昨晩の内に薬師の名前や居場所の確認、そしてその後の行動予測などをしたドモン達一行。
そんな彼等は今、依頼を求める者達でごった返すエ・ランテル冒険者組合に来ていた。
その目的は至って単純である。
今後ナザリックが堂々と表舞台に出る作戦。その為には
そしてその評価を上げる為に手っ取り早いのは高難度の依頼をこなすこと、それもどんな冒険者でも二の足を踏んでしまう、そんな依頼だ。
それを見付ける為、ドモンとアインズは依頼書の貼り出される掲示板を眺めていたのだが……。
《ほうほう、ふむふむ、成程成程……。うむ、読めん!》
《アインズさん……、そんな言い方しても読めるようになる訳じゃないですよ?》
今迄見たことのある言語のどれとも違う言語。アインズは完全にお手上げ状態だった。
《そうゆうドモンさんは読めるんですか?》
《……今、頭の中で一致する部分がないか色々な言語との照合をしている所です》
《へぇ~……って。解読出来んのかよ!!》
元いた世界と明らかに違う言語。それをドモンは解読にかかっていた。
最早恒例となったドモンの超人っぷりではあったが、アインズは未だに若干の抵抗感があった。
《……とは言っても時間がかかるでしょうから、ここはちゃっちゃとスキル使って読んじゃいます》
ドモン
今回はその中の一つを使用する。
《……うん、読める。このスキル上限までいってないんで少し不安でしたが、普通に読めます》
《ダンジョンとかで使う文字解読のスキルでしたよね? ……レベル低くても読めたのは日常的に使う文字だからでしょうか?》
《その可能性は高いですね》
スキルへの軽い考察なども交えながらドモンは掲示板を見まわし、やがて目的である
《……あった。モンスターのカテゴリ分けとかは兎も角、これが一番難易度高そうなやつですね。報酬が良いですから》
依頼書を手に取り、そのままカウンターに行こうとするドモンをアインズが止めた。
「待てシュウジ」
「ん? どうしたモーガン」
「それは
「あぁ、そうだが。……何か不味かったか?」
ドモンはアインズの考えが読めず困惑し、何か見落としていないかどうか自分の行動や言動を振り返る。
「シュウジ。この中で一番難しいであろう依頼書をくれ。但し、
「何だって? …………分かった」
二人と同じく掲示板を眺めていた他の
「……これだな。ほい、ミスリルへの依頼書だ」
「すまんな。では行くぞ」
「おう。……ナーベ、行くぞ」
少し離れている所で待機していたナーベラルを呼び戻し、ミスリルへの依頼書を持ったアインズと、それに続いてドモンとナーベラルがカウンターに向かう。
《アインズさん、一体何をするつもりなんですか?》
《ドモンさんに頼りっきりってのもなんですからね。ふふ、まぁ見てて下さいよ。外回りで鍛えられた俺の実力をお見せします》
《ほほぅ、それはそれは……。ではお手並み拝見といきますか》
笑顔でカウンターに座る女性。その前にアインズは立ち、先程の依頼書を提示する。
「すまないが、この依頼を受けたい」
「はい、お待ち下さ……」
笑顔で対応していた受付嬢の顔が固まる。そして一瞬アインズの首元をみてから、「しょうがないな」といった表情で口を開いた。
「申し訳御座いませんが、こちらはミスリルの方々宛の依頼になりま――」
「そんな事は分かっている。だからこそ持ってきたのだ」
アインズの一言に、組合にいた人間達が一斉に視線を送る。
「おい、今の聞いたか?」
「すげぇ
周囲から浴びせられる声を無視し、アインズは話を進める。
「さぁ、早くしてくれ。私達は急ぎの身でな」
「申し訳御座いませんが承諾しかねます」
「何故だ?」
「何故……って」
そんな分かり切ったことを言わなければいけないのか。受付嬢の顔には苛立ちがはっきりと表れていた。
「この依頼には数多くの命がかかっています。もし貴方が失敗などすれば、その命が危険に晒されます……!」
「何も問題はない。私の仲間である彼女、ナーベは第三位階魔法の使い手だ。そして私モーガンと彼、シュウジもそれに匹敵するだけの戦士だ。私達は実力に見合うだけの依頼を求めている」
