今日はリゼが部活の助っ人に駆り出されてるんで、俺一人で下校中だ。
欠伸しながら歩いてると、紙飛行機が飛んできた。
当たりそうだしキャッチしたが、何か書いてある。
「えっと………『失職』?」
「すみませーん!」
そこのベンチの方から女性が走ってきた。青山さんだ。
「すみません思わぬ方向へ」
「別にいいですけど、この失職は一体……」
「その……辞めたんです 小説家」
………マジですか。
☆
「えぇ⁈青山さん小説家辞めちゃったの⁈」
次の日、青山さんをラビットハウスに連れていった。
「就職先に困ってたし、とりあえずラビットハウスに来てもらった」
ちなみに青山さんは女性用バーテンダーの制服を着てる。
「すごくピッタリです。まるでこの仕事が天職かのような……」
「本当にそれでいいのか?」
他に策ないししゃあない。
「そういえば、ケイトさんはラビットホースの仕事は大丈夫なのですか?」
「………最初からラビットハウスのバイトです」
今更ラビットホースのネタくんのかよ。
ほら、ココア恥ずかしくて震えてるし。
「と、とにかく人数が増えてぎゅうぎゅうだね!」
話題逸らした。
まぁ客がすごいわけでもないのに5人はちと多いか。
「青山さんが入るのはバータイムなので今は見学してもらってるだけですけど」
「どうか気を使わずに。拾ってきた動物のようなものと思ってください」
「「ダメだろ!」」
つい頭ん中で青山さんinダンボールが浮かんだのは内緒だ。
☆
数日後、青山さんの話を聞いた千夜を連れてくと……
『人生相談口』
「あの受け付けよく出来てるでしょ!私の力作!」
変な窓口ができてた。
「このお店に貢献するために、自分にしか出来ない事をやろうと思いまして」
それでどうしてこうなったんや。
「私は人のお話を聞くのが好きなので相談口を。バータイムでタカヒロさんがお客さんの愚痴を聞いているのを参考にしました」
「素敵!とてもいい考えだと思うわ!」
千夜も気に入っちゃったか。
『手相占い』
「なんか手相占いが増えてるし」
リゼ、考えるだけ無駄だ。
二つの窓口ができたが、それから数時間誰一人相談や占いに来る人はいなかった。
まぁ元々人少ないししゃあない。
何故か皆さん愚痴って下さらないんです」
「相談口意味ないな」
「ミステリアスな感じだから一歩引いちゃうのかもね」
「そういう問題か?」
俺に聞くなよリゼ。
「マスターは人のお話を聞くのがお上手でした。私もそんな一息つける存在になれたらと……」
「ファンシーさがもっと出たら学生の子も話しやすいかしら」
「ぬいぐるみを配置してみましょう」
そういってチノちゃんは青山さんの周りに可愛らしいぬいぐるみを置く。
ってかそれチノちゃんの私物かな?
「こ、こんな可愛らしい物に見つめられたら……呪われるっ‼︎」
「「呪われる⁈」」
なんかもう収拾がつかない。
「日々思い悩んでいそうな子を連れてきたわ」
「千夜から日頃の鬱憤を発散しろって言われて来たんだけど……」
シャロが人生相談に連れてこられた。まぁバイトばっかにお嬢様学校やから悩みもあるか。
手相占い?そんなものはなかった。いいね?
「よくいらっしゃいました。おもてなしのコーヒーです」
「ストップです。別ん飲み物にしてください」
シャロが覚醒したらさらに面倒くさくなる。
「そ、そうです!それにこの後バイトがありますし……」
「あ、それ私がブレンドしたんだ」
「先輩が⁈飲みます‼︎」
リゼがブレンドしたと言うと、シャロはコーヒーを一気飲みした。
はぇぇよ心変わり。てか熱いだろうに。
「はれ……?何から涙出てきた……」
「まさかブレンドの具合によって酔い方が変わる⁈」
「嘘だろ⁈」
でも実際シャロはいつものハイテンションじゃなく、どっちかて言うと泣き上戸な感じになってる。
「リゼ先輩ー……。今月厳しくて……うさぎも噛んできたりして……グスッ」
「…まぁ落ち着け」
「俺のメロンパンやるよ」
いつの間に俺とリゼがシャロの相談に乗っていた。
とりあえず酔い覚ましに水用意するか。
「私もそういうのがやりたかったんです!」
なかなかどうしてうまくいかない。
すると、今度はココアがなんか手紙を出した。
「悩める相談者からお手紙が届いたよ」
「ご意見BOXみたいになってきたわね」
『妹が野菜を食べてくれません。このままじゃいつまでたってもちっちゃい妹のままです。そのままでも全然オッケーなのですが、セロリが嫌いな子でも食べられるお料理を教えてくれるとうれしいです』
「ケイト、これって……」
「……チノちゃんだね」
チノちゃん顔真っ赤だ。
「お手紙貰ってきました!自称姉が自分も嫌いなのに野菜を押し付けてきて困ってます!」
どっちも直接言えや。
「……その、私も相談が……」
あら、リゼもお悩み相談か。
『とあるやつが一向に私の考えることに気付かない。でもまだそれを言うのは恥ずかしくて………
私は一体どうすればいいんだ‼︎』
手紙にした意味がわからん。
それととあるやつって誰だろ?
