東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中)   作:タツマゲドン

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最近ツイッター始めた主

詳しい事は活動報告にて


91 飛倉

「そろそろ雲を抜ける。目標物は1時の方向に見えると思うよ。」

 

「はい。」

 

 水蒸気が上空へ昇る事によって凝固点に達し液体となり光を反射して白く見える水、即ち雲、それが今まで視界を覆っていたのが、急に晴れた。

 

 カイルの言う通り、1本だけの巨大なマストが特徴的な巨大な船が前方から右へ約30度の方向にあった。

 

 推定40mという全長から見るにまだ小さく見えるのは、距離はまだ100m程離れているだろうか。

 

 早苗はカイルが飛行する隣を並行し、やがて船は目の前から5mも離れていなかった。

 

「大きさは予想通りみたいですね。」

 

「......妙だな、中に誰も居ない。」

 

「え?動いているのにですか?」

 

「遠隔操作か自動操縦か......取り敢えず調べよう。」

 

 提案したカイルが宝船の甲板に足を着け、続いて早苗も着地した。

 

 甲板の中央から後ろ寄りには倉と思われる建築物が載っていた。

 

「......結界の揺らぎの原因はこれと見て良いと思う。」

 

 目を閉じたカイルがエネリオン構造情報を読み、すぐに目を開けて言った。

 

「それにこの船は完全な自動操縦であるらしい。」

 

「でも船ですし、誰か今まで乗っていた、とかは無いんですか?」

 

「そうだね、船室はあるからには人が乗るのを前提として設計されている筈だし、それに関係者が戻ってくるかも......待て。」

 

 カイルが急に柔らかな口調から真剣な口調に変わった。

 

 その変化を受け取った早苗は思わず身構える。

 

「......何か来る。気を付けて。」

 

「はい......。」

 

 それは突然だった。

 

「カイルさん後ろ!」

 

 早苗が注意すると同時にカイルが振り向く。

 

 甲板から上に数m、船の縁から数十m、”それ”はそこにあった。

 

「あれってUFOじゃないですか?!」

 

「UFO?僕にはUAVに見えるけど。」

 

「でもプロペラも何も見当たらないから......」

 

「いや、推進器がそこに......ちょっと待ってくれ。」

 

 早苗の主張が違うとでも言う様にカイルが考え込み、能力を活用して”それ”を調べ始めた。

 

(明らかに同じ位置にあった筈だが、僕と早苗が見た物は別物だとでも言うのか?......いや、僕達は”同じ”物を見ていたのか。しかも......。)

 

 カイルが思索を巡らしていた時間は3秒にも満たなかった。

 

「あれは幻影だ。」

 

 真っ先に結論を述べたカイル。

 

 早苗が、えっ?という表情をしたのは無理も無い。

 

「木片を媒体にして幻影を映し出している。幻影はどうやら観測者によって変化する仕組みらしい。元の木片の方は何者かの意志によって操作されている。」

 

 カイルが説明しながら船の上に建っている倉に目をやった。

 

「その操作している人がその中に、って事ですか?」

 

「その通りなんだけれど、結界らしき物に阻まれて内部が分からない......結界の揺らぎの原因もこの内部にあるんだろうけど......。」

 

 言うより実際確かめるべく、2人は倉の前にまで歩み寄った。

 

 戸は木製らしく、トランセンデンド・マンであるカイルは当然、早苗にも壊せそうだ。

 

 だが、

 

「問題は、壊した後どうなるか......」

 

 中身を知らずに無理矢理開けるのはやはりリスクが高いからだ。

 

 だがそれだけでは無い。

 

「もしここが慧音さんの言う「魔界」だとすれば、その入り口を強引に開ける事によってこちら側の世界に悪影響を与えるかもしれない。宇宙と別次元の宇宙の扉を開くみたいに何が起きるか分からない。」

 

「それじゃあどうすれば......。」

 

「まずは関係者を待つか探すか......その前に色々”見て”おこう。」

 

