fate/accelerator   作:川ノ上

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食卓

イリヤが部屋に戻ってから二十分といった所か。

そして鬱陶しく付き纏っていたメイドが消えてから約十分。

様々なことがありすぎた波乱の一日が過ぎ、そのつかの間の休息に大きく息を吐いて堪能する一方通行は思案に暮れていた。

 

教会という名の監視役の存在。

この世界での日常風景。

そして、自分とは異なるサーヴァントとの戦闘。

 

昨日今日で、街を散策し、実際の生活に触れ、多くの情報を得た。

そこから必要な情報だけを吟味し、咀嚼して感じたことは、『まだ足りない』だった。

 

白いテーブルクロスの上に置かれた燭台。その数々の蝋燭に灯される火を眺めていた一方通行は小さく舌打ちをして大きく天井を見上げる。

 

今日一日を通して得た経験は決して無駄ではない。

むしろ、ここに召喚された初日に続けて二体のサーヴァントと対峙できたのは一方通行にとって僥倖だった。

おかげで既存の常識にとらわれることなく非常識を受け入れることができた。

 

そこから聖杯戦争というくだらない戦いがどういったものなのかある程度予想できるようにはなった。

戦場となるのはおそらく市街地だ。

時間帯問わずに戦闘になることを考えると、おそらく期間無制限のバトルロワイヤルになる。

そして、キャスターが人目につかないところで奇襲を仕掛けてきたところを考えると、この戦いは一般の人間には見られてはならない。

つまりこの戦争自体が世間には知られていない秘匿の存在なのだ。

そうなると、監視者たる言峰といった教会側の人間と都市の平穏とした平和な空気にも納得がいく。

 

だが、情報が足りないというのは依然として死活問題だ。

バッテリーの充電手段を確立した以上もう焦る必要はなくなったが、それでも敵は待ってくれない。

この世界での死が=向こうの世界での死に繋がると確証が得られない限り、死ぬことは許されない。

であれば、いまは状況を整理するための『情報』。つまり、いま何ができて、何をしなくてはならないのかを理解しなくてはならないのだ。

でなければ先に進むことなどできないし、この戦争が自分の意志の外で勝手に行われる以上、火の粉が降りかかるのは必至だ。

 

(クソガキがどうなるかはさておいて、俺のやるべきことは限られてくるか)

 

そこまで考えて、一方通行は一度制止して自分の右手を天井にかざした。

この手に、伝わるあのぬくもり。

そしてあの能面のような表情。

先ほどのリズの言葉がささくれのように一方通行の心をざわつかせ落ち着かずにいる。

 

ホムンクルスとクローン。

 

作られ方は違えど、この世にまた利用されるためだけに生まれた命があると知った瞬間、一方通行の血は明らかに沸騰していた。

危害を加えるものだけを排除する、そういう静観の姿勢をとっていたはずだったが、あの時ばかりは天秤が一気に傾いた。

 

何かが変わろうとしている。

 

ひと昔の自分だったらこの変化を、苛立ちと捉え多くのものを巻き込み、排除しようとしただろう。

だが、いまは違う。

変化を受け入れる。それこそ同居人の体育教師にはいい兆候じゃん、などと暢気なことを言われそうだが、それも悪くない。

少なくとも、あの地獄から必要なものだけを取り戻してきた一方通行はもう覚悟を決めているのだ。

たとえそれがどんなに似合わない日常だとしても、彼女らを守り通すため、彼女らの日常を支えるためなのならどんなことでもすると。

 

だから、いま自分の中に芽生えているこの違和感の正体。これは簡単に切り捨てていい問題ではない。

そのことだけ頭の隅に入れておけばいい。そう考え、右手を固く握りしめる。

 

すると、廊下から何やらけたたましい足音が聞こえ、一方通行は小さく息を吐き出した。

瞳を閉じ、聴覚を尖らせて集中する。

足音を立てないようにひっそりと歩いているようだが、床や靴底が擦れる音を消しきれていない。

暗殺者ならこれ以上の失態はないだろうし、第一、この暗殺者はバレていないとでも思っているのだろうか。

一歩一歩、間抜けな暗殺者の足取りが聞こえ、一方通行は小さく嘆息するとあきらめたように思考を中断して、気の抜けたように椅子に寄り掛かった。

そして静かに開け放たれる扉の音が聞こえたあと、

 

「お待たせバーサーカー!」

 

疲れを知らない陽気な声が後ろから突き刺さった。

時計の刻む音がかき消され、まるで喧噪のはじまりを告げるように問題の台風はやってきた。

 

(やっときた、か)

 

静かに目を開け、一方通行は気だるげに視線だけをイリヤの方に向けると、そこには何とも間抜けな姿があった。

正確には首だけを扉から覗かせ、首から下はまだ廊下の向こうという何とも格好のつかない少女の姿。

おおかたガキ特有の悪戯心というものだろう。

何が楽しくてあんな醜態をさらしているのか一方通行には理解できないが、本人は至ってご機嫌の様子だ。

適当に深いため息をついてやると、扉の向こうでクスクスと笑い声が聞こえてくる始末。

ご満悦なことは結構なのだが、ここまで待たされた一方通行の苛立ちはどこへ向ければいいのだろうか。

 

