東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中)   作:タツマゲドン

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スパイダーマ(ry


82 地獄から来た男

「よっしゃ始めるか。」

 

「ああ。」

 

 リョウの呼び掛けに最短で応答したアダム。

 

 2人が居るのは博麗神社の石畳の上で距離は10mも離れている。

 

「2人共頑張れよ!」

 

 神社の縁側で霊夢と魔理沙と慧音が座って観戦している。

 

 応援の声は魔理沙から発せられた物だ。

 

「来いよアダム、武器なんか捨てて掛かって来い。」

 

 試合は突然始まった。

 

 両手を素早くロングコートの中に突っ込み、抜き出した時は両手に拳銃を握っている。

 

 不意を突かれたリョウも慌てて背中のマシンガンを両手に抱えた。

 

 アダムは前進し、リョウは後退し、結果的に距離を保ちながら銃弾を連射する。

 

 アダムは1つの拳銃から秒間50発つまり計毎秒100発を、リョウはマシンガンから1秒に100発というペースで、2人合わせて1秒で200発の銃弾を発射する事になる。

 

 トランセンデンド・マンの平均的な全力疾走は秒速340m、この場で発射される銃弾は秒速1700m。

 

 つまり時速36kmで走るトップアスリートが時速180kmで向かって来る矢を避ける様な物だ。

 

 だがトランセンデンド・マンには、今のこの2人にもそれを避けられるだけの動体視力が備わっている。

 

 普通の人間の動体視力の限界は時速300km、トランセンデンド・マン基準に直せば秒速2033m、身体の動きや反応次第では音速の5倍程度ならば避けられる。

 

 要するにトランセンデンド・マンの平均を超えるアダムとリョウは共に放った銃弾を身のこなしでしっかりと避けている訳だ。

 

 状況が変わらないのを懸念したアダムが走行速度を急激に上げた。

 

 対するリョウも、勝負だ、と言わんばかりに走る方向を180度変更し、銃弾を吐き出しながら突っ込む。

 

 互いの走る速さはマッハ1、方向は正面衝突コース、銃弾はマッハ5、ならば互いから見る相手から発射される銃弾はマッハ7。

 

 動体視力で軌道が読みにくくなる分は銃口の位置を把握し予測して避ける。

 

 互いの距離が残り3mを切った所でアダムが両手をコートの中に入れる。

 

 リョウも銃を背中に掛け、何も持たずに金属の鎧手袋の様な物をはめている手を突き出した。

 

 ガギギギギ!

 

 アダムの2本のナイフとリョウの手の甲部分から飛び出た爪がぶつかり合い、競り合う。

 

 リョウが押し勝り、後退したアダムへ連撃を繰り出す。

 

 それでもアダムは冷静に全ての斬撃をナイフで受け止め、反撃に入る。

 

 連続撃は次第に手数でアダムが勝りリョウが次第に防御せざるを得なくなる。

 

「アダムが押してるわね。」

 

「流石だな!」

 

「リョウも強いが、それを押してるアダムも凄いな。」

 

 順に霊夢、魔理沙、慧音の台詞だ。

 

(俺の応援は無いのかよ。)

 

 胸の内で悲観に暮れつつ何か良い作戦は無いか考える。

 

 するとリョウは手の甲から生えた爪を戻し、右掌をアダムへ向けた。

 

 手首から何か小さい物が飛び出るのを視界に捉えたアダムは両腕を胸の前で交差させる。

 

 物体はアダムの左のナイフに”張り付いた”。

 

 リョウが右腕を引っ張ると、ナイフごとアダムの右腕も引っ張られた。

 

 アダムの手からナイフが離れる。

 

 だがナイフは宙に”止まった”。

 

 見ると、アダムのコート内からロープが伸びておりナイフに繋がっている。

 

 更にリョウの手首からナイフにかけて細い糸が伸びている。

 

