運命の始まり
時計の鐘が十二の音を告げたとき。
一人の少女は、薄暗い地下室で静かに呼吸を整えていた。
ここは冬木市にあるとある城の地下室。
埃などという不純物は一切なく。つねに掃除が行き届いた完璧な一室だ。
天井は通常の住宅の三倍ほど高く。部屋の広さも部屋と言うにはあまりにも広い。
いっそ、ここで大人数で運動会をしても何ら問題ないくらいの広さだ。
いや。もともとこの部屋は『運動』を目的としていると言っても過言ではないのかもしれない。
しかし、それは今も静かに佇んでいる少女のためのものではない。
窓もなく、外界から隔離していると言ってもいいこの部屋で、少女は目を閉じて瞑想を続けている。
この部屋には彼女以外誰もいない。
普段ついてまわる従者もこの時ばかりは席を外してもらった。
これは少女の仕事であり、今までの全てが少女の行動に掛かっていると言ってもいい。
だから彼女達には席を外してもらったのだ。
自分の生きる意味を証明するために。
壁に取り付けられた蝋燭達は、頼りのない光だが、それでも少女の周りを照らすには十分すぎる。
薄暗い部屋のなか。ふっと視線を落とすと、彼女の足元には、銀色に輝く複雑な図形が幾重にも重なって描かれている。一般人には落書きのように見える図でも、見るものが見れば、それは完璧なまでの陣を形成していた。
魔方陣。
一般人が決して学ぶ事も、触れる事も出来ない奇跡の公式。
白銀の髪を小さく揺らすと、『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』は右手を前方に掲げて大きく息を吸った。
「―――
刹那、イリヤは口を開き、静かにそして美しく言葉をつむぎ始める。言葉の一つ一つが「魔術」の形となり、呼応するかのように魔方陣が輝き出す。
空気は不自然に生き物のように脈動し、そして少女の願いに答えるように魔法陣の輝きが一層強くなる。
「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。」
魔方陣からまばゆい光が漏れ出し、絞り込まれるように光は陣のなかに収束される。魔力を帯びた光は薄暗い地下室を照らし、全てを白の世界へと染め上げる。
「―――汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!!」
そして、次の瞬間、照明が落ちたかのよう全ての光が消え失せた。
突然の静寂。全ての音が消えてしまったかのように思えるほどあっけない静寂。
それでも部屋の中心に立つイリヤにとっては心待ちにした瞬間だった。
これでようやく。
手をかざして視界を確保する。それと同時に、イリヤの胸は今にも張り裂けんばかりに鼓動していた。
魔方陣を中心とした全方位に不自然な『風』が吹き荒れ、やがて静かに収まっていく。
そして、そこには先程までいなかった人物が魔方陣の上に立っていた――
如何ですか? と言われてもなんとも微妙にコメントに困る内容だったと思います。
なにせまだ始まったばかりなのですから。
仕事などその他諸々の理由で更新が遅れるかもしれませんが、どうか温かい目で見守ってください。
感想やアドバイスなどあると、とても励みになり助かります。
ーーー
ここでちょっと諸注意。
この作品では都合上、イリヤのスペックを下げることとしました。
どういったものかは追々物語を進めて語っていきたいと思います。
原作とは少し違うところはありますが、よろしくお願いします。