(どいつもこいつも何が楽しくてあンな醜態をさらしてるのかねェ)

 

脳裏に浮かぶワンピース姿の少女や、アオザイの姿の少女の顔が思い浮かび、一方通行は忌々しく前髪を掻き揚げると、小さく舌打ちする。

当たるものがない以上、ここで悪態をついていても仕方ないのは理解しているが、ここでクソガキに当たるのはどこか筋違いのような気もする。

 

しかも、こんなクソガキでも、彼女が席につかなければ料理が運ばれてこないのだ。

 

この『先』。この少女を中心に物事が進んでいくと考えると嫌でも頭が痛くなる。

そんなことで頭を悩ませつつも一方通行は重たい溜息をもう一度吐いて、さっさと席に着くようイリヤに向けて顎をしゃくった。

 

「遅せェ。そンでさっさと席に着け、飯が来ねェだろ」

 

「もぉーレディーの身支度は遅いんだよ。もう少し配慮ってものを持って欲しいかも」

 

「お子様がいくらめかし込んだところで、お子様なのは変わらねェだろォが」

 

「だ、か、ら!! 子ども扱いしないでってば!! 私は立派なレディなの」

 

けたたましく床を叩くブーツの音が大きくなり、遂に膨れっ面のイリヤが横から顔を出してきた。

ほんのり上気した頬を膨らませ、椅子をゆすって抗議の声を上げるがそれに取り合うほど情緒豊かではない。。

何度言ったらわかるの、などとあまりにもやかましく耳元で騒ぎ立てるので堪らず手刀を額にいれて黙らせてやると、さらにやかましくブータレと文句を口にしてきた。

そんな彼女を尻目に、鬱陶しそうにイリヤを遠ざけるとため息交じりの嘲笑を浮かべた。、

 

「・・・・・・レディ、ねェ」

 

紫を基調にした鮮やかな上着に絹でこしらえたような光沢のある白いロングスカート。小さい体躯に合わせて作られたそれらは確かにイリヤの肌と銀糸の髪をより一層際立たせている。

おそらくお気に入りの一着なのだろう。

昨夜も見たような格好だが、所々装飾が違うところを見ると少しだけ大人っぽく仕上がっているようにも見えなくもない。

しかし、それでもあくまで服装がそれらしいのであって、一方通行の目にはよくて背伸びしたがりのただのガキにしか見えないのも真実だ。

 

一方通行の視線に何かを感じ取ったのか、イリヤは頬を膨らませつつも自分の服装にもう一度目を落とし、なぜか納得したように手を打った。

 

「あ、わかった。こんなきれいなお嬢さんがいるからバーサーカー照れてるんでしょう」

 

「おとといきやがれ」

 

「なっ!? もうバーサーカーのいじわる!!」

 

口元に手をやりニヤニヤと不気味な擬音でも聞こえてきそうな笑みを浮かべるイリヤを眺め、哀れな戯言に一刀両断をくれてやる。

すると、不気味なにやけ顔は一瞬で消し飛び、その小さな顔に怒気の色が浮かんでくる。

終いには、頭から蒸気を吹き出す勢いで憤慨すると、牛のようにうなり声をあげてずんずんと向かいのテーブルに向かっていく始末。

そして、お嬢様にあるまじき振る舞いで荒々しく椅子に腰を下ろすと、一方通行を睨みつけた。

正確には、一方通行の浮かべている哀れな嘲笑を見てさらに不細工に頬を膨らませた。

 

「あー! バカにしてるでしょう。私だってもっと大きくなるんだからね」

 

「はッ、まァ無理だろうが、せいぜい努力するこったなァ」

 

身を乗り出して抗議の声を上げるイリヤに、適当に返して鼻で笑ってやると、席に着いたイリヤがキョトンとした表情でまじまじとこちらを凝視して、一度首をかしげた。

そのあまりの間抜け面に、今度は一方通行が眉根をひそめて顔をしかめた。

 

「どうした、ブサイクな顔して」

 

「だからレディに向かってその言葉は無いと思うんだけど!!」

 

憤慨した様子でもう一度身を乗り出すが、すぐに尖らせた唇を引っ込めて言いにくそうに言い淀む。

 

「いや。その。なんかバーサーカーの顔が悲しそうに見えて・・・・・・気のせいかな?」

 

そこまで言われ、一方通行は胸の奥で小さく舌打ちすると、悟られないように小さく息をついた。

 

(このクソガキまでメイドと同じことを言いやがる。俺って奴はそンなに顔に出やすいンですかねェ)

 

これでも、暗部で活動してきた一方通行だ。

考えが表に出るような間抜けな真似はしてきた覚えはないし、そこまで表情に出やすいということはない。

なまじ察しのいい馬鹿どももいたが、それはあくまで経験則に基づく勘など不確定要素の中から導きだされた答えがほとんどで、実際に一方通行の心情を探り当てているわけではない。

