東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中)   作:タツマゲドン

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タイトルは今回中のネタから

それから1話と2話を0話へ結合したのでサブタイの番号は2つずれます


80 値段では無い

 地霊殿異変から1週間が経った。

 

「風が気持ち良いわね。」

 

「ああ。」

 

 青空とは対照的に木々の葉っぱは黄色又は赤く染まっている。

 

「紅葉が綺麗だな。」

 

「ああ。」

 

 霊夢と魔理沙からの呼びかけに対しアダムの返事はそれらしい感情が籠っていなかった。

 

 アダム達は妖怪の山の麓へ足を運んでいた。

 

 今見頃の紅葉を見るつもりだったのだが、最初に提案した霊夢の考えは何時も笑顔を見せる事の無いアダムがこうしてたまにはのんびりする事で楽しくさせようと思ったのだ。

 

 しかし肝心のアダムと言えば、いつも通り無言で無表情で気を抜いている様子を見せない。

 

 何時もロングコートの下に銃とナイフを隠し持っているのだ。

 

「......。」

 

「......どうして、くつろがないの?」

 

 それを見かねた霊夢が恐る恐る訊いた。

 

「......正直分からない。一番だと思う理由は、僕は何時も恐れているのかもしれない。」

 

(しまった、ますます悪い方に進んでいるじゃない......。)

 

 心の中で苦虫を噛み潰した霊夢を余所にアダムが話を続ける。

 

「今にも地球管理組織が侵入し結界が壊れるかも知れない。」

 

「まあまあ、今は休もうぜ。リョウは味方の通信によれば向こう側が動いている様子は無いって言うし、カイルもこれだけ損害が出れば暫くは手を出して来ないだろうって。」

 

「可能性の話だ。100%の安全が無ければ意味が無い。」

 

 魔理沙の説得にアダムは態度を変えない。

 

 魔理沙もそれに反論する事は出来なかった。

 

「次回の侵攻時は更に大量の戦力を導入するだろう。「爆弾」も既に幻想郷内に存在している物では無く外から持ち込めば可能な話だし大量の人員であれば配置もすぐに終わる。それに外界から結界へ直接エネルギーを送る事での結界破壊だって不可能では無い。あらゆる可能性を考え、それらへ対処する事が重要だ。」

 

「考えるのは良いけど、でも無理して体を壊したりしないでよね。」

 

 霊夢がアダムの話に割る様に言った。

 

「無理はしていない。」

 

「ほらほら、そんな事言わずに、リラックスして。」

 

 霊夢はアダムの後ろに回るとアダムの両肩を掴んだ。

 

 霊夢が力を入れると、それと同じ力でアダムの身体に押し返された。

 

 何時戦闘が始まっても良い様に常に気を抜いていないのだろうか。

 

「うわっ、硬いじゃない!座って、マッサージしてあげるから。」

 

「わ、分かった。」

 

 霊夢の言われる通り落ち葉と茶色がかった草で覆われた地面の上に座り、霊夢が肩や首を揉む。

 

「......。」

 

「......。」(私何か気まずい事でもしたかしら......。)

 

 1分間秋風の音だけが流れた。

 

「......。」

 

「......気持ち良い?」

 

 霊夢が流れる沈黙を破った。

 

「ああ、悪くない。」

 

 その返事を聞き霊夢は喜んだ。

 

 そして霊夢はアダムのきりっとした顔が僅かに綻んだ様に見えた。

 

「楽しそうじゃない。」

 

「何がだ?」

 

 振り向いたアダムの顔は......普段通り感情の見えない物だった。

 

 霊夢が不満げな顔をしたが、変わらず肩を揉み続ける。

 

 その様子を何とも言えず魔理沙は何かと気恥ずかしさを覚えながらただ見ていただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなのバイクじゃないよ。只のスクラップの集合体だよ。」

 

「だったら解体すれば良いだろ。良いか、バイクってのはアメリカで生まれたんだ、日本の発明品じゃねえ。USAがオリジナルなんだよ。」

 

 霖之助の冗談じみた突っ込みに同じく冗談で返し、更に話を広げる。

 

 2人の目の前にあるのはリョウが以前香霖堂で発見し、無料で貰い、改良を積み重ねたバイク「Ninja EX-R」、それを1週間掛け本格的に改造した物だ。

 

 しかし、外見は以前と同じくスポーツタイプバイク特有の流線型のボディに変わりは見られない。

 

 空力を考慮して調整された凹凸の僅かな変化は目を凝らさないと見えないだろう。

 

 そしてリョウのジョークは続く。

 

「だが色々遅れを取っても何でも、ハーレイに巻き返しの時は来ない。座ってみろ、快適だろ?」

 

 リョウに促されてバイクのシートに跨る霖之助。

 

 これは革だろうか、確かにクッション性は良いらしい。

 

「高級牛革なんて高級材量どこで見つけたんだい?」

 

「高級牛革という見た目だけの合成繊維のシートだ、だが牛革よりも夏は涼しく滑らないし劣化にも強い。そうだ、回してみてくれ。」

 

 霖之助は言われる通りにハンドル右グリップを前へ捻った。

 

 左グリップのクラッチレバーを握っているのでバイクが前に進む事は無いが、モーターの勢いのある振動が伝わって来る。

 

 キュイイイン、とでも形容すべき音は今にも素早く前進しそうだ。

 

「余裕の音だ、馬力が違う。前後2輪駆動、ABS付き、18000回転で400馬力を誇る。ピーキー過ぎてお前にゃ無理だよ。」

 

「というか乗った事無いし。数字だけ聞いているけどそんなに高性能だったら使い辛いという欠点は無いのかい?」

 

