fate/accelerator   作:川ノ上

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第一章
邂逅と衝突


その者は、白い髪と宝石のように真っ赤に輝く瞳が印象的だった。

 

顔付きは男か女かわからないほど中性的で、首には黒いチョーカーが。片手には現代的な杖が握られている。

 

「・・・・・・バーサーカー?」

 

「――あン?」

 

控えめな声で尋ねると、召還されたサーヴァントは、首を傾げながらイリヤのほうを見た。

鋭い目つきだ。

まるで見ただけで人を殺してしまいそうな、そんな類の目つき。

イリヤは、サーヴァントの目に一歩後ろに下がりかけたが、寸での所で身体を止めて、期待を込めてもう一度訊ねた。

 

「あなたは、バーサーカーなの?」

 

「あン? バーサーカー? ンだよソレ」

 

しかし、帰ってきた答えと、サーヴァントのステータスにイリヤは愕然と目を見開いた。

 

 

 

 

真名 ??? クラス バーサーカー

 

ステータス| 筋力 E

       耐久 C

       敏捷 D 

       魔力 D 

       幸運 B 

       宝具 不明

 

保有スキル| 狂化 A+

       神性 E

       

 

 

 

(嘘ッ!? 狂化A+!? バーサーカーのクラスに自我があるなんて――)

 

驚くべきところはそこだけではない。

 

(しかも、自分のクラスを認識していない!?)

 

 

「あなた、どうして――」

 

「つーかよゥ。どうして俺はこンなところにいるンですかねェ」

 

イリヤの言葉を無視して、バーサーカーのクラスにいるはずのサーヴァントは、現代的な杖を突きつつ、イリヤの方へ歩いてきた。

イリヤの混乱した思考が、現状を理解できない。

一歩一歩近づいてくるサーヴァントは辺りの様子を観察しながら右手をヌッと伸ばしてきた。

 

「なァ、ちびガキ。俺ァ黄泉川のマンションで寝ていたはずなンだがァ。どうして俺がここにいるか知ってるかァ?」

 

笑っている。それもただの笑顔ではない。狂気に満ちたどこかそんな顔だ。

 

目の前にいるサーヴァントは紛れも無いバーサーカーだ。イリヤは、ハッと我に返ると、両手を前に突き出した。

 

「ちょっと待って! 寝ていた? あなたは英霊じゃないの?」

 

「英霊? おいおい。いつから俺は死ンじまったんですかァ? それに俺は誰かに崇められるような事をした覚えもねェな」

 

「英霊じゃない!? それじゃあ何で聖杯戦争に参加できるの!」

 

イリヤの言葉に興味を示したのか、この白いサーヴァントは立ち止まり、真剣な顔付きでイリヤを見る。

 

「あン? 聖杯戦争だァ? ……チッ! 学園都市はまたふざけた戦争でもおっぱじめる気なのか」

 

めんどくさそうに舌打ちをして髪を掻き上げる白いサーヴァント。

 

「つーかァ。俺はどうやってここに来た。テレポートの能力者が俺をここまで運んだようには見えねェし」 

 

学園都市? テレポート能力者? 白いサーヴァントの言っている事は理解できないが、本題は。

 

「――あなた、どうしてここにいるか理解していない?」

 

「あァ。テメェが何か知ってるなら教えてくれませンかねェ。まあ、知らねェって白切るのもかまわねーよ。それだけテメェが死に掛けるだけだしな」

 

そこで一度白いサーヴァントは言葉を区切って、

 

「まぁ、とりあえず――」

 

首筋にある黒いチョーカーに手を当て、スイッチを入れた。

その瞬間。地下であるはずの天井が突然崩れ落ちた。

砂ホコリだけではない。まるで土砂崩れのようにイリヤから見て部屋の中央からすこし奥の方にかけて大きな穴が空いた。

ここは地下室だ。正確に言えば城の離れにある小屋の地下室。もともとサーヴァントを召喚するために作らせた儀式部屋であり。

誰にも邪魔されないように密室に。そして、サーヴァントの性能を確認するために広く作らせた部屋だ。

それほど深く地中に埋まっていないにせよ少なくとも家一軒分の高さまで掘らせたはずなのだ。

だから、この部屋を外から『貫く』ことなど到底人間にできるはずもない。

 