 カイルはその場に座り込んで目を瞑り、早苗もその傍に座った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢が魔理沙の乗る箒の横に並行し、アダムはまたしてもその箒の世話となっている。

 

「アダムはさ、カイルみたいに相手の居場所が分かる、みたいな能力とか無いのか?」

 

 魔理沙が首だけ後ろを向いて訊いた。

 

「数千mという距離は無理だ。数百mから1、2kmの距離でも一か所に集中する必要がある。レーダーの様に周囲全体を調べるには精々100m以内だろう。現にその空を飛ぶ船の居場所どころか方向さえ分からないなら探知にはかなりの時間が掛かる。」

 

「全く、魔理沙が何も情報が無いまま伝えるから結局探すのに時間掛かってしまうじゃない。」

 

 すかさず霊夢が愚痴をこぼす。

 

「悪かったな、突然だったから慌ててたんだよ......で、どうすりゃいい?」

 

 無愛想に謝った魔理沙は、困った時に取り敢えず何かやる癖の様にアダムを頼る。

 

「これ以上このままの探索では非効率的だ......カイルに訊いてみるか。彼ならば既に気付いているかも知れない。」

 

 そう言いつつアダムはポケットから薄い長方形の通信機を取り出すなり液晶画面に多少指を当てたりスライドしたり、やがて耳に当てた。

 

 コールは1回だけだった。

 

「カイルか?アダムだ。今どこに居る?」

 

『ええと、君は空を飛ぶ船を見たか?』

 

「直接見ては無いが、魔理沙から話は聞いた。僕達は今それを探している所だ。」

 

『僕は今その船に居る。』

 

「本当か?で、何か分かった事は無いか?」

 

『船には誰も居ない、オートパイロットだ。この前からあった結界の乱れもこの船が発生源と見て間違いない。更に、船には半壊した倉らしき建造物があって正確な異変源はそれらしい。倉の内部は恐らく魔界、別次元の空間の様になっていて、つまり倉の扉が開けば空間内にエネルギーが漏れ出し、結界が不安定になる可能性がある。僕は今船を更に深く調べている所だ。ところで丁度良かったから、君には恐らく地上に居るであろう船に関係した人物を探し出して欲しい。』

 

「何かその人物の事についての情報はあるか?」

 

『済まないが、1つも無い。だが君は対人戦闘能力や人物洞察能力に適性がある。だから怪しい行動をする人物を特定までは行かなくても候補に絞り出すだけで良い。それに霊夢や魔理沙は幻想郷の異変に詳しいだろうし彼女達の情報力も役に立つ筈だ。頼めるかい?』

 

「分かった。」

 

 返事をして速攻で通信を切ったアダムは2人へ訊いた。

 

「2人共、例の船についてはカイルが既に発見し到達し解析中だとの事だ。それで僕達はその船の関係者を探すように依頼された。」

 

「何?カイルの奴既に見つけたんだな。やっぱ凄いや。」

 

「で、そいつの手掛かりは何か無いの?」

 

「無い。」

 

 アダムの解答に2人は脱力して思わずこけそうに、はならなかったが空中に居たので、代わりに急停止した。

 

「そんな断言されてもなあ......。」

 

「無いって、探しようがないじゃない。」

 

「探し出さなくても候補を割り出すだけで十分だと言っていた。それらしい変わった行動をする者に注目すれば良い。」

 

「......まあ、異変が起きたときって毎回何も分からん状態で始まるし......。」

 

 魔理沙が呟き、

 

「それなら、少し前から見掛けない奴がウロチョロしていたのを見たかしら。行動も怪しかったわ。」

 

 霊夢が提言して残る2人がその話を聞くべく向き、霊夢は詳しく話す事にした。

 

