東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中)   作:タツマゲドン

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近頃はカンフー映画にハマり過ぎてしまいました

あとタイトルやあらすじ変えたりして自分でも納得できないです


83 蛇と酔

「どうでした?」

 

 目を開けた時一番最初に掛けられた言葉だった。

 

「ここ1週間で大分分かって来た。ある仮説が有力だと思える様になったよ。」

 

 カイルが答える。

 

「どんな説なんですか?」

 

 教えて欲しいとさとりがせがむ。

 

「それじゃあ......月は知ってるかい?」

 

「ええ、地上から見えるという巨大な星なんでしたっけ。見た事は無いけど。」

 

「その月がどの様にして出来上がったのか。それにはあらゆる説があってどれが正しいのかは分からないけど、その中で有力なジャイアントインパクトというのがある。」

 

 いきなり聞いた聞き慣れぬ単語にさとりが首を傾げる。

 

「ジャイアントインパクトというのは簡単に言えば地球が出来上がり始めた頃に別の小さな星が衝突し、そうして散らばった塵が月になったという説なんだ。」

 

「で、それが何か関係しているんですか?」

 

「そうだ。予め言う必要があると思うからね。それから、話は変わるけど、マントルって分かるかい?」

 

「聞いた事はあります。確かここよりもずっと地下にある層だって......。」

 

「ああ。そしてそのマントルというのは1年で数cmというゆっくりした速さで流動している。稀に更に地下にある核という部分のエネルギーによって急激に速くなる事もあってそれが地震や火山の間接的な要因にもなっている。」

 

「へえ~。なんだか話が噛み合わないんですけど......。」

 

「それで、これを見てもらいたい。」

 

 カイルがそう言うとさとりの脳内に立体図が浮かんだ。

 

 自分が思い浮かべたのではなく、目の前の青年が情報を送っている、その事は以前にもあったので慌てたりはしなかった。

 

 さとりはその情報を読み取るなり、ある事に気付いた。

 

 地上から地下へ、更に深く、そこに広がっていた。

 

「調べた範囲は半径200km。外界の情報まで入っている。この真ん中の所が幻想郷の範囲だ。」

 

 その真ん中の地下の範囲にあった。

 

 厳密には全体に広がっているのだがその部分には大量に集中している。

 

「これがユニバーシウムでしたっけ?」

 

「そう。通常マントルの動きがあるならユニバーシウムは地球が出来てから十分に拡散している筈だ。だがこれは......」

 

「ユニバーシウムは動いていないという事ですか?」

 

「僕が調べた所、ユニバーシウムにはマクロ的な動きさえ何も無かった。どうしてかは不明だけど間違い無く動いてないと言ってもいい。集まっている形状も見てくれ。」

 

 ユニバーシウムは巨大な平たいクレーター状だった。

 

「クレーター?でも変な形ですね?」

 

 さとりがそう疑問を抱いたのは、クレーターが円形ではなく横に広い楕円状だったからだ。

 

「ジャイアントインパクトでは衝突した星は地球を浅い角度で掠める様にしてぶつかったというシミュレーション結果が存在している。」

 

「じゃあそのジャイアントインパクトは正しいという事ですか?」

 

「だろうね。それにユニバーシウムが何故幻想郷に多く存在しているか、それも説明が付く。」

 

「それって今まで知られてなかったんですよね。なら凄い発見じゃないですか!」

 

 さとりが他人事なのに自分事の様に嬉しそうに言った。

 

「でも、後はユニバーシウムが何故マントルの影響を受けないのか、それさえ分かれば完璧なんだけど……今の所はユニバーシウムが衝突時のショックによって何かが起こり、その所為で空間中のエネリオンを吸収し、それが移動を妨げていると考えている。」

 

「判明すると良いですね。」

 

「それだけじゃないよ。ユニバーシウムが何故衝突した星に多く含まれていたのか。そもそも、ユニバーシウムがどうやって作られるか、それさえ分かっていない。外界の技術では大量のエネルギーによってあらゆる物質を生み出す事が可能だけど、ユニバーシウムに関してはまだ出来ていない。」

 

「気が遠くなりそう......。」

 

「別に聞かなくても良いよ。専門家の域だからね。」

 

 カイルが苦笑しながら言ったが、

 

「えっ?!そんな事無いですよ。カイルさんの話は聞いていて面白いですし。」

 

 さとりは逆に本気気味に慌てて返事した。

 

「そうかな?」

 

「そうですよ。」

 

 カイルが分からん、と首を傾げた所で、さとりは話題を変えた。

 

「そうだ、この前燐が珍しくコーヒーを買って来てくれたんですよ。あ、後ケーキも焼いたんです。食べませんか?」

 

「良いね、ありがたく貰おうか。」

 

 さとりがそう言いつつ何処からかカップと皿を持ち出した。

 

 まずはカップの中の黒い液体を一口飲む。

 

「......モカか。この薄い味はミディアムかな、苦みが少なめだね。」

 

「カイルさんはコーヒーも詳しいんですね。」

 

