東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中) 作:タツマゲドン
しかも2週間も投稿開けてしまい...
「......って訳でありがたく食えよ。この意地悪な俺が奢ってやったんだ。今度は蕎麦よりも安い奴にしてくれよ。」
「勿論だ、ありがと。」
「カイルさんは約束って事だから分かりますけど私まで良いんですか?」
リョウの冗談を込めた、奢ってやる、という喋りに対しカイルは素直に受け取り、早苗は遠慮がちに言った。
「当然だ。俺は優しいからな。」
「それ矛盾してるから。」
カイルの的確な突っ込みに、リョウは自分の頭を軽く殴った。
「記憶喪失で分かんねえよ。」
思わず3人の間に笑いが流れる。
丁度その時、暖簾を潜る3人分の人影を確認した。
「リョウ、来たぜ~。」
「一番高いの何だったっけ?」
「遅れたか?」
順に魔理沙、霊夢、アダムの台詞だ。
「ようお前ら。いや、俺達が少々早かっただけだ。ほら座れ座れ。」
霊夢の呟きはスルーし、3人を6人掛けテーブルの空席に座らせた。
通路側から見て左前にアダム、左中に霊夢、左奥にリョウ、右前に魔理沙、右中に早苗、右奥にカイル、という並びだ。
「店長、天蕎麦を3つ追加だ。」
あいよ、という声と作業音が厨房から聞こえる。
「こりゃあ財布が軽くなって帰る時重くなくて楽だな。」
リョウのジョークに皆が笑う。
「アダム、3日間何も食べないで良い様にしっかり食べなさい。」
「オイオイ、霊夢お前が貧乏なのは知っているが1人1品で我慢してくれや。」
「私だって冗談位言えるわよ。」
「ハハハ。ところでカイル、俺のバイクだがキャパシタ容量増やしてくれないか?」
「全く、人を何だと思って使ってるんだか。」
「......このクソッタレでゴミクズのクソ野郎な俺に力と知恵をお与えください、おお偉大なる天才科学者様よ。」
「別に冗談さ。型は分かるかい?」
「表示は剥げていて分からんかったが、性能的に見て50年代位かな?多分日本製だ。トランスも充電回路も出来に欠点は無いと思う。」
「それじゃあ内部電極の表面積はあれ以上は大きくは出来ない。なら電解質を入れ替えるか。電極もある程度アルカリ金属類を使えば伸びるかもしれないけど、その場合は保存性は良いけど、発熱性が高くなるし劣化も早いし電池に近くなるだろうね。」
「おお、サンキューな。過熱はこちらで何とかなるからOKだ。」
「......思ったんですけど、わざわざバイクで走る意味ってあるんですか?自分で走った方が速いんじゃ......」
「ああん?!馬鹿者ォ!何を愚弄するかァ!これだから女ってのは......」
「ひえっ?!」
早苗の呟きにリョウが食って掛かった。
冗談気味ではあるが突然の大声だったので早苗は思わず怖がって声が出てしまった。
「リョウ、自分のセオリーを皆が受け入れるとは限らない。それに冗談とはいえ怖がられてるじゃないか。」
「分かった分かった。マジレスされるとキツイんだよ。それよりもお前早苗ちゃんの事やたら弁護するじゃねえか。」
この発言によってカイルは顔を赤くした、という事は無かったが、代わりに早苗が赤らめた顔を俯かせた。
「というか、何でちゃん付けなんですか?!」
「良いじゃん、かわいいし。」
早苗の突っ込みはリョウが手早く跳ね返し、早苗は今度は少し照れた。
「そ、そうですか?」
「じゃあ何で私はちゃん付けしないのよ。ここに居る美人が見えないのかしら?」
早苗を余所に霊夢がリョウの話に乗っかった。
「知らんな、コンタクトレンズを付け忘れてその美人とやらの顔が見えなくてな。」
それを聞いた霊夢が拗ねて頬を膨らまし、リョウは満足した様に笑った。
暫くして、店員が蕎麦をお盆に乗せ、最初に3つ、少し間を置いて3つ、と運ばれた。
「出汁に魚介系が無いとはいえあっさりしているね。僕は個人的に昆布を使ったのが良いんだが、幻想郷には海が無いから仕方ないだろうけど。」
「そうですか?私はこってり系の方が苦手なのでこちらが良いんですけど。」
「僕は一応北欧出身だからすっきりした味よりも腹に溜まる様な油の多い系が好きでね。あと魚も。」
「成程、寒いし海がありますもんね。私は油系は太りたくないので......あと内陸の方出身だから魚にはそれ程馴染んでいる訳でも無いです。」
「まあ妥当な所だろうね。そうそう、今度はスウェーデン料理でも振る舞おうかな。」
「えっ、良いんですか?」
「僕にも料理位は出来る、それに何時もお世話になっているし偶にはお礼をしなくちゃ。」
カイルと早苗は暫く周囲を気にせず会話を楽しんでいた。
一方、アダムと霊夢の方はというと、
「......。」(何でこんなに話し掛け辛いのよ!)
