武の竜神と死の支配者   作:Tack

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 遅くなって申し訳ありません。
 今回、名前を呼ぶ所が若干くどいかもしれません。


幕間①

 話はンフィーレアに仕事を依頼される前の晩まで遡る。

 何とかエ・ランテルでの宿泊にまでこぎつけたドモンとアインズは、各々やるべきことをこなす為、一度ナザリックに戻るという話になった。

 

 そしてその後、周囲が寝静まるまで待ち、ナーベラルに留守を任せた状態でナザリックに帰還していた。

 

 アインズは日課となっているアンデッドの作成、作戦進行の確認などをする為に執務室へ。

 そして今、ドモンはシュバルツに会う為に第六階層に来ていた。

 

 

(さて、伝言(メッセージ)は送ってあるから行くか)

 

 

 円形闘技場(アンフィテアトルム)から出たドモンは、これから伝えるべき内容を頭の中で再度纏めた後、同じ階層に存在する特殊領域ギアナへと向かった。

 ギアナへと向かうのは、シュバルツにとある相談に乗ってもらう為だった。

 

 その相談内容とは、シュバルツが発見した蜥蜴人(リザードマン)の集落について。

 

 アインズと話し合った結果、大人しく自分達の庇護下に入るならば良し。入らないのであれば、少しだけ痛い目に合わせるという話になってしまった。

 勿論ドモンはそれに反対したのだが、カルネ村での独断をつつかれ渋々だが了承してしまった。

 

 

(まぁ……元はと言えば俺の独断が原因だからな)

 

 

 アインズは一応平和的な統治を望んではいるものの、王国で行う予定の大掛かりな作戦、更にはその後のことを危惧していた。

 それを円滑に進める為にも、多少強引な手は必要だとドモンは説得されたのだった。

 

 しかし、その蜥蜴人(リザードマン)関係のことで最後まで納得の出来ないことが幾つかあり、こうしてシュバルツに意見を求めにきたのだった。 

 

 

「さて、とりあえずギアナに……って、なんだありゃ?」

 

 

 闘技場から出たドモンの目の前に広がる密林(ジャングル)

 そこから一定間隔で飛び出す二つの影が見え、それを見たドモンは、思わず足を止め訝しげな表情で凝視する。

 

 

「あれは……アウラとマーレか?」

 

 

 かなり離れた位置ではあったが、身体能力諸々が人間の時と比べ格段に上がっていた為、二つの影の正体はすぐに分かった。

 ……なのだが、ドモンの疑問はそこで終わることはなく、その表情は訝しげなままである。

 依然として、二人が宙を舞う理由に思い当たる節がないからだ。

 

 その内、ここで立ち止まっていても仕方がないと判断したドモンは、一先ずアウラとマーレが見えた方向へ歩き出す。

 幸い、ギアナとはほぼ同じ方向だったのでさして時間もかからないだろう、そんな考えもあった。

 

 二人が見えた方向へと歩いていると、ドモンの視界が一旦緑に覆われる。

 巨大な密林(ジャングル)地帯へと足を踏み入れたからだ。

 

 

「それにしても……改めて見ると凄い所だな……」

 

 

 自身を囲む環境にドモン思わず感嘆を洩らす。

 

 ギルド(AOG)の中で誰よりも自然を愛したメンバー、【ブルー・プラネット】が心血を注いで作り上げた第六階層の星空も見事だったが、彼のもう一つの作品であるこの密林(ジャングル)もまた、違った意味で見事だった。

 

 

「星空は吸い込まれそうな魅力を感じたが、この場所は何と言うか……落ち着く……とでも言うのかな?」

 

 

 

 ドモンは、独り言を呟きながら歩を進める。

 本来ならば感知スキルなどを使用して走った方が早いのだが、ここから自身の感覚を頼りに歩くことにしていた。

 

 如何に目的地(ギアナ)と同じ方向と言えど、先程の二人の位置とドモンの現在地はそれなりに距離がある。

 にも関わらず、スキルも使用せず、更には走ることもしないのには訳があった。

 

 一つは、自分の家とも言える場所でスキルを使うのは間抜けと考えた為。

 

