武の竜神と死の支配者   作:Tack

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 長いなぁ……。


第二十二話【神となった日⑩】

 

 

「タブラ……スマラグ……ディナ……様」

 

 

 ドモンに(いざな)われ、秘密の部屋と呼ぶべき場所を訪れたアルベドが見たのは、この世の物とは思えない程美しいウェディングドレスと……。

 

 

『久しいな、ナザリックの守護者統括にして我が友を護る最後の盾……。我が娘、アルベドよ』

 

 

 至高四十一人の一角にして、アルベドや他の姉妹を生み出した錬金術師。

 タブラ・スマラグディナその人であった。

 

 

「ドモン様! これは一体!?」

 

 

 訳が分からないアルベドはドモンに答えを求めたが、薄暗い部屋の中でドモンが行ったのは、人差し指を口元に当てることだけだった。

 

 

「……」

 

 

 見ていれば分かる。ドモンのジェスチャーからそう汲み取ったアルベドは、画面に再び視線を戻した。

 

 

『何を……、話せば良いのだろうな。生憎、こういう事には慣れていなくてな……』

 

 

 画面の中では錬金術師(タブラ・スマラグディナ)が何を話すべきかを迷っていた。

 まるで思い出に浸るような、それでいて悲しんでいるような沈黙が流れる。

 暫しの時間が経ち、その後彼はゆっくりと口を動かし始め様々な話をした。

 その内容は多岐に渡り、只の思い出話だと思われた。

 

 だが、それら全ての話の中にたった一つだけ共通点が見受けられた。そう、アルベドだ。

 全ての話がアルベドに関することだったのだ。

 

 その後も錬金術師の話が続いたが、一通り話終えたのだろうか。深く息を吐いた後、アルベドを生み出した本当の理由を話し出した。

 

 

「私が生まれた……理由?」

 

 

 自分が生み出された理由。そんなことは分かっている。

 アインズ(至高の頂点)の側に仕える為だ。

 しかし、わざわざそんなことを言う筈が無い。そんな分かり切っていることを。

 ならば他に何かの理由が? アルベドはその優れた頭脳をフル回転させる。だが、思い付いた理由の全てが正解であり、同時に不正解のようにも思えてしまう。

 

 思考の迷宮に迷い込んでしまったアルベドを救ったのは、疑念を生じさせた本人のタブラ・スマラグディナであった。

 

 

『お前は……守護者の統括であると同時に、……我が友モモンガの伴侶として生み出したのだ』

 

「……え?」

 

 

 思わず間の抜けた声を出すアルベド。無理も無いことだった。

 自分が考え付いた答え。その中でも正解であって欲しい答え、けれども、最も有り得ないとすぐさま思考から弾いたものが正解だったのだから。

 

 

『そして、この映像を見ていると言うことは、既に私はそこには居ないのだろうな……』

 

 

 タブラ・スマラグディナは声のトーンを落とした。

 その様子は誰が見ても分かる程気落ちしていた。

 

 

『私は……悪い父親だな……。なぁ? アルベド』

 

「そんなことは御座いません!」

 

 

 アルベドは無駄だと知りつつも、画面の中の創造主に向かって叫ぶ。

 

 

「私が……私が愚かだったのです……! 創造主に愛を向けられているのも知らず、勝手な思い込みで私は……!」

 

 

 拳を握り、己の愚かさに自害迄脳内にちらつかせるアルベド。

 暗所でも見通す事の出来るドモンの眼には、そのアルベドが悲しんでいる様子がはっきりと映っていた。

 

 

(アルベド……)

 

 

 この映像、実はユグドラシル時代での罰ゲームが元になっている。

 そして、映えある罰ゲームの最初の生け贄となったのがタブラ・スマラグディナだった。

 その内容とは──。

 

 

『まぁ、なんだ……。長々と話してはきたが、結局言いたいことは一つなんだよ、アルベド』

 

 

 創造主の言葉に反応し、俯いていた顔を上げるアルベド。

 その眼にはうっすらと涙を浮かべている。

 

 

『この映像は、お前がモモンガさんと婚約する時用として撮影した物だ。だからこそ言わせて貰う……』

 