でなければあれほどまでに過酷な糞溜めの中を生きていくなどできるはずがないのだから。

彼女の言葉もあながちその域を出てはいないが、なまじ間違いだと否定できないので困ったものだ。

 

「ハッこの俺が悲しいって面する奴かよ。目でも腐ってンじゃねェのか?」

 

「どうしてバーサーカーはそんな酷いことばかり言うのかな!? もう、せっかく心配してるのに」

 

「俺に心配なンざァいらねェンだよ。・・・・・・お前は自分の心配でもしてろ」

 

キョトンと、それこそ不思議な生き物でも見たような顔を一瞬浮かべるイリヤだが、それでもすぐに底抜けな笑みを浮かべ頷いた。

 

「ふーん、まぁそうだよね。私の召還したバーサーカーが負けるなんてことありえないんだから」

 

負けるつもりは毛頭ないが何を根拠にそう言っているのか理解できない。

仮にも自分を殺そうとした奴が目の前にいるのだ。

楽観的なイリヤの脳の出来に呆れつつも、一方通行は小さく息をついて深く椅子に座りなおした。

 

料理が運ばれてくる気配は一向にない。

何かを話しかける気がない一方通行と、会話のきっかけをつかめないでいるイリヤ。

 

そうこうしてお互い黙り込むという気まずい空気が流れ、時計の針の音だけが無情に時を進めていく。

そして堪らずといった風にイリヤが独り言でも喋るようにように会話を切り出した。

 

「そんなことよりセラとリズおそいなー。もう準備できてるのに」

 

目の前に並べられた食器を見て、首をかしげるイリヤ。

その疑問は当然のものだし、彼女からしてみれば、いつもはすでに料理が並んでいてもおかしくない時間なのだろう。

 

「どうせクソメイドを正気に戻すのに苦労してンだろ」

 

ポツリとつぶやく一方通行の言葉に、イリヤは不思議そうにもう一度首をかしげた。

なんのことだか理解できていないといった感じだが、向こうの扉でどんな復興作業をしているのか一方通行も知らないので、そこからは黙って口を噤む。

 

すると、

         

「あっ! 出来たみたい」

 

イリヤの声に続くように、厨房の扉がゆっくりと開け放たれ、銀色のカートの上に料理を乗せたメイドが二人、扉の向こうから顔を出した。

 

「お待たせしましたお嬢様」

 

「イリヤ待った~?」

 

「うん、もうお腹ペコペコだよ。早く食べよう」

 

「大変申し訳ございませんでした。直ちに用意いたします。リズはバーサーカーにお願いします」

 

忙しくかつ失礼にならないように食膳に色とりどりの料理を並べていくセラ。

そんな彼女を一瞥してから、一方通行は自分の横にカートを押してやってくるリズに目を向けると、彼にしては珍しく小さくねぎらいの言葉を掛けた。

 

「おい、ずいぶん掛かったな」

 

「うん。結構疲れた」

 

「ご苦労ォなこった」

 

「それより――」

 

皿の上に料理を盛りつけながらも、こちらに視線をやるリズの瞳には鋭い色が宿る。

その意味を理解した一方通行は、大きな口を開けてあくびをするもはっきりとした口調で返した。

 

「まだ何も聞いちゃいねェよ」

 

「それならいい」

 

そう言って準備を終えると、リズはメイドらしく一礼したのちに後ろに下がり、厨房の扉近くまで歩いて行った。

 

「準備かんりょー」

 

「――では、私どもは扉の前で待機しておりますので、何かありましたらお呼びください」

 

セラの方もイリヤに恭しく礼をしたのち、こちらに鋭い視線を送ってから扉の方に下がっていった。

おおかた、これ以上好き勝手はさせない、という意思表明なのだろう。

もはや隠す気はないのだろう。セラの動きに若干、緊張が走っているのはそのためだ。

その視線をあえて受けたうえで一方通行は無視を決め込んだ。当然、そんなセラの警戒心を理解していないイリヤは下がりゆくセラに礼を言ってこちらに視線を向ける。

そして、

 

「じゃあ――。いただきまーす」

 

イリヤのやかましい声が食堂に響き、それぞれが勝手に食事をとり始めた。

 

 

 

 

無言、と呼べるほど静かな夕食を終え、満足げに出た言葉がむなしく部屋の中に溶けていく。

夕食と呼ぶには随分と遅くなってしまったが、それでもリズとセラの料理は一食も欠かすことができないくらいおいしい。

 

そのことをバーサーカーも知っているのか、彼にしては珍しく食事のときはいつもより雰囲気が静かなのだ。

 

今朝から思ったのだが、この目の前にいる白いサーヴァントはクラスのわりには上品に食事をとる。

本来、魔力を供給されているサーヴァントは食事も睡眠も不要な使い魔、という部類に入る。

しかし、それは十分に魔力を供給されているサーヴァントにのみ当てはまるもので、自身の魔力より上回る存在をサーヴァントとする場合、こういった食事や休息を与えることで魔力消費を抑えるという手法がある。

もちろん、アインツベルンたるわたしはそんな失態はしない。バーサーカーに回す魔力だってきっちり用意できる。

しかし、わたしの体を気遣ってかセラとリズが負担をかけないよう、サーヴァントにも食事を出すことを前々から提案してきたのだ。

 

