる。それ故に、少し惜しいと思ってしまった。

 この、思い込んだら一直線で手のかかる少女が、それでも真っ直ぐで明るくて心優しい少女が、オレの妹とならなかったことが。

 そう思ったら、自然と体が動いていた。ソワレやフェイトにするように、なのはの額に向けて、親愛のキス。

 

「ふぇ!? み、ミコトちゃん!?」

「ありゃま」

「……あれだ。恭也さんやマスター――士郎さん、あとは桃子さんも。ひょっとしたら美由希もか。皆の気持ちが、「分かって」しまったかもしれない」

 

 どうしようもなかったことだ。当時のオレに、親の愛に返せるものはなかった。否、今も無理かもしれない。そして貸借バランスが崩れてしまえば、オレはストレスを感じてしまう難儀な女だ。

 それでも、彼らがオレを娘と、妹と出来なかったことを「惜しい」と思うことは、オレの性質と関係がない。ちょうど、オレがなのはを妹に出来なかったことを「惜しい」と感じているように。

 ――ああ、なるほど。「友達」とは、こうやって作るものなんだ。はやてに対する「好き」という気持ちを理解したときと同じように、言葉ではなく感覚として、その気持ちが溢れた。

 オレが今までどうしても理解出来なかった、一つの感情。「友情」。

 

「今更だけど……オレと友達になってくれないか、なのは」

「……ミコト、ちゃんっ!」

 

 ぶわっと、なのはの目から涙が溢れた。こらこら、皆が見てるんだぞ。こんなところで泣くんじゃない。

 そう言って止まれば楽なものだが、あいにく彼女は「泣き虫なのは」。一度泣き出したら止まらない。

 泣きながら、両手でオレの右手を取るなのは。やっぱり君はオレの右手に思い入れがあるのかと苦笑した。

 

「うんっ! うんっ! なのは、ずっと、ミコトちゃんとともだちになりたかったっ!」

「そうか。ごめんな、とても待たせてしまって」

「ううんっ! ぜんぜん、きにしてない! ミコトちゃんが、じぶんのきもちで、そうおもってくれたって! うれしくてっ!」

 

 感極まったか、涙の量が増加する。やれやれと溜め息をつきながら、彼女の頭を胸に抱いた。最近こんなことばかりしているなぁと、また苦笑が漏れた。

 だが、それでも。「朋友が愛しい」と思う気持ちは、止められないのだ。

 

「……なんや、以前思ってたことが現実になったみたいで、なーんか癪やけど……ミコちゃんがいい顔しとるし、勘弁したるわ」

 

 一部始終を見ていたはやては、呆れたような諦めたような、やっぱり嬉しそうな笑顔で、そんなことを言いながら溜め息をついた。

 

「あんた達、お昼どうするーって、ミコトあんた何なのは泣かしてんのよ!?」

「何、と言われても、自然とこうなってしまったからな。成り行きとしか。……ふむ。やはりアリサ・バニングスとはまだ友達になろうとは思えないな」

「自己完結して失礼なこと言ってんじゃないわよ!?」

「ミコトちゃぁん! ミコトちゃぁんっ!」

「えーっと……はやてちゃん、何があったの?」

「んー。なのはちゃん一歩前進、ってとこや。で、感涙してもうたんやな」

「ああ……ただの「泣き虫なのは」ね」

「なのはなきむしじゃないもんーっ!」

 

 現在進行形でオレの胸に顔を押し当てて泣いてる君が言っても、説得力はないな。

 

 かくしてオレは、縁深い白の魔導少女と、友情という気持ちを結ぶことができた。

 

 

 

「なんでなのはだけ友達になってるのよ……納得いかないわ!」

「あはは、またあきらちゃんが荒れそうだよね。「先越されたー」って」

 

 場所を移って、ガーデンテラス。皆で集まって昼食である。オレは、こんな機会でもないと食べることがないので、塩ラーメンに挑戦している。……チープな味がくせになりそうだ。

 人前で大泣きしたなのはは、今更になって恥ずかしさがやってきたようで、顔を真っ赤にして縮こまりながらサンドイッチをもそもそやっている。

 そんな彼女の様子に、オレの膝の上でアイスを食べているソワレがムッとした表情になる。

 

