武の竜神と死の支配者   作:Tack

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 御無沙汰しております。
 昨晩、話の通じない恐怖公の眷属と二時間近くの死闘を繰り広げ、ギリギリで討ち果たすことの出来たTackです。
 最近、家の方で重大なトラブルに見舞われ、更新が大変遅くなってしまったことを謝罪致します。
 余り長くなるのは好まないので、取り敢えず挨拶はここまでで本編をどうぞ。


第三十話【シュウジとモーガン~白と黒⑧~】

 

 

 大量のアンデッドが蠢くエ・ランテル共同墓地。そこに突如、直径十メートル以上はあろうかという竜巻が発生した。

 それは、周囲にひしめくアンデッド達を次々と飲み込み、自身の持つ凄まじい風圧をもって咬み砕いていく。

 やがて、付近にいたアンデッドを全て残骸にし、その竜巻は次なる獲物を求め移動を開始する。

 西に東、北へ南へと竜巻は動き回り、とうとう付近にいたアンデッドは駆逐された。

 すると、仕事を終えたとばかりに竜巻の勢いが弱まっていき、やがて完全に消滅する。

 代わりにその中から、竜巻を生み出した張本人が現れた。

 

 

「っとと。……うーん、連続使用はまだ無理か。この間と一緒で足元がふらつく」

 

 

 ユグドラシル時代にはなかった技後硬直、という名のふらつきを堪えながら、ドモンは自身の修業不足を嘆いた。

 本来ならば周囲に甚大な被害を及ぼす筈であったアンデッドの群れ。それをいとも容易く片付けてしまった当人の口から出たのは、技の練度が低いという感想のみ。

 いくらモンスターとは言え、いささか不憫である。

 

 

「さて、そろそろアインズさん達が来てもいいと思うんだが……」

 

 

 軽く屈伸をし、後方にある門の方角を見ながらドモンが呟く。

 すると丁度そこにアインズ、その後ろからナーベラルとハムスケが現れた。

 

 

「さっきのは凄かったなシュウジ。お陰で楽に進めたよ」

 

「まだまだ未完成だけどな」

 

「あれでか?」

 

「あぁ、見た目が派手なだけさ。まだまだ精進せねば……、そんな感じだな」

 

「難しいもんなんだなぁ」

 

 

 演技か、それとも知らずの内か、ドモンはアインズの言葉の端々に、ユグドラシル時代(かつて)を思い出させるものがあることに気付く。

 親しい友人と楽しく会話をしている。そういう類いの雰囲気を感じ取れたのだ。

 最近は守護者達と同じ場にいるのが多いこともあり、二人で『至高の存在』という看板を外して気楽に話せる機会が少なかった。

 少なかったという言葉の通り、機会が全くない訳ではなかったのだが、話す内容が内容だけに、とても気楽にという雰囲気ではなかった、というのが正しい。

 そのため、アインズの精神面を心配していたドモンだったが、少し考え過ぎだったかと胸を撫で下ろす。

 冒険者としての設定、それがいい方向に進んでくれていることを喜んでいると、その余韻をブチ壊そうとする者が現れる。

 

 

「い、今のすんごい竜巻は、もしかしてシュウジ殿がやったので御座るか!?」

 

 

 突然の乱入者。二人が同時に横へ首を動かすと、アインズの後ろにいたハムスケが、ふんすふんすと鼻息を荒くし、興奮冷めやらぬ様子で身を乗り出していた。

 その顔には恐れと尊敬が見える――。ような気がするとドモンは思う。

 普段はあまり気にする方ではないが、今のタイミングはないだろうと不満を覚えた。

 軽くしばくか、指の関節をポキポキ鳴らし始めると、視界の端に感情のオーラが入り込んできたのに気付く。

 そちらに目をやると、あからさまに不機嫌なオーラを纏うアインズが見えた。

 オマケに、その手は背中の剣に向かっている。

 ……自分は耐えねば。自らを戒め、ハムスケの命を守るために行動する。

 不満自体は感じたものの、何だかんだと言ってドモンはハムスケのことを気に入っているからだ。

 

 

「……おい、ハムスケ。俺の華麗な技に惚れるのは分かるが、俺達は今楽しくお喋りしてんだ、割り込むなら空気を読みな」

 

 