瓦解していく天井から、土が落ちそして、収まったかと思うと月の光が漏れる。

 

イリヤはとっさに顔の前に手を置いて砂埃から視界を守る。

一瞬、目の前にいるサーヴァントが反乱を起こしたのかと思ったが、すぐに違うと思い直した。

なにせ白いサーヴァントは、イリヤの前に立つと、傷一つ無い体で月を見上げるように崩れた天井を見ていた。

 

『おいおい、アインツベルンのサーヴァントってのはずいぶんとひょろいガキなんだな』

 

イリヤは、顔を上げると声のする穴の空いた天井を見つめた。

そこには全身青タイツの男が赤い槍を持って立っていた。

 

          槍。

 

この武器を象徴するサーヴァントは――。 

 

「ランサー!」

 

「おっ! お前があのヒョロイガキのマスターか。テメェもつくづく運のない奴だなー。よりにもよってあんなモヤシ見たいなのを引き当てるなんて」

 

やれやれと言った感じで首を振るランサー。

とうの白いサーヴァントは無言でランサーを見つめていた。

 

状況が変わりすぎて理解が追いついていかない。と言ったほうが適切だろうか。

白いサーヴァントは眉を潜めながらも、いままでの情報を振り返っていた。

 

(マスター。サーヴァント。なんだか知らねェがここは――)

 

挑発の意味を込めて、白いサーヴァントは獰猛な笑みを浮かべる。

 

「おいおい。どこのどいつですかァ。俺は全身タイツなンていう変体男と知り合った覚えは無いンだがなァ」

 

「ふっ、これから殺すって奴に真名なんぞ名乗ってもねぇ」

 

「不意打ち吹っかけといて、もう勝利面か。あンなンでハシャいでるようじゃ俺は殺せねェぞ?」

 

「ほう。じゃあこういうのはどうだ」

 

ランサーは自前の赤い槍を巧みに回すと、中段の構えで白いサーヴァントに矛先を向けた。

それに対して、白いサーヴァントは余裕の態度を崩さず、人差し指を軽く動かして挑発の構えを取る。

 

その意味は――

 

「こいよ三下。出し惜しみなンざァクズがすることだ」

 

「三下ねぇ。――んじゃあ、お言葉通りこっちから行ってやるよ。まぁくれぐれも一撃でやられてくれんなよ、っと」

 

低く小さく身をかがめてから、ランサーはコンクリートを蹴る。

その速度は明らかに高速を超えていた。

まっすぐ白いサーヴァントの元へ向かうランサー。

弾丸のようにはじき出された力に加え、ランサーは身を捻ると真紅の槍を上から下へ、叩きこむようにして振り回す。

「っらぁ!!」

そしてその風を切る刃は白いサーヴァントの頭上にさしかかり――。

     ヒュン  ガキン

ランサーの槍を白いサーヴァントは素手で掴み取った。

ランサーは小さく口笛を吹き、白いサーヴァントは槍を真横に投げ捨てた。

槍ごと飛ぶランサーだが、身体を一回転させて勢いを殺すと、すぐに体勢を立て直して赤い槍を構えなおす。

 

そこからは、見事な攻防だった。

ランサーが突いた槍を白いサーヴァントが寸での所で避け、拳を振るう。ランサーもその拳を受けることなく華麗に避ける。

まるで映画をリアルで見ているような感覚。

あきらかに人間の領域を超えている。

そして、最も賞賛すべきなのがあの白いサーヴァントだ。

槍に対して素手で応戦している。それどころか渡り合っている。

通常、戦闘というものはどちらか武器を手にしたものが圧倒的に有利となる。

それは相性にもよって変わってくるが、基本的に素手で武器に勝つというのはまず難しい。

 

(すごい。あのランサー相手に互角に戦ってる)

 

客観的視点から見れば、お互いの力が拮抗して見える。

しかし、実際に自分達の能力、技量を知っている彼等は戦いの最中、眉を潜めていた。

 

(反射がまともに働かねェ。――この感覚は『魔術』ってやつを反射した時に似ていやがる。・・・・・つゥことは、あの槍は魔術霊装の一種かなンかかァ?)

