武の竜神と死の支配者   作:Tack

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第十九話【神となった日⑦】

 陽光聖典との一件を終え、ドモン達はカルネ村へと戻った。

 そこで村人達に事の顛末を伝える為だ。

 無論、その全てを話した訳ではなかったが。

 

 そして説明が終わり、この村へ危害を及ぼす者が居なくなったと理解した村人達から歓声が上がった。

 村が救われたということを実感したのだろう。

 

 

「神々よ、何と御礼を申し上げればよいのでしょうか」

 

「なに、気にするな村長。罪なき命が失われるのは俺達の望むところではない」

 

「ですが、そのままお帰り頂くなど出来ません。是非何か御礼を」

 

 

 ドモンやアインズは構わないと伝える。

 しかし、村長はそれでも村総出でもてなすと言ってきた。

 これ以上この場所(用のない所)で時間を取られたくないアインズは、その存在すら不確かな脳を働かせる。

 

 

「ならば、暫くの間王国戦士隊を休ませては貰えんか? 私の魔法によって回復させたとは言え、先程まで重傷を負っていた者達だからな」

 

「ええ、それは構いませんが……」

 

 

 村長は非常に申し訳なさそうな顔でドモン達を見ていた。

 それだけでは気が済まないのが見てとれる。

 更にドモンの一言で、村長は自分の眼が飛び出るのではないかと思う程驚くことになる。

 

 

「ああ、それと先程アインズと相談して決めたことなんだが……。この村に、俺達の部下を配置してここを守らせる事になったが、構わないか?」

 

「な、なんと!? いけません! 神々にこれ以上御迷惑をかける訳には!」

 

 

 村長が首を何処かにやってしまいそうなほど振るが、ドモン達とてここは引けない理由がある。

 世界統一の第一歩として守った筈の村が、また何者かに襲われ壊滅などしてしまえば目も当てられないからだ。

 一歩踏み出しアインズは言う。

 

 

「長よ。遠慮、と言うのは時には不要なものだ。私達の願いはたった一つ。全ての生あるものが笑って過ごせる世界を作ることなのだよ」

 

 

 その言葉に村長はとうとう折れた。

 

 

「では俺達は行くとするか。ガゼフ、お前も達者でな」

 

「ドモン様、そしてアインズ様。今回のことはこのガゼフ・ストロノーフ、何度頭を下げても足りませぬ。もし王都に来られることがあれば是非私の家に寄って下さいませ」

 

「だそうだぞ? ドモン」

 

 

 ドモンは少し考えた後にこう言った。

 

 

「俺達が直接行くかは分からんが、代わりの者が王都に行くかもしれん。その時世話をしてくれると助かる」

 

 

 それを聞いたガゼフの顔が少し引き締まった様に見えた。

 

 

「はい。その時は是非」

 

 

 そうして、ドモン達は王国戦士隊を残しカルネ村を後にした。

 

 カルネ村を出たドモン達は、自分達に追手が居ることを想定し、フェイクマーカーの使用と短距離転移を繰り返す擬装転移をしながらナザリックに帰ることにした。

 

 

《それにしても……》

 

 

 ドモンがマーカーをセットしていると、アインズが急に伝言(メッセージ)で話し掛けてきた。

 それをドモンは、今回の件で何か気になることがあったのだろうかと思った。

 

 

《どうしました? 何か気になることでも?》

 

《いや、あれ良かったんですか?》

 

《あれ?》

 

《ニグンのことですよ》

 

 

 ドモンはあぁ、と心の中でぽんと手を打つ。

 実は先程、ドモンはニグンに二つのアイテム……。

 正確に言えば二つのアイテムと一体の召喚獣を渡していた。

 アインズはそれについて言っていた。

 