ズルズルズルズルッ!
アダムは周囲そっちのけで蕎麦をすする事だけを堪能していた。
(やはり蕎麦は小麦とは違って清涼感があるし、味も香りもしっかりと活かされている。すする時の触覚や口に入れた時の食感も見事だ。)
「人間火力発電所だなありゃ。うおォンって効果音が流れてるぜ。」
(何より、このコクのある出汁が蕎麦の風味を損なわず麺を引き立て、麺の食感もまた出汁を引き立てる。更にトッピングの天ぷらも尚更だ。)
リョウが独り言の様に突っ込みを入れる中で、アダムは自分一人料理を味わっていた。
「お前、何時も食べる時はそんな風に美味そうな顔してるしかき込むように食うよなあ。」
魔理沙の言う通り、霊夢達が目にしてきたアダムの人間らしい仕草と言えば、この食べる時と、そして半年以上前に見せた爆発する様な怒りだけ。
「ところでアダム、お前中華武術やってるんだっけ?詠春拳か?少林拳か?」
リョウが無言のアダムを見かねたのか、話題を提案した。
「ジークンドーだ。正確にはブルース・リーの編み出した”思想”だが。」
「「見るな、感じろ」だろ?俺はジャッキー・チェンの相手の動きに合わせる流れる様な動作が好きだが。」
「僕も、ジークンドーの理念は素晴らしいと思うな。」
すると男3人組が意気投合(?)し始めた。
「真っ直ぐに、あらゆる方向から、連続で、相手を抑えながら、相手を誘いながら、相手を惑わし、攻撃を確実に当てる。」
「自己そのものから始まり、技を身に付け、無に戻る。格闘だけじゃない、学問や生活や人生、あらゆる事に通じる。漢字で書けば「截拳道」、困難を断ち進む。」
「そういやドニーの奴も高く評価していたな。元々あいつ哲学とか好きだし。」
順にアダム、カイル、リョウ、の発言だ。
「何言ってるか分かんないぜ......。」
「別に言ってること自体はアダムがいつもやってる事だから難しくも無いけど......。」
魔理沙の呆れ声に対しそう言う霊夢は何処か不満げだった。
「霊夢さん何でそんな顔なんですか?」
早苗が心配そうに訊いた。
「......ジークンドーって奴、仏教由来だから気に食わないのよ......。」
答えを聞き、ああ成程、と相槌を打った。
「霊夢はお前、そういう閉鎖的な所直した方が良いんじゃないか?」
「そうですよ、色々な事を受け入れれば自分の考えも深まりますよ。」
「......そういう物なのかしら?」
と女子陣も別な話題が流れていた。
この空気を見かねたリョウは少し面白い事(本人から見て)を考え付いた。
そしてタイミングを見計らう様にして魔理沙に見える様に指で、おい、と示した。
当然、アダム達には見えない様にしており、気付いた魔理沙はこれも周囲に気付かれない様に、何だ?とジェスチャーを送った。
リョウは右手を伸ばし、コップに手を置いた。
よく見れば人差指と中指が不規則に触れたり離されたりしているが、それに気付いた者は魔理沙のみ。
・-・・ ・ - ・・ ・・・ -・・ --- ・・ -
・-・
魔理沙が同じく指の点滅で返し、2人は何事も無いかの様にやり取りを終えた。
「悪い、ちょっとトイレ行って来る。」
他が会話を楽しんでいる中、リョウが席から立ち上がり姿を消した。
それでも他の5人の雰囲気は変わらず。
「あっ、そういや小鈴に本借りてたの返して無かったな。なあちょっと行って来ていいか?」
「へえ、借り物返さないあんたにしては珍しいじゃない。」
「知るか。」
魔理沙は霊夢にからかわれたが冷たく返し、席を離れて何処かへと行った。
「2人共どうしたんでしょうね?」
「さあ?」
「何か急に詰まらなくなったわね。」
「......。」
そのまま5分経過した。
「リョウさん遅いんじゃないですか?」
「まあ気長に待とうよ。別に時間は空いているし。」
早苗がさすがに遅いと思ったがカイルは気にしていないらしい。
「魔理沙ったら何か怪しいわね。普段じゃ人の物は返さない主義だし、返すにしてもどうして今なのか後でも良いじゃない。」
「......。」
ズズズズズッ!
