東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中) 作:タツマゲドン
「棒符「ビジーロッド」!」
ナズーリンがスペルカードを唱えた事で状況が急変した。
スペルカードが弾幕を撒き散らし、至近距離に居たアダムが跳び上がったかと思うと体を捻って躱す。
後方に1回転して着地したアダムは既に両手に拳銃を握っていた。
「どうしても私達は「聖」を復活させなければならない。だけど君達は私達に敵対するみたいだね。」
(やはり先に霊夢が余計に刺激させたのが悪かったか、それとも......)「仕方ない。2人共、下がっていてくれ。」
呼び掛けると霊夢と魔理沙が距離を取ったのが見えた。
「次は私にやらせてくれよー。詰まんないからさー。」
魔理沙が、約策だぞ、とばかりに言う。
アダムは頷きもせず目の前の相手から目を離さない。
「捜符「レアメタルディテクター」!」
ナズーリンの詠唱に対し咄嗟に拳銃を突き出したアダム。
弾幕が銃弾に次々と撃ち落され、銃弾もまた弾幕に阻まれて届かない。
(宝塔の力はまだこんな物じゃ無い筈。)「もっとだ、視符「ナズーリンペンデュラム」!」
今度の弾幕は明らかに規模が違っていた。
「やるわね、あの妖怪。」
霊夢が素直な感嘆を漏らした。
その量はアダムが2丁の拳銃から放つ秒間100発の銃弾を飲み込み、襲い掛かる。
右へ頭を傾け、左へ体を傾け、後ろへ体を逸らし、前へ姿勢を低くし、躱す。
後ろへ手を着けないカポエイラ式のバック転をしながら避けると同時に距離を取る。
最低限の動きで銃弾を避け、アダムは銃を持つ手を1発放つごとに位置や角度を変更して連射する。
攻撃に集中して防御が疎かになっていたナズーリンは弾幕の合間を縫って出て来た銃弾に被弾してしまった。
「いたたた......宝塔があって良かった......。!」(もっともっと......。)
被弾して速攻で起き上がったナズーリンはスペルカードを発動させる。
弾幕が嵐の様に規模を増して襲い掛かって来る。
「前よりやばくなってるぞ!」
と、魔理沙の驚き。
アダムは銃をナイフに持ち替え、刃で次々と光弾を叩き斬る。
上下左右前後にナイフを動かし、更に体の動きも加える。
前方に跳びながら体を前に1回転、同時に両手を広げながらナイフを薙ぐ。
弾幕の一部がかき消され、その僅かな隙間を潜り抜ける。
上半身から着地し、地面を転がった先にも弾幕は待ち構えていた。
今度は体を横へ半回転、ナイフの軌跡に従って真横の弾幕が消えた。
次は地面から足を離して体軸を地面と平行な向きに、そのまま回転して右から上、そして左方向の弾幕をかき消した。
(予想を大きく超えている......攻撃の暇が無い......。)
前方からの弾幕を腕を左右に回して刃を当てる事によって弾幕を防ぐあるいは逸らし、遅いが着実に1歩1歩距離を詰めていく。
防御しながらもアダムはある事に気付いていた。
(......あの手に持っている、ランプか?)
