東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中)   作:タツマゲドン

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地霊殿は次回で終わります(断言)

やっと日常に入れる...


73 遺品

 「カオス」は自己防衛本能に駆られ、右手を目の前に翳した。

 

 目の前まで迫っていたプラズマのビームがその熱量を失い周囲へ霧散する。

 

「やはり核融合まで達していない。」

 

 燃料の水素が高温になっているだけで質量が失われたり水素がヘリウムに変化している反応も起きていない。

 

 それどころか核融合に必要な熱や圧力にまで達していない。

 

 その事をカイルは”見て”理解する。

 

 八咫烏、太陽の化身が生み出す力では太陽内部の温度や圧力を再現出来ていない。

 

「俺に良い考えがある。はっ!」

 

 リョウが言うと、空間からエネリオンを吸収し、脳内で熱エネルギーを生み出すプログラムを書き込み、両手から連続的に発射する。

 

 エネリオンのビームは空によって加熱されている燃料へ当たり、更にその熱量を増加する。

 

「早苗、風を吹かせる原理を使って燃料に向かって全体方向から圧力を掛けられないか?」

 

「やってみます!やっ!」

 

 カイルからの頼みに早苗が掛け声を出しながら両手を突き出す。

 

 突風を加熱中の燃料に全体方向から当て、その圧力を増加する。

 

 だが、

 

「今度は熱と圧力に対して磁力が足りない。エネルギーが外に漏れ出している。」

 

 それが前世紀において磁気閉じ込め方式の核融合が実用レベルに至らなかった原因の1つである。

 

 燃料を熱したプラズマは磁気によって閉じ込めるが、それも熱量が増大するに従い必要な量が増える。

 

 ちなみに慣性閉じ込め方式による核融合ではレーザー1つにより、加熱、加圧、燃料の閉じ込めが可能な点により実用化に成功した。(核融合炉内は真空の為エネルギーは外に漏れ出さない。)

 

 かと言って慣性閉じ込め方式ではこの場で出せる出力では遠く及ばない。

 

 太陽は磁気閉じ込め方式であって、その化身の八咫烏は慣性閉じ込め方式を使えない。

 

 空に宿った八咫烏の力は小規模ながらも太陽と同じ方式の核融合に必要な力を遥かに少なく出来る、つもりなのだが肝心の空の力が足りていないのだ。

 

 ところで今ここで課題なのはどうやってその磁力を得るか、

 

(この場には......)

 

『アダム、球だ。』

 

 またも声が聞こえた。

 

 誰だ?

 

 あの時と同じ中年位の男性の声だ

 

 だが今はどうでも良い。

 

 利用するだけだ。

 

「任せろ。」

 

 そう言った誰かが手を翳す。

 

 その手には深く青い輝きを放つ直径2cmの球体。

 

 それを持つのは、

 

「......アダム、可能なのか?」

 

「分からない。やってみるしかない。」

 

 カイルに問われたアダムの返事はあやふやな物だった。

 

「それってトレバーが身に付けていた奴じゃないか。何でそれを。」

 

 使うんだ?は省略してリョウが言った。

 

「それを使うべきと思った。何故かは知らない。」

 

 またもあやふやな答えを返したアダムは、右手に握る球体に力を込めた。

 

 自身が吸収したエネリオンが球体へ吸い取られるのを感じる。

 

 それどころか球体も自らエネリオンを空間から吸収している、それをアダムはトランセンデンド・マンとしての能力から察知していた。

 

 不意にアダムは自分の手に衝撃を感じ、衝撃は腕・肩を通って体中に広がった。

 

 同時にエネリオンの塊が球体から発射され「カオス」に命中し、対してアダムは後方に吹き飛んだ。

 

 エネリオン塊が命中した「カオス」はのけ反る様な動作をしたがダメージは無い様だった。

 

「......違うな......。」

 

 一方、カイルはアダムの持つ球体に注目していた。

 

(エネリオンの吸収に変換、ユニバーシウムか?いや......)