「好きな物でね。このケーキはコーヒーの酸味に対して苦味が強めになっていて丁度良い。」

 

 ケーキをフォークで口に運び、頬張りながら賞賛した。

 

(やった、喜んで貰えて良かった。燐に頼んで買って来てもらった甲斐があったわね。思考を読んだのは失礼だったかも知れないけど。)

 

 さとりが内心でガッツポーズをしたが、カイルがそれに気付く事は無かった。

 

「そういえばカイルさんは科学者って聞きましたけど、休みとか何をされてるんですか?」

 

「色々だね。SFサスペンス系の映画を観たり小説を読んだり、ジャズを聴いたりピアノ演奏したり、北欧料理や地中海料理を作ったり食べ歩いたり、基本的にのんびりしてる。体は余り動かしたいとは思わないものでね、お蔭で皆からはよく老人みたいと言われる。」

 

 カイルが苦笑いしながら答え、さとりも釣られて笑う。

 

「意外ですね。もっと研究熱心なイメージがあったんですけど、マイペースなんですね。」

 

「一つの事だけに集中したってアンバランスだ。全体的に薄くても知識があれば役に立つ機会は多い。それに少しでも予備知識があれば深く学ぶ事も難しくはない。」

 

 落ち着いて真面目気味に言うカイルは見た目よりも年齢が上に見えるが、

 

「それにしてもこのケーキ、ナッツが効いているね。こちらも何かご馳走したいな。」

 

 コーヒーとケーキを美味そうに飲食する姿を見る限り年齢相応、あるいはそれ以下、の少年なんだな、と思えてくる。

 

「礼なんて要らないですよ。むしろこちらからのお礼です。」

 

「ケーキ作るの私も手伝ったんだよ。」

 

 不意にカイルの目の前に出現した少女が付け加えて言う。

 

「こいしったら、何処行ったかと思ったら急に現れて、失礼よ。」

 

「えへへ、ごめん。」

 

 10代前半の体格をしたさとりが妹のこいしを優しくながらも躾ける様子は大人びて見える。

 

 その様子を見てカイルは昔の楽しかった日の事を思い出していた。

 

「カイルお兄ちゃんどうしたの?」

 

「ん?」

 

 こいしが自分達を微笑ましく見るカイルに気付いたのか問う。

 

「昔の事を思い出してね。」

 

「どんな?」

 

 無邪気な笑顔でこいしが問いを加える。

 

「僕には弟が居るんだ。12歳でやんちゃな奴だよ。外の世界に居る。」

 

「へえ~。」

 

「カイルさんにも弟が居たんですね。」

 

 さとりも興味を持ったのか話題に加わる。

 

「別に言う事は聞かないし、自分がのんびりしたい時に限って構って来るし、ろくな事は無いよ。」

 

「ふふっ。私も、こいしは何時も自分勝手で言う事聞かないから。」

 

 さとりが笑いながら自分の事も言うとカイルも同情の気持ちを浮かべ笑った。

 

 突然、

 

 ゴウン!

 

 3人は地面が弱いながらも揺れたのを感じた。

 

「きゃっ。」

 

「わっ。」

 

 姉妹は女の子らしく少々オーバーに驚きはしたが、青年の方は反応しても動じる事は無い。

 

「凄い揺れ......。」

 

「リョウの奴、ストレス溜まってるんだな......。」

 

 姉と兄がそれぞれ思った事を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたたたたた!!!!!」

 

「でやあああああ!!!!!」

 

 ぶつかり合うのは青年の拳と少女の拳。

 

 それも1撃1撃が岩を簡単に砕くエネルギーを持ち、しかも1秒で100発以上という速さ。

 

 青年が長いリーチを活かし長い右フックを放つ。

 

 少女が姿勢を低くし避けると同時に、小柄さを活かし急接近するとボディブローを繰り出す。

 

 左腕でパンチを防ぎ、青年はまた右腕で、今度は下方向に肘打ちを仕掛ける。

 

 肘を空いた手で受け止め、青年に向かって膝蹴りを放つ。

 

 少女の膝蹴りを足で蹴り止め、反動で少し戻った所で再び伸ばす。

 

 青年の蹴りをしゃがんで躱す。

 

「ぬははははは!」

 

 青年は笑い声を上げながら蹴りを出した足を連続して畳んでは伸ばし、連脚撃を繰り出す。

 

 上下左右から動く足は遂に少女のガードをすり抜け、肩に決め地面に倒した。

 

「い、いててて......やるね、リョウ。」

 

「だろ?俺は昔からカンフー映画ばっかり見ていたからな。萃香、お前もやるじゃん。」

 

「まあね。酒を何時でも飲んでいるからさ。」

 

「道理で、動きが酔拳っぽい訳か。なら俺は蛇拳で行くぜ。」

 

 伊吹萃香は、両手を肩の高さに、左足を曲げて膝を胸まで上げ、両手は親指と人差し指を意識する様に握る。

 

 柏リョウは、右足を前に左足を後ろに、右手を顔の高さに上げ左手を右腕の肘に添え、両手の指を蛇の頭の様に尖らせる。

 