だからこそ、こうして食卓を囲んでいるのだが、

 

(すっごくきれいに食べるんだよね。バーサーカー)

 

理性が飛んでいることこそがこのサーヴァントの強み。にもかかわらず、下手したらわたしより綺麗な作法でバランスよく食事を勧めているのだ。

ナイフを食器に擦ることもなく、無作法にメインの子羊のソテーを頬張るでもなく、適度な量に切り分け口に運ぶ。

まるで食事のお手本だ。

自分もここまでできるようになるまで相当セラに教え込まれたが、今のバーサーカーは限りなく自然体で食事を楽しんでいる。

 

ふっと彼の右手を見ると、無表情でリズの淹れた紅茶をすすり、眉間にしわを寄せる白いサーヴァント。

 

飲み慣れていないのか、それとも単に好みではなかったのか。

どっちかはわからないけど、それでも全て残さず飲もうとするのがどこかバーサーカーらしい。

 

そんなバーサーカーが来てから二日経った。

 

たった二日であるが、何となく彼のことがわかってきたような気がする。

殺気に交じる生温かい血の通った視線。

言葉では厳しいことを言うが、言葉の端から見られるやさしさ。

曖昧な輪郭は見えてきているのに、その全容をとらえきれていない。そんな感覚がわたしの背を這っていきわたしを苛立たせるのだ。

 

寄り添おうととしても、その分だけ距離を開けられるような感覚。

それがどこかもどかしくて、そしてそれと同時に彼にとっては触れてほしくないものに見えて、どうしていいのかわからなくなってしまう自分が恨めしく思う。

 

一度、セラを呼びつけてティーカップに紅茶を淹れてもらう。

静かに注がれた赤い液体は、白い壁に阻まれるように小さな器の中で波打ち、静かに茶葉の香りと共にわたしの心を落ち着かせる。

それをゆっくり口元に運び、気持ちを落ち着けるようにもう一度息をついた。

 

夕食前のやり取りもそうだけど、バーサーカーはどこか私との接触を避けたがっているように思えてしまう。

自分から積極的に何かを知ろうとしてこない。

別に殺されたいという訳じゃないのはわかっている。でも、バーサーカーがわたしに対して会話をしてくれるのは、足りない情報を補う時だけだ。

つまり、自分の身に何か危険が迫った時だけで、ちっとも私のことに対して興味を持ってくれないのだ。

別に、それが悔しいとは思わないが、どうしても、なんか寂しいと感じてしまうのだ。

 

「うん。おなか一杯。セラ、リズ。今日もとってもおいしかったよ。……ね、バーサーカー?」

「・・・・・・」

 

味気なく紅茶を啜り、わたしの言葉を無視するバーサーカー。

やっぱり。何も返してくれない。

彼は、本当にうっとおしいと思った時しか私に言葉を返してくれない。

こうして、そのことを目の当たりにすると、うん。やっぱり寂しくなる。

 

「もう、何か言ってよバーサーカー」

 

もう一度、声のトーンを落として語り掛けるが結果は同じ。

無言でもう一度紅茶をすするバーサーカーの姿はどこか他人事で、興味のない、そんな色を浮かべていた。

そんなバーサーカーの態度を見かねてか、食膳に並べられた食器をかたずけ、特別とばかりに特製のプリンを目の前に置くセラが、

 

「構いませんお嬢様。私達はお嬢様に満足していただければそれでいいのです。このようなモヤシに褒められても嬉しくありませんので」

 

いつものセラらしからぬ乱暴な物言いではっきりと言い切った。

声色がどこか硬く、わざと尖らせているようにも聞こえる。本当ならここで嗜めるのが主たるわたしの役割だけど、この時ばかりは少しありがたかった。

セラの言葉に、眉を動かして静かに反応するバーサーカー。

そこでようやく一方通行は淡く白いティーカップをテーブルの上に置き、初めてセラの方を見据えて小さく笑みを浮かべた。

 

「言ってくれるじゃねェか。仮にも俺はこのクソガキのサーヴァント。つまり客みたいなもンだぜェそンな対応で良いのかよ」

 

どこか調律を間違えたような間延びした声が、一瞬静寂をもたらした食堂に響く。

あれは明らかにセラを挑発している。それがわかるくらいにあからさまな物言いで、喉を鳴らすバーサーカー。 

そんなことでいちいち角を立てるセラではないが、その表情はどこか悔しそうに映り、そして何他言いたげに唇をかんでいた。

不思議に眉根をあげていると、バーサーカーはそれだけでなく愉快そうに口元を歪める。

 

「それに、ここのメイドは空になったカップに紅茶を注ぐことすらできねェ低能なのか? まるで従者失格だな」

 

それをバーサーカーが言う!? と思わず声を掛けそうになったが、また下手なことを言って本気で彼を怒らせかねない。

食事時に関してはあまりいい思い出はないので黙って口をつぐんでいると、いつの間にか横に控えていたセラが私の心を代弁してくれた。

 

「あなたはお嬢様に何をしたのか覚えていないんですか?」

 