ランプらしき物体、即ち宝塔がナズーリンの意志を受け取り、宝塔は空間からエネリオンをナズーリンへ流し込んでいる。
(さてはユニバーシウムか。自律機関としてでは無く人が使う事を目的とした補助機関としての役割らしい。しかし不思議だ、幻想郷にユニバーシウムの加工技術があるのか?それどころか幻想郷にはユニバーシウムという存在自体知られていない筈だ。)
疑問をさておき、アダムは目の前の攻撃を避け続けなければならない。
前方へ跳び上がりながら今度は後ろ方向に宙返りをする。
弾幕がアダムの身体をギリギリ掠め、半回転して上下逆になったアダムの両手は銃に持ち替えられていた。
回転中であっても的確に狙いを定め、連射した。
ナズーリンが危機を直感的に察知して重心を後ろに傾けた。
驚くべき事にナズーリンは衝撃波を発生させながら後ろ向きに急発進したかと思うと、急減速してバランスを失いそのまま倒れた。
(あの調子ならば知覚が追い付いていないらしい。後は簡単だ。)
勝利を確信したアダムは宙返りから着地、そして地面を勢い良く蹴り付け一気に接近する。
(不味い!)「宝塔「グレイテストトレジャー」!」
ナズーリンは自分の出せる中で最強の技を繰り出した。
だが、アダムは迫り来る弾幕を無視するかの様に真っ直ぐに突進する。
「あんなん無茶だ!」
「危ないわよっ!」
観戦している魔理沙と霊夢も驚きの声を上げる。
それはアダムと対立するナズーリンも同じく動揺している。
(本当にあんな中を突破するつもりか?)
アダムに迷いは無く、突っ切るつもりらしい。
突然アダムが何も持たずに両腕を前に突き出した。
弾幕が突き出された両腕の小手に当たって消滅した。
交互に右、左、右、左、と弾を払い除ける様に突き出しながら勢い良く前進する。
「良く何も持たないで弾幕が防げるなあ。一体どうやってるんだ?」
感心する魔理沙が同時に疑問を漏らす。
それはナズーリンも同じだった。
(まさか宝塔の力が通じないとでも言うのか?!)
気付けばアダムはナズーリンより3m前方に居た。
アダムは軽く跳び上がり、真正面からの弾幕を避けると同時に体を丸めながら後ろ方向へ回転し、ナズーリンはそれに見とれていた。
着地すると同時に改めて地面を勢い良く蹴り、音速を超えて跳び掛かる。
膝蹴りを腹に決めると同時に肘打ちを頭頂部に決めた。
何が起こったのかも分からないナズーリンは打撃を受けた衝撃で思考が鈍くなり、ただ打たれるのみとなった。
平手にした手の甲を左右交互に打ち出し、顔面に連続ヒットさせる。
相手の膝を真っ直ぐに蹴り折り、バランスを崩して倒れそうになったナズーリンの首を抱える。
そのまま相手の首に全体重を加えながら、プロレス技の要領で肘の裏側でナズーリンを勢い良く顔面から地面に叩きつけた。
地面から起き上がったアダムは、最接近しているナズーリンを一目見るなり、
「......気絶している。それ以外は問題無い。」
と断言し、ナズーリンが持っていたランプ型の物体を奪い取った。
「それ何?」
と霊夢の疑問。
「流石、仕事が早いな。腕でどうやって弾幕を受け止めたんだ?」
これは魔理沙の感嘆。
アダムはまず簡単に返答できる魔理沙の質問の方に答えた。
無言でロングコートの袖をめくり、腕にはアダムの引き締まった体にフィットした黒いインナーの上に、これまた黒いロープが巻き付いていた。
「成程、前にもなんか使ってた事があったっけ。」
「スマート・アナコンダ」と呼ばれるロープの用途は、アダムが発見した中で4つもある。
1つ目は普通のロープと同じ様に使える事、2つ目はロープに繋いだ先にエネリオンを送り込む事が出来る事、3つ目はロープ自体を自在に操る事。
そして4つ目、先程の様にロープを利用して防御に利用出来る事。
ロープは鎖帷子と同じ様に局所的な圧力を加えられてもそれを分散して崩壊を防ぎ、ロープそのものもエネリオンによって強化されるので大抵の攻撃は受け付けない。
それはさておき、アダムは霊夢の質問にも答えなければならない。
