東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中)   作:タツマゲドン

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今回のタイトルは自分でもこれしか思い浮かばなかったのです...

抽象的になりつつあります


79 拘り

 鈴仙は今日の分の里への売薬を終え、永遠亭に帰って来た。

 

「ただいまー。」

 

「あっ、おかえりー。」

 

 廊下の奥から明らかに鈴仙よりも高い声が迎えた。

 

「てゐ、そこに居たのね。」

 

 鈴仙は声のした部屋へ入ると同居人である因幡てゐの姿を認めた。

 

「うん。暇だから。」

 

「あんたねえ、いつも遊んでないで私や師匠の手伝いでもしたらどうなの?」

 

「それにしてもこの人全然動かないよね、本当に無事なのかな?」

 

「暫くすれば目が覚めるだろうって言ってたけど、って話を逸らすな!全く、これで私より年上だなんて本当かしら......。」

 

「あっそうだ。」

 

 すると丁度同じ所に居たてゐが何かを思い付いた素振りを見せ、何処かへと行った。

 

 1分も経たずに戻って来た。

 

 手に何か細長い物を持っている。

 

「ちょ、ちょっと、何するつもり?」

 

 良く見るとそれはペンだった。

 

「いたずら~。」

 

「こらー!止めなさい!」

 

「嫌だも~ん。」

 

 制止しようとする鈴仙を余所にペンのキャップを取り自分の野望を達成しようとする。

 

 鈴仙は言っても聞かぬてゐの野望を打ち砕こうと引っ張ろうとする。

 

 その時、

 

「おい。」

 

「ヒッ!」

 

 突然低い声が威嚇する様に発されたのだ。

 

 慌てて目の前の横たわる男へ目をやる2人。

 

 目は瞑っていた。

 

 口も閉じているし呼吸は昏睡状態の為無かった。

 

 てゐが勇気を振り絞って男の頬を突いた、が何も起こらなかった。

 

「......なんだ寝言か。」

 

 てゐはホッと安堵を着き、再び目的を達成しようとする。

 

 だが寝言というのは睡眠状態、つまり脳が休息中に記憶を整理する際に起こる現象だが、目の前の男は昏睡状態だとカイルは言っている。

 

 昏睡状態は睡眠よりも脳が殆ど活動していない状態であり、その状態で寝言を言うという事は、

 

「止めろ。」

 

「ひえっ!」

 

 今度は男の口が動き声が出たのをはっきりと見た。

 

「......どうなってんの?!」

 

 丁度病室に医者兼薬剤師が入って来た。

 

「お帰りウドンゲ。てゐもここに居たのね。なんか驚いた声が聞こえたからどうしたのかと思ったのだけど......」

 

「そうなんです!さっき昏睡状態だというのに間違い無くてゐのいたずらに気付いたんですよ!明らかに、止めろ、って!」

 

 鈴仙が永琳が話し終える前に目の前で起こった事を話した。

 

「少し落ち着いてウドンゲ。つまり彼は意志ある言動を見せたという訳ね......。」

 

「はい、って事は目覚めが早いんでしょうか?」

 

 永琳は男の身体を見るなり触るなりして観察し、弟子の質問に答えた。

 

「今刺激を与えただけでは筋肉の外的刺激による反射的動作以外は特に見られないわ。だから......。」

 

 永琳は思い付いた様に何処からか外科手術用メスを取り出した。

 

「えっ?何をするんですか?!」

 

「見てなさい。」

 

 永琳はメスを高く掲げ、刃先を男へ向ける。

 

 男へと勢い良く刃が突き刺さろうと迫る。

 

 思わず鈴仙とてゐは目を閉じた。

 

 ザクッ

 

 静かに鋭く深く突き刺さる音。

 

 恐る恐る目を開ける2人。

 

「やっぱりこういう事だったのね。」

 

 永琳が呟き、2人の弟子はその目線を辿った。

 

 メスは男すれすれの布団の横に突き刺さっていた。

 

「これって一体......。」

 