 そのアイテムとは、一つはポーション。

 とは言っても回復する為のものではなく、その効果は使用した者へ一定量の経験値を与えるというものだ。

 ユグドラシル時代にドモンがとあるアイテムを求め、コラボダンジョンに頻繁に潜っていた時に大量に入手した物である。

 因みに、見た目は三角フラスコに入った虹色の液体で、実際飲むには若干の抵抗を感じるものとなっている。

 通称虹ポーションである。

 

 

《虹ポならまだまだストックありますから問題ありませんよ》

 

《いや、あのポーションはそこまで問題は無いと思ってます。確かにこの世界のレベルからすれば希少価値が高く、もう二度と手に入らないとは思いますが、最悪俺もかなりの数持ってますから》

 

 

 ドモンはそこでアインズが言いたいことを理解した。

 

 

《……てことは水晶の方ですか?》

 

《正確に言えばその中身ですがね》

 

 

 ドモンの言う水晶とは、ニグンも持っていた魔封じの水晶のことである。

 それを自分の手持ちから渡していたのだ。

 予めセットしていた第十位階の魔法を消去し、新たに自分が呼び出すことの出来る数少ない召喚獣を封じた状態で。

 

 

《ズィーガーですよね? 適役だと思ったんですが……》

 

《いやいや、貴方デメリット忘れてるんですか?》

 

 

 ズィーガー。これがドモンの従える召喚獣の名だ。

 身の丈は五メートルをゆうに越え、炎の様な赤い体皮と金の装飾を各所に施された竜である。

 

 元々は課金ガチャのレア召喚獣であり、それにドモンが様々な強化用のアイテムを与えた。

 そしてその結果、そんじょそこらのプレイヤーでは討伐不可能な強さを誇る召喚獣と生まれ変わったのだ。

 だが、アインズが懸念しているのは、この強力な召喚獣ズィーガーの持つマイナス面のことだった。

 

 

《勿論覚えてますよ》

 

《なら分かる筈です。平時なら問題無いと思いますが、いざ強敵が現れた時に突然大ダメージを食らう可能性があるんですよ?》

 

 

 『ソウルリンク』。それがズィーガーの持つデメリットスキルの名前である。

 効果は『死亡時に、召喚主が割合ダメージを受ける』というもの。

 極限まで戦闘能力を上げた末のデメリットで、それはドモンも承知の上だった。

 

 

《……なら、強敵が現れる前にズィーガーをニグンから回収出来る様にすればいいんでしょう?》

 

《それはまぁ……そうですが。何か案でも?》

 

 

 アインズはドモンが言葉に含みを持たせたことに興味を持った。ひょっとすると何か思い付いたのかもしれないと。

 

 

《案……って程でもないんですが、周囲三か国の体制とデミウルゴス次第ですかね》

 

《……分かりましたよ》

 

 

 アインズはやれやれと言った感じで伝言(メッセージ)を切った。

 しかし、ドモンの己が身を省みないやり方に少し不安を感じていた。

 

 

(今はまだ大丈夫だけど、これから先もこれだと困るよなぁ……)

 

 

 アインズがそういった感情を抱いていることも知らず、ドモンは淡々とマーカーを置き続けていったのだった。

 

 

//※//

 

 

 擬装転移を繰り返しながら戻った結果、ナザリックに着いたのは夜十時近くだった。

 無論、この時間はナザリック内に設置されている時計から分かったもので、外の時間と同じとは限らないのだが。

 第一階層をアインズやアルベドと共に歩きながら、ドモンは食事会の話を進める。

 

 

「さて、それじゃあ俺は厨房行きますね。場所はまた闘技場でも?」

 

「それがいいでしょう。食堂よりも広いですから」

 

「アルベドもそれで構わないか?」

 

「……御心のままに」

 

 

 鎧をガッチャガッチャと鳴らしながら歩くアルベドにドモンは声を掛けたが、イマイチ反応が薄いと感じたドモンはアルベドの機嫌をとっておくことにした。

 

 

「席の並びは……またアインズさんの横で構わないか?」

 

 

