この受験期間を乗り切った大学生以上の人たちが、最近神々しく見えます
本日は 卒業式
俺にリゼは2年生なので、卒業せずとも式には参加した。
タイムスリップ?先月バレンタイン経験したし、そんな事はない。
残念ながら俺には、卒業を祝う仲の先輩はいない。
部活の助っ人で関わる事はあったが、逆に言えばそれしか関わる理由がなかった。
だから、精一杯祝ったり泣くほど悲しんだりはせず、かといって礼儀はちゃんとして……
ようするに 退屈だった。
花束を持った卒業生を見送った後、在校生は帰る。
睡魔に襲われ足元がおぼつかないなか、俺はリゼと校舎を出ようとしてた。
「………Zzz」
「寝るな。進級祝いでみんなとお茶するんだぞ」
「…眠い。頬つねって」
「こうか?」
「イダダダダダッ‼︎」
俺たちは、高校生5人でお茶する約束をしてる。ココア&千夜の学校も卒業式で早く下校だし、午後の時間をみんなで過ごすのも悪くない。
卒業式と違って退屈しないなと思ってると、急に後ろから声をかけられた。
「黄金くん、ちょっといいかしら?」
「ん、どったんだ?」
「実は、先輩があなたに来てほしいと…」
「俺に?まぁいいけど」
声をかけてきたのは、同級生で演劇部の子だ。
てことは先輩ってのは、演劇部の部長さんの事だろう。誰でもいいけど。
「じゃ悪いけど、リゼは先行っててくれ」
「……わかった」
俺は言われた場所に向かうが、そのときのリゼはどこか不満そうな顔をしていた。
これは早めに合流した方が良さそうだ。
☆
来るように言われた場所は、体育館裏だった。
体育館は普段はバスケ部あたりが部活してて騒がしいが、今日は流石に休みだ。
何故かそんなところで、先輩である部長さんと2人きりだ。
部長さんの印象は、普通にいい人だ。
助っ人として演劇部に参加してる時も、一から演劇たるものを教えてくれた。先輩は才能あるって言ってくれたが、いつかのオペラ座の怪人で上手くやれたのは、部長さんのおかげだと思ってる。
だが、部活以外で関わったことは当然ない。人としてダメかもだが、卒業して悲しいと思うかって聞かれたら、答えはNOだ。部活以外で顔をあわせるのさえこれが初めてだ。
「……私は 、 あなたの事が好きです!」
そんな部長さんに、告白された。
「あなたはいつだって優しくて、演劇の準備で困ってる人がいても、必ず手を差し伸べていた。 誰よりもいい人な君を見て、私はあなたが好きになりました。
わっ私と、付き合ってください!」
何を言えばいいか分からないのか、どこか不安げに喋る部長さん。緊張と初めての経験のコラボだし当然と言えば当然か。顔中を真っ赤にし、俺をじっと見つめ続けている。
でも、俺の頭はこの通り やけに冴えていた。
告白されるのなんて初めてだし、もちろん嬉しい。
だが……
「……ごめんなさい。俺は、あなたと付き合えません」
俺はこの告白を受け入れる事は できなかった。
だから俺は、残酷かもしれないが、ハッキリ断るしかなかった。
「そっか……そうですよね。ごめんなさい、どうしても最後に伝えたくて……」
「…いえ、俺も嬉しかったんですが、付き合う事は……
あっ!けしてこれはあなたに魅力がないとか嫌いだとかそういう訳では……!」
「…あなたは、本当に優しいですね。
ありがとうございます。これで私は、前に進めます」
部長さんは凛とした顔で、そして涙を隠しながらお別れした。そんな顔を見て俺は、罪悪感に飲まれそうになった。
「…で、そこに隠れてるのはリゼか?」
「わ、悪い。何かあると思って見に来たら、その……」
何となく気付いていたが、こっそりリゼが話を聞いていた。流石に告白だとは思ってなかったか、少なからず動揺してる。
明らかに当事者である俺が動揺してなく、違和感を感じたリゼは、俺に「なんでそんな落ち着いているんだ?」と聞いてきた。
「俺は、最低だな」
部長さんは俺を好きになってくれてた。
でも、俺はどうだ?
今日の卒業式、あの人を心から祝えなかった。卒業を悲しめなかった。
俺には、その程度にしか感じられなかった。
最低だ。俺は、全然いい奴なんかじゃない。
気付いたら、涙が流れていた。俺がフられた訳でもないのに。
自分自身のどうしようもなさに、胸の内を抉られた。
「…お前は 最低なんかじゃない!」
「何を言って……」
「お前は 残酷に手を振り払った自分に後悔している。涙さえ流している。
自分を好きになった人の手を握らないで、そんなに傷つく奴が最低なわけがないだろ!
だから、泣かないでくれ……」
「もういいのか?」
「もう大丈夫、充分泣いた。みんなでお茶すんのにメソメソしてらんねぇだろ」
「そ、それはそうだが……」
「ありがと、リゼ。おかげで立ち直れたわ」
「……そうか。ならよかった」
俺がフッてしまったのに、そのことをウダウダと考えて。そんでバカみたいに悩んで傷ついて。
実を言うとまだ割り切れない部分はあるが、そうすぐには変われない。
ゆっくり、ゆっくり自分の中で折り合いをつけよう。
1人だったら、融通も効かず心が折れるだけだった。
でも、リゼがいてくれたから、俺は前に進める。
ごめんなさい 部長さん。
俺は、弱い自分を見てなお手を差し伸べてくれる、リゼのことが好きだから……
告白したこともされたこともないので、地味に大変でした。
こんな感じに悩んで悩んで悩んで、自分の中で折り合いをつけるのは、青春の醍醐味の1つだと思います。
あれ?俺ってまともな青春過ごせてないんじゃ…
(考えたら負け)