 霖之助がバイクから降りながら疑問を投げ掛ける。

 

「まあな、バッテリー用量を出来るだけ上げても限界だ。だがキャパシタの高効率・高容量化回路とかはカイルがノウハウを知ってるからそいつに任せとくよ。ところで代金どうすりゃ良い?」

 

「そうだな......次から君の店に来る時にコーヒーと甘味を無料にしてくれ。」

 

「了解。そうそう、一番気に入らないのは......」

 

「何だい?」

 

 リョウはバイクに乗りヘルメットを被り手袋をする。

 

 そして意味ありげな様子で霖之助へ向きながら口を開いた。

 

「こんな宝がこんなガラクタ溜まりにあったって事だ。」

 

 リョウはヘルメットのバイザーを下ろし、霖之助は両手を肩の高さに上げ、さあ、というジェスチャーを示した。

 

 バイクは甲高い音を上げながら森の中へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイルは部屋の隅で壁に寄り掛かりながら目を閉じていた。

 

 眠っているのではない、むしろカイルの脳の活動は普段よりも活発だ。

 

 つまりどういう事かというと、カイルがコンピューターから受け取った情報を整理しまとめるという作業をしている。

 

 そしてついにその瞼が持ち上がった。

 

「あれ、もっと時間かかると思ったんですけど、速いんですね。」

 

 早苗がそう賞賛と驚きを言ったのも無理は無い。

 

 普通の人間が短いながらでも論文を作る時、大量のデータの中から必要なデータのみを抜き出し、それらを整理し文章にする作業がどれ程大変なのかは想像に付くだろう。

 

 それをこの青年は情報の整理だけで1分も掛からずに1つの研究結果を導き出した。

 

「まあ能力だし。我ながら便利だよ。特に科学者という職業に関して。」

 

「それで、結果はどんなですか?」

 

 結果とは、カイルがさっき終えた「幻想郷内のあらゆる種族における進化過程やその要因」という論文の事だ。

 

 カイルは幻想郷中のあらゆる種族の髪の毛を元にゲノムを自身の能力によって調べ、その生態や傾向やルーツを調べ上げたのだ。

 

「分かりやすく説明するのは難しいが、これを見てくれ。ゲノムの構造を簡略化した物だ。」

 

 カイルに言われる通りデスクトップを覗く早苗。

 

「まずは染色体数、全部が46本。例外は一切無い。DNAを調べた所、99.999%はどれも普通の人間と同じなんだ。」

 

「それじゃあ妖怪は人間から進化したって事ですか?」

 

「そうだと思われる。このミトコンドリアDNAっていう母方限定のDNAがあるんだけど、これを見てくれ。」

 

 表の横には年数らしき数字があり、何万何十万前と表示されていた。

 

 一方、縦は種族名らしき文字と、マス目にはアルファベットや数字の組み合わせ。

 

「最初の方は違いが大きいかも知れない、だがこの16000万年辺りを見てくれ。」

 

 早苗がある事を発見した。

 

「大体一致していますね。じゃあやっぱり。」

 

「ああ、16000年前というのは丁度人類が日本列島に到着した頃だ。西洋を由来とする種族はこの様に西洋独特のルーツだが、更に300万年前まで遡ってみると例外無く明らかに人類と同じくアフリカ大陸を起源としている。本格的な分類化は5000年前程らしいけどやはり人間と妖怪はまさしく同種だと思っても過言では無いと思うよ。」

 

「でもどうしてあんなに人間とは違った能力を持っているんでしょうか。」

 

「それは、人種とかと同じ考えだ。いくらDNAが同じでも住む地域で髪、目、顔立ち、内臓、性格、思考、あらゆる事が違う。独特の文化だってある。ここから具体的に考えよう。」

 

 カイルは言い終えると少し考える様な仕草を見せ、再び口を開いた。

 

「例えば、鬼の角、あれはヒツジやヤギ同様毛が変化した物だと判明している。では何故角が生える必要があるのか。」

 

「確かに、生物は生きるのに役に立つ進化しかしないって聞きました。役に立つんでしょうか?」

 

「イッカクやバビルサが例の様に、角は強さの象徴とも読み取れる。実際鬼の中でも大きい角を持つ萃香や勇儀は高い地位にあると見られた。高等生物における進化は文化も要因するんだよ。仮説だけどね。」

 

「でもこれだけの事を考えられるだけで凄いと思いますよ。」

 

 早苗が感心した声で賞賛し、カイルはそんな事無い、と手を振る。

 

「前も言ったと思うんですけど、私これでも理系なんですよ。だからこんな研究者とか尊敬しちゃいます。」

 

「いやいや、僕より素晴らしい人はまだ沢山居るさ。それに何時もこんな研究が出来る訳でも無いし。」

 

 カイルが照れながら否定するが、早苗の態度は変わらず。

 

 その様子を僅かに開けた襖から見ていた姿があるとは知らず。

 

「2人共楽しそうだね。フヒヒ。」

 

「諏訪子、笑い声が変態だぞ。今の録音して2人に聞かせようか?」

 

「我が子の成長ぶりを見て喜ばない親なんて居ないでしょ。神奈子は早苗に多少過保護なんだよ。」

 

「そりゃあ我が子は大切にしなきゃならんし、そう言ったって、早苗は昔から男に慣れている訳でも無いしね。」

 

「でも今は明らかに慣れてるじゃない。いや、彼が特別なのかもね。ふふっ。」

 

 その2柱のやりとりをカイルが能力によって知る、事はそもそも能力を使っていないので無かった。

 




この小説もドンパチ賑やかにしてやる

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