 

 カイルがそう決めなかったのは理由がある。

 

 まず球体の色がユニバーシウム独特の闇に溶けた様な黒では無く深い青なのだ。

 

 ミクロレベルで物体の構造を知る事が出来るカイルはその色が塗料では無く実際の球体の色である事を読み取った。

 

 それだけでは無く、物体の構造を読み取ってその性質を知る事が出来るカイルは球体がユニバーシウムでは無い別の物質で出来ている事を突き止めた。

 

(......地球上に存在している物でも無いし、人工的に生み出して発見された物でも無い......まさか第2の中物質か?!)

 

 中物質とは物質と反物質の中間に当たる物で、物質・反物質に通用する元素周期表に当てはまらず、物質・反物質とは化学・核・対消滅反応を起こさない。

 

 ユニバーシウムもその一種に含まれる。(というか人類が発見した唯一の中物質である。)

 

 現在ではどの様にして発生するのか、どんな素粒子で構成されているのか、どの様な性質を持っているのか、等まだ解明されてない部分が多い。

 

 話は戻る。

 

(今まで良く見せてくれなかったから分からなかった。中物質だとすれば何故それをトレバーが持っていたんだ?しかし、アダムは何故これが何なのかも知らないであの球体を使えるんだ?)

 

 カイルは度重なる疑問の解決を中断し、意識を外界に向けた。

 

 アダムが難しい顔をしながらエネリオンを球体に送っている。

 

「こうか。」

 

 途端に球体からエネリオンのビームが発射され、核融合予定の燃料へと命中する。

 

 エネリオンは衝突の瞬間磁力に変換され、高温の燃料を閉じ込める。

 

 今まで漏れていた熱エネルギーが密閉され、反応へと近づく。

 

「あと少しだ。出来るかい?」

 

「ああ。」

 

「楽勝だぜ!」

 

「やってみせます!」

 

「うん。」

 

 順にアダム、リョウ、早苗、空、のカイルへの返事だ。

 

 水素原子核がもう1つの水素原子に高速で電気的斥力に打ち勝ち、衝突し、ヘリウム原子へ変わる。(重水素では無いので中性子は無い。)

 

 水素原子2個とヘリウム原子2個では水素原子2個の方が僅かに重い。

 

 その質量分がエネルギーに変化し、放出される。

 

 それらの反応が続き、エネルギーは灼熱のビームとなって「カオス」へと襲う。

 

 辺りにはその強い熱気と爆風が吹き付ける。

 

 だが、

 

「連鎖反応まではまだ圧力が足りない。重水素や三重水素無しだからか......何にせよ維持が必要だ。」

 

「まさか太陽神の力を借りて、更にああして早苗達が力を使っても太陽を再現出来てないなんてね......。」

 

 カイルが呟き、神奈子が残念な心境を口にする。

 

 対抗する「カオス」は更に抵抗を見せた。

 

 空気を「破壊」し、破壊した分の質量をエネルギーに変換し、エネルギービームを放ち核融合のビームに対抗したのだ。

 

 周囲に吹き付ける激しい熱風は勢いを増した。

 

「不味いな、向こうはまだ質量をエネルギーへ変換する速度に余裕を持っている。」

 

 そんな中、カイルは1つの「変化」を発見した。

 

 その「変化」はカイルの冷静さを失わせた。

 

(......有り得ない!何が起こったと言うんだ?!確かに脳組織を修復不可能なまでに破壊した筈だ!)

 

 カイルは無言だったが、さとりは彼が動揺しているのを発見した。

 

「カイルさん?どうかしたん......そんな......。」

 

 さとりもその「変化」を見つけた。

 

 頭に銃弾が貫通した痕があるにも関わらず動いていた。

 

 その体は覚束ない動作でゆっくりと立ち上がる。

 

 まるで立ち方を知らない様な動きだ。

 

 震えながら立ち上がった。

 

 弱々しいが、その意思には強さを感じられた。

 

 「破壊神」だった。

 

「心は読めるかい?」

 

「いえ、全く分かりません......。」

 

 意識を朦朧とさせながら腕を何処かへ伸ばす。

 