アインズは自分の背後にいたナーベラルを指差し、この世界に於いて一般的な
「第三位階!? 嘘だろ!?」
「あの若さでか、すげぇな」
「今のが本当なら、あいつら何モンなんだよ」
モーガンの一言は中々に強烈であり、先程まで心無い言葉を浴びせていた者達でさえ驚いていた。
(成程……、アインズさん上手いな。自分達の実力を大々的にアピールし、更に幾つか策を潜ませていると見た。他の冒険者のヘイトを多少稼ぐかもしれんが、これから上手くやればいいってか? 全く、学歴が全てとかほざいていた
アインズの後ろでその会話を聞いていたドモンには、アインズの考えが少し読めた気がした。
「……申し訳御座いませんが、規則ですので」
「規則……か……」
「はい、規則です」
受付嬢はキッパリと言い切った。
だが、これはアインズの作戦の内である。
「……そうか、ならば仕方がないな。すまない、少し焦っていたようで迷惑をかけた。代わりに……と言うのもなんだが、私達でも受けることの出来る最も難易度の高い依頼をお願い出来るかな?」
「あ、はい!」
素直に聞き入れたこと、更には丁寧な返しを入れたことにより、受付嬢は笑顔で依頼を探しにいく。
《上手いですね、アインズさん》
《お褒め頂き恐縮です》
《周囲への実力者だと言うアピール。強者ではあるが、向こうの言い分を聞くことでそれを鼻にかけている訳ではない。更には、何かに焦っている様子を見せて例の作戦への布石に使った訳ですか。しかも、まだ数手隠されていると見ましたが……》
《ハハハ、深読みしすぎですよ。単純なことしかやってませんから、でも、まさか営業をやってたことが生きるとは夢にも思いませんでしたよ》
かつてサラリーマンとしてあくせく働いていたことを思い出し、意外に役立ってるなと思うアインズだった。
受付嬢が戻るまで他の依頼でも見ておくかとナーベを連れたドモンが離れ、アインズが一人でカウンター前で待っていると、ふいにアインズへ声をかける人物がいた。
「あの……」
「ん?」
「依頼を探されているのでしたら、良ければ私達と一緒に行きませんか?」
アインズが声のした方向に目を向けると、二階に続いているであろう階段に彼はいた。
茶色の短髪に皮の鎧と腰の剣。一見して軽装を主とする戦士だと判断出来る青年。
「貴方は……?」
アインズは警戒しているのを悟られないように会話をする。
「これは失礼。私はペテル、ペテル・モークと申します。あるチームのリーダーをしているのですが……。あぁ、彼等です」
同じチームの者達が上にいたのだろう。
それぞれ違う格好をした三人組。その者達が階段を降りながらペテルと名乗った青年と気軽な感じで会話をしている。
だが、その中の一人にアインズは目を釘付けにされた。
(? あいつ、何処かで見覚えが……)
この世界で会った人間はおぼろ気だが覚えている。しかし、その中に目の前の人間と似ている人物はいなかった。
(……何処で会ったかなぁ、思い出せん。まぁ、それなら今は――)
そこまで考えアインズは固まった。
何処で会ったのかを思い出したからだ。
「あ、すいません。彼等が……」
「失礼。申し訳ありませんが、少しだけ待って頂けますか?」
仲間を紹介しようとしたペテルを手で制止し、アインズは早歩きでドモンの下へと向かう。
その様子にペテルは、仲間に了解をとってくるものだと考えてそこで待つことにした。
《……エイジさん》
《はい? って、どうしたんですか?》
元の名で呼ばれ、何事かと思い振り返るドモン。
そこには、まるでドモンの視界を遮るように立つアインズの姿があった。
「どうした? モーガン」
「……落ち着いて聞いてくれ、シュウジ」
何時になく重い雰囲気を出すアインズに、ドモンはプレイヤーの影でも見たのかと考えた。
《プレイヤーですか?》
《いや、その……何と言えばいいのか……。ひょっとしたら俺の記憶違いかもしれないんですが……》
《はい?》
何とも煮え切らないアインズの言葉。それをドモンは全く理解出来なかった。
《プレイヤーじゃないなら何があったんですか? まさかトラブルとか?》
《いえ……トラブル……になるのか? こう言う場合》
《はぁ?》