 キャラに合わせて少々乱暴な物言いをするドモン。

 野生動物に空気を読めというのもどうか、そう思いつつも、一応会話が出来るのだから可能性はある。そう自分に言い聞かせる。

 だめ押しでもう一言だけ言うか、そう考えた時、ナーベラルがハムスケの前に立った。

 

 

(……あまりに酷い言い方さえしなきゃ、ナーベラルに言わせるのも手か)

 

 

 何かしらの理由で自分がいない時、その状況でも柔軟に、あらゆる物事に対応出来るよう人物になって貰いたい。それを以前より思案していたドモンは、ナーベラルがハムスケに対し、どう出るかを見るため口をつぐむ。

 普段の言動からして二択が候補として浮かび上がった。

 シモベたる者、主達の会話に不必要に割り込むべからず。もしくは、主達の偉大さを改めて知れて良かったな、の二択だ。

 この状況でドモンが言って欲しいと願ったのは前者。

 つまるところ、ナーベラルにも空気を読む練習をして欲しかったのだ。

 御膳立てはしてあるし、これなら流石に間違えないだろうとドモンは思った。が、その直後、全身の力が抜け、自身が思い切り体勢を崩す姿を想像してしまう。

 

 

「ハムスケ、御兄様の仰る通りよ」

 

(うんうん。やっぱりそうだよな)

 

「でもね……」

 

(うんうん…………うん?)

 

 

 欲を言うならもう一言二言付け加えて欲しかったが、ギリギリ及第点。最悪、そこで終わっていい筈のところで言葉を続けるナーベラル。それにドモンは微かな不安を覚えた。

 

 

「御兄様の技に見惚れるのは私も同意するわ。只の畜生だと思っていたけど、中々見所があるようね。それと、一応言っておくわ、御兄様にとってはあの程度のこと朝飯前よ? なんたって私の御兄様なのだから。どう? もっと尊敬していいのよ? 因みに……」

 

 

 おそらく、ドモンが初めて見たナーベラルのマシンガントーク。

 確かに、言っていることは普通に聞く分には問題ない。普通に聞く分には。

 しかしながら、ドモンが求めていたのはあくまで話の流れを読み、そこに適した言葉を当てはめるだけのこと。

 決してベタ誉めして欲しかった訳ではないし、そもそも長過ぎる。

 

 

(……まさかの両方かよ。言うこと多すぎだろ……。 ……デミウルゴス辺りなら大丈夫なんだろうけどなぁ)

 

 

 まるで自分が誉められたかの様に胸を張り、渾身のドヤ顔で語るナーベラル。気のせいか、フフンという言葉が彼女の横に浮かんでいる様にも見えてしまう。

 やれやれと溜め息を吐きつつも、ナーベラルに多少の声をかけるべきか迷った時、ドモンはとある出来事を思い出す。

 その昔、義妹が友達を連れて家に来た時、自分を自慢のお兄ちゃんと紹介していたことだ。

 今では思い出すのも辛い筈の過去。にも関わらず、口からはつい笑いが漏れる。

 勿論その笑いには、ナーベラルにはまだ難しかったかという苦笑いがアクセントされている。

 

 

(そういや、他にも何が凄いのか1日中張り付かれたな。部屋が汚いって所で笑われたっけか)

 

 

 そんなことを思い出しながらくっくっくっと笑っていると、皆が自分をポカンと見ているのに気付く。

 ドモンは少し恥ずかしくなったのを誤魔化す為、わざとらしく咳をすると、改めて先に行くことを促したのだった。

 

 

//※//

 

 

 ンフィーレアを拉致した者達がいるであろう最奥の霊廟に向かう最中、ドモンはふと気になり、並んで歩くアインズへと伝言(メッセージ)を送る。

 

 

《そういや気になってたんですが、ここ(墓地)に他の冒険者とかが入って来れない様、何かしらの対策ってしてあります?》

 

 

 先に飛び出した手前、申し訳なさを感じながらドモンは尋ねる。キャラ作りの為とはいえ、先行してしまったことに責任を感じていたのだ。

 それをよくぞ聞いてくれた、といった風にアインズは答える。

 

 

《勿論ですよ。墓地の周囲を少し強め……、とは言っても我々にとっては雑魚の部類ですがね、そいつらを警戒にあたらせています。中に侵入しようとする者がいたら殺さない程度で蹴散らせ、ってね》

 

 