 

(動きは素人のソレだ。だが腑に落ちねえ。どういうわけか俺の槍が思った通りに刺さらねえし、手に妙な痺れが走りやがる)

 

両者は、ある一定の距離を取ると、仕切りなおすようにランサーが槍を構え直す。

 

「おい、白いの。テメェ、キャスターのクラスかなにかか」

 

「あン? ・・・・・・ああ、そこで呆けてるチビが言うにはバーサーカーらしいな」

 

それを聞いて、ランサーは緊迫した場にそぐわない素っ頓狂な声を上げた。

 

「はあぁ!? 理性のあるバーサーカーだと。どこの英雄だよ」

 

「知らねーよ。・・・・・御託はいいから、さっさと掛かってこい。それとも、学園都市第一位の力にビビって手がだせねェのか」

 

「学園都市? んなもん知らねーが。――なるほど、こいつは楽しめそうだ」

 

ランサーは聞き慣れない言葉に首をかしげるが、たいして気にも留めていないような獰猛な笑みを浮かべた。

槍を握るランサーの手に力が篭る。それにともなって赤い槍が鳴動し始める。

イリヤにはわかる。次にランサーが何をしようとしているのかを。

赤い槍に魔力が収束されていく。

 

「コイツを受けてみなッ!  刺し穿つ( ゲイ・ボル)―――」

 

その瞬間。何も無い空間からくぐもった男の声が響いた。

 

『もういいランサー。やりすぎだ。直ちに帰還せよ』

 

声の主に反応するように、ランサーの槍も寸での所で静止する。

 

「・・・・・・チッ!」

 

「おい、飼い主様がお呼びだがどうすンだァ」

 

忌々しそうに舌打ちするランサー。

先ほどの戦闘でも全く息を切らしていない白いサーヴァントは、愉快そうな笑みを浮かべてランサーを見ていた。どうやら、相手がどう出るか観察しているらしい。

ここまで数秒。緊迫した空気が流れ。

やがて、大きく髪を掻き上げるランサーは「仕方ない」とばかりに不満そうな顔で小さくため息を漏らした。

 

「――仕方ねぇ! マスターがお呼びとあっちゃー今回の勝負はここで仕舞いだ。次に合う時まで、他の奴にやられていない事を願うっきゃねぇな!」

 

「逃がすとでも思ってンのか? だとしたら、テメェの頭は相当お花畑のよォだな。いっそ取り替えたらどうだ」

 

「うるせー! 俺に殺されるまでせいぜい死なねーように気をつけるんだな」

 

そう吐き捨てると、ランサーは踵を返して、目の前の空間から消え失せた。

 

霊体化だ。

 

おそらくこの敷地内に入ってきた時も、あれで侵入して自慢の真紅の槍で大穴を開けたということだろう。

 

しばらく、静寂が続き、黙ってサーヴァントの戦闘を傍観していたイリヤは、ハッと我に変えると白いサーヴァントを見た。

白いサーヴァントは、ランサーが消えた虚空を眺め、首筋にあるチョーカーの電極を切ると、現代的な杖に体を預けるようにバランスを取った。

 

月明かりに照らされる名もわからぬサーヴァント。

その存在が神話のように美しいと思う反面。どこかいような雰囲気を醸し出している。

真名も。出生も。その存在すべてが謎に包まれたサーヴァントを前に、イリヤは思わず心の中にある疑問を口にした。

 

「あなたは一体、なんなの?」

 

白いサーヴァントはそれに答えるようにイリヤのほうへ身体を向けると、

 

「一方通行。さっそくだがテメェの知ってる事全て、吐いてもらおうか」

 

学園都市で最強と呼ばれていた悪魔が口を開いた。

 

 




ということで、書かせていただきました。
今度こそ如何でしたか?
読んでくださった皆様。少しでもオモシロイと思っていただけたのなら幸いです。

ついに出会った一方通行とイリヤ。
ランサーも登場して、今後の展開はどうなっていくのか!?

では今回はこの辺で筆を置かせていただきます。
感想、ご指摘、評価のほどを頂けるのであれば、よろしくお願いします。
そして、読んでいただきありがとうございました!!

ーーー
簡単にですが一方さんのステータスを作ってみました。
固有スキルの方はとりあえず、ということ物語が進むごとに追加、というような形にさせていただきます。

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