「あ、それは私も許せなかったかも」

 

「え、ちょっリズ!?」

 

わたしの後ろでリズの同意の声が上がる。

確かバーサーカーの後ろで給仕をしていたように見えたがいつの間に。

そうして慌てて見上げたら、黒い二つの柔らかいボールが私の顔に当たって再び驚く。

何事かとわたわたと手を動かして重たい物体を押し上げるとリズと視線が合う。

そして、

 

「イリヤのエッチ」

 

「なぁ!?」

 

失礼極まりない言葉が耳元で聞こえてきて、身体をひねって慌ててリズの方を振り返る。

すると、珍しく真剣な表情をしていたリズが唇に人差し指を当て、静かに空いた片手でバーサーカーの方を指さした。

 

セラがここまできつい言い方をするのは珍しいが、ここまで真剣な「表情」をするリズも稀だ。

 

わたしは首をかしげて、バーサーカーの方へ目を向けると、どこか気まずそうな表情が見えた。

 

確かに、セラにそれを言われたらバーサーカーも大人しくならざる負えない。

わたしを守る守らないはともかく、この城の庇護にあうということは必然的にセラかリズの世話になるということだ。

この城の主はわたしということになっているが実質、この城のカースト制度のてっぺんはわたしではなく衣食住を支えるセラなのだ。

さらに、今日の夕食を作ったのは他ならぬセラとリズでありそのすべて食べたということは、彼女らの世話になっているということだ。

そんな彼女らの非難の視線は並々ならないほど逃れ難くきついものなのだろう。

バーサーカーは逃れられない三つの視線をその細い身に浴び、小さく舌打ちしたのち、何かにあらがうように鼻を鳴らして悪態をつき始めた。

 

「はッ! あの程度でびびってるようじゃあ、この先、生き残るなんざァ無理な話なンだよ」

「び、びびってないもん!!」

 

思わず身を乗り出して抗議の声を上げる。

食事のマナーとしては減点だけれども、こればかりは看破できない。

何より許せないのは自分の行動をちゃっかり棚上げしてわたしのことを蹴落としているその態度だ。

しかも、しっかり無能の烙印みたいな評価を下しているのが許せない。

 

しかし、当のバーサーカーは面倒くさそうに、それでどこか予想通りといったしたり顔でもう一度は鼻を鳴らすと、小さく馬鹿にするような笑みを浮かべ手を仰いだ。

 

「おいクソガキ。強がりもそのくらいにしておけ、あとで自分が惨めになるぞ」

 

「ぐぬぬぬっ! サーヴァントにバカにされてる!!」

 

思い当たる節があるのが余計に悔しい。

ギリギリと歯噛みしてバーサーカーを睨んでいると、ふと横に立つセラと視線が合って、首を傾げた。

 

どこか悲しそうな表情を浮かべるセラ。

 

そんな彼女が突然膝を折って、わたしと同じ目線まで屈んでくるのだ。驚かないわけがない。

思わず固まってセラの動きを目で追っていると、セラは私の両手を自分の両手で包み込むようにして胸元にまでもっていった。

 

「お嬢様!! 厚かましい意見ですがお嬢様のために言わせて頂きます。私はこのサーヴァントと共に食事するべきでは無いと思います」

「えっ? どういうこと?」

 

思わずキョトンとした顔でセラを見つめてしまったが、非難されているバーサーカーはなんの言葉も出さずこちらを見ている。

まるで、わたしやセラの言葉を見極めるかのような目つき。

そんな彼を横目で眺め、もう一度セラの方へ視線を戻すと、いまにも泣き出しそうな強い視線がわたしを見つめる。

 

今まで、わたしに多くのことを教えてくれたのはセラだ。

いつも厳しくそして色々なことを教えてくれる。そりゃ怖い時もあったけどその教えてくれたことは全部が正しく、すべてわたしのことを思ってくれているからこその態度だとちゃんと理解している。

だからこそどんなに厳しくてもわたしはセラを信じることができた。

そんなセラが、こんなにも表情を出して、真剣に意見してきたのは初めてだったりする。

 

わたしはどう返していいのか、思わずリズの方を見るが、リズは首を静かに横に振るばかりで助け舟を出してくれる気配はない。

主として、こんなに情けないことはないけど、それでも、どう返せばいいのかわからない。

 

どうしようか迷っていると、それを察してくれたのかセラは少し唇をかんだあと静かに唇を動かした。

 

「このサーヴァントはお嬢様の力で現界しているにも関わらず、無礼な態度。そして二度にわたる恐喝。このまま一緒に食事などしてはお嬢さまの身が危険です!!」

 

「でも、セラとリズは魔力供給のためにバーサーカーにも食事を準備した方がいいって――」

 

「確かに。確かに私たちはお嬢様の体を気遣い厚かましくも、そう提案させていただきました。ですが今は状況が違います!!」

 

まるで、自分の発言全てが間違っていた。

自分の浅はかな判断のせいでわたしが危険にあっている。

 

そんな風に、自分自身のすべてを否定するように首を横に振りセラ。握った両手の力が僅かにこもる。

早口ながらも、セラの訴えは止まらない。

自身を糾弾する声が、留まることなくセラの口から吐き出された。

 