 アダムがもう片方の手で拳銃を握り、糸の接触点に向けて引き金を引いた。

 

 銃弾が粘着点にヒットし、糸が剥がれた。

 

 ナイフを戻して持ち直し、相手は糸を巻き戻した。

 

「今の凄いな、何だったんだ?」

 

「地獄からの使者、スパイダー......ちょ、おまっ......。」

 

 魔理沙の感嘆にリョウが何かしらのポーズを取ったが、アダムは躊躇う事無く突撃して来たので言い終える事は出来なかった。

 

 今度は右手にやたら打撃部分が大きいハンマーを左手に真ん中に白い星のある円形の盾を持ったリョウが迎え撃つ。

 

 アダムの素早い攻撃だが、リーチが無い分大きい盾はその範囲によって攻撃を受け付けない。

 

 一方リョウのハンマーは重いが、その分一撃一撃が強いので相手がガードしても体勢を崩す事が可能だ。

 

 おまけに盾による直接の突撃もあり、まさに攻防一体だ。

 

「ビブラニウムはそんなチンケなオモチャじゃ傷一つ付かないぜ。アダマンチウムでも用意するんだな。」

 

 リョウが煽り口調で言いながらハンマーを振り下ろす。

 

 アダムがナイフ2本を交差させ振り下ろしを受け止めた。

 

 だがアダムは両手が震え焼ける様な痛みを感じ、無意識にのけ反った。

 

 その隙を逃さない様にリョウがハンマーの頭をアダムに向けた。

 

 稲妻が走り、アダムが反射的に両腕を胸の前で交差した

 

 ドジャーン!

 

「きゃっ!」

 

 自然現象の雷よりも弱いとはいえ強力な稲光と雷鳴が周囲を覆い、観戦している霊夢達は思わず目を瞑り耳を手で塞いだ。

 

 エネルギー量は落雷の100分の1にも満たないが、対人、どころか対トランセンデンド・マンには十分な威力だ。

 

 雷に撃たれ吹き飛ばされたアダムは宙を舞い後ろに1回転して着地した。

 

 体が少々震えているのは電撃による痙攣と思われるが、それ程攻撃を喰らっている様子は感じられなかった。

 

「今のを受けて平気なのか?!」

 

 慧音が驚嘆した。

 

「お前、今の直撃じゃないな?何かで防御しただろ。」

 

 リョウの質問に対し、アダムは無言でコートから腕だけを脱いだ。

 

 腕にはロープが何時の間にか巻き付いており、隙間無く覆っている。

 

「カンフー映画にそんな奴が居たな。あれは鉄の輪だったけど。」

 

 アダムは袖を戻し、リョウはハンマーと盾をしまい代わりに長剣を持った。

 

 鍔は無いがその太い刀身や柄は誰が見ても日本刀と思うだろう。

 

 だが、「斬る」事を重視した日本刀には反りがあるが、この刀には反りが一切無い、つまり「刺す」事を求められているのか。

 

 アダムが短い2本で目にも止まらぬ連撃を放ち、リョウが1本で正確にそして強力に攻撃を撃ち出す。

 

 リョウの振り下ろしを左で受け止め、右で腹に向けて突き出す。

 

 受け止められたアダムのナイフを払い除けながら突きを逸らし、更に動きを加え袈裟斬りを繰り出した。

 

 体を逸らし避けながらナイフを逆手に持った左手をフックを打つ様に伸ばした。

 

 リョウは右手に腰から引き抜いた三日月形の刃を持って防ぎ、左手の刀で刺突を繰り出した。

 

 刺突を上に逸らしたアダムはリョウが右手に持った刃を投げるのが見えた。

 

 刃はアダムの胸を狙って飛ばされるが呆気無く躱されたが、リョウは更に刃を出し次々と投げ飛ばす。

 

 どれも遅く簡単に避けられたが、アダムは気付いていた。

 

 後方で活性化したエネリオンを感知したアダムは跳び上がり空中で体を回転させる。

 

