ご注文はリゼでしょうか?   作:シドー@カス虫

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夏休みなのに忙しい(涙)

この受験期間を乗り切った大学生以上の人たちが、最近神々しく見えます


42話 リゼがいたから 俺は前を向ける

本日は 卒業式

俺にリゼは2年生なので、卒業せずとも式には参加した。

タイムスリップ?先月バレンタイン経験したし、そんな事はない。

 

 

残念ながら俺には、卒業を祝う仲の先輩はいない。

部活の助っ人で関わる事はあったが、逆に言えばそれしか関わる理由がなかった。

だから、精一杯祝ったり泣くほど悲しんだりはせず、かといって礼儀はちゃんとして……

 

 

ようするに 退屈だった。

 

 

花束を持った卒業生を見送った後、在校生は帰る。

睡魔に襲われ足元がおぼつかないなか、俺はリゼと校舎を出ようとしてた。

 

 

「………Zzz」

 

「寝るな。進級祝いでみんなとお茶するんだぞ」

 

「…眠い。頬つねって」

 

「こうか?」

 

「イダダダダダッ‼︎」

 

 

俺たちは、高校生5人でお茶する約束をしてる。ココア&千夜の学校も卒業式で早く下校だし、午後の時間をみんなで過ごすのも悪くない。

卒業式と違って退屈しないなと思ってると、急に後ろから声をかけられた。

 

「黄金くん、ちょっといいかしら?」

 

「ん、どったんだ?」

 

「実は、先輩があなたに来てほしいと…」

 

「俺に?まぁいいけど」

 

声をかけてきたのは、同級生で演劇部の子だ。

てことは先輩ってのは、演劇部の部長さんの事だろう。誰でもいいけど。

 

「じゃ悪いけど、リゼは先行っててくれ」

 

「……わかった」

 

俺は言われた場所に向かうが、そのときのリゼはどこか不満そうな顔をしていた。

これは早めに合流した方が良さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

来るように言われた場所は、体育館裏だった。

体育館は普段はバスケ部あたりが部活してて騒がしいが、今日は流石に休みだ。

何故かそんなところで、先輩である部長さんと2人きりだ。

 

部長さんの印象は、普通にいい人だ。

助っ人として演劇部に参加してる時も、一から演劇たるものを教えてくれた。先輩は才能あるって言ってくれたが、いつかのオペラ座の怪人で上手くやれたのは、部長さんのおかげだと思ってる。

だが、部活以外で関わったことは当然ない。人としてダメかもだが、卒業して悲しいと思うかって聞かれたら、答えはNOだ。部活以外で顔をあわせるのさえこれが初めてだ。

 

 

 

 

 

「……私は 、 あなたの事が好きです!」

 

そんな部長さんに、告白された。

 

「あなたはいつだって優しくて、演劇の準備で困ってる人がいても、必ず手を差し伸べていた。 誰よりもいい人な君を見て、私はあなたが好きになりました。

わっ私と、付き合ってください!」

 

 

何を言えばいいか分からないのか、どこか不安げに喋る部長さん。緊張と初めての経験のコラボだし当然と言えば当然か。顔中を真っ赤にし、俺をじっと見つめ続けている。

 

 

でも、俺の頭はこの通り やけに冴えていた。

告白されるのなんて初めてだし、もちろん嬉しい。

だが……

 

「……ごめんなさい。俺は、あなたと付き合えません」

 

 

俺はこの告白を受け入れる事は できなかった。

だから俺は、残酷かもしれないが、ハッキリ断るしかなかった。

 

「そっか……そうですよね。ごめんなさい、どうしても最後に伝えたくて……」

 

「…いえ、俺も嬉しかったんですが、付き合う事は……

あっ!けしてこれはあなたに魅力がないとか嫌いだとかそういう訳では……!」

 

 

「…あなたは、本当に優しいですね。

ありがとうございます。これで私は、前に進めます」

 

 

部長さんは凛とした顔で、そして涙を隠しながらお別れした。そんな顔を見て俺は、罪悪感に飲まれそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

「…で、そこに隠れてるのはリゼか?」

 

「わ、悪い。何かあると思って見に来たら、その……」

 

何となく気付いていたが、こっそりリゼが話を聞いていた。流石に告白だとは思ってなかったか、少なからず動揺してる。

 

明らかに当事者である俺が動揺してなく、違和感を感じたリゼは、俺に「なんでそんな落ち着いているんだ?」と聞いてきた。

 

 

 

「俺は、最低だな」

 

部長さんは俺を好きになってくれてた。

でも、俺はどうだ?

今日の卒業式、あの人を心から祝えなかった。卒業を悲しめなかった。

俺には、その程度にしか感じられなかった。

 

最低だ。俺は、全然いい奴なんかじゃない。

 

 

気付いたら、涙が流れていた。俺がフられた訳でもないのに。

自分自身のどうしようもなさに、胸の内を抉られた。

 

 

 

「…お前は 最低なんかじゃない!」

 

「何を言って……」

 

 

「お前は 残酷に手を振り払った自分に後悔している。涙さえ流している。

自分を好きになった人の手を握らないで、そんなに傷つく奴が最低なわけがないだろ!

 

だから、泣かないでくれ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もういいのか?」

 

「もう大丈夫、充分泣いた。みんなでお茶すんのにメソメソしてらんねぇだろ」

 

「そ、それはそうだが……」

 

「ありがと、リゼ。おかげで立ち直れたわ」

 

「……そうか。ならよかった」

 

 

俺がフッてしまったのに、そのことをウダウダと考えて。そんでバカみたいに悩んで傷ついて。

 

実を言うとまだ割り切れない部分はあるが、そうすぐには変われない。

ゆっくり、ゆっくり自分の中で折り合いをつけよう。

 

1人だったら、融通も効かず心が折れるだけだった。

でも、リゼがいてくれたから、俺は前に進める。

 

 

 

ごめんなさい 部長さん。

 

俺は、弱い自分を見てなお手を差し伸べてくれる、リゼのことが好きだから……

 




告白したこともされたこともないので、地味に大変でした。
こんな感じに悩んで悩んで悩んで、自分の中で折り合いをつけるのは、青春の醍醐味の1つだと思います。


あれ?俺ってまともな青春過ごせてないんじゃ…
(考えたら負け)

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