「あれはバーサーカーがお嬢様に従順だった場合です。いまの奴はその基準にすら値しません。お嬢様、どうか、どうかわたしに、奴を遠ざけるよう、そう、お申し付けください」

 

セラの訴えは萎んだ風船のように弱々しく消えていき、うなだれるセラの表情は見えない。

そんな彼女の言葉を引き継ぐようにリズがセラの肩に手を置くと、一呼吸おいて彼女らしくゆっくりと口を開いた。

 

「まぁ確かにあの時は危なかったかな。でも、どうしてイリヤはバーサーカーと一緒に食事しようなんて思ったの? イリヤは怖くないの?」

 

リズの優しげに問いかけてくる声を聴いて、わたしは不謹慎にもうれしくなった。

やっぱりセラはセラだ。

わたしのために。私が危ない目に合わないようにこんなにも心配してくれる。

リズだって表情にはあまり出さないけど心配してくれているのだってわかる。

だから。ここはこの二人の主としてちゃんと答えなくちゃならないと。そう思った。

 

「最初は――うん。確かに怖かったよ。私、マスターなのに全然言う事聞いてくれなくて、チョップもするしとっても痛かった」

 

朗々と、まではいかずとも自分の中から言葉を探し出してゆっくりと、それでもって心を込めて口にする。

 

「今日の昼間だってわたしの言うことなんてろくに聞いてくれなかったし、怖かったこともたくさんあった」

 

思い返せば、今日一日がこんなにも長くも短く感じたことなどない。

怖いことも本当にたくさんあった。

初めての出来事もそれ以上にたくさんあった。

でも、それらはすべてバーサーカーがいたから。

彼がいたからこんなにも楽しい出来事があったのだ。

 

セラとリズには悪いけど、これだけは言わなきゃいけない。

でないと、わたしは本当の意味でバーサーカーの『マスター』になることなどできない。

だから、わたしはゆっくりと顔を上げるセラの目を見て、優しく微笑んで見せた。

 

「それでも私が召還したサーヴァントなんだから。一緒にご飯食べるのは当然でしょ?」

 

「・・・・・・ですがお嬢様」

 

「セラ、もういいでしょ。イリヤもああ言ってるんだし」

 

「っ!! リズはいいのですか!? あんな凶暴なモヤシがお嬢さまの傍に近づいているのを許して!!」

 

信じられない、といった口調で顔をリズの方に向け、立ち上がるセラ。

その表情はどこか裏切られたようにも見えるが、当のリズはキョトンとした顔をして、何の疑いもなく間髪入れずに首肯した。

それこそ、当たり前のように。

 

「うん。いいよ。それにバーサーカーは悪い人じゃない」

 

「どうしてあなたがそんなことを言い切れるのですか!!」

 

「だってバーサーカーは、なんだかんだ酷いことを言ってるけど結局は何もしない」

 

そう口にした途端。セラの顔から表情が消える。

それでも、リズは構わず飄々と何でもないように言葉を紡いでいく。

 

「私たちがイリヤを助けようとした時も何も言わなければ勝てたのに、わざわざ忠告してまで私達に怪我をさせないように手加減してくれた」

 

きっと初日に私を守ろうとかばってくれた時のことを言っているのだろう。

あのあと念入りに確認したことだが、派手な音を立てたわりにはリズもセラも傷らしい傷はなかった。その時は彼女たちに怪我がなくてホッとしてたけど、キャスター戦のバーサーカーを見ればあれが本気だなんて思えない。

リズの言葉に思い当たる節があのか、僅かばかりに唇を噛むセラ。

セラが唇を噛むときは、少なくとも不安で苛立っている時だけではない。核心を突かれたときも彼女は唇を噛む。

長い間、たまにリズに言い負かされるときなんかはしょっちゅうこの癖を出すのを、わたしはちゃんと知っている。

だからこそ、聞きたくないような認めたくない。

そんな色を灯し、鋭い目つきでリズを睨みつける彼女の瞳は、リズの言葉を理解しているのだろう。

 

「それって少なからず私たちを傷つけたくないってことでしょ?」

 

「リズ――」

 

確認。そんな風に小首をかしげるリズの言葉に、セラは何も口を出せない。

セラとリズ。

この二人の間にある絆は、きっと私と同じかそれ以上の深く、そして絡み合っている。

それこそ、わたしが立ち入る隙すらなくたった一つの理念を胸に抱いて。

わたしにはそれがどのようなものかはわからないけど、それでもメイドという間柄である彼女らには私には想像できないほど深く信じあっている。

だからこそ、何も言わなくてもセラがリズの言葉に納得していないことに気付けたのだろう。

リズは、小さく咳ばらいを一つ打って、セラから離れていく。それも一歩後ろに下がるのではない。

まるでどこかの林を散歩するかのような気軽さで。

 

「うん。確かにバーサーカーはイリヤを殺そうとした。それは私も許せない」

 