「……」

 

 

 アルベドは覚悟した。自分の涙腺が決壊するのを。

 

 

『アルベド……モモンガさんと幸せにな。それがこの私の……。いや、父のたった……一つ……の願い……だ……ふぐぅあっ!』

 

「あ、あぁぁっ!!」

 

 

 父と娘は同時に泣いた。

 タブラ・スマラグディナは嫁に行く(アルベド)へ送る天国からのメッセージ、と言う趣旨の罰ゲームを受けた。

 始めこそ軽い軽いと、本人はそう言っていたのだが、話が進むにつれ気分が乗って来てしまい御覧の有り様。

 

 娘は、父に対し抱き続けた憎悪の感情がそのまま反転し、これまた大惨事。

 

 

「お父様っ! お父様ぁっ!! あぁぁぁ~!!!」

 

 

 アルベドは汚れることも構わず、その純白の手袋で涙を抑えようとする。されど、溢れる涙は止まる事を知らなかった。

 

 画面の外と内で二人が大泣きし、それを見たドモンも思わず貰い泣きしてしまう。

 

 

(確かにこれは罰ゲームでの動画だ。でも、もしタブラさんも此方に来ていたら、実際こうなるだろう……。それにしても…………泣けるでぇ!)

 

 

 ドモンも顔をぐっと歪ませ涙を堪えようとするが、元々お涙頂戴のシーンに弱い為、その努力は無駄となった。

 結果、しかめっ面のまま滝のような涙を流すハメとなった。

 もしもドモンの顔をギルメンが見ていたら指差しで爆笑しただろう、それほど酷く歪んだ顔をしていた。

 

 

『うっ! ぐふぅっ! くぅっ! ぐすっ! ……それと、念の為言っておくことがある……!』

 

 

 ドモンの記憶の中に無かった言葉だった。

 泣くのを我慢し、何を言うのかと画面に集中していると……。

 

 

『モモンガさん……。いいかっ!? アンタなぁ! もしウチの娘を泣かせてみろ!? 地獄の果てまで追いかけて、ありったけの火力叩き込んでやるからな! 覚悟しとけっ!』

 

「お父様……」

 

「…………ククククッ…………ブハッ! アハハハハハハッ!」

 

 

 映像は途切れ、部屋が明るくなっていく。代わりに響いたのは何とも愉快そうな笑い声だった。

 その発信源であるドモンは腹を抱え、目に涙を浮かべながらヒーヒーと笑っていた。

 

 

「タブラさんアンタっ! 何をっ……! 言うのかと思えばっ! アハハハハハッ!」

 

「ドモン様……」

 

 

 ドモンの様子を見て、自然と笑顔になっていくアルベド。

 

 

「ハァ~……笑った笑った、最後に言うのが旦那への脅しとかさ。まぁ、あの人らしいと言えばそうなるが。……それで、どうだアルベド。これでもまだ俺の言ったことが信じられないか?」

 

 

 アルベドは軽く首を横に振り否定する。そして、ドモンの前に跪き頭を垂れた。

 

 

「ドモン様……。至高の御方に刃を向けると言う大罪。都合の良いことを言っているのは重々承知の上でお願い申し上げます。その失態を払拭する機会を、何卒この私めに御与下さいませんでしょうか?」

 

「……今回お前に落ち度は無い、刃を向けられるのも俺は覚悟の上だったからな。……寧ろ悪いのは、アインズさんを除く俺達至高の四十一人だ。…………それからな、実はお前の生まれた理由諸々は彼には内緒なんだよ」

 

「そうだったのですか?」

 

 

 愛する男が友から隠し事をされている。その事実は、以前のアルベドであれば黒い感情で身を捩らせた事だろう。

 だが、今は違う。この方々は悪意があってやるのでは無い、それを先刻理解したのだから。

 

 

「何か特別な理由が?」

 

「まぁ、その、なんだ……。普段世話になっている人への恩返しのつもりだったんだよ。彼は一人の時間が長いみたいだったから……」

 

 