 そしてもう一つは、ドモン自身がゆっくりとこの場所を歩きたかったという理由だ。

 以上の二点からドモンは、自身の感覚のみで進むと決めたのだ。

 

 

(本物を目にしたことがある訳じゃないが、彼処を思い出すな)

 

 

 木々に囲まれた空間を歩きながら、ドモンは一つの光景を思い浮かべる。

 自身の過去としてシモベ達に見せたアニメ作品だ。

 あの作品には実在した場所が多数登場しており、その中の本物のギアナを思い浮かべたのだ。

 

 

「ブルー・プラネットさんの理想が今ここにありますよ……。もしこれが気に入らないと言うのであれば……そうですね。また皆で冒険に行きましょう、外にはまだまだ自然が広がっているみたいですから」

 

 

 ドモンは、自分の思い出の中に存在するブルー・プラネットに語りかけた。

 

 

//※//

 

 

 ドモンが様々なことを思いながら先程見た方向や音を頼りに進んだ結果、見事アウラとマーレの下へと辿り着くことが出来た。

 だが、そこには意外な人物がいた。

 

 

「おぉ! やはりお前だったか、ドモン!」

 

「シュバルツ? 何でここにいるんだ?」

 

 

 ギアナにいる筈のシュバルツがそこにはおり、ドモンを見るなり嬉しそうに言葉をかけてきた。

 ……アウラとマーレを何度も天高く投げ飛ばしながら。

 

 

「……一応聞くが、何をやってるんだ?」

 

「見て分からないか? 昔お前が小さい頃にもよくやってやっただろう、『たかいたかい』というやつだ」

 

「うん……何となくそうかな~とは思ってはいたんだが……」

 

 

 ドモンの視線がシュバルツから若干ずれ、何とも高低差の激しい『たかいたかい』をされている二人に移る。軽く数十メートル、下手をするともっと高い。

 

 暫くその光景を眺めていると、二人がドモンに気付き、シュバルツに下ろして欲しいと頼んだ。

 ドモンはそれを、臣下としての礼をするつもりなのだろうと察し、自分のことはいいから引き続き楽しむようにと促した。

 

 

「嫌がって……る訳じゃないみたいだな」

 

 

 ドモンの言葉通り、二人は何とも楽しげに宙を待っていた。

 

 

(アウラは兎も角、マーレは嫌がってると思ったんだがな)

 

 

 そんなことはないと思いつつも、シュバルツが無理矢理やっているのではないと一応の確認が取れたドモンは、改めてこの状況の説明を求めた。

 

 すると、シュバルツから返ってきた答えはこうだった。

 最初ドモンから伝言(メッセージ)が送られてきた後、暫くギアナで鍛練をしながら待っていた。

 すると、来訪者を伝える音が鳴り出てみると、そこにはドモンではなく、本日分の仕事を終えたアウラとマーレがいた。

 何の用かと聞くと、ドモンの昔の話を聞きたいと言い出したのだと言う。

 子供の頃の話なら不都合はないだろうと考え、二人に昔の話をしていると、話に出てきた【たかいたかい】とはどういうものなのかと尋ねられたので、こうやって実践している。とのことだった。

 

 

「だが、普通にやっては二人とも楽しくないのではないかと思ってな」

 

「それでこれか……。あ、そう言えばシュバルツ、この間お前に預けた彼等(・・)の調子はどうだ?」

 

「彼等か? そうだな、一言で表すと……。素晴らしい、だな。――お前達、出てこい」

 

 

 シュバルツの声に反応し、先程からドモンが感じていた気配の持ち主達が姿を現す。

 

 

「ハッ! シュバルツ様、御呼びでしょうか?」

 

 

 シュバルツの呼び掛けに答えた四体の影。

 名前を八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)と言う蜘蛛型のモンスターだ。

 気配遮断や透明化などのスキルを持ち、更には、強力な八回連続攻撃まで可能なモンスター。

 

 その特性から、護衛・暗殺・偵察をこなせる貴重な存在だとドモン、そしてアインズが目をつけていたモンスターである。

 