「それで、このランプ?についてはまだ詳しい事は分からないが、僕はこれをユニバーシウムだと考える。」
「えっ、それが?......形から見て宝塔かしら。随分と小さいのね。」
「でも幻想郷の連中は皆ユニバーシウムの事なんか知らない筈じゃないのか?」
「魔理沙の言う通りだと思うが、現にこのユニバーシウムは「加工」されていた。エネリオンを特定のエネルギーに変換する様にだ。明らかに知っているとしか考えられない。」
「アダム、幻想郷にユニバーシウムという「名前」は無かったとしても、それが何か別な名前として伝えられていたかも知れないわ。霊力や魔力だって突き詰めればエネリオンなんでしょ?」
「......一理ある......だがこれがユニバーシウムである事の確認やユニバーシウムが知られている事は今はどうでも良い......これをある人物を復活させる為に使うとか言っていたな。」
「飛倉って言ってたか?じゃあ宝船はその飛倉の事を指すのか?」
「一致する情報がこれだけあれば可能性は高い......。」
魔理沙が横から割る様に質問し、アダムが自分の考えを言うと黙り込んだ。
アダムが考え込んだのを見ると、霊夢が訊いた。
「何か良い考えでもあるの?」
「......そこのナズーリンという奴は僕達の目的を伝えた瞬間に攻撃して来た。対等な話し合いは無理だと思う。だがこちらには......。」
アダムが飛倉の破片と宝塔を見詰める。
「......他にもまだ確認していない人物も居るだろう。そこで考えだが、この宝塔と飛倉の破片を交渉材料にする訳だ。」
「人質代わりって訳か。相変わらずお前の考えている事って何か怖いな......。」
「でもそれで異変を防げるなら良いんじゃない?」
魔理沙は苦笑気味だったが、霊夢は割と乗り気らしい。
「そうか?霊夢、お前もアダムみたいに少々非情に......いや、元からか。」
霊夢が間を入れずに平手で魔理沙の頭を叩いた。
「余計な事は言わない。」
「へいへい......。」
3人は横たわったナズーリンを何事も無かったかのように置いてきぼりにし、次の候補を探す為、再び上空に飛び上がった。
ハア......結局何も変わらんな。
リョウを殴って抜け出して来たが、どうすべきか......。
誰も傷つけたくないと言いながら結局傷つけてしまっているのは分かっている。
「だが、仕掛けたのは向こうだ!」
弱気になった俺に喝を入れようと俺は怒鳴った。
何をやっている。
俺は変わりたいんだ。
それを俺自身が、
「違う!奴らが俺をそうさせない!」
クソッ!
自棄になった俺は目の前の木に向かって拳を突き出した。
軽く当たった、という程度の手応えが返って来て、一瞬で反発が無くなり、俺の右腕はストレートを伸ばし終えた。
俺に殴られた木の幹は原型を留める事無く破砕され大穴が空き、すぐ下の地面に木屑が散乱している。
そして後ろの気配に俺はとっくに気付いていた。
「俺から隠れているつもりか?」
問い掛けながら振り向くと明らかに隠しきれていない紫色の傘が木の影からはみ出ていた。
ガサッ、とこける音がしたのは慌てて俺から逃げる為だろう。
呆れてため息をついた俺は構ってやる事にした。
早足に歩くと、早速姿が見えた。
やはりだ、以前俺に向かって、驚け、と言いやがったガキだ。
姿を見せてしまっても尚、奴は俺から逃げようと俺の顔を見て怯えながら後ろに下がる。
本来なら俺はそいつを何ともせず無視しているだろう。
だが、どうする?
「......ハア......待て、何もせん。」
そうは言ったが、当然俺の言う事など信用しないだろう。
奴は立ち止まって半分涙目で警戒しながらこちらを窺い見ている。
「そう泣くな......一応聞くが、何故俺に付いて来た?」
「......。」
何故答えん!
危うく怒鳴る所だった。
「......済まんが、俺は気分が悪い。」
まだだ......これからだ......。
地面を蹴れば視界が変わり、当然さっきの傘のガキも消えた。