霊夢が疑問を投げ掛ける一方、アダムは2杯目(自腹)の蕎麦を味わっていた。
「ちょっと、話聞いてる?」
苛立ち気味の霊夢に対し、アダムは行儀良く麺を飲み込んでから口を開いた。
「......2人共何故か声に緊張が現れている様だった。」
「つまり魔理沙達は嘘を付いているって事?」
「そうだとしても、何故そうするのかは全く分からないが。」
アダムの仮説は前進せず、この話題は打ち切りとなった。
「......そういえばカイルさんって趣味とか何をされているんですか?......その、イメージし辛いというか......。」
そう言った早苗は何処か決断した様な感じだった。
対するカイルはそれを気にする事も無く、マイペースに考えた。
「そうだな......映画かな。Sfサスペンス系が好きだな。」
「へえ、良いですね。私はあんまり見ないですけど。お勧めとかありますか?」
「AKIRAやマトリックスの神話的設定とか好きかな。一番はドニーダーコだな。知名度は低いけど。」
「聞いた事も無いですけど、どんな話なんですか?」
何故か早苗からは興味よりも願望や義務的な物が感じられたが、カイルは気にも留めなかった。
「公開されたのが120年程前の同時多発テロの頃だったからね。分かれば面白いが理解するには難しい。説明するにも難しいから実際に見せたいんだけど......香霖堂にあると良いな。そうそう、趣味は他にも......」
という感じにカイルと早苗は互いの会話に没頭した。
一方、霊夢はそんな楽しそうなトランセンデンド・マンと風祝のペアを見ながら、
「......ねえアダム。」
「......何だ?」
霊夢が恐る恐るといった様子に対し、アダムは見る者によっては僅かに怖く感じる無表情さを保っていた。
少し間があったのは蕎麦を食べている最中だからだろう。
「......何でも無いわ......。」
「そうか......。」
霊夢は後悔を残し、アダムは何も気にする事無く再び口に蕎麦を運ぶ。
その様子を50m以上の距離から見ている者達が居る事は果たしてこの4人の中の誰かが気付いたのだろうか。
「ありゃどっちも駄目だな。」
「アダムと霊夢の方は分かるが、カイル達の方は何でだ?」
蕎麦屋の正面方角に当たる民家の屋根に彼らは居た。
リョウと魔理沙は双眼鏡片手に蕎麦屋内部に居るトランセンデンド・マン2人と巫女2人を観察、というか覗き見しているのだった。
魔理沙の質問に対し、リョウは間を置く事も無く答えた。
「カイルはイケメンの癖に鈍感なんだよ。果たして気付かない限りは駄目だろうな。」
「それにしても”2人”共気付かないよなあ。」
「カイルは自分から能力を使おうとしない限りは大丈夫だし、アダムは多分敵意とか殺気とかにしか反応しないのかもな。」
「てかこんな事してる私達って変態じゃね?」
「知らん、人間は皆変態だ。」
この2人は会話と観察に意識を使っていたので、背後から突然声が掛けられる事は予想外だった。
「あのー2人共、何をやってるんだが......」
2人は、ビクッ、と動揺を見せた。
「俺の後ろに立つな!」
リョウが体を反転させつつスピードの乗った拳を繰り出す。
しかし、拳は当たる直前で止まった。
いや、止めた、と言う方が正しいだろう。
元々冗談で軽く殴るだけのつもりだったが、声の主の姿を見るなり中止した。
リョウの常連客であり半人半妖の寺子屋の教師が腕を組みながら立っていた。
「......今日は良い天気だな。」
「だな。」
「......。」
背後に目を動かすと魔理沙の姿が消えていた。
「恨むぞてめえ......全く、失礼な奴だ。俺を覗きに誘って罪を全て俺に押し付けやがって......。」
慧音の厳しそうな態度は変わらず。
その後、先に魔理沙が席に戻り、暫くしてリョウがやつれた顔をしながら戻って来た。
尚、アダムはリョウが戻ってくる前に蕎麦を5杯も平らげ自分で払うと言いながらも、リョウが何を思ったのか全ての分を支払った。
今回実は作者は1場面だけにまとめたかっただけなのかもしれない