 アインズの言葉を聞いてドモンは胸を撫で下ろすと同時に、一つ提案をした。

 

 

《ならついでと言うのも変ですが、ナザリックに『死の騎士(デスナイト)・改』いましたよね? それを一体、出来れば二体使い潰させて貰えませんか?》

 

 

 『死の騎士(デスナイト)・改』というのは、以前ドモン達がカルネ村で蹴散らした法国の兵士達、それを媒介にしてアインズが生み出したモンスターだ。

 召喚可能時間を過ぎても消滅しないことから、今後ナザリックに必要と考えられている戦力強化、それに相応しいものかの耐久実験を行っている最中である。

 

 余談だが、『改』と言うのは便宜上つけただけのもので、スペックはアインズが普通に生み出した死の騎士(デスナイト)と比較し、特に変わらないという結果が出ている。

 

 

死の騎士(デスナイト)・改を? 構いませんが、そりゃまた何で?》

 

《雑魚しか蹴散らせない者、対して強大なアンデッドすらも蹴散らす冒険者。……どちらが英雄たるかは明白でしょう?》

 

 

 ドモンは布生地の下でにやりと唇を歪ませ、それを見たアインズも一瞬思考した後、同じように唇(無いのだが)を歪ませた。

 この出来事(ンフィーレア拉致)自体はドモン達主導のもとではないため、正確にいうと間違いなのかもしれないが、ドモンが提案をしたのは所謂自作自演(マッチポンプ)

 どういうことかというと、まず極力目立つ位置にに死の騎士(デスナイト)・改の死体(破片?)をばらまく。出来れば倒したアンデッド達の中に自然と混ざるようにだ。

 そして、事件解決後に訪れるであろう冒険者組合などの人間に見付けさせる。

 すると、それはそのままドモン達が、死の騎士(デスナイト)すら倒す凄腕の冒険者という証明になる。

 疑問の声があがることも予想されるが、それは一時的に行動を共にした漆黒の剣(ペテル達)の証言や、自分達の演技などでカバーが効くと考えていた。

 大前提である強力なモンスターという点も、死の騎士(デスナイト)が出現自体、国家を揺るがしかねない絶望的なモンスターであるという調べがついている。

 

 

 

《確かに、大きな事件になる可能性がありますからね。解決後に調査が入る。その確率は高いでしょうね。……お主も悪よのう、ドモン》

 

《……いえいえ、アインズ様こそ》

 

 

 二人は昔、ギルドの皆ともこうやってふざけあったことを思い出しながら小さく笑った。

 それから敵の目的や、今後のことについて話つつもアンデッドを蹴散らし、気付けば霊廟(目的地)へと辿り着いていた。

 そこにはローブに身を包み、フードをすっぽりと被った怪しい者達がおり、円陣を組んでなにやら呪文を唱えている。

 正に邪悪な儀式と言えるものの真っ最中であった。

 するとその中の一人がドモン達に気付き、唯一フードを被っていなかった男に囁きかける。

 

 

「……カジット様、来ました」

 

 

 その言葉を聞いた直後、ドモンとアインズは思ったことをつい口に出してしまった。

 

 

「「馬鹿だろお前」」

 

 

 素晴らしい程ハモった為、敵味方問わず二人を凝視した後、怪しい集団の中心人物らしき男カジットは、自らの名前を漏らした者を睨み付ける。

 しまったという雰囲気を出しながら、最初に言葉を発した男は縮こまってしまった。

 

 

「やぁ、いい夜だなぁカジット(・・・・)。そんな怪しい儀式をやるには、些か勿体無いとは思わないか?」

 

「……やかましい、儀式に適した時かどうかは儂が決めておる。……そんなことより貴様達は何者だ、どうやってここまで来た?」

 

 

 円陣の中心にいた男カジットは、アインズに当然の疑問を投げ掛ける。

 すぐさまそれに反応し、ドモンはスキルによってカジットの中にある、重要とおぼしき情報を幾つか読み取る。

 目の前のカジットが偽物(フェイク)であること警戒したが故の行動だ。

 そして、情報を上手く纏めてアインズに伝えると、そこからはアインズの番となる。

 

 

「……私達は雇われた冒険者さ。どういった理由で雇われたかは……、分かるだろう? それとどうやって来たかの話だが、只斬り伏せただけさ」

 

「何だと?」

 

 