一歩一歩ゆっくりと歩みを進めていくリズ。

彼女の歩みを私とセラはゆっくりと追い、それを知ってか知らずかリズは口を動かしながらも何でもないように歩み続ける。

 

「それでも。バーサーカーはイリヤと向き合おうとした。最後に甘いことを言うのも殺す気なんてない証拠」

 

誰かの言葉を代弁するかのように。

本人にはその気はなくとも。その一歩一歩は確かに近づいていく。

静かに語られる彼女の言葉を遮る者は誰もいない。

そのことを知っているのか、リズは自信ありげな表情を浮かべ、やがて立ち止まる。

 

「そう。それはまるでチェックリストに一つ一つ埋めていってイリヤを助けようとするみたいに」

 

「それは、あくまで推論です。お嬢様が危険に晒される事には変わりありません」

 

「そうだねセラ。だからバーサーカー」

 

「・・・・・・あン」

 

初めて、リズとバーサーカーの視線がぶつかる。

一切そらされることのない視線がぶつかり、リズがゆっくりと腰をかがめると、

 

「もうあんな乱暴なことしないって約束して」

 

リズは優しく彼の細く白い手をやさしく包み込んだ。

ただただ傍観していたバーサーカーは怪訝そうにその両手を見るばかりで振り払おうとはしない。

わたしですら容易に触らせてもらえなかった彼の手を、リズはあんなにも簡単に手を取った。

 

誰にも触れさせなかった手を。

 

「リズ! お嬢様の言う事も聞かないようなサーヴァントにお願いしたところで――」

 

「セラは黙ってて。バーサーカー?」

 

間髪飛ぶセラの声を珍しく厳しい声色で閉じさせる。

そして再びゆっくりとバーサーカーと視線を混じり合わせる。

ゆっくりと。

ゆっくりと額を合わせるように近づけていく。

 

そして、

 

「バーサーカー。約束して」

 

「・・・・・・」

 

「バーサーカー」

 

「・・・・・・・・・・・・わかったよ」

 

「「えっ!!」」

 

たった一言。

短くも弱々しいそんな一言。

それでもわたしが引き出したかった一言をリズが引き出した。

 

あのバーサーカーが、リズの言うことを聞いた。

それだけで、わたしとセラは顔を見合わせて、もう一度バーサーカーの方を向いた。

 

リズは満足げな表情で胸を張ると、荒々しく鼻を鳴らして立ち上がり、バーサーカーは忌々しそうにリズの両手を振り払い小さく舌を打つ。

 

「絶対、約束だからね」

 

「だから、わかったっつってンだろ。しつけェぞ」

 

「素直じゃないね。――セラ。これでいいでしょ」

 

「しかし、そんな口約束では――」

 

「おいクソメイド」

 

「――っ!」

 

まるで夢みたいな出来事に戸惑うセラに、バーサーカーは立ち上がりセラの名を呼ぶ。

先ほどまでのように荒々しかった彼女の姿はなく、どこか怯えたように身構えるセラ。

そんな彼女を見つめるバーサーカーは、どこか当然だなとでも言いたげな寂しい表情を浮かべ、忠告でもするように乱暴な言葉を吐き出した。

 

「テメェが俺に対して抱いてる警戒心は至って正常だ。むしろ、このアホが異常なだけだ」

 

そう言って横に立つリズを親指で指す。当の本人はいまいちよくわかっていないらしくボーっとバーサーカーを眺めている。

 

「・・・・・・お前はこのまま俺に対して警戒心を持ち続けろ。決して俺に気を許すな」

 

そう言って、バーサーカーはおもむろに扉の方まで歩き出した。

その後ろ姿が、あまりにも遠く感じてわたしは思わず椅子から飛び降りてバーサーカーの名前を叫ぶ。

 

「待ってバーサーカー! どこに行くつもりなの?」

 

「便所だ。つまんねェこと聞くんじゃねェ」

 

制止させるわたしの声に、気だるげな声でくだらなそうに返すバーサーカー

そう言って扉に手を掛けたところで、誤作動を起こしたように突然立ち止まり、まるでなんでもなかったかのようにわたしの方に振り返った。

 

「――あぁそうだった。おいクソガキ、後で二人だけで話がある。適当に時間が経ったら俺がいた倉庫まで来い。俺とお前にとって大事な話だ」

 

そこまで言って、なにか言葉を詰まらせたように黙ると、一方通行はあえてこちらを向かないように、扉の方を向き直り、

 

「それと、・・・・・・・・・・・・・・・メシは悪くなかった」

 

そう小さく言い残して、扉をくぐっていった。

 

 

 

 

残り香のように扉を閉める音がやけに大きく聞こえ、一瞬呆けたような静寂が再び食堂を支配した。

あとに残るのはうるさく時間を刻む時計の音と、三人分の浅い呼吸の音。

あのにぎやかな食堂がいまはこんなにも静かに感じられる。

 

「いっちゃったね」

 

緩慢な動きでのらりくらりと消えていった白いサーヴァントの行方を見つめ、ぽつりと呟くリズの言葉にわたしは小さく頷いた。

 

「うん。でもバーサーカーも少し心を開いてくれたような気がする。――ありがとね、セラ。それにリズ」

 

「うん。わたし頑張った」

 

まるで一つの大仕事を終えたみたいに大きく頷くリズに、わたしは大きく頷いて、ゆっくりと椅子に腰かけた。

そして大きく息をついて、天井を仰いだ。

気が抜けたとでもいえばいいのか。

緊張しすぎて立っていられなかった。

 

今日は本当にいろいろなことがありすぎた。でもそのすべてがどこか心地よく、ちょっとずつでも進んでいるんだと感じられてうれしくなる.