 現実世界で、アインズこと鈴木青年は筋金入りのぼっちだった。

 家族も親しい友人も居なかった。故にユグドラシルでの時間を大切にし、またそれを行動で以て示してきた。

 

 そしてそれは、いつしか他のメンバー達からも賞賛され、何かサプライズ的な事をしようと言う話にまで発展した。

 

 それからと言うもの、ドモン達は長い時間をかけて彼の好みをさりげなく聞き出していった。

 そしてそれらの情報を元に、彼の傍らに居続ける最高の守護者統括(二次元の嫁)を造り出す事に成功したのだった。

 

 

「アインズ様の御話からある程度は察しておりましたが……。何てお可哀想なアインズ様っ……!」

 

 

 ドモンがある程度ぼやかしながら伝えた内容を聞き、アルベドは頬を濡らした。

 

 

「兎に角、そう言う事だからお前が気に病む必要は無い。でも……アインズさんには内緒で頼むな? 後で驚かせてやりたいんだ」

 

「内密との件は了承致しますが……、やはり私は何か処罰を受けるべきだと思います!」

 

 

 突如立ち上がったアルベドが迫り、ドモンは凄まじい圧を感じた。

 ドモンは頭をかきながら少し考え、思い付いた罰を伝えんとする。

 

 

「だったら……。守護者統括アルベドよ!」

 

「ハッ!」

 

 

 ビシィッ! と効果音が聞こえてくる様に見事な姿勢をするアルベドに、ドモンは真面目な顔で言った。

 

 

「お前と我が心服の友アインズとの婚約! それを、世界統一後などのある一定の期間まで禁止とする! 以上!」

 

「あの……ドモン様?」

 

「ん?」

 

 

 不可解だと言う顔をするアルベドを見て、ドモンは少し厳しかっただろうかと慌てるが、反ってきたのは意外な言葉だった。

 

 

「そのようなこと、と言いますか。私には勿論辛いことなのですが、それで宜しいのですか?」

 

「いや、寧ろこれ以上無いと言う程の厳罰だ。……俺の中ではな?」

 

 

 自分の考えが外れていた事に安堵しながら、ドモンはウィンクをしてアルベドを安心させる。

 

 

「それと、今回迷惑をかけたことの謝罪を込めたアドバイスなんだが。……アインズさんはおしとやかな女性が好みらしい。一歩引いて行動してみろ? 食事会の時みたいに襲い掛かる勢いは厳禁だと伝えておこう。……頑張れよ、未来の王妃様」

 

「……有難う……御座います」

 

 

 未来の王妃。その言葉にアルベドは再び目元を濡らす。

 

 

「後、これはあくまで俺の考えなんだが。確か、こっちの世界に来た時に世界級(ワールド)アイテム持ってたんだって?」

 

「はい、御父様から手渡されました」

 

 

 ドモンは、以前アインズから聞いた情報を自分なりに推察した答えを告げる。

 あの人(タブラ・スマラグディナ)ならやりかねないと。

 

 

「お前は自室が無かったが、それで十分だろう? 偉大なる神に嫁ぐ娘へ父親が送った、最高の嫁入り道具さえあれば」

 

 

 それを聞き、アルベドは感極まる。

 そうして、ドモンが懸念していた二つの件は解決した。

 

 

//※//

 

 

 アルベドの件が解決したその一時間後。

 玉座の間にナザリックに於ての強者達が集められた。

 内容は今回のナザリック外活動の報告、そして今後の方針だ。

 名を元ある物に戻したこと。自分達至高の四十一人が実は神だったこと。そして、最初に自分達を信望する村が出来たことなどだ。

 

 

「次に! 私が生み出した守護者……いや、息子をお前達に紹介しよう!」

 

 

 アインズの声に反応し、玉座の間の巨大な扉が開かれ、そこから一人の人物が靴を鳴らしながら歩を進めていく。

 玉座前、階段の所で立ち止まりその人物は至高の存在に一礼をした。

 玉座に座るアインズはその人物に挨拶を促す。

 

 

「パンドラズ・アクターよ。皆に挨拶を」

 

「ハッ! 畏まりました父上! いえ、アインズ・ウール・ゴウン様!」

 