 彼等は以前、アインズとドモン、そして守護者達が話合った結果、ユグドラシル硬貨を消費して生み出された傭兵モンスターだ。

 スキルなどによる召喚とは違い、時間経過による消滅が起こらない。

 そこで一度、シュバルツに指揮権を預けた。

 彼が直接鍛練をすることによって、シモベもレベルアップが出来るかどうかの実験を行っていたのだ。

 更に、レベルアップが出来なくとも、今後隠密部隊として動く予定でもある。

 

 

「フム。お前の言葉から察するに、俺達(至高の存在)が満足出来る結果になったのかな?」

 

 

 シュバルツを中心に扇状に並ぶ八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)。それは非常に統率の取れた忍を思わせる姿。

 数日前に見た彼等とは何か違うものを感じ、ドモンは不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「無論、以前の彼等とは訳が違うぞ? ……お前達、対象を取り囲んでから捕縛する動きを見せてやれ。そうだな……対象はドモンだ」

 

「シュ! シュバルツ様、それは!?」

 

 

 シュバルツの発言に彼等の間でどよめきが起きる。

 当たり前のことだ。自分達の主人、神に対し不敬な行動をとれと言われたのだから。

 

 

「構わん。いや……寧ろ面白い! さぁ! お前達の修行の成果を見せてくれ!」

 

 

 ドモンはその言葉と共に距離を離す。

 困惑をしていたが、それが神の意思であり開始の合図と受け取った八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達は、自らの眼を紅く光らせドモンに迫る。

 

 

(成程。シュバルツの言葉に偽りなし、と言うことか!)

 

 

 召喚した直後とは明らかに動きが違う。そう思ったドモンは少しばかり速度を上げる。

 幾度か両者が交錯し、ドモンが満足し始めた頃、見計らったかのようにシュバルツの声が響く。

 

 

「そこまで!!! ……どうだ? ドモン」

 

「見事という他ないな。これならば何も問題ないだろう」

 

「「「「おぉ!!!」」」」

 

 

 至高の存在に認められた八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達から喜びの声があがる。

 自分達が微力ながらも至高の御方々の力になれる。そう彼等が確信したからだ。

 

 

「よし。確認したいことは終わったから……」

 

 

 と、そこでドモンの言葉が途切れる。

 その視線は八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達に向けられていた。

 暫し彼等を見た後、ドモンはシュバルツに問い掛ける。

 

 

「なぁ、シュバルツ。彼等の見分けはつくのか? それに、名前とかは?」

 

 

 至極当然の質問であった。彼等は見た目が全く同じ、更には声や仕草などにも違いが見受けられない。

 今後命令を下す時や、各々の分担などを言い渡す時に時間がかかるドモンは考えたのだ。

 

 

「私は見分けがつくぞ。だが……名前はまだないな」

 

「だったら、俺がつけようか?」

 

「「「「な、なんですとぉ!?」」」」

 

「おわっ!」

 

 

 突然八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達が叫び、それにドモンは驚き身を反らせる。

 そのドモンに対し、その内一体が前に出た。

 

 

「ま、誠で御座いますか!?」

 

「あ、あぁ……。それと、お前達の修行の成果に対し、俺から贈り物も渡したい。中々に楽しめたからな」

 

「お、お、おおぉっ……偉大なる神よ、感謝致します」

 

(何か、随分と大袈裟だな)

 

 

 ドモンは若干引きながらも自身のインベントリから四つの首飾りを取り出し、それを八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達の首部分にかけていく。

 ドモンは昆虫に詳しい訳ではなかったので、そこが本当に首かどうかは分からなかった。だが、他に着用出来そうな場所もないしなと、ドモンは自分を納得させる。

 彼等の首部分(暫定的)に着用されたその首飾りはそれぞれ、チェーンの中央にトランプの柄を象ったワンポイントがつけられていた。

 

 

「これは、俺のかつての戦友(とも)達の称号をあしらったものだ。そこまで強いものではないが、身体能力向上の効果もある。名前もここから取るとしよう」

 

「おぉ!!! 御話は伝え聞いております。何でも、ドモン様と共に世界を救った英雄であらせられる方々とか」

 

「まぁ……そうだな」

 

 

 何処で聞いたのか、ドモンの過去話を八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)は話題に出した。

 あまり掘り下げられて長話をするのも何だと考えたドモンは、テキパキと彼等に名前を与えることにした。

 