ニマニマと緩む頬が抑えきれなくて、堪らずリズの名前を呼ぶと、元の鞘に戻るように駆け足で走ってくるリズを抱き留める。

勢いがつきすぎたせいか、座ったままではバランスが悪く危うく後ろに倒れそうになったが、さすがリズ。絶妙な力加減で倒れないように椅子ごとわたしを支えて見せた。

 

「ふわぁ! リズ重いよ」

 

「ムッ。女性に重いと言うのは失礼。イリヤにはこうしてやる」

 

「わっ! ちょっとリズやめて。くすぐったい!!」

 

わき腹を巧みな指使いで触られてはたまらない。

手足をばたつかせ抵抗を試みるも何せ身長差がすごい。わたしの抵抗もむなしく、数十秒の間わたしはリズのされるがままになっていた。

そうして、満足げにくすぐり終えたのか、疲れ切った私から目を離すと、リズはおもむろに床に座り込んでいるセラに問いかけた。

 

「ん? どうしたのセラ。暗い顔してるよ」

 

「・・・・・・私は、なにも」

 

か細く聞き逃しそうになる声。

それでも私にはちゃんと聞こえた。

乱れた呼吸を整えて、一息に椅子から飛び降りると、ゆっくりとセラの前に膝をついて彼女を抱きしめた。

 

「――セラ? 本当にありがとね」

 

「いえ、私はただお嬢様のことを――」

 

「セラは私のことを考えてああ言ってくれたんだよね」

 

主の前で泣くまいとしているのか、こういう時のセラはすごく強情だ。

抱きしめているわたしにはセラが小さく震えているのがよくわかるのに、それでも何でもないように振る舞うんだから。

背中をさすって、優しく叩いて、ゆっくり落ち着かせる。

セラらしいと言えばセラらしい、けど。

 

「バーサーカーもバーサーカーだよね。いっくら言っても女の子に優しくしないなんて――あんな言い方はずるいよね」

 

「私は、私は」

 

何でもないようにあの白いサーヴァントのことを語りだすと、耐えきれなくなったようにセラの両目からポロポロと透明な液体が流れだした。

それを見てわずかに微笑むと、セラの胸に顔をうずめるように抱きしめてから、そっと息を吐き出した。

 

「大丈夫だよ。セラの気持ちは私がちゃんとわかってる。それにバーサーカーも」

 

顔を離して、柔らかなセラの頬に右手を添える。

整えられた滑らかな頬に指を這わせて、彼女の涙をぬぐってやると、その両目から再びとめどなく涙があふれてくる。

 

「バーサーカーはね、きっと人との付き合い方がわかんないのかもしれない。・・・・・・だから、どうしてもあんなひどい言い方になっちゃうのかも」

 

だから、とそう口にしたあと、わたしはとても照れくさい気持ちになったが、とても言わずにはいられない気持ちになって、思わず両手を広げてセラを迎え入れた。

 

「我慢しなくていいよ。いつも甘えさせてもらってるんだから今日くらい、わたしに甘えて、ね?」

 

「お、おじょうさま~~」

 

「よしよし」

 

感極まったように、瞳をさらに潤ませ飛びつくようにしてセラの抱擁を受け入れる。

その頭を小さく撫でてやると、うしろからリズがすり寄りわたしと同じようにセラの頭を優しく撫でた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「――落ち着いた?」

 

「はい、見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ございませんでした」

 

スンと鼻を鳴らすセラはどこか気恥ずかしそうだ。

でもわたしのほうがずっと年上なんだから、もっと甘えてくれたっていいと思う。

口には出せないけど、今日くらいは。

 

「そっか。じゃあ一緒にタイヤキでも食べよっか」

 

「「はい・うん」」

 

このあとバーサーカーが待ってるんだけど、レディを泣かせたんだからそれくらいは大目に見てくれてもいいよね。

そんなことを、胸の内で呟いてわたしはセラとリズの手を引いて厨房に駆け出した。

 

 

 




どもども川ノ上です。

梅雨の時期に入り、じめじめとした季節がやってきました。
季節の変わり目なので体調を崩しがちな作者ですが、今回も全力で書かせていただきました。

面白かったのであれば幸いです。

今後とも、面白くなるよう最大限の努力をしていく所存ですので、なにかアドバイスなど遠慮なくおっしゃってください。
至らないところを修正し、少しでも皆さんに面白いものを届けるよう、努力していきます。

相変わらずの亀投稿ですが、今回はこの辺りで筆を置かせていただきます。
感想、ご指摘、評価のほどを頂けるのであれば、よろしくお願いいたします。
読んでいただきありがとうございました!!

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