 大量にいたアンデッド達を全て倒した。流石にそれを信じなかったが、相応の警戒はすべしとカジットは軽く両手を広げる。

 それを合図に、周囲にいた怪しい者達が間隔を開け始め、やがてカジットを中心に扇状に広がる。

 いつ戦闘が始まってもおかしくない空気になったが、それを無視してドモンは一歩前へと出た。

 

 

「あ~、闘り合うのは構わねえんだが、先に聞いておきたいことがある。……お前の連れに刺突武器を持ったやつがいるな?」

 

 

 声のトーンを一段下げ、ドモンはカジットを睨む。

 

 

「何だと? …………いや、そんなやつは知ら――」

 

「いいよぉ、カジッちゃ~ん」

 

「クレマンティーヌ、貴様!?」

 

 

 カジットが勢いよく振り返ると、その女はいた。

 お前も名前呼んでるじゃねえか。ドモンの口からその言葉は出てこなかった。

 ドモンだけではない。アインズも只黙していた。

 半ば冗談に聞こえるようなことを言える空気ではないと感じとったからだ。

 

 一方、クレマンティーヌと呼ばれた女を睨み付けていたドモンは、予想以上に自分に精神的余裕が無いと判断すると同時に、コイツだなと強く確信した。

 スキルなど使わずとも分かる。

 容姿がニニャ達から聞いた通りということもあったが、何よりも女が発する雰囲気、そして身体に纏う血の臭いで分かったのだ。

 

 微笑みなどとは到底言えない薄笑い。

 それだけでも分かってしまう。

 コイツは今まで遊び半分の気持ちで多くの命を奪ってきた筈だ(・・・・・・・)

 この女はそういう生き物なのだろう(・・・・・)、と 。

 

 

(…………何だ? この違和感は……。奪ってきた筈? なのだろう? そんな馬鹿な、事実、ニニャを無惨な殺し方をしている。この女はそういう人間なんだ)

 

 

 己の中に生まれた小さな違和感。目の前の敵を撃滅する為に不要と切り捨て、ドモンはその女へと再び意識を向ける。

 その女クレマンティーヌは、存在を伏せておいてからの奇襲作戦を潰したとして、ばらされた本人のカジットから罵声を浴びていた。

 

 

「だぁから~、悪かったって言ってんじゃん」

 

「ならもっと反省した様子でも見せろ!」

 

「はぁ~い、ごめんなさいカジっちゃ~ん」

 

「お・の・れ・は……!」

 

 

 舌を出し、ウィンクをしながら謝るクレマンティーヌと、青筋を立ててプルプルと震えるカジットは、はたから見ると最早漫才をしている様にしか見えない。

 当然のことだが、ドモンが読み取った情報の中にクレマンティーヌもおり、実際のところ奇襲の体は成していない。

 だが、油断する理由にはならないとドモンが気を引き締め直すと、クレマンティーヌが自分の方に視線を向けたのに気付く。

 細めていた目を更に細め、さながら獲物を前にした肉食獣が如き表情。

 それを合図と受け取り、ドモンはクレマンティーヌに向こうへ行けと首を動かす。

 一対一(タイマン)の誘い。

 両者が無言のまま歩き始めし、戦いの場へと赴こうとした時、それに待ったをかける者が現れる。

 

 

「ここは私が行こう」

 

 

 アインズだ。

 確かに、彼には力を試してみたいという欲はあった。それと同時に、ニニャの仇(生き返りはしたが)をとらせてやりたいという気持ちもあった。

 しかしだ、実際アインズの根底にあったのは、冷静に振る舞っている様にしか見えないドモンを、自分がどうにかして止めたいというもの。

 復讐心は分かる。だが、それを素直に『はいそうですか』と認める訳にはいかない。

 結局のところ、ドモンが心配でたまらない。これに尽きるのだ。

 

 それらの複雑な感情がこもり、これは友のためだと割り切って肩を掴もうとしたアインズを、ドモンの発したオーラ、そして静かな一言が一刀のもと切り捨てた。

 

 

 

「――俺がやる」

 

 

 背を向けたままのドモン。ところが、それはアインズに別の映像を見せていた。

 

 

「――ひぅっ!」

 

 