 

 コートを翻し、その爽やかなマスクを決意で満たしたパンドラズ・アクター(アインズの息子)は静かに話し出した。

 

 

「只今御紹介に預かりました、ナザリック宝物殿領域守護者、兼財政管理者の地位をアインズ様から預からせて頂いております、パンドラズ・アクターと申します」

 

「嘘……」

 

 

 その姿に驚きを隠せず、思わず呟きを発してしまう者が一人。

 階層守護者として、最前列に座していたシャルティア・ブラッドフォールンである。

 他の守護者達はそれを不敬と感じ、威圧を込めた視線をシャルティアに送るが、次のアインズの言葉でそれは致し方無い物と判断された。

 

 

「シャルティアよ、この者に見覚えは無いかな?」

 

「へ……? あ、はははいっ! その……何と申しますか、幻で何度か……」

 

 

 幻で見た。何とも可笑しな回答なのだが、シャルティアからしてみれば大真面目であった。

 以前、席のことでシャルティアとアルベドが揉めた後、ドモンはそれについて確認していた。

 

 

──シャルティア、お前には許嫁がいるだろう?

 

 

 何のことでありんすかえ? シャルティアが返した言葉にドモンは首を傾げ、それを見たシャルティアもまた首を傾げた。

 詳しく聞いてみると誰かは知らないが、素敵(どストライク)な男性が此方に笑顔を送る、そういった内容の幻を見た記憶があるのだとか。

 

 シャルティアは種族的な理由から睡眠は不要。故に夢では無く幻。しかし、いつ見たかも定かでは無いのだと言う。

 

 ドモンは断定的にこう推理した。

 アインズとペロロンチーノの約束。それを設定に書き込んではいたが、シャルティアはパンドラと会ったことはなかった。

 それにより、情報の齟齬とも言うべきものが起きたのではないかと。

 

 

「そうか。実はな、私は昔ペロロンチーノさんから頼まれたことがあってな」

 

「ペロロンチーノ様から……でありんすか?」

 

「うむ。その内容とは、もし自分がナザリックに戻れなくなった時、シャルティアに婿をやって欲しいと言う事だ」

 

 

 アインズの言葉はシモベ達を動揺させた。

 大事な場である為声には出さないが、明らかに空気が変わっている。

 至高の御方はやはり危険な目に遭っているのではないか。その感情がそのまま現れたのだ。

 

 

「そしてその相手として彼が指定したのが、友である私の息子パンドラ、と言う訳だ」

 

「ペロロンチーノ様……」

 

 

 ナザリックに戻れない。その言葉はシャルティアの心を抉った。

 しかし、それ以上に嬉しくもあった。そこまで自分は創造主に気にかけて貰っていたと言うことをだ。

 

 

「無論、婚姻を焦る必要はない。まだ時間はるのだから。もしかするとドモンさんのように帰還、もしくはこの世界に居る可能性もあるのだ」

 

 

 仲間は必ず居る。拳を固く握り、そう自分にも言い聞かせるアインズ。

 それを隣で立つドモンは辛い気持ちで見ていた。

 

 

「あくまで仮、と言うことだな。本来ならペロロンチーノさんが嫁に欲しい筈だからな。……なぁ、ドモンさん?」

 

「同感です。彼なら『シャルティアは俺の嫁だぉー!』……とか言うでしょうからね」

 

 

 軽く笑いながらドモンが答え、アインズはそれを似てる似てると返した。

 

 

「良かったな、シャルティア。お前の両手には、アインズさんの息子と創造主と言う華が乗っているんだ」

 

「ドモン様……」

 

「アインズさんの言う通り焦らなくていい、ゆっくり考えろ。寧ろ両方ってのもありじゃないか?」

 

「両方……?」

 

 

 シャルティアの脳内では右手をペロロンチーノが、左手をパンドラズ・アクターが握り、キスをしている妄想が始まっていた。

 シャルティアから見て、パンドラはどストライクのイケメンだったので、その妄想に思わずニヤけながら鼻血を流す。

 

 

「あー、シャルティアよ。帰って来い。アインズさんの話がまだ終わって無いんだ」

 

