東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中)   作:タツマゲドン

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7 黒い霧

 アダムはフランの攻撃によって吹き飛ばされ、その勢いによって窓を突き破り、しばらくは強烈な痛みで動けなかった。

 

 如何にか痛みが耐えられる程度になると体勢を整え、紅魔館の庭園へと着地した。

 

(危なかったが、果たして勝てるだろうか......。あの力といい耐久力といい、まるで先程とは違う。そして理性を失っている様だ。)

 

 アダムはナイフと銃を構えた。

 

丁度フランがアダムに追撃をぶちかまそうと壊れた窓から飛び出て来た。

 

 アダムは銃をフランに向け、何十発と放った。

 

 しかし、フランは避ける素振りを見せず、そのまま銃弾の嵐の中へと飛び込んで行った。

 

(以前は僅かだが怯んだはずだ。だが今はまるで怯むどころか注意さえ逸らせていない。)

 

 フランは降下振り下ろしパンチを繰り出すが、アダムはどうにかそれを避けた。

 

 アダムを外したパンチは地面に撃ち込まれ少なくとも直径3mはあるだろうクレーターを作った。

 

 アダムはその隙を突き、フランの背中へ回し蹴りをクリーンヒットさせた。

 

 だが、フランは吹っ飛ぶどころか怯んでさえいない。

 

 フランはアダムの腹を殴り、アダムを更に遠くに飛ばした。

 

 アダムは背中に強い衝撃を感じ、やっと止まった。

 

 フランが爪で斬り裂こうと接近しながら腕を振り回す。

 

 アダムは体を後ろに反らして避け、それと同時にミドルキックを決めた。 が、これもフランを怯ませる事が出来なかった。

 

 アダムは続けてフランの腕を掴み、地面に投げ倒し、空中に跳んだかと思うとフランの腹に降下肘打ちを決めた。

 

 だが、フランはまるで何事も無かったかの様に起き上がり、アダムの頭を掴み、遠くへと投げ飛ばした。

 

 アダムは空中で縦に大の字になる事で空気抵抗を減らし減速した。

 

 フランが追い打ちを掛けようと目の前に迫ってくる。

 

 アダムは後ろに木があるのを確認し、その木を両足で勢い良く蹴り、反作用によってフランへと跳び込んで行った。

 

 二人の拳と拳が空中でぶつかり合った。

 

 辺りに激しい轟音が鳴り響き、危険を察知した動物や妖怪は逃げて行った。

 

 アダムは拳の痛みに耐え、フランにアッパーを決めた。

 

 フランは上空に1m程度しか飛ばされなかったが、アダムはその隙を逃さない。

 

 蹴り上げ、正面蹴り、二連ストレート、ボディ、フック、アッパー。

 

 更に飛び上がり、空中二連蹴り、裏拳、手刀、肘打ち、掴んで地面に叩き落とす。

 

 しかし、フランは何事も無かったかの様に起き上がり、アダムを地面に投げ倒した。

 

(何故効かない?)

 

 倒されて仰向けになったアダムはフランの連続ラッシュを喰らう事となった。

 

 一秒に何十発というスピードで一発一発が小さい程度のクレーターを作るほどのエネルギーを持った拳がアダムを襲う。

 

 アダムはその威力を持った拳をもろに受け、口から血を吐き、更にアダムの左腕からボキッ!と音がした。

 

「うおあああああ!!!!!」

 

 アダムは痛みのあまり、自身の記憶の中では初めて悲鳴を上げた。

 

 フランが止めにと拳を高く上げた。

 

(もう駄目か。あの時の戦闘で僕の詰めが甘かったか......。)

 

 突然、フランの後頭部が爆発した。

 

「グガアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

 

 フランは悲鳴を上げながらその場に悶え倒れた。

 

(後頭部?そうだ。)

 

 確かここへ来る途中に......。

 

「おい、大丈夫か?!」

 

 フランの後方から親しい者の声が聞こえた。

 

「魔理沙、今のは良い狙撃だった。」

 

 爆発は魔理沙の弾幕によるものだった。

 

「役に立てて嬉しいけどよ、お前随分ボロボロだな。あの時はフランが負けたってのによ。」

 

 そして、霊夢も空中から降りて来た。

 

「アダム、あなたもしかして腕が折れているんじゃない?!」

 

「ああ、その通りだ。霊夢、そこの太い木の枝を取ってくれ。」

 

「え?分かったけどどうするの?」

 

 霊夢はアダムに指差された木の枝を取った。

 

 長さは30cm、太さは2~3cm。

 

 するとアダムはジャケットを脱ぎ、畳んでリュックに仕舞うと、中のTシャツも脱いだ。

 

 アダムの引き締まった上半身が露になる。

 

「ちょっ!何してんのよ?!」

 

「アダム、お前そんな趣味なのか?!」

 

 二人とも顔を赤くして言った。

 

 アダムは脱いだTシャツを出来るだけ大きく、四角い形に切った。

 

 アダムは四角く切って出た残りの部分を更に裂いて紐の様に細長くした物で、折れた左腕に木の枝を括り付けた。

 

「これは非常時の固定具の代わりだ。これで余計な腕にかかる負担や刺激を抑えられ、痛み程度はどうにか出来る。」

 

「お前、サバイバルに詳しいんだな。でも片腕が使えない事に変わりは無いんだろ?」

 