 自身にしか聞こえない程の小声ではあったが、アインズは確かに悲鳴を上げた。

 不死者の頂点の姿となり、ナザリックですっかり異形の者を見慣れた、そう思っていた筈の彼は見た。いや、見てしまった。

 確かに、今でも異形の姿に驚きを感じることはあるだろう。中には思わず口を押さえ、嘔吐感を堪えなければいけない、そんな見た目をもった者もいるだろう。

 それでも一度、多くて二度の精神安定が発動すれば問題はないと思っていた。

 ところが、それ(・・)は違った。

 

 

――()

 

 

 現実の世界各地には、未だ()に関する様々な伝承が残る。

 曰く、迷宮の最奥にて財宝を守護する。

 曰く、来たりし時世界を終末へと導く。

 曰く、苦しむ民の為、その身を犠牲にし救いを与える。

 

 それらは長い年月の中、形を変え人々の記憶に残っている。

 時にはゲームの設定として、時には小説や映画などの物語で強大な魔物としても登場した。

 アインズにとっても同じだ。自身の愛しているユグドラシル(ゲーム)でも竜は登場し、時には希少な素材として恩恵を、時には立ち塞がる強敵として認識していた。

 ……していたのだが、今目の前に現れた竜はそれらとは違った。

 敵ではない。しかし味方でもない。

 只単に恐ろしいものだとしか認識出来ない。

 竜だとは分かる筈なのだが、とてつもなく恐ろしい何かとしか表現出来ないと、アインズはひたすらに混乱していた。

 そしてその竜だと思われる何かが巨大な口を開く。それを回避する為に身体を動かそうとするが、アインズの身体は硬直して動かない。蛇に睨まれた様に硬直して動かない。

 自分が噛み砕かれる未来を幻視した時、ふいに声が聞こえた。

 

 

――大丈夫ですよ、アインズさん。上手くやります。

 

 

 それはとてもとても小さく聞こえた。

 ひょっとすると伝言(メッセージ)での言葉だったのかもしれない。

 確かなのは、その声がドモンのものであること。そして、どうやら自分以外には聞こえていないことだった。

 直後、アインズの目の前から巨大な何かが消え失せ、同時に身体全体を包み込んでいた圧力(プレッシャー)らしきものから解放された。

 

 

「――フゥッ! カハッ!」

 

 

 辛うじて頭が働き、出来る限りの小さな声で、自分が命の危機(?)から解放された喜びを噛み締める。

 

 

(な、何だ今のは!? ……竜、だったよな?)

 

 

 様々な状況を頭に浮かべるアインズだが、それと同時に、自分が何か不自然な行動をした様に見えたのではないか、その考えに至り焦り始める。

 不安に思いながら咄嗟に周囲を見回すと、意外なことに、付近にいた者達は先程と変わらない様子だった。

 アインズが不思議に思っていると、それに気付いたナーベラルが小声で話し掛けてきた。

 

 

「アインズ様、如何なされましたか?」

 

「い、いや……。何でもない、気にするな」

 

「……分かりました」

 

 

 ナーベラルはアインズの様子を不審に思いはしたが、本人による希望ということを汲み、それ以上追及しなかった。

 彼女が追及して来なかったことに安堵しながらも、アインズの脳裏にはまだあの恐怖がこびりついていた。

 それを振り払うように、アインズは再びドモンの方に視線を向ける。

 その先には既にクレマンティーヌを引き連れ、ドモンが一対一の勝負を行うべく歩を進めていた。

 不安はなかった筈のアインズだったが、今の不可思議な体験で心が揺らぐ。

 そのことが、彼に言葉を紡がせる。

 

 

「シュウジ! 大丈夫……だな?」

 

「……大丈夫だ、上手くやるさ」

 

 

 ドモンが返した言葉を聞いて尚不安は拭い去れなかったが、信じて待つしかないとアインズはそれ以上言葉を続けるのを止めた。

 ドモンとクレマンティーヌが遠ざかり、墓地に立ち込めている霧によって姿が見えなくなったのを見計らい、アインズは残った者達を見据えた。

 心に残る物を一時的に振り払い、兜のスリットから眼光を煌めかせる。

 

 

「さて、此方は此方で楽しくやろうか」

 




 今回の話もそうですが、人称が定まらず、感情表現も難しいと感じております。
 何か脱字や表現に対する御意見などございましたら、是非感想の方にお寄せ下さい。
 あるかどうかはさておき、御質問なども受けております。ではまた。

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