 

「よし。これからお前達はそれぞれクラブ、スペード、ダイヤ、ジョーカーと名乗るといい」

 

「「「「ハッ! 我等の新しき名! 確かに拝命致しました!」」」」

 

 

 その声は先程よりも力強く、また、新たな決意を持った声だった。

 そこへ、結局シュバルツのたかいたかいから下ろして貰ったアウラとマーレが、急いでドモンの所へと駆け寄る。

 

 

「ドモン様。やはり御挨拶させて下さい!」

 

「ぼ、僕も、やっぱり御挨拶をしたいです!」

 

 

 自分達の楽しみを邪魔しないようにというドモンの気遣いを察した二人は、それを無下にはしたくないと思いつつも、こうやって臣下の礼をとるべくドモンの元へときたのだった。

 

 

「そうか、その気持ちは嬉しいぞ」

 

 

 

 

 ドモンはその二人の言葉を笑顔で返しそれぞれの頭を撫でた。

 

 

「えへへ~」

 

「あ、有り難う……御座います」

 

 

 笑顔で頭を撫でられる二人。それを見たドモンは、予てよりアインズとの数多くの話題に上がっていたことを質問した。

 

 

「……なぁ、二人とも。俺とアインズさんは今、日頃からよくやってくれているお前達に何か褒美を与えたいと考えているんだが、それについて何か要望はあるか?」

 

「そんな! 褒美だなんて!」

 

「い、いりませんよ!」

 

「え?」

 

 

 いきなりの否定にドモンは困惑する。

 

 

「私達は至高の御方々のお役にたてるように生み出されました。ですから、その方々からの御命令に対し褒美を頂くなど!」

 

「そ、そうです! ……し、しいて言えば、これからもお仕えさせて頂きたいとしか……」

 

 

 他の守護者ならば理解出来るが、まさかこの二人からもここまで強い反発を受けると思ってはおらず、頭を掻きながらドモンは困り顔で考え込む。

 

 

「うーん、でもなぁ……。じゃあ、茶釜さんの昔の話とかも必要ないか……」

 

「…………ぁ」

 

「…………ぅ」

 

「うん?」

 

 

 最初難色を示していた二人だったが、ドモンの言葉に心を動かされ呻きを洩らす。

 勿論、この反応はドモンの予想通りである。

 

 

(子供苛めるのは趣味じゃないんだがな……)

 

 

 その後何度かドモンが誘惑の言葉を囁き、子供特有の甘えもあって、最終的には褒美を受け取る流れとなった。

 話が終わった丁度その時、シュバルツからドモンに対し疑問が投げ掛けられる。

 

 

「そう言えばドモン。私に何か話があったのではないか?」

 

「んー。いや……また後で構わない。それ程急ぎの案件という訳でもないからな。シュバルツには引き続き、二人のストレス発散の相手をして貰いたい」

 

「そうか、了解した。――ならば! ゲルマン流忍法の粋を以て、この二人を楽しませてみせようぞ!」

 

 

 そう言って、シュバルツは闇妖精の双子(アウラとマーレ)を肩に担ぎ上げ、高笑いを残し密林へと消えた。

 後に残った八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達も、ドモンに挨拶をしてからシュバルツの後を追った。

 

 

(さっきのたかいたかいは止めてくれると助かるんだけどなー。あれじゃ他界他界だよ)

 

 シュバルツがアウラとマーレに行っていたこと。それを普通の子供にも同じことをされては大事だ。

 

 

(シュバルツも冗談だとは思うんだけどなぁ)

 

 

 一人になったドモンは、ふと、シュバルツの肩に乗った二人の笑顔を思い出した。

 

 

「俺も……ああいう風になれたんだろうか……」

 

 

 かつての自分の家族達。そして、生まれてくる前に消えた小さな命。

 

 人ならざる身になってからも消えぬ後悔。それを今、ドモンは改めて感じていた。

 その後悔は止まることを知らず押し寄せ、ドモンの口から溢れていく。

 

 

「俺のような男が……何と虫のいい話か……」

 

 

 (エイジ)は、目元を伝う一筋の雫を拭い去ってからその場を後にした。

 

 




 時間が少し巻き戻ってのお話です。
 

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