「なのは、ミコト、とっちゃだめ! ミコトのおっぱい、ソワレの!」

「と、取らないよ! それになのは、赤ちゃんじゃないもん! ソワレちゃんみたいなことはしないもん!」

「あぅ……やっぱり、赤ちゃんみたいなのかな?」

「ま、まさかふぅちゃんも、"アレ"、やってるの?」

「ち、違うよ!? わたしは、まだやってないよ!」

「まだって、やる気満々じゃない……」

「ミコトママー、アリシアもミコトママのおっぱいほしい!」

「やらん。君まで感化されてくれるな」

「あははー。さすがの愛され系ママやな、ミコちゃん」

 

 子供組(変態とミステール除く、変態は恭也さんに引っ張られて退場、ミステールは自身曰く「わらわの精神は大人じゃ」らしい)で固まってのランチタイムだ。少し離れたところに、大人組+αがいる。

 さっきの件があったから、なのは弄りが主な会話内容であり、時折オレに飛び火してくる。弄るのはなのはだけにしてさしあげろ。

 

「で、結局何が決め手だったわけ?」

 

 なのはの方法を踏襲しようとでも言うのか、ミートソースパスタを食べていたアリサ・バニングスが、視線鋭く尋ねてくる。君が聞いても無駄だと思うが。

 

「説明してもいいが、その前に君達は、オレが元孤児だという話は知っているか?」

「あー、聞いたわね。士郎さんが里親見つけてくれたんだっけ? それがどう関係してくるのよ」

「焦るな。今の里親、ミツ子さんに引き取られる前に、高町家に入らないかという話があったんだ」

「そうだったの!?」

 

 何故か驚くなのは。何故君が驚く。発案者は君だったろうが。

 

「あ、あれ? そうだったっけ……」

「4歳のときの記憶だからあいまいなのかもしれないな。ともあれ、オレはその話を断っており、その後ミツ子さんに引き取られたというわけだ」

「何で断ったのよ。悪い話じゃなかったでしょ?」

「当時は今に輪をかけた性格だった、というので納得できるか?」

「……すっごく納得いったわ。よーするに「愛情が鬱陶しかった」ってことね」

 

 乱暴な意訳だが、それで大体あっているのだろう。正確には「親の愛情に返せるものがないことに耐えられない」だが。

 

「無償の愛を注げるというのは、素晴らしいことだと思うがな。何事にも相性というものはある」

「当時のあんたの場合、その相性が高町家とは最悪だったってことね。で、結局それが何なのよ」

「当時はそうだったけど、今のオレならどうか分からない。そう思ったら、急になのはのことが愛しくなった。そういう理由だよ」

 

 なのは、アリサ・バニングス、月村の顔が真っ赤に染まる。何故そうなった。

 

「あんた……照らいなく「愛しい」とか言ってんじゃないわよ」

「あ、あはは……でも、ストレートにそういうこと言えるのって、素敵だよね」

「あうあうあうー……」

「思ってることを伝えるのは大事なことじゃないか。特にオレはこんな表情だから、ちゃんと口にしないと伝わらない」

「わたしは言葉なくても大抵伝わるけどなー。「相方」やっとんのは伊達やないで」

 

 はやてもラーメンである。味はしょうゆ。オレの隣で、食べさせあいっこ中だ。時々ソワレにも食べさせている。

 

「なんやろな、ミコちゃんは、確かに表情には出ぇへんのやけど、判断基準がかっちりしとるから、分かれば分かるもんやよ?」

「けど、時々突拍子もないことしたりするよ? さっきみたいに……あうぅー」

 

 なのはが額を押さえて真っ赤になる。先ほどのキスを思い出したか。オレとしてはいつもやっている親愛表現なんだがな。

 はやては「なのちゃん可愛い!」と言ってなのはを抱きしめた。さりげなく、なのはのあだ名が爆誕した瞬間である。

 

「それは、あれやな。ミコちゃんってやることなすこと容赦ないやん。普通の人がブレーキかけるとこでエンジン全開ッ!するから、突拍子がなく見えるだけやで」

「オレとしては、特別なことをしているつもりはないからな。判断基準をゆるがしたのは……先日の"あの件"ぐらいのものだ」

 

 少し、表情は曇ってしまったかもしれない。どうやらオレはまだ吹っ切れていないらしい。「最高の結果」を出すことが出来なかった、あの事件を。

 すっと、フェイトとアリシアが気遣わしげに手を伸ばしてきた。二人の手をキュッと握り締め、それでも「二人がいる結果」は残すことが出来たとしっかり感じる。

 