《その……昔、エイジさん宅で何度かオフ会やったのを覚えてますか?》
現実世界での出来事を振られますます訳の分からなくなるドモン。
アインズが何かを伝えようとしているのと、それが何らかの理由で言い出し難いことなのは分かる、だが逆を言えばそれしか分からない。
最近は癖となっている思考加速を発動させながら
いずれ周囲の者達がボーッと見つめ合う両者を不審に思うだろう。
《勿論覚えていますが……、結局何が言いたいんですか? ………………アインズさんに限ってまさかとは思いますが、只俺の傷を抉りたい……って訳じゃあ、ないよな?》
ドモンの目にハッキリと怒り、そして敵意を通り越して殺意の色が現れ、それを見たアインズはまさかと両手をあげる。
「いいか、シュウジ……。ゆっくりと私の後方……、階段の途中にいる四人組を見るんだ。ゆっくりとだぞ?」
顔を近付け、小声で話すアインズ。
真意が分からず、怒りなどの感情を押し込めたドモンは、指示通りゆっくりとアインズの後方──階段の途中にいる四人組とやら──を見た。
確かにいる。四人組が。皆で談話している。
それを一人一人確認していき、最後の一人。
装備からして
──ドモンの目が大きく見開かれた。
動悸は加速し、呼吸も乱れる。
やがて、掠れるようなとても小さな声で一人の人物名前を呟く。
「
階段で仲間達と談話していたのは、髪の色こそ多少違えど、紛れもなくドモンの
//※//
「──以上が、私達『漆黒の剣』の全メンバーになります」
冒険者チーム『漆黒の剣』のリーダーである青年、ペテル・モークのメンバー紹介が終わった。
次はアインズ達の番なのだが、その中の一人であるドモンは未だ強烈なショックから立ち直れずにいた。
「私の名はモーガン、横にいる彼がシュウジ。そして、端にいる彼女がシュウジの妹であるナーベです」
ドモンの様子を見ながらアインズはチーム紹介を進める。
一方のドモンは正に心ここに有らずといった様子で、ペテルの紹介はおろか、アインズの言葉も耳に入っていなかった。
しかし、視線だけはある一点に固定されていた。彼の
中性的な容姿にハスキーな声。一見すると性別がどちらか判断に迷う所、そんな人物である。
《ナーベ、お前は大丈夫か?》
以前ドモン、もといエイジの家族を映像ではあるが実際に見ているナーベラル。
そんな彼女が余計なことを口走らないよう釘を刺す、そういった意図を込めた
《……正直な所、かなり動揺はしております。ド、お兄様の妹君に瓜二つなもので》
《うむ。だが、お前も聞かされている通り彼女は既に死亡している。更に言えばあのニニャと言う人物は男だ。何の因果関係があるかは分からんが、最初の命令通り敵意を向けられるような行動は避けろ》
《ハッ! 承りました、至高の御方》
《分かったのなら構わないが……》
「コイツ本当に分かってんのかな……」。アインズがそんな不安を覚えるのも恒例となってきていた。
アインズが溜息を吐きたいと思った時、話の中心人物であるニニャがアインズに話しかけてきた。
「あの……、モーガン……さん」
ネガティブな気持ちを押し殺し、アインズはなるべく爽やかに、かつ強者の雰囲気を感じさせる声で返事をする。
「何でしょう? ニニャさん」
「シュウジさんでよろしかったと思うのですが……、私に何か御用でも」
アインズは自分の失態に慌てた。自分達は今、自己紹介の為にテーブルを挟んでいる状態とはいえ、テーブルはそこまで大きい物ではない。
そんな距離でドモンは自己紹介の――正確には席に着く前から――時からずっとニニャの顔を見続けていたのだ。
正直ニニャは気が気でなかっただろう。
「あ、あぁ。えーと、実は私達はここまで長い旅路だったのですが、昨日ここに着いたばかりで疲れがとれていないんだと思います」
アインズの言葉の中には明確な答えはなかったが、ニニャを含めた漆黒の剣のメンバー達は皆こう都合よく解釈した。長旅での疲れが残っておりボーッとしていた、そしてその視線上にたまたまニニャがいただけなのだと。
「あ、あぁ成程。そうだったんですね、申し訳ない」