「確か、前地底で異変があった後から、小規模な異変とか妖魔退治とかであちこち移動していた時に妙だなーって思った奴が居たのよ。まずは変な棒を持った妖怪鼠、それに周囲に桃色の雲を纏った尼っぽい人、それから白い水兵っぽい服の奴と、あとは妖怪虎......何かやらかしたみたいな感じだったけど、まあこれ位かしら。その皆何かを探している雰囲気だったわ。しかもそいつらが接触しているのを見た事あったから4人は間違いなく関係があるわね。」

 

「あっ、鼠と虎は私も見た事があるな。この前里で虎の方が、また落としてしまった、とか言ってドジってた感じだったな。」

 

「それで、居場所か良く目撃する場所は分かるか?」

 

 今度はアダムが質問をする番だった。

 

「そうね......はっきりとした事は言えないけど、どれも里からそう離れていなかったわ。」

 

「いや待て、まず1人は探す必要が無くなったらしいぜ。」

 

 魔理沙が提言し、視線で示した先には、

 

「何でご主人は何時もおっちょこちょいなんだか......。」

 

 愚痴らしき言動をしながら何かを探しているらしい。

 

 頭に鼠のものと思われる耳があり、両手にはダウジング棒、80cmの金属棒を持ち手が30cmになる様に折り曲げた2対の棒、が握られていた。

 

「やっぱあいつだ。霊夢、どうする?」

 

「そりゃあ聞き出すに決まってるでしょ。」

 

 どのようにして、とは言わず接触を試みる2人。

 

「ちょっとあんた。」

 

 この霊夢の一声を聞いたアダムは顔を顰めそうになった。

 

 いきなり声を掛けられた妖怪鼠の方は不愉快そうな顔をして返事をした。

 

「に、人間?な、何だい?」

 

「あんた今朝空を飛ぶ船を見たかしら?」

 

「さ、さあ......。」

 

「知ってるわよ、あなたその船を知っているでしょう。」

 

(これじゃあ恐喝だな......。)

 

(これでは聞き出せる事も聞き出せないぞ......。)

 

 魔理沙とアダムがそれぞれ心の中で呟いた。

 

「いや、ちょっと待ってくれよ。そんな怖い目で睨まれても......。」

 

 妖怪鼠は更に困った表情になり、魔理沙がため息をつき、とうとうアダムが立ち上がった。

 

「霊夢、僕にやらせてくれ。」

 

「でもアダム。」

 

「下がっていてくれ。」

 

 霊夢は主張できないままアダムの抑揚の無い言葉に従うままとなった。

 

「僕はアダム・アンダーソン。君は何と言う?」

 

 すると妖怪鼠はアダムの冷静な声に困惑が消えたのか、

 

「ナズーリンだ......で、私に何を求めてるっていうんだい?」

 

「まずは君の目的を教えてくれ。」

 

 アダムはそう問いかけながらナズーリンという鼠妖怪が手に持っている物を見つけた。

 

 多分ボロボロになった建築材だろうか。

 

「それは?」

 

 アダムの更なる質問にナズーリンの方は、

 

「......その船にある飛倉の破片だよ。ある人物を復活させる為に使うんだ。」

 

 警戒心は残していても質問には正直に答えた。

 

(倉......じゃあ破片はそれを直す為か。ならば......)「......悪いがこちらにも都合がある。その倉を直し魔界への通行口を開くのだろう。結果、幻想郷の結界が乱れ、最終的に幻想郷を滅ぼす事に繋がる。僕達はそれを防ぎたい。」

 

「げ、幻想郷が滅びるだって?!」

 

「出来るならばそちらの行動を止めてもらいたい。何も......」

 

 丁度その時、ナズーリンはある事に気付いた。

 

 自分の後ろにネズミが1匹、ランプ型の物体を持って自分に差し出していた。

 

 ナズーリンは自分の捜索能力に加え、大量の子ネズミを遣う事によっても探し出す事が出来る。

 

 そして、このランプもどきこそ今ナズーリンが探していた物だった。

 

(この人間達は私達に敵対するだろう......ならば排除するまでの話。)

 

 そう考えたナズーリンはネズミからランプ型の物体を素早く受け取った。

 


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