 アダムの読みは通じた。

 

 後方のあらゆる方向から刃がそれぞれの軌道を描きアダムの身体を掠めた。

 

「やっぱりブレイドみたいには上手く行かんな。」

 

 その後刃はリョウの手元に帰り、再び投げられた。

 

 恐らくエネリオンを刃に蓄えておき、軌道を変更する時に消費するという仕組みなのだろう。

 

 今度は後方だけでなく前後左右上下全ての方向から刃が飛んで来る。

 

 アダムが躱す隙を突きリョウが斬り掛かる。

 

 状況を打破すべくアダムはナイフにロープを付け、投げ飛ばす。

 

 回転するナイフが刃を捉え弾き落とす。

 

 しかも長いリーチを得たアダムはリョウを近寄らせずロープの動きだけで牽制する。

 

 攻めに転じたアダムはロープを思考通りに動かす事によって確実な攻撃を仕掛けると共に両手に握った拳銃で攻撃を加える。

 

「良し、アダム、そのままリョウを懲らしめてやりなさい。」

 

「慧音、てめえ覚えていやがれ。」

 

 憎まれ口を叩かれたリョウは一言吐くと両手両足にエネリオンを送り込んだ。

 

 掌、足の裏、4箇所から急激な圧力を感じ、それらを後ろへやると前方へ押されるのを感じる。

 

 圧縮空気をジェット噴射しながら反作用で直進するリョウはロープと銃弾を掻い潜り、拳を握り締め勢い良くストレートを放つ。

 

 間一髪、アダムは体を右にスライドさせ、ストレートをギリギリで避けると共に顎へとアッパーを仕掛ける。

 

「と思っていたのか!」

 

 次の瞬間、アダムの拳は勢い良く叩きつけられ、反発して吹き飛ばされた。

 

 体勢を整えると手が赤くなっており、リョウの額も同じく赤くなっていた。

 

「痛え、やっぱごり押しは効かんな……俺の秘密を教えてやろうか?」

 

 リョウが頭を押さえ、楽しそうにしながら言った。

 

「......何時も笑ってる。ヒャッハー!」

 

 リョウが素早く右掌を前に翳した。

 

 バシューン!

 

 凄まじい爆裂音と共に大量かつ高圧かつ高速の空気塊が放出された。

 

 ほぼ至近距離で撃たれたアダムは後ろに大きく跳ね飛ばされ、リョウも反動で体ごと勢い良く後方に吹き飛ばされた。

 

 受け身を取って起き上がったアダムと、対照的に背中から間抜けに落ちてのろのろと立ち上がったリョウ。

 

「やっぱ反動やべえ、空気舐めたもんじゃねえな。」

 

 我ながら関心を込めた口調で呟いた。

 

「全く、その場の思い付きで行動するから......。」

 

 慧音が叱る様に呆れ声で言ったが、リョウはガン無視だ。

 

 すると突然、

 

「まーけたー!」

 

 リョウがそう叫んだのだ。

 

 思わない出来事にアダムと観戦中の3人は拍子抜けした。

 

「こ、降参したの?」

 

「でも戦いを止めたって感じは無いっぽいが。」

 

「リョウの事だからまた変な事でも企んでるんじゃないのか?」

 

 霊夢の疑問に魔理沙が反論をし、慧音が半信半疑で2人に言った。

 

 その気配にはアダムが最初に気付いた。

 

 周囲のエネリオン情報を読み取る事でそれを察知し、次第に近づいて来る甲高い機械音が聞こえて来た。

 

 その音に気付いた女3人がその方向を見る。

 

 ギュイイイイイン!