「リゼさんはその人とどのような関係でありたいんですか?」
「それは………やっぱり大切な……でも、今の関係が壊れるのも…」
「今の関係も大切なら、まだそのままでもいいと思いますよ。でも、変わりたい気持ちがあるなら、手遅れになる前に決心しないといけません」
「決心……」
「焦らずゆっくり、今の関係での思い出を作っていってはどうでしょうか?」
「……そうですね。相談ありがとうございます!」
「いえいえ」
どうやらいい感じにまとまったようだ。
「……ふふ♡」
青山さんが、何故か俺とリゼを交互に見て含みのある笑みを浮かべた。
………いつかの千夜も同じ感じの笑みしてたな。
俺にはよくわからん。
「それにしても、そんな簡単に小説家やめちゃってよかったんですか?」
酔いの覚めたシャロが聞く。
確かにだいぶアッサリやめちゃってたしな。
「本当は続けていたかったんですが……」
「やりたいこと諦めるなって私に言ったのは誰だよ!」
「リぜちゃんがアツイ‼︎」
劇のときとか教わった事もあって、リゼにも思うとこがあんだろう。
いいねぇ、情に熱いって。
「実はマスターから頂いた万年筆を無くしてしまって以来、筆が乗らなくて……他の万年筆ではダメなんです」
「確かに、手に馴染んだ物じゃないとなぁ……」
「共感すんのかよ!」
あとその指の銃やめて。怖いわ。
☆
俺は万年筆の話を聞いてすぐ、青山さんに初めて会った公園に来た。
俺に会う少し前にココアに会ってたのは驚いたが、とにかく初めて会った時に無くしたらしい。そんなわけで来た。
「…リゼまで来なくてよかったんだぞ」
「お、お前一人だと心配だからな!」
「へいへい」
ついでにリゼもついてきた。
情けなくて悪うござんしたね。まぁ人手が多いにこしたことはないけど。
「それにしても、いきなり探しにいくって言ったのは驚いたぞ」
「これぐらいは俺にもできるからな」
「でも……そう都合よく見つかると思ってるのか?」
「思ってねぇよ」
「……え?」
意外そうな顔をして固まるリゼ。
「知り合いが困ってる、それだけで行動する理由は十分だろ。見つかる見つからない関係なく。
探さないで後悔すんなら、探すだけ探して後悔する方がいいだろ?」
「……ホント、お前はお人好しだな」
「一緒に探してくれるリゼもな」
そうは言ってもそろそろ日が暮れそうだし、とりあえず続きは明日に……って、なんか茶色んウサギが足元にいる。
…あれ?こいつって確か前シャロ通せんぼしてた、今度遊ぼう言ったウサギじゃん。
「…ん?ケイト、そのウサギが咥えてるのって……」
………あっ、万年筆。
☆
無事万年筆が戻ってきた青山さんは小説家に戻って、早くも新作の『カフェインファイター』を出版した。
ちなみにシャロがモデルらしい。
バーテンダーもハマったらしく時々手伝ってくれてる。
今もラビットハウスで執筆中だ。
「ケイト、そのウサギはどうした?」
「なんか懐かれてな」
今俺はあの茶色ウサギをナデナデしてる。
あの一件でナデナデして以来やけに懐かれたんで、飼うことにした。今日はティッピーに挨拶。
「………私も撫でていいか?」
「おk」
こいつんおかげで見つかったしな。やっぱり情の一つや二つは湧く。
もちろん一緒に探してくれたリゼにも感謝してる。
「ありがとな、リゼ、『アミ』」
またあんときのお礼を言うと、茶ウサギは誇らしげな顔をした………気がする。
リゼの方は撫でるのに夢中で聞いてない。ま、いっか。
こいつん名前は『アミ』にした。
アミ ちゅう名前の意味は……
チノちゃん万年筆探しに漫画っぽく連れてけなかったのは残念だわ。悔しいわ。
ちなみに茶ウサギの名前はタックと悩んでいたけど、可愛らしいしアミにした。
ちゃんとアミっちゅう名前に意味あんので。