 

 ドモンの声で我に帰り、慌てるシャルティア。

 そのシャルティアの鼻血を、ハンカチを取り出したパンドラが屈んで優しく拭き取る。

 そして、その白い手を取りキスをした。

 

 

「これから、末長く宜しく。マイ・プリンセス☆」

 

「よ、宜しくで……ありんす」

 

 

 キラーンッ! ドモンとアインズの耳には確かに聞こえた。イケメンが笑顔で歯を光らす効果音が鳴るのを。

 

 

「まぁ……なんだ。兎に角息子と仲良くやってくれ、シャルティア。それでは一先ず今回は終わりと……」

 

 

 アインズが締め括ろうとした時、急にドモンが咳払いをしながらアインズに目配せをした。

 大事な話をし忘れているのを思い出させる為だ。

 

 

「……あー、したいのは山々なのだが、まだ話がある。しかもこれから行っていくだろう数々の作戦にかかわる事だ」

 

 

 世界統一にかかわる重要な話。普段もそうだが、一言も聞き漏らすまいとシモベ達は神経を集中させた。

 

 

「その話の前段階としてお前達に問おう。人間や他の種族……。詰まる所、ナザリックに属していない者達についてどう思う? 私達が普段話すことを除外し、正直に答えて欲しい。シャルティア、お前はどうだ?」

 

 

 リア充オーラを発していたシャルティアだったが、至高の存在の話を聞き漏らす程落ちぶれてはおらず、直ぐ様返答する。

 

 

「……取るに足らない存在、とでも言うでありんしょうか。良くて玩具と言った所でありんす」

 

「コキュートス」

 

「武ニ対シ研鑽ヲ積ム者、又ハ誇リヲ以テ戦イニ身ヲ投ジル者ニハ、アル程度ノ賞賛ヲ送ルモノカト……。シカシナガラ……愚カニモ至高ノ御方々ニ戦イヲ挑モウモノナラバ、コノコキュートス容赦ハ致シマセヌ……!」

 

 

 自分の正直な気持ち。

 武人としての誇りと、ナザリックの階層守護者としての誇り。

 それらを加味した答えをコキュートスは言った。

 

 

「フム……実にお前らしいな、コキュートス。素晴らしいぞ」

 

「武に対する姿勢、見事だ」

 

「オォ……! 有リ難キ幸セ!」

 

 

 至高の存在から賞賛の言葉を受け、興奮し冷気を多めに漏らすコキュートスだった。

 

 

「次にアウラ。お前にとっての人間等の他種族、ナザリックに属さぬ者達をどう思う?」

 

「シャルティアと同じ様な答えで癪ですが、概ね同じです」

 

「成る程」

 

 

 視線を交差させ、シャルティアとアウラは軽く火花を散らせた。

 

 

「マーレはどうだ?」

 

「ぼ、僕はあまり戦いとか好きじゃないので……。攻め込んで来なければいいなー……位です」

 

「ほう。ならば、次はデミウルゴスだな」

 

「私は他の者達よりも、幾分かは温かい目で見ても良いものだと思っております。意外な使い道等もあります故……」

 

 

 淡々と話すデミウルゴスだったが、その言葉の裏に言い知れぬ不安をドモンは感じた。

 

 

「そうか。ではセバス、そしてプレアデス達はどうか?」

 

 

 アインズの問いに、セバスとユリは比較的好意を感じる返答。が、残る面子は虫ケラ、食糧、玩具、存在を気にしていない等散々な返答となった。

 

 

「そうか……。では最後になったがアルベド、お前は人間をどう思う?」

 

 

 自らの傍らに立つアルベドに視線を向け、アインズは最後の人物(アルベド)に問い掛けた。

 しかし、実際彼は心の中で答えを予想していた。

 そして、それに対する言葉も。

 

 

「至高の御方々に逆らう者達に対しては駆除すべきかと……」

 

「そうか……」

 

「……ですが」

 

「?」

 

 

 思わせ振りな言い方をするアルベドに違和感を感じ、アインズはその顔をじっと見詰める。

 

 

