ご注文はリゼでしょうか?   作:シドー@カス虫

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中間テストがなければ昨日出してた(言い訳)

東京住まいの俺には、11月の初雪は軽く衝撃的でした。




55話 リゼのお見舞い ある雪の日の翌日

昨日 日本中がアホみたいに寒かった。

 

都心では54年ぶりの11月初雪、積雪に至っては明治8年の統計開始以来初めてのことらしい。

 

 

 

木組みの街も当然寒波に襲われ、都心同様雪が降った。

子供とココアは外ではしゃいでたが、昨日より10°Cは気温が下がってるので体調を崩した人も少なくない。そこんとこは子供とココアも逞しい。

 

 

でも普通に考えて女子の制服、というかスカートは耐寒性ゼロだと思う。

男子の制服は基本長ズボン(小学生除く)だからいいけど、女子って太ももが出てるじゃん。ロマンのカケラもないけど、ジャージの下ぐらいは履いた方が良いと思います。見てるこっちも寒くなる。

 

 

すでに察してる方もいるだろうが、そろそろ本題に入りましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リゼが風邪をひいた

 

 

 

 

 

「悪いなケイト。わざわざ見舞いにきてくれて…」

 

「お付き合いさせて頂いてる方が風邪ひいたんだ。来る以外ないだろ」

 

「……ありがとな」

 

「どういたしまして」

 

 

場所は当然リゼん部屋

学校が終わった後、すぐさま見舞いに来た。

もう少し時間が経てば、いつもの面子も見舞いに来るだろう。

 

 

「熱はまだあんのか?」

 

「まだ少し。でも、明日には治るさ」

 

「そいつは良かった。まぁ、学校帰りに雪だるま作るのはやめような」

 

「うぐっ……せっかく積もったんだし、作らないと勿体無いし…」

 

「だからって制服はダメだろ。スカートだからしゃがんだらパン…ん゛ん゛っ余計冷えるし」

 

「……見たのか?」

 

「………」

 

「答えろ」

 

「……不可抗力でした」

 

「あ゛あもう〜〜‼︎私のバカッ‼︎」

 

 

狙ったわけではないが、少しだけ元気になった気がする。

もうちょいマシな言葉ないのかよって感じだが、あいにく男として人としてそこまでできていない。

 

 

「良かったよ。十分元気そうで」

 

 

だから俺は邪な気持ちのない、純粋な安堵の気持ちを口に出す。

本当に心配だったから。

 

 

 

 

 

 

まぁどう足掻いでもボコられますがね!

 

 

 

 

10分ほど後、ココアとチノがやってきた。

ラビットハウスの方は、タカヒロさんがいるので問題ないらしい。

 

「ケイトくんもう来てたんだね!」

 

「……何でリゼさんより重症、というより重傷そうなんですか?」

 

「事情を語り切るには2こち亀ぐらいの時間がかかる」

 

「その単位は知らないけど教えてほしいなぁ」

 

「自業自得」

 

「一言でしたね」

 

 

さすがに詳しい内容は言えないけど、幸いそこまで聞かれる事はなかった。

 

二人はラビットハウスの仕事があるし、見舞いのメロンパンを渡して今日は帰るらしい。

風邪の菌もらうわけにもいかんし仕方ないか。俺は看病のためにのこるが。

えっ、使用人さんがいるからお前いる意味無いって?

使用人さん及びリゼの親父さんには許可をもらいました。(むしろ頼まれた)

 

 

「私たちは早めに帰りますが、ケイトさんは残るんですね」

 

「今日バイトねぇし、急いで家に帰る理由もないからな」

 

「ケイトくん、リゼちゃんのことは頼むよ!」

 

「お前は私の親父か‼︎」

 

「任されました」

 

「お前も話に乗るな!」

 

 

まぁリアル親父さんに比べたら月とスッポンだよ。

 

リゼの事を頼まれると、ココアが何か飲み物を用意してくれた。

チョコ系統の甘い匂い……ココア(飲み物)か。

 

 

「フランスでは風邪ひいたとき、暖かいココアを飲むってテレビで見たよ!これで風邪をやっつけよう!」

 

「ホットチョコだったろ。それに熱いシャワーを浴びた後な」

 

「まあまあ細かい事は気にしな……あっ‼︎」

 

 

俺たちはココアの鈍くさ……おっちょこちょいの事を忘れていた。

何も無いところで躓くココア。当然トレイに乗せてたココア(飲み物)は宙を舞う。

 

熱いココア(飲み物)はリゼの方向に向かってる。このままじゃリゼがココア(飲み物)を被るのは明白だ。

 

 

 

瞬間的にリゼの危機を理解した俺は、咄嗟にココアとリゼの間に入っていた。もはや神速のインパルスに匹敵する反射神経だ。

距離が近いおかげで手遅れになる前に割って入れた。

 

 

 

 

この後何が起きるかはわかってる。

 

後悔はない。

 

 

でも、すぐ起きる出来事を思うと少しだけ怖い。

 

 

 

だから俺は 静かに眼を閉じた……

 

 

 

 

 

「……何で執事服でメロンパン食べてるんですかケイト先輩?」

 

