「あたし、明日から仕事戻るわ」
「随分急だな」
バータイムのお手伝い中、客としてきた姉さんにいきなり仕事に戻ると言われた。
まぁいつか戻るのは当たり前だしそんな驚かないけど。
「元々あんたがうまくやってるか見に来ただけだしね。初日であたしの目的は達成してるわけ。できることもやったし」
「できることって?」
「あんたの気持ち、あたしがいなかったらまだわかんなかったでしょ」
「………その節はどうも」
それについてはマジで感謝してます。
あのまま気付かなかったらと思うとゾッとするし。
「感謝の気持ちはコーヒーゼリーとして受け取るけど、自分の恋に気付かないなんてアホすぎでしょ」
「だって……人を好きになったこと無いからわかんねぇし」
「……わかる。私もそんな時期あったもん」
「姉さんもかよ。 ほい、コーヒーゼリー」
「サンキュ。そりゃ初恋なんてそんなもんじゃない」
「確かに。いつだったかリゼに相談されたし」
「……えっ?」
いやなんでそんな反応すんだよ。
デザート好きな姉さんが手止めるとか明日天変地異起きんのかよ。
「リゼちゃんが、あんたに、初恋の相談……?」
「初恋気付いてなかったけど」
「………」
なんでそんな遠い目をしてる。
そして天を仰ぐな。周りの客も気になってるじゃん。
「別に俺が初恋の相手じゃなくても、最終的に勝てば良かろうなのだって話だろ」
「どこの究極生命体よ。……ったく面倒くさいわねどっちも」
「なんで『どっちも』だよ?」
「気にしなくていいにゃー」
姉さんはもはや手遅れだって顔でコーヒーゼリーを食べる。なんか心外だ。
「ていうかリゼちゃんの初恋の相手聞いてないでしょ?」
「聞くわけにゃいかんだろ」
「あんたの目と耳くり抜いていい?」
「どうしてそうなる?」
「もぅ、なんでアホな弟と漫才なんてしなきゃいけないのよ」
「俺のセリフだ」
ていうか姉さん絶対この漫才楽しんでるだろ。
昔から姉さんは飄々としてて、弟なのに正直なのはわかるけど真意は掴めない。
たまにはわかるように話してほしい。
「じゃああたしは仕事に戻るわ。コーヒーゼリーあんがとね」
「他の面子にお別れは?」
「今日あんたが部活助っ人してる間にした」
「ほんと用意周到ですこと」
確かに今日は演劇部の助っ人してたけど。なんで話してなかったのに知ってんだよ。
「姉としてあんたにアドバイス。
自分の気持ちに嘘はついちゃダメよ。
あんたのためにも、あんた以外のためにも」
「俺『以外』?何を言ってんだ?」
「いつかわかる時が来るわよ。
ていうか、嘘つかないのは問題ないのね」
「俺を誰だと思ってんだよ。姉さんの弟だぜ?」
「……嬉しい事言ってくれるじゃない」
当たり前だ。俺の知ってる誰よりもバカ正直で、本気で想いを貫く姉さんの背中を見て育ったんだ。
姉さんがいたから俺は今の俺になれたんだ。
好きなリゼを好きになれた俺に。
「じゃあね アホケイト」
「じゃあな バカ姉貴」
姉さんは一度背を向けると振り返る事なく、店から出て行った。
……寂しいな。しばらく会わないとなると。
まぁ、姉さんは仕事楽しむし、俺も俺がやりたいようにやるか。
「ごめん。ゼリー代払い忘れちゃった☆」
「……台無しだよ」
やっぱり姉さんは バカな姉貴だ……。
昨日から始まった夏休み。
三者面談さえ存在しなければどんなに夏休みになって嬉しかったか……。
受験生で夏期講習忙しいので、投稿ペースは変わりません。
m(_ _)m