「いや、お前達がいるから大丈夫だろう。それにある仮説がある。」

 

 アダムは破いて四角くした布を三角に折り、それで腕を包み、首の後ろで三角の布の端を結んだ。

 

 アダムが立ち上がると、フランも起き上がった。

 

 アダムは右手に銃を構えた。

 

「......ウ、グルルルル......。」

 

「二人とも、攻撃は奴の後頭部を狙うんだ。」

 

「え?頭か?」

 

「正確に言えば後頭部だ。それで無くては奴にダメージを与える事が出来ない。それ以外の部位は殆ど効かないだろう。」

 

「分かったわ。とにかく後頭部ね。」

 

「でも、何でだ?」

 

「今は説明している暇は無い。来るぞ。」

 

「グギャアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

 

 フランが腕を振り回しながらアダムを襲って来た。

 

 まるで憎しみの対象の様に。

 

「コイツ、ずっとアダムばっかり狙っていないか?」

 

「恐らくその通りだ。」

 

 アダムが2m程跳び上がり、後ろから空中回し蹴りを後頭部へと決めた。

 

 フランは後ろへと吹き飛ばされ、そのまま地面へ俯せに倒れた。

 

「今だ!撃て!」

 

 アダムは銃をフランの後頭部に向けて乱射し、霊夢と魔理沙もアダムのかけ声を聞きフランの後頭部に弾幕を浴びせた。

 

 フランは猛烈な痛みにどうにか耐え、起き上がろうとした。

 

 アダムはその事を見逃さず、フランへと駆け込んだ。

 

 フランが起き上がる前に、アダムの踵落としが決まった。

 

 フランは再び俯せに倒れた。

 

「ふう、終わりか。」

 

 フランは、息はあるが起き上がる気配が無かった。

 

「で、どうするんだ?」

 

「そうだな......。」

 

 アダムはある魔理沙の一言を思い出す。

 

『殺すなんてダメだ!』

 

(何故合理性に反する事を言うのか分からないが......魔理沙、僕は君を信じる事にする。)「フランドールは紅魔館へ戻してやろう。」

 

「ああ、そうだな。私の箒に乗せてやる。」

 

 アダム達は再び紅魔館へと行く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの外来人達は今頃どうなっているでしょうか。」

 

 咲夜の問いに、アダムからの攻撃からまだ回復しきれていないレミリアが答える。

 

「......きっと駄目かしら......あの子は私のたった一人の肉親。だけどあの子は自分で力を制御出来ないの。私はそれを恐れてフランをあんな誰も行かないような地下室に閉じ込めた。でも今回はそれが裏目に出たのね。きっとフランも我慢の限界だったのよ。私はそれに気づく事が出来なかった......姉として失格ね......。」

 

 レミリアはことごとく破壊された最上階の窓の前に立ち尽くし、ため息を吐きながらそう言った。

 

「......おーい!」

 

 不意に窓の外から声がした。

 

「あなたは魔理沙だったかしら?後ろにいるのは......フラン?」

 

 フランを背負った魔理沙が箒から降りると、レミリアの前に止まった。

 

「フランを返してやりに来たぜ。気絶しているが、命に別状はないから大丈夫だ。」

 

 丁度、霊夢が飛んで来てそのまま窓へ入り、アダムが走って来て何十mの高さもある窓へ跳んで入った。

 

「フラン、ごめんなさい…私が貴方に姉として接する事が出来なくて......もう二度と貴方を独りにさせないわ。」

 

 レミリアは目に僅かだが涙を浮かべ、気を失ってぐったりとしたフランを抱く。

 

「レミリア、今すぐ霧を解除してくれ。フランがさっきの様に再び暴走する可能性がある。それだけでない。幻想郷のあらゆる妖怪が暴走する可能性さえある。」

 

 アダムが急いでくれ、と言わんばかりの勢いで言った。

 

「え?あ、分かったわ。数十秒かかるけど。でも変なのよね。霧が黒くなるなんて......というか貴方、何で上半身裸なのよ。」

 

「腕が折れて、シャツをギプス代わりに使っている。」

 

 レミリアはアダム達にとって何と言っているのか分からない呪文を唱え始めた。

 

「アダム、幻想郷中の妖怪が暴走してしまうってどういう事?」

 

 霊夢がそう言った。

 

「少し前の出来事だが、僕はある妖怪と森林で遭遇した。その妖怪は先程のフランドールと同じ様に、こちらの言葉が理解不能、異常な凶暴性、後頭部が弱点、どれも同じだ。しかし、その妖怪は恐らく吸血鬼では無い。違う種類の妖怪の特徴が同じとは考えられない筈だ。さらに、その妖怪と戦っていた時、黒い霧が異様に目立った。という理由で霧がその様な影響をもたらすと思ったんだ。」

 

 すると、レミリアが絶望的な声で言った。

 

「そんな!全然解除出来ないわ!」

 

「おいおい、嘘だろ!パチュリーもレミリアしか霧を解除出来ないと言っていたのに!」

 

 魔理沙も同じく叫んだ。

 

「......。」

 

「アダム?何か方法があるの?」

 

 アダムは暫く考え込んだ挙句、口を開いた。

 

「霧が解けなければ霧が解ける環境を作ればいい。」

 


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