「アインズ様やドモン様、そして他の至高の御方々に忠を尽くすのであれば、共に生きるのも悪くはないと思われます」

 

「お、おぉ……! まさかお前の口からそんな言葉が出るとはな」

 

 

 アインズに見られている事を意識し、顔を紅潮させながら言ったアルベドの言葉に、アインズは意外と思う他なかった。

 

 

《アルベド何かあったんですかね? ……ドモンさん何か知ってますか?》

 

《はてさて? 全く記憶に御座いません。何のことやらって感じです》

 

《………………まぁ、いいでしょう》

 

 

 答えを導く為にドモンへ伝言(メッセージ)を送ったアインズだったが、それはドモンのわざとらしい言葉でうやむやにされてしまった。

 後で詰めてやろうと考えながらも、アインズはシモベ達に改めて質問をした意図を伝える。

 

 

「各々の考えは良く分かった。……総合的に見たとして、ナザリック以外の者達は卑下すべき存在である。これは質問に答えていない者、つまりはナザリック全てのシモベ達の総意に近いものと私は受け取る。それで良いな?」

 

 

 同意を求められたアルベドは静かに頷き、アインズの言った言葉を肯定する。

 

 

「宜しい。……しかし、今までは良かったもののこれからもこうでは支障が出ると思われるのだよ。なぁ、ドモンさん」

 

「そうですね。……では、ここからは俺が少し話そう。……とは言っても単純な話だ」

 

 

 単純な話。そう言われたとしても至高の御方の御言葉。

 シモベ達は身を引き締めてその言葉を待った。

 

 

「例えばの話だ。俺達ナザリックが友好的に世界を統一した世界、逆に暴力によって征服した二つの世界があったとしよう」

 

「要するに、今お前達の過半数が持っている感情のまま行動するか、もしくはそうでないかと言うことだ」

 

 

 ドモンの言葉にアインズが補足をしていく。

 

 

「その二つの世界で過ごす数多くの命は、果たしてどれだけこの世に生を受けたことに感謝するだろう」

 

 

 ドモンは、これから軍事行動を開始する部隊の司令官になったような錯覚を覚えた。

 ならば、いっそのこと演説にしてやろうと言い回しを加速させる。

 

 

「暴力のままに支配された世界で我等ナザリックは称えられるだろうか? この世界に生まれたことを感謝するだろうか? 答えは否だ」

 

 

 ドモンはそれらしい言葉をフル活用する為、ありとあらゆるアニメの演説シーンを思い出す。

 

 

「我等ナザリックの者が街中を歩けば、確かに民は平伏すだろう。だが、それは恐怖故の行動に過ぎない」

 

「うむ。我等二人はそれを望んではいない」

 

 

 アインズは悲しむ演技をしながら静かに言った。

 

 

「お前達も想像してみるのだ。……心臓を握られた状態の民が恐怖しながら平伏する世界と、心からの笑顔を浮かべ、我等ナザリックを信仰すべき神と皆が崇める世界……」

 

 

 ここでドモンは少しの溜めを作った。この後の言葉に重みを持たせる為だ。

 

 

「お前達はどちらを選ぶ! さぁ、答えよ! ナザリックの精鋭達よ! 暴力の魔徒として、魔神と畏怖されるか! もしくは、慈悲深き神の信徒として、世界に幸福をもたらす天の遣いとなるかを!!!」

 

 

 ドモンの声が玉座の間に響き渡り、その音が消えた後は静寂が訪れた。

 その静寂を打ち破ったのは、アインズの横で佇んでいたアルベドであった。

 

 

「……私は、アインズ様とドモン様の御考えを選びます。平和な世界を……、御二人が世界を救った偉大なる神と崇められる世界を!」

 

 

 アルベドの発言により、玉座の間にシモベ達の叫び声が木霊する。

 

 

「アインズ様、そしてドモン様。この声をお聞きになれば、最早答えは出ているも同じかと」

 

 

 アルベドが御辞儀をしながら言った言葉に、内心至高の存在は安堵した。

 

 

《やった! 俺やりきったよ! アインズさん!》

 