「いえいえ、元はと言えば此方の責任ですからどうか頭を上げて下さいニニャさん。寧ろ仲間が御迷惑をおかけしまして……」
勘違いだったと頭を下げるニニャを言葉で抑え、代わりに頭を下げるアインズ。
その姿にニニャは勿論、他のメンバーもモーガンという漆黒の鎧を着用した戦士に好感を覚えた。
《ドモンさん、気持ちは分かりますがいい加減帰って来て下さい。誤魔化しにも限度があります》
《…………》
アインズの
《……いい加減にしろエイジ! 俺達はここに何をしに来たと思ってるんだ!》
《!!!》
突然のことに驚き、ドモンは椅子から落ちそうになる。
「ア……、モー……ガン?」
「ふぅ。皆さん、やはり目を開けたまま寝ていたようです。全くしょうのない奴だ、ハ、ハハハ」
アインズは先程の自分の言葉と無理矢理こじ付け、「ほらね? 言った通りでしょう」という空気を作った。
「そ、そうですね。しかし、まさか目を開けたまま寝ているとは……」
ペテルが苦笑いをしながらアインズの言葉に同意する。
「彼は凄腕の武術家でしてね、寝込みと悟らせない為の技術なんですよ。ハ、ハハハ」
「そ、そうですか。凄いんですね、ハ、ハハハ」
何とも言えない空気が流れるが、それから簡単な話をしてとりあえずの所話は纏まった。
これからドモン達は、ペテル率いる漆黒の剣と共にモンスター狩りへと向かうことになった。
正式な依頼と言う訳ではなく、人々が利用する街道付近などに出現するゴブリンやオーガ、それらの討伐を行い組合から報奨金を貰うといった内容のものだ。
そして、階段を降りながらアインズとペテルは最終確認を取り合った。
「私達はもう準備は済んでいます。モーガンさん達はどうですか?」
「私達もすぐに出られますよ」
「それは良かった。なら――」
「すぐに出発しましょう」とペテルが言おうとした時、何やら慌てた様子の受付嬢がアインズに声をかけてきた。
「あの……モーガンさん」
「どうしましたか?」
「貴方方に名指しの依頼がきておりまして……」
「私達に、ですか?」
まるで検討がつかない。そんな演技を交えてアインズが返事をする。
演技というのもの理由があり、実はこの名指しの依頼、時期こそ若干のブレ幅があるもののドモンが予想していたことだからだ。
「どなたからですか?」
「ンフィーレア・バレアレさんからです」
「ほう」
分かっていました、とは言わない。本人の存在ですら、先程のペテル達の話で初めて知ったという設定なのだから。
アインズが当の本人を探そうとした時、
「初めまして、モーガンさん。僕がンフィーレア・バレアレです」
「初めまして、バレアレさん」
「どうか、ンフィーレアと呼んで下さい」
「そうですか。それではンフィーレアさん、折角の名指しの依頼とのことですが、生憎私達は彼等との仕事と言う先約がありまして……」
「モーガンさん!」
名指しの依頼を後回しにするという旨の発言に、横にいたペテルが口を挟む。
「何言ってるんですか!? 名指しの依頼ですよ!?」
「例え! そうであったとしても、先に約束をしたのはペテルさん達です。……何か間違っていますか」
「それは……!」
正論を言われペテルは黙り、それは周囲の人間にも伝わった。
そしてその言葉は、モーガンという冒険者が目先の欲に囚われる人物ではない。そういう意味での評価を上げることに繋がっていく。
「ふむ……、ではこういうのは如何でしょう? 先ずはンフィーレアさんの御話を聞いてから考える……ということで」
「僕はそれで構いません」
ンフィーレアの言葉にペテルも渋々承諾し、一行は再び二階に戻った。
因みに、今迄の行動からして飛び出してくる筈のナーベラルだが。
ンフィーレアの存在を察知しアインズの前に出て剣を抜こうとした時点で、我に帰っているドモンに肩を特殊な方法で掴まれて身動き一つ出来ない状態となっていた。
全然話が進まず申し訳ない、Tackです。
どうしよう、ナーベラルのポンコツ具合に磨きがかかっている気がする。
話の上手い端折り方が分からない。
原作の続きが気になり過ぎる。
あと眠い。
……無駄に文を長くするのもアレなんでここいらで御暇させていただきます。
感想、意見、質問などお待ちしております。