「私は彼を突き刺そうとした、でも接触する瞬間という時に強い力で逸らされたのよ。トランセンデンド・マンの防護壁を張る能力かしら。意識を失っているというのに出来るなんて、恐らく彼は非常に自己防衛本能が強いのね。自分を害する要素を徹底的に排する、まさにそんなだわ。余程生き延びようという執念が凄いのね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイルは今まで数時間開けていなかった目をやっと開けた。

 

「あっ、終わったんですか?」

 

「まあ一段落って所かな。」

 

 さとりの返事に答え、座禅状態の体を起こし節々を伸ばす。

 

「さっき紅茶淹れたんですけど、良かったらどうぞ。」

 

「紅茶か、良いね。実は地上で緑茶も飲んだんだ。それで、緑茶と紅茶は元々茶葉が同じだって。」

 

「そうなんですか?味は全然違いますけど。」

 

「紅茶は西洋から中国まで幅広いけど緑茶は日本独特の文化なんだ。日本人はむしろ苦味を好んだのだろうね。」

 

「へえ凄いですね。」

 

 カイルが今日で2回言う事になる雑学を話しさとりが感心しながら紅茶をポットからカップへ注ぎ終えた。

 

「砂糖と牛乳も良ければ。」

 

「ありがとう。」(コーヒーが飲みたい所だけど、たまには良いか。)

 

 そんな何気ないカイルの思い付きをさとりは読んでいた。

 

(今度は燐にコーヒーを買ってくるように言おうかしら。)

 

「ん?」

 

 何故か発されたカイルの声にさとりは声こそ上げなかったがビクッとした。

 

(そういえばカイルさんは心を開いた人物の考えなら読めるって言ってたからもしかしたら......。)

 

 だがそれは考え過ぎだったらしく、

 

「......。」

 

 カイルは気のせいか、とでもいうように視線を変えた。

 

 気まずくなりかけた空気(さとり視点)を和ませるためにさとりは話題を作ろうとした。

 

「......いや、違うな。」

 

 が直前、カイルが再び口を開いた。

 

(やっぱり私の心を読んでるの?!)

 

 対してカイルは別な方向を見ていた。

 

「誰か居るのかい?」

 

 さとりはその言葉からすぐにある人物を思い浮かべた。

 

「こいし?どこなの?」

 

「ここだよ~。」

 

 明らかにさとりよりも年下と思われる少女の返事が聞こえたのはカイルの背後だった。

 

 その姿を確認した時、その場に居た2人は驚いた。

 

 カイルは見知らぬ少女が自分の首に後ろから抱き付いている事、さとりは自分の妹が大事な客に失態を犯している事。

 

 濃い緑の目と薄い緑のセミロングヘアーの上に黒い帽子を被り、黄色の基調に緑の裾とスカートが特徴的な少女。

 

 さとりと同じく近くに大きな目玉が漂っていたが、さとりとは違い目の色は深い青でしかも瞼は閉じている。

 

「こら、こいし、お客さんに迷惑でしょう。」

 

「うん分かった。」

 

 10歳にも満たない外見と同じく精神年齢もそれと同等かそれ以下らしい。

 

「カイルさん、この子は私の妹でこいしって言います。」

 

「よろしくね~。」

 

 さとりが簡単な他己紹介をし、当人は無邪気な笑みで挨拶した。

 

「僕はカイル、よろしく。」

 

 カイルも友好的に挨拶した。

 

「それじゃあカイルお兄ちゃん、この前は私のお姉ちゃんを助けてくれてありがとう。お姉ちゃんとても嬉しそうだったよ。」

 

 それを聞いたさとりは何故か顔を赤らめ、カイルはそれも気にせず、どういたしまして、と答えた。

 

(しかし気になるのがあの目玉......)