《おめですドモンさん! ぶっちゃけ暴力で支配した方が良いとか言われたらどうしようかと!》

 

 

 伝言(メッセージ)内での感情を具現化するのならば、二人は手を取り合って兎のように跳び跳ねていたことだろう。

 それ程までに上手くいって良かったと感じているのだ。

 実際の所、至高の存在である二人が命令さえすれば良かった。

 ナザリックのシモベ達ならば、例え白であっても黒と断言出来る程の忠誠心があるのだから。

 

 

「皆、分かってくれたようでなにより! ……とは言え、お前達全てがすぐに納得出来ることではないと言うことも分かっている! 故に! 俺達は行動を以てお前達に示そう!」

 

 

 ドモンの言葉を合図に、玉座を立ち上がったアインズが叫ぶ。

 

 

「私達二人が先陣を切り、お前達を導く! そして、お前達は良き模範としてナザリック国の民を導くのだ!」

 

「「「オォォォォォッ!!!」」」

 

 

 とてつもない爆音が響き渡る。これが始まりだと言わんばかりの声だ。

 

 かくして、多少の不安を残しつつも、ナザリックの世界統一に向けての行動が開始されるのだった。

 

 

//※//

 

 

「疲れたおー(;´д`)」

 

 

 ドモンのベッドに倒れ込み、そのままゴロゴロと転がるアインズ。

 そこには、ナザリックの最高指導者としての姿は無かった。

 

 

「お疲れさんです、アインズさん。いやー、色々上手くいって良かったですね」

 

 

 盗聴防止等の対策をしてあるので、それを良い事に二人はぶっちゃけトークを始める。

 

 

「ドモンさんのお蔭ですよ。パンドラの事もシャルティアの事も」

 

「両方アインズさんが悪いですからね」

 

 

 ヤメテー! と、両手を顔に当て悶絶するアインズ。

 暫く悶えていたが、気になった事を思い出しドモンに訊ねる。

 

 

「所で、ウチの子(パンドラ)随分大人しかったですけど、何かしました?」

 

「ん? ……あぁ、あまり派手な動きは控える様に言っておいたんですよ。勿論、ストレスになるといけませんから、それが出来る相手として似た様な感じの守護者を話相手にね」

 

「誰……? ……あっ」

 

 

 多分当たってますよと、ドモンは指をさして笑う。

 アインズの脳内では、高笑いをあげる忍ばない忍者が映し出されていた。

 

 

(忍びなれども忍ばない……ってか?)

 

「所でアインズさん、今後の事なんですが……」

 

「おっと! いかんいかん、そうでしたね」

 

「村長から聞いた話でしたよね」

 

 

 カルネ村の村長から聞いた話。それは二人にとって貴重な情報だった。

 カルネ村からそう遠くない位置にある都市エ・ランテル。

 そこで様々な依頼をこなし金を得る、冒険者と言う職があるとの事だった。

 何故そんなことが議題に上がったのか? と言うのも、人間が居るのを確認した直後からドモンは考えていた。

 もしあるのならば、傭兵や冒険者の類となってこの世界の情報集めるのが良いと考えており、アインズもそれに同調したのだ。

 

 

「情報や資金を集める偽装身分(アンダーカバー)という訳ですよね? さすドモ」

 

「いやいや、アインズさんの案がなければとても……」

 

「でも、もう人選終わってるんでしょう?」

 

「と、言うと?」

 

 

 とぼけちゃって~、とアインズは手をひらひらと振る。

 

 

「ナーベラルにお兄様とか呼ばしてたじゃないですか。妹役の魔法詠唱者(マジックキャスター)として考えてるんでしょ?」

 

「あぁ、成程。……でもそれだけの情報で色々考えられるアインズさんも凄いですよ。さすアイ」

 

 

 互いに謙遜し合いながら、HAHAHAと笑う二人だった。

 

 

「……んで、話戻しますが、同行はナーベラルと言う訳ですね。ちな理由は?」

 

「だってアインズさん戦士やりたいでしょう?」

 

「? ごめんなさい、話が見えないんですが……」

 

 

 ドモンの話を纏めるとこうなる。

 まず、自分かアインズのどちらかはいつでも全力が出せるように本来の立ち位置が望ましい。当たり前のことだが、不足の事態に両者とも不慣れなポジションというのは危険過ぎる。

 

 次に役割の話だが、仮にアインズが本来の魔法詠唱者(マジックキャスター)として

戦うとしよう。

 以前カルネ村で戦ったような相手ならば問題はない、アインズが得意とする系統の魔法を使用せず楽に勝利を掴める。

 だが、本気の魔法を使わねば倒せぬ相手に出会ったとしたら? 更にそれが衆人環視の中で行われる戦闘だとしたら?