 その言葉を聞くやいなやアルベドは狂喜乱舞し、その光景を見てアインズはやれやれと頭を抱えた。

 そうこうしている内に、一行は第二階層へ続く階段の下に着いた。

 そこに待機していたナーベラルからギルドの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)を受け取ると、アインズとアルベドはそのまま第六階層へと転移し、ドモンとナーベラルはロイヤルスイートへと向かった。

 

 

「エイジ様、貴重な指輪を何度も貸し与えて下さり、このナーベラル・ガンマは光栄の極みに御座います」

 

 

 食堂へと向かう道すがら、ナーベラルは指輪の件についての礼を述べた。

 

 

「気にするな。前回も言ったことだが、あの場にお前一人置いていくことなど俺には出来んよ。……それに『お兄様』だろ?」

 

「こっ! これは失礼致しました!」

 

 

 そう言ってナーベラルは頭を勢いよく下げる。

 ナーベラルが背後に居るにもかかわらずドモンはそれを察知した、これも今の身体の恩恵だろう。

 ドモンはナーベラルの方を向き優しく微笑んだ。

 

 

「分かってくれればいいんだ。さ、行こう。それと、後ろにいると話辛いから横に居てくれると助かる」

 

「そ! その様な恐れ多いことは……!」

 

 

 ドモンは、畏まるナーベラルに追い討ちをかける。

 

 

「俺と並んで歩くのは嫌か?」

 

「う……。か、畏まりました……」

 

「良し! それじゃあ行こうか」

 

 

 ドモンは笑顔であったが、ナーベラルは顔を真っ赤にしながらドモンの横を歩いていた。

 それを見たドモンは、パワハラだったかなと思いながらも食堂へと急いだ。

 

 

(私が……エイジ様の横に……。これではまるで……)

 

 

 ナーベラルの中に新しい感情が芽生えているとも知らずに。

 

 

//※//

 

 

 食堂に着いたドモンは直ぐに調理へとかかった。

 そして次々に出来上がる料理をナーベラル、更にいつの間にか食堂にいたシュバルツが各階層へと運んで行く。

 

 

「いいか? このタイミングでこれを足すんだ。風味を適度に損なわない様にな」

 

 

 調理をする過程で、普段食堂を取り仕切る副料理長達に調理方を教えていく。

 これも世界統一の為、ドモンが考えている大事なことである。

 

 

「エイジ様、此方はどの様に?」

 

「あぁ、それはだな──」

 

 

 人外の能力と異常なまでに整った設備、そして副料理長達の素晴らしいサポートによって次々と料理が出来上がっていく。

 

 

「ド……、エイジ。今ナーベラルが向かっている階層が終われば、後はモモンガ殿のいらっしゃる第六階層だけだ」

 

「よっしゃ! 気合い入れるぜ! お前達の分も急いで作るからな」

 

 

 本来作るだけの側に居る自分達への配慮も忘れない。

 その様な気遣いは無用と思いながらも、副料理長達は感謝の言葉を述べていった。

 それから暫くして……。

 

 

「へいお待ちぃっ!」

 

 

 第六階層に設けられた会食スペース。そこに設置された巨大なテーブルに、これまた巨大な皿が置かれる。

 

 

「うひゃー! 良い匂いっすー!」

 

 

 プレアデス(戦闘メイド)の一人。人狼のルプスレギナ・ベータが蕩けた顔で鼻をすんすんと動かす。

 料理の香りに鼻孔を刺激され、二つに分けた赤い三つ編みをブンブンと振っていた。

 修道女の様な服装から受ける印象……。つまりは、おしとやかなものとは真逆の行動である。

 

 

「ホントだぁ~。この間のも美味しかったけど、これも美味しそう~」

 

 

 蜘蛛人(アラクノイド)のエントマ・ヴァシリッサ・ゼータが甘ったるい口調で話す。

 人の身体に擬態した蟲達も落ち着きを無くしている。

 

 

「あぁ~、駄目だよ~。皆落チ着イテ~」

 