 

「あっ、こいしは人が信用できなくて、それでサードアイを閉じてしまっていて、それで、いつもは他人に気付かれない様に姿を見せないんです。」

 

 カイルの思考を先取る様にさとりが解説を加えた。

 

「僕も始めは何も感じなかった。完全に周囲に溶け込んでいたんだ。その為僕は錯覚してエネリオンに対する知覚能力を最大限使うまでは気付かなかった。」

 

「凄いでしょ~、私隠れんぼは得意なの。でも私が能力を使っていて初めて他の人に気付かれたのはお兄ちゃんが初めてだよ。でもどうして分かったの?」

 

 こいしが賞賛し、質問を投げ掛け、カイルは少し考えた。

 

「こいし、君は......例えば君の目に映る僕の姿は本物だと思っているかい?」

 

「うん......?」

 

 こいしは質問に答えたが要点が掴めず首を傾げた。

 

「あらゆる生物は目や耳、あらゆる感覚器官で知覚する。でもそれが本当だと思うかい?」

 

「どういう事?」

 

「脳は感覚器官で得た情報を元に世界を認識する。でもその感覚器官や脳、それどころかその考え方自体間違っていたら?それを証明する事は出来るかい?」

 

 こいしどころか傍から見ているさとりもきょとんとした。

 

「誰も真実を知りはしないんだ。でも僕はそれに近づく事が出来る。ここから具体的な話に入るんだけど、この世界にはあらゆる物質やエネルギーを構成する粒がある。僕は生まれつきその粒を”知る”事が出来るんだ。つまり物質やエネルギーや空間の「真実」に近い答えを知る事が出来る。もっとも、それすらも正しいのかは分からないんだけどね......こんな話をしても今は分からないだろうけど、僕の様に”知ろう”とすればきっと分かるさ。」

 

「......うん、私色々な事知りたい!」

 

 その返事を聞いたカイルは科学者として純粋に嬉しかった。

 

 カイルにとっては若者が科学に興味を持って欲しい、という願望も持っていた。

 

(こいしったら初めて会う人にあんなに懐いちゃって。)

 

 そう思うさとりも間違いなくカイルに信頼を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森林地帯を走る1台のバイク。

 

 時速300kmを超えるスピードで木々を抜けていく。

 

 というか音速の5倍の銃弾すら躱すトランセンデンド・マンにとって秒速83mなど避けるに越した事は無い。

 

 それどころか音速で走るトランセンデンド・マンの5分の1にも満たない。

 

 つまりこのバイクの操縦者であるリョウにとっては物足りなさを感じるのだった。

 

 リョウが目的地へ向かっているのもそれが理由だ。

 

 目的地が見えると、車体を大きく動かし横向きに、ハンドルは車体とは逆方向に。

 

 減速しながらハンドル調節をし曲がる。

 

 木々を抜けた先にある建物に残り3mで止まった。

 

 黒いフルフェイスヘルメットを脱ぎ、早速中に入る。

 

「マスター、いつもの頼むわ。」

 

「いや、バーでも何でも無いから」

 

「しかし、散らかってんな。ゴミの処理位しておけよ。」

 

「全く、ゴミじゃくて立派な商品だぞ......相変わらずだねリョウ。」

 

 リョウの冗談に答えたのはここ「香霖堂」の主人である森近霖之助だ。

 

「前にお前からバイクを貰っただろ?」

 

「ああ、喜んで天井突き抜けていたっけ。」

 

「俺が感じるに物足りなくなってな。モーターもキャパシタも全て最高の奴に取り換えたが、まだだ。そう、まだだ!」

 

「......職人魂って奴?」

 

「動力源かエネルギー源自体変えるか、それとも......」

 

 霖之助の呟きをスルーし考え込むリョウ。

 

「いや......霖之助、工作道具借りるぜ。ついでに色々材料使いたいんだが良いか?お代は後でまとめて払うからよ。」

 

「別に構わないよ。もっとも、何をするのか見当が付かないけど。」

 

「今に見とけよ。」

 

「いや、恨みを買った覚えは無いんだが......。」

 

 言い残したリョウは渡された道具類を無造作に掴み取り、バイクの置いてある外へ姿を消した。




最近どうも執筆の調子が良いんですよ

お蔭でサブ候補も目途が立ってます

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