 そして、それを楽しそうに見守るのは星熊勇儀。

 

 萃香が右手を前に振り出し、連動して腕に付いた鎖付き分銅が鞭の様にしなりながら振り出される。

 

 咄嗟にリョウが掲げた左腕に巻き付く。

 

 萃香が右腕を引き、リョウも対抗して左手を引く。

 

 リョウが体を回転させ、萃香も合わせて体を回転させる。

 

 その隙を突くべくリョウが鎖を手繰り寄せ一気に接近する。

 

 それに対抗して萃香が残り2つの鎖付き分銅を投げ飛ばした。

 

 もう見切ったとでも言う様に分銅を2つ蹴り返し、更に距離を詰める。

 

 近づいて来たリョウへ飛び掛かる様に連続蹴りを放つ萃香。

 

 リョウは蹴りを躱し、最後に自分に絡んだ鎖を相手の足に絡ませ、そこへ横蹴りを放つ。

 

 蹴りを腕で受け止めた萃香だが後方へ吹き飛ばされ、鎖によって戻される。

 

 そこにはリョウの手から繰り出される連続突きが待っていた。

 

 リョウの攻撃を右、左、右、左、と交互に逸らし、反撃に裏拳を突き出す。

 

 不意にリョウの体が沈んだ、様に見えた。

 

 戦闘を俯瞰的に見ていた勇儀はそれがリョウが足を曲げて胡坐をかいて座ったという事を理解した。

 

 萃香の腹に指がめり込み、手刀で足を刈られ、バランスを崩した所に座りながらの前蹴りが腰に決まる。

 

 よろけた萃香はリョウがそれから下段回し蹴りを仕掛けているのを確認し、跳んで避けた。

 

 ジャンプした萃香は落下の勢いを合わせ降下蹴りを繰り出す。

 

 今度はリョウが跳び上がり、萃香が着地したと同時に飛び後ろ蹴りを決めた。

 

 吹っ飛ばされた萃香は地面を転がり衝撃を吸収し、相手の出方に備えるべく直ぐに起き上がった。

 

 相手は真正面から自分に向かってナックルを放っている最中だった。

 

 受け止めようと腕を翳す。

 

 しかし、相手の拳は途中で平手に変わり、胸の前に構えた腕を抑えられた。

 

 攻撃の隙を与えず、リョウはもう片手で手刀を頭へと突き出す。

 

 萃香がもう片腕でそれを外側へ逸らす。

 

 気付けばリョウは尖らせた指をとにかく速く連続で打ち付けている。

 

 一方で萃香はそれを防ぐべく腕を素早く左右に揺らす。

 

 単純な攻撃と単純な防御のぶつかり合いが暫く続いた。

 

 萃香は何時の間にか腕を動かしているというのに攻撃を受け止めたという感触が無くなっているのに気付いた。

 

 何せリョウは途中から萃香の目の前で両手を交互に揺らしているだけだったからだ。

 

 気付いた萃香はリョウへ攻撃をすべく拳を握った。

 

 だが既に遅く、リョウの連続突きが萃香を襲った。

 

 攻撃を受け後退した萃香へ更に攻撃をするべく接近する。

 

 それを見た萃香がカウンターにストレートを放った。

 

 しかし、それを予測していたかの様に、

 

 リョウは後ろを向いた。

 

 それと同時に体を後方へ逸らし、ストレートを躱した。

 

 その体勢から長い腕で裏拳を数発当てる。

 

 体を正面に向かせ、右の親指と人差し指で相手の喉を握りつぶさない様に手加減して掴む。

 

「......参った。」

 

 萃香の口から降参の言葉が出された。

 

「流石だな、私に勝っただけの事はあるぞ。」

 

 観戦者の勇儀が感心した様にリョウを讃える。

 

「俺も、これ程強い奴が居るとは驚きだな。」

 

「何なら飲もうや、戦いの後の酒は最高だぞ。」

 

 そう言いながら勇儀が手に持つ一升盃に入った透明な液体をがぶ飲みした。

 

「ほら、飲みな。」

 

 盃を受け取ったリョウは残り半分ほど残っていた液体を全部飲み干した。

 

「......ウマスが全然違う......材料は何だ?」

 

「知らない方が良いぞ。」

 

 リョウと勇儀が顔を合わせて笑った。

 

「ところでリョウ。」

 

 萃香が何か腑に落ちない表情をしながら自分のヒョウタンを逆さにして飲みながら言った。

 

「何じゃい。」

 

「お前の戦い方さ、何か以前どこかで戦った事がある様な気がするんだよなあ。」

 

(ぬ、気付いたか?......)「そうか?俺はお前と戦うのは初めてだったぞ。」

 

「う~ん......やっぱし気のせいかな。」

 

「そうかい。」(やっぱ大丈夫か。以前対面したとはいえ顔は隠したし声質も変えていたし。)

 

 萃香は疑問を抱えたままの一方でリョウはホッとしていた。

 


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