 

 アダムが体勢を低くし、右方へ転がった。

 

 転がりざまにアダムは猛スピードでさっきまで自分が立っていた所に突っ込むバイクを視認した。

 

 機械音はつまり高速回転するモーターの音だった。

 

 だがシートには誰も乗っておらず、代わりに重そうなバックパックがシートに取り付けてあった。

 

 無人バイクは減速し、タイヤを滑らせながらリョウの元へ止まった。

 

「本当は口笛でやりたかったんだが、認識するには音量足りなかったし。」

 

 苦笑気味のリョウはバックパックを背負いバイクに乗った。

 

 リョウがハンドルを握ると同時にアダムが両手に銃を持った。

 

 アダムの銃から秒間100発、リョウのバイクの両側面に取り付けられた銃から秒間200発。

 

 アダムが身を捻って躱し、リョウがそこへ容赦無く銃弾の嵐を叩きつける。

 

(あの連射速度は脅威だ。接近戦を仕掛けるべきか。)

 

 そう判断したアダムは後ろにあった木を蹴り反動で突進する。

 

 するとリョウがバックパックから何かを取り出したのが見えた。

 

 左手にはショットガン型の銃が、

 

 引き金が引かれる前に銃口の位置から軌道を読み、身を捻る。

 

 エネリオンの銃弾がアダムの足を掠めた。

 

 怯まずナイフを持ち替え突進を続ける。

 

「俺の目を見ろ!」

 

 何時もとは変わった威圧感のある声でリョウが言った。

 

 リョウの右手には鎖が持たれており、その鎖が投げられた。

 

 鎖の先に付いた分銅がアダムの掲げたナイフにぶつかった。

 

 しかし、鎖がナイフに巻き付き、そのままはぎ取られた。

 

 それでもアダムは迷う事無く咄嗟に残りの武器を出した。

 

 背中に隠した3本の棒切れを取り、3本共繋がり身長を超える1本の槍に変わった。

 

 しなりながら振り出される鎖を同じく長い槍をしならせ弾き飛ばす。

 

「凄いな、あんな槍を折り畳んで隠していたなんて。」

 

「それが違うんだよなー。」

 

 慧音の呟きに魔理沙が言い返し、慧音がどういう事だ?と首を傾げた。

 

「まあ見てれば分かるぜ。」

 

 鎖が槍の真ん中に巻き付いた。

 

 そこを逃がさずリョウが距離を詰めショットガンを持つ左手を向ける。

 

 次の瞬間、ショットガンがリョウの手から離れた。

 

 リョウは想定外の出来事に対し冷静に状況を把握した。

 

「三節棍か。」

 

 アダムが左2節を持ち、残り1節をぶら下げ回している。

 

「なら俺も。」

 

 リョウは弓を手に取り、柄を持ち構えた。

 

 正面から打撃と打撃の競争。

 

 だがリョウが1本なのがやはり不利なのか、アダムが3本で手数を活かし有利に攻めている。

 

 そして自在に変形できるのを利用し弓を絡め取った。

 

 リョウが何故かニヤリと笑った。

 

 手応えが消え、弓に付いていた物体を確認した。

 

 矢先に何かが付いている矢がアダムを狙って発射された。

 

 間一髪で弓をずらし軌道を逸らす。

 

 矢が石畳の上で止まり、ここまでは予想内だった。

 

 予想外だったのはその矢が爆発を起こした事だった。

 

 爆風を喰らったアダムは地面に伏し、それから細く鋭い物体が首に当てられているのを知った。

 

「......負けたか。」

 

「いやー危なかった。俺だって負けるかもと思ったんだぜ。」

 

 アダムが起き上がり、リョウが剣をしまう。

 

「流石にあんな多彩な武器では相手が悪かったか。」

 

「こっちだってあれ程武器導入したってのに苦戦したんだ。まあ俺の運が良かったって事かな。」

 

「それにしても変な武器ばかりだったな。一つの事に特化し過ぎとでも言うか。」

 

「アベンジャーズは俺の夢だからな。」

 

 アダムや霊夢達には何の事だがさっぱりだが、リョウは嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 




2回連続1場面のみにしたのは何故なのか作者にも分からぬ

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