「服が汚れた」

 

「手に包帯巻いてるのは何でかしら?」

 

「名誉の勲章」

 

 

ココアとチノの入れ違いで来た千夜とシャロに、二言で事情を説明した。

着替えは普通にないので執事服を借り、患部には包帯も巻いてる。軽い火傷とはいえ処置は大切だ。痛みも抑えられるし。

 

 

何で看病しに来たのに怪我してんだろ俺。

 

 

「ごめんなケイト、私のせいで……」

 

「いんや、リゼは何も悪くないだろ。大した事ないし結果オーライだ」

 

「うぅ……」

 

実際掛け布団でガードする手もあったし、むしろ心配させた俺の方が問題だ。軽い火傷だし本当良かったけど。

メロンパンは多かったから俺も頂いてる。

 

みんなでのんびりメロンパンを食べてると、何かを思い浮かべた千夜が口を開いた。

 

 

「ケイトくんって、執事の格好が似合ってるわよね」

 

「……そうかしら。目つき悪いし」

 

「生まれつきだし仕方ないだろ」

 

「案外、リゼちゃんの執事として働くのもアリじゃないかしら?」

 

「いやいや、ケイトだって他にやりたい事あるだろうし、それはさすがに…」

 

「リゼちゃんは満更でもなさそうね。イヤとは言わないし」

 

「そっそういうわけじゃない‼︎ただケイトにだって将来やりたい事があると言いたいだけで……!」

 

「……執事………アリだな!」

 

「何でケイト先輩も満更じゃない顔してるんですか⁉︎」

 

 

冗談だ冗談。さすがに一時の軽い気持ちで将来決める度胸はない。

 

将来の夢が、ハッキリと見えてるわけではない。

でもやってみたい、学びたい事はある。

 

 

 

……将来か。

 

 

 

 

 

 

少し先 ほんの2、3年後

 

俺とリゼは 今みたいな関係でいるのだろうか…

 

 

 

 

何て事が、かすかに頭をよぎった。

 

 

 

 

 

 

執事服で帰るわけにもいかず、外が真っ暗になってもまだいる。

リゼと楽しく会話したり、俺の手作りお粥を振る舞ったりして、今迄の怪我もチャラになるぐらい充実した時間だ。

怪我するのがおかしいが。

 

 

「ん〜、まだちょっと熱いなおデコ。何かしてほしい事あるか?」

 

「じゃあ、もう少しだけ……おでこに手を置いてくれ」

 

「そんなんでいいのか?」

 

「あぁ。ケイトの手が冷たくて気持ちよかったんだ」

 

「冷却シートならまだあるぞ?」

 

「………これがいいんだよ」

 

「そっか。ゴメンな」

 

冷たい俺の手を、リゼのおデコに置く。

冷えてるはずだけど、リゼの顔はむしろ赤くなってる。

さすがに風邪の症状じゃないのはわかる。ってか、俺の顔も多分赤い。

 

 

しばらく無言で手を置いてると、唐突にリゼが口を開いた。

 

 

「なぁ、さっき将来の話をしたよな。ケイトが執事も悪くないって」

 

「それもアリかもな。お嬢様」

 

「そういうわけじゃないっ!その、ちょっと恥ずかしいんだが……

 

 

2年や3年後とかも、こんな関係でいられるかな?」

 

 

それは 俺が考えていたのと同じ内容だ。

 

少しだけかもだが、俺たちは似ている。

自分というモノは持ってるが、大切な部分で自信が持てない。

 

 

だから俺は、本心を言う。

俺だったら、それが一番嬉しいから。

 

「俺はそうありたい。正直俺が聞きたかったぐらいだ」

 

「そっか。………よかった。お前もそう思っててくれて」

 

「まぁこれからもよろしくな。お嬢様」

 

「お嬢様はやめてくれっ!恥ずかしい!」

 

 

俺もリゼも、どこか自分に自信が持てない。

 

あるいは それゆえに惹かれあったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、朝日が昇っていた。

どうやら寝落ちしていたらしい。土曜で学校がなくて助かった。

固い床で寝てたせいか、ところどころ身体が痛い。

火傷の包帯を外すと、跡は残ってない。処置が早いのが功を奏したようだ。

 

 

さすがに帰る準備をしようと立ち上がるが、ついリゼの顔を覗いてしまう。

 

リゼの寝顔を見るのは初めてだが、可愛らしい顔だ。

普段は仏頂面とまでは言わないが、キリッとした顔をしてる。だが今はそれも緩んで、軍人の娘だと忘れるぐらいだ。

 

 

 

 

魔が差したというべきか。

というか『そういう関係』な事をしたかったからか。

 

 

寝ているリゼのおデコに唇を近付け……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わかってたが、メチャクチャ恥ずかしい。ピクニックの時にもしたとはいえ、恥ずかしくなくなる事は一生ないだろう。

緩む頬を叩き帰る準備をする。

 

 

そこで俺は気付いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リゼの顔が真っ赤だ。

 

つまり、まぁ、そういう事だ。

 

 

 

 

考える事をやめた俺は、二度寝と洒落込んだ……

 

 







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