 掌は「カオス」へ、

 

 エネリオン塊が発射される。

 

 「カオス」がその存在に気付き、エネリオン塊を避けようとする。

 

 エネリオン塊はその右腕に命中した。

 

 トランセンデンド・マンはエネリオンを体内に取り入れる時は体表のどこからでも可能だが、プログラムを書き込んだエネリオンを外部へ発射する時、必ずと言っても良い程手や足で、例外でも目で、それらを媒体として発射する。

 

 理由は定かではないが、手足等にある細かく複雑な末梢神経がエネリオンの発射に最も適しているという仮説が最も支持されている。

 

 それはトランセンデンド・マンの構造情報を再現しているエネリオン体でも同じと言える。

 

 物質を「破壊」してエネルギーに変換するという作業を行っている右腕が消滅すると当然物質の「破壊」は中断された。

 

 後は抑えられていた核融合由来のビームが襲うだけだ。

 

「伏せろっ!」

 

 再びこの場に灼熱の太陽が地上に出現した。

 

 閃光、衝撃波、熱風、爆風、キノコ雲。

 

 それらが見えた後、キノコ雲は晴れた。

 

「お前ら無事か?!」

 

 リョウが起きながら土まみれの服を払い落とし全員の安否を確かめる

 

「......ゲホッ!ゲホッ!......全員大丈夫みたいだ。」

 

 カイルが周囲の情報を感知し、皆が命に別状は無い事を知らせた。

 

「奴は倒したか?」

 

 アダムが半ば砂に埋もれた体を起こしながら訊いた。

 

「......ああ、もう感じない。終わった。」

 

「そうか......。」

 

 カイルからそれを聞いて安堵したアダム。

 

「いやー危なかった......ヒロシマやナガサキもこんな感じだったのか?」

 

「それとはこちらの方が遥かに規模が小さいよ。それに通常の核爆弾であれば地上から少し離れた所で爆発させるものだけど、今回は地表で爆発したからエネルギーがその分失われた。」

 

「うへぇ......良くそんなんで生き残った奴が居たもんだ。」

 

「さて、他の皆を起こそう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポール・ラニング中尉は最後に生き残った「カオス」が遂に消滅した事を”自分が最高司令官と思っている「物」”から伝えられて知った。

 

 しかし、その顔には一切の表情が見えなかった。

 

『ユニバーシウム・マイン計画は別の指揮官にやらせる事にする。お前は以前と同じ様に監視を続けろ。怪しい行動を起こす者には即刻記憶消去剤を使う事を許可する。』

 

『了解。』

 

 この会話は”人類”には一切聞こえない。

 

 この会話の事を知る”者”は1人しか居ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ディック中佐は職場の机の上で目を覚ました。

 

 夢を見たという記憶は無いが、寝汗をびっしょりと書いていた。

 

「......アダム......何かやったのか?」

 

 懐かしい感じがする。

 

 あの一番幸せだった時の事を。

 

 だが今はそれとは程遠い。

 

 大切な者を1人失った。

 

 だからこれ以上失わない為にも如何にかして失いかけている残り2人の目を覚まさせなければならない。

 

 彼は懐から1枚の写真を手に持った。

 

 デジタル化が進んだ現代だが、この写真はアナログのフィルムで撮った紙の写真だ。

 

 何時も肌身離さず持っている。

 

 照れ臭そうに笑う若い赤髪赤眼の男と、隣で優しそうに微笑む若く美しい青髪青眼の女性。

 

「......マリア、私はお前の言う通りあの2人を守って来たつもりだった。だが私のやり方が悪かったのか2人はそれを望まなかった。そして結果的に2人を苦しめる事となった。辛うじて"生かしている"状態だがきっと望まないだろう......私は如何すれば良かったのか、今でもその判断が出来るかどうか自信が無い。お前が居たらこんな未来にはならなかっただろうか......私は狂っている、そう言われても過言では無い......済まないな、お前が好意を抱いた男性は大切な妻子すらも守れないのだ......。」




我ながらえらく込み入った話になってますね...

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