 

 至高の存在から賜った姿を崩す。

 それだけは避けねばならないと、不定形の粘液(ショゴス)であるソリュシャン・イプシロンは妹を叱責する。

 

 

「エントマ、至高の御方の前で失礼極まりないですよ」

 

「ゴメン~。アァ~、今直したよぉ」

 

 

 そんな二人のやり取りを見てドモンは本当の姉妹の様だと微笑む。

 

 

「ソリュシャン、あまり気にするな」

 

「しかし、エイジ様……」

 

「いいんだ、食事は皆でわいわい食べる方が楽しいからな」

 

 

 ソリュシャンはその言葉に、微笑みを浮かべながら深い一礼をし、自分の席へと着く。

 その姿を追っていたドモンは、自分の視線の先に居たプレアデスの一人に気付き声を掛ける。

 

 

「どうだ? シズ。食えそうか?」

 

「……」

 

 

 ドモンの方を向き、只頷いてそれに答えるのは、正式名称 CZ2128・Δ(シーゼットニイチニハチ・デルタ)

 自動人形(オートマトン)の少女。略称、シズ・デルタである。

 彼女は、その感情の見えない瞳を料理に向け一言。

 

 

「……エイジ様の料理、凄く美味しそう……」

 

「可愛いこと言ってくれるじゃないか」

 

 

 ドモンはシズの頭を軽く撫でながら笑い、シズは顔を少しだけ赤らめた。

 その光景は、周囲のシモベ達には垂涎ものだった。

 

 

「……羨ましい」

 

 

 料理を運び終え、席に着いていたナーベラルは誰にも聞こえない様な小声で呟いた。

 そして全員が揃い、仲良く頂きますの声が円形闘技場に響き渡った。

 

 

//※//

 

 

「あー! 美味しかったー!」

 

 

 お腹をポンポンと叩き、アウラが満足感に溢れる顔をした。

 

 

「お、御行儀悪いよお姉ちゃん……」

 

 

 その横で、その行動は至高の存在の前で行うものではないと感じ、マーレが恐る恐るといった感じで注意した。

 

 

「だって、本当に美味しかったんだもん」

 

「でもぉ」

 

「まぁまぁ、あまりそう言うことは気にするな。マーレ」

 

 

 ドモンはマーレの肩に手を置き、優しく言葉を掛けた。

 

 

「よ、宜しいのですか? エイジ様」

 

「勿論だとも。俺は普段からあまりにも堅苦しいのは苦手だからな」

 

 

 マーレは分かりましたエイジ様、と笑顔で返した。

 そこでドモンは改めて気付いた。皆の呼び方に違和感があるのを。

 すかさずアインズに伝言(メッセージ)で話し掛ける。

 

 

《そう言えば名前のこと言ってませんでしたね》

 

《あれ? 分かってて答えてたんじゃなかったんですか?》

 

《はい》

 

 

 テーブルの端でアインズが額に手を当て、はぁ~と言ったジェスチャーをしている。

 

 

《後で守護者達を集めて報告をするって言ったの、記憶違いがなければドモンさんでしたよね?》

 

《いやぁ、うっかりうっかり》

 

《しっかりして下さいよ、もう》

 

《んじゃ、今この場で報告会のことだけ言って貰えますか? 只、ちょっと時間が欲しいので時間は後に伝えるってことで》

 

《時間? まぁ、いいですけど。なる早でお願いします》

 

《うす》

 

 

 ドモンはアインズに気取られない様に普段通りの返事を返す。

 

 

(さて……。上手く行ってくれるかな?)

 

 

 その視線の先には、アインズの横で嬉しそうに笑うアルベドの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 少し前に知人から「書き方がくどいかも」、と言われたので今回書き方を変えてみました。
 後、どうしても改善出来なかったのですが、場面転換が多く見辛くなってしまったので御詫び致します。

 何か御意見や感想、リクエスト等があればコメントやメールで御伝え下さい。

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