 

 アインズの姿を見たカルネ村の住人達は皆こう思っていた。

 

 

――なんて恐ろしいアンデッドなのか、と

 

 

 恐怖心から口には出していなかったが、心を覗くことの出来るドモンには筒抜けだった。

 このことから察するに、この世界の住人はアンデッドに対し忌避感を抱いていると思われる。アンデッドに友好的な世界があればあったで不思議な話なのだが……。

 

 つまり、死霊術に特化したアインズが本気で後衛として戦うには若干の不安要素があるのだ。下手に即死耐性などを持つ相手に当たったらそれこそ目も当てられない。

 

 

「確かにそうですね……。最初からそんな強敵と戦闘になるとは思えませんが、警戒は必要ですからね」

 

「でしょ?」

 

「只……、それだと俺が戦士やりたいって言う言葉の意味が分からないです」

 

「……質問を変えましょう。アインズさんGガン好きですか?」

 

 

 訳の分からない質問をするドモンにアインズは首を傾げた。

 だが、胸を張って答える。

 

 

「好き……いや、これは最早愛と言っても過言ではないでしょう。ドモンさんに勝てるとは思っていませんが、俺はGガンを愛しています!」

 

 

 この気持ち最早愛。そう言い切ったアインズに今迄以上の親しみを覚えながら、ドモンは言った。

 

 

「Gガンをそこまで好きになってくれてうれしいですよ。……結論から言うと、そんなアインズさんなら俺と一緒にファイター、戦士をやってくれるだろうと思いまして。師匠のように……とは言いませんが。剣士とかありじゃないですか?」

 

「……」

 

 

 ドモンの言葉にアインズはすぐに返答しなかった。

 読みが外れたかな? ドモンがそう考え始めた時……。

 

 

「剣士……剣士か……。うん、良い……。凄く良い! ディ・モールト・ベネってやつですよドモンさん!」

 

 

 ドモンは見た。ずいっと迫るアインズの目の炎が爛々と輝いているのを。

 

 

「よ、喜んでくれたようで何より……です、はい」

 

「よっし! やるぞー! 今日から魔王もとい、今日から剣士だ!」

 

 

 

 あ、見た目魔王って自覚はやっぱりあったのね。

 そう思ったドモンをよそにテンションが爆発するアインズ。しかし、それも精神作用無効化によって抑圧されてしまう。

 

 

「あぁっ! 糞っ! またこれか、ええい煩わしい!」

 

「でも、逆を言えば常に冷静でいられるってことじゃないですか」

 

「時と場合によりけりですよ。……ドモンさんはどうなんですか? 確か、無効化とはいかずとも大幅減少ついてましたよね?」

 

「う~ん。今の所特に不自由を感じたことはありませんね」

 

「……それって言いかえると、今迄対して動揺したりしてなってことですよね? アンタ心臓がコスプレでもしてんのか?」

 

「は?」

 

「ウィッグでもしてんのかってことですよ。さぞかしロングヘアーのキャラでもやってんでしょうね」

 

 

 アインズの表現がツボに入り、ドモンがゲホゲホ言いながら笑った。

 それから、剣士としての修業をドモンが見ることとなり、今回の話し合いは終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 今回も滅茶苦茶長くてすいません。Tackです。
 予想以上に話が長引いてしまいましたが、ここでカルネ村編(神となった日シリーズ)は終了となります。
 次回からはやっとこさ冒険者編に入りますのでお楽しみに。


 ……あれ? 何か前にもこんなことがあった気がす。

 
 

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