「……はやてちゃんは、ミコトちゃんのことを分かってるんだね」

 

 月村が複雑な表情でそう断言した。……以前した、はやては「分かろうとしなかった」という話は、彼女も聞いていたものと思うが。

 しかし月村は首を横に振り、やはり自信を持って断言する。

 

「分からないまま受け入れて、時間をかけて分かっていったんだよ。少なくとも、はやてちゃんとミコトちゃんは、気持ちが通じ合ってるもの。……羨ましいなって、ね」

「……言われてみれば、そうなのかもしれないな。だからこそ、なのはに友情を返せるところまで行くことが出来た」

 

 はやてと通じ合えなければ、オレはいまだに自己完結するだけの人間だった。はやてを好きだと思うことが出来て、初めて外に目を向けられたのだ。

 やっぱり、はやては凄い子だ。オレなんかじゃ比較するのもおこがましい……と思うのは、彼女の想いに失礼だ。そもそも比較するのが間違いなのだから。

 

「君も見つければいい。深い気持ちで通じ合える、そんな「相方」を。この世は、存外そんな偶然に溢れているみたいだぞ」

「……ふふ。ありがとう、ミコトちゃん。ちょっと元気出たよ」

 

 それはよかった。どうしてそうなったかは分からないが、君に都合がよければそれでいいだろう。

 

「まー、とりあえずなのはのやり方もはやてのやり方も、あたしには参考にならないって分かったわ。やっぱりあたしには、自分の道しかないみたいね」

「誰だってそういうものだ。よもやその程度のことで泣き言を言うまいな、アリサ・バニングス」

「なめんじゃないわよ。この程度の小さな壁で蹴躓いてられるほど、あたしは気が長くないの。軽く乗り越えてやるから、楽しみにしてなさい」

「……ククッ。それでこそと思うよ。オレが君に友情を返せる日を、楽しみに待っているぞ」

「この二人はこの二人で、何だかんだ相性はよさそうなの」

「だねー。ずるいなぁ、アリサちゃん」

 

 ずるいと言いながらも、月村の顔は晴れやかだった。

 

 

 

「ああ、女の子達の席は華やかでいいなぁ……俺もあそこに行きたい」

「あんたねぇ。あたしらが同席してやってんだから、そんな顔するんじゃないよ。別にあんたに見向きされたって嬉しくはないけど、失礼だよ?」

「アルフ……そうは言うけどさぁ」

「はい、恭也。あーん♪」

「……なあ、忍。公共の場でこういうのはやめた方がいいんじゃないか?」

「えー。こういう場所でやらなくて何処でやるのよ。これは古来伝統の正式なカップルの様式美よ♪」

「はあ……しょうがないな。あー、ん」

「……隣が糖分過多で胸焼けしそうです。嫉妬の視線を集めるはずが、俺が嫉妬マスクです。どうする、アルフ」

「知らないよ……」

「これも一つの「因果」応報というやつじゃの。呵呵っ」

「皆楽しそうで何よりです。ふふっ♪」

 

 

 

 

 

 その後もオレ達は遊び倒し、気がついたら日が暮れていた。

 解散後、なのは達と別れ、遊び疲れて眠ってしまったソワレとアリシアを、オレとフェイトで背負って、八神家に帰宅した。

 

 ……? 何か事件はなかったのかって? 毎回そんなものがあってたまるか。たまにはこういう平和な一日も、悪くはないだろう。




ヤハタ節全開回。特に事件はありませんが、ミコトの精神の変化が顕著に出てきた回となりました。
相変わらず普通の女の子とは言いがたいミコトですが(こればかりは成長過程のせいだから仕方がないです)、それでもだいぶ女の子らしくなったんじゃないでしょうか。
今回得た「友情」という感情により、彼女の交友関係に変化が出るかもしれません。そして、「恋愛」を理解するのも、何歩か進んだでしょう。

この回だけでミコトが名前呼び=切り捨てられない大切な人となった人が大量です。何せ高町家まとめてですからね。
だんだん大事なものが多くなってくるミコト。抱えることが出来なかったはずの彼女がこれだけ抱えられているということは、それだけ成長しているということなのでしょう。
しかし、大事なものは同時にアキレス腱とも成り得ます。今後(原作的に確定で)関わることになる厄介事に、どう影響してくることやら……。

あ、ミコトの初の水着シーンなのにユーノいねえや(ゲス顔)

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