東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中) 作:タツマゲドン
どうせ誰も気づかんだろうが...
空の右手に装着している第3の足から強力なビームが発射された。
核爆発と違い全体に広がるのではなく、方向性を与えられた熱は「破壊神」へと向かう。
「破壊神」が迫り来るビームに対し右手を翳すと、それだけで莫大な熱を持ったビームが左右に避ける。
彼特有の能力では無く、トランセンデンド・マンであれば誰もが持っている、「防壁」を張る能力だ。
「核融合の力をあんなにあっさりと......。」
「いや、まだ燃料がプラズマ状態なだけで十分な圧力が無い。神奈子さん、あの子は本当に核融合が使えるんですか?」
カイルは早苗の驚きに満ちた呟きの間違いを訂正し、自分の疑念を神奈子に訊いた。
「......幻想郷は外の世界の正反対な鏡の様な世界だから、外の世界での磁気閉じ込め式核融合は維持が出来ないというだけで反応が不可能な訳じゃないから、幻想郷においても不完全なままなのだろうか......。」
「そうですか......。」
神奈子から得た答えは不完全な推測だった。
「......。」
アダムはふとある事を思い付いた。
「カイル、奴の脳の活性状態を見る事が出来るか?」
「ん?それは「破壊神」自体か「カオス」の方か、」
「「破壊神」の方だ。出来るか?」
カイルの台詞を先越して訊く。
「出来るよ。言葉じゃ伝わりにくいから直接映像を送った方が良いか。」
「ああ、頼む。」
カイルは「破壊神」の脳に意識を向け、構造、信号、活性度、あらゆるデータを受け取り、テレパシーを介してアダムに伝える。
ある部分が全く活動していない代わりにある部分の活動が盛んになっている。
感情を司る前頭葉の活性が無く、逆に視覚・聴覚・視野を司る後頭葉と知覚・運動機能を司る小脳そして脳と身体との神経を繋げる脳幹は活性している。
手っ取り早く言えば前頭部が活動しておらず、後頭部は盛んに活動している。
「成程、前頭葉の活動を停止させる事で思考や感情をシャットアウトして操っていたのか。」
「後頭部に血液が集中している、やはり他の奴らと同じく後頭部が弱点か。霊夢、魔理沙、手伝ってくれ。」
「他の?どういう事だ?」
アダムはカイルの質問に答える間も無く地を駆けた。
「待て!まだ......」
止まれと呼びかけるカイルを余所に、両手には何時の間にかロープの繋がれたナイフ2本を持っていた。
強力な電荷と熱を持ったビームを押しのける「破壊神」に向かって投げる。
「破壊神」がそれに気付き、空いた左手を向ける。
掌からは分子構造を破壊する作用を持ったエネリオン塊が発射された。
しかし、ナイフが突然横にスライドし、命中しなかった。
一瞬驚きの表情を見せた「破壊神」だったが、今度は狙いをアダムへ定め直しエネリオン塊を連射する。
突然、横方向からのエネリオン塊がそれらを撃ち落とした。
見ると霊夢が何かを発射する様に両手を構えていた。
今度は別方向から太いレーザーが「破壊神」に襲い掛かる。
魔理沙が八卦炉を翳していた。
しかし、レーザーは「破壊神」が左手で発した防壁によって防がれる。
それがアダムの狙いだった。
2本のロープがアダムの思考通りに「破壊神」へと伸びた。
1本は心臓に、1本は脳に。
両手を塞がれた「破壊神」は体を逸らす事でナイフを避けた、つもりだった。
アダムの命令によって直進中のロープは「破壊神」を少し通り過ぎた所で軌道を変えた。
ロープは「破壊神」の体に巻き付いた。
アダムがロープを引っ張り、僅かだが「破壊神」のバランスを崩した。
反動で加速し、ロープを巻き戻した。
「破壊神」はロープを振り解こうとしていたので外側からの力を失うと更にバランスが崩れた。
そこへアダムが右手に握ったナイフを突き出す。
背後からは霊夢が弾幕を撃って援護していた。
空いた足に防護障壁を張って蹴りを繰り出す事で弾幕を弾き、正面から向かってくるアダムに向かって回し蹴りを繰り出す。
しかし蹴りは空を切り、アダムは宙を舞っていた。
降下と同時にナイフを体の内側から外側へ薙ぎ、「破壊神」の後頭部を斬り裂いた。
「ギャアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
突如にして辺りに怪物の様な雄叫びが響き渡る。
防壁のコントロールは失われ、空からのビームと魔理沙からのレーザーが命中し爆発を起こした。
「そうか、操られている状態だから血流の集中している後頭部を狙えばダメージは高い。何故分かったんだアダム?」
「以前似たような事を体験した。」
「それって確かレミリアが異変起こした時にその妹のフランドールが暴走した時だっけ?」
カイルの質問にアダムは短く答え、霊夢が記憶を巡らせた。
爆風で舞い上がった塵の中から「破壊神」が姿を現した。
「完璧な核融合じゃ無いとは言えあの熱量を受けて平気なんて。いや......。」
確かにダメージを受けた様な様子は無いがある程度傷が付いていた。
「空、次の攻撃の準備をして。諏訪子、やるよ。神祭「エクスパンデッド・オンバシラ」!」
「分かってるよ。神具「洩矢の鉄の輪」!」
「はーい。」
神奈子と諏訪子がスペルカードを唱え、空が核融合の準備を始める。
弾幕は避けられる事も無く「破壊神」の表面に張られたバリアーに阻害された。
「国符「三種の神器 鏡」!」
後方から慧音が更にスペルカードを発動させる。
しかし結果は同じく障壁を破る事は出来ない。
だがその壁は不意に破られた。
カイルの出せるエネルギー5秒分を持つ音速の10倍を誇る銃弾が防壁を貫き、肉を貫通まではしなかったものの後頭部の表面に衝撃を与えた。
「グアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
カイルは次弾の準備をすべく銃へエネリオンを送り出す。
(あの調子ならあと20秒溜めれば倒せる。だが奴は僕にダメージを与える手段があるという事を知って僕を狙うだろう。幸いなのは相手に飛行能力が無い事だ。)『紫さん、僕が合図した位置にスキマを開き、僕の斜め上45度に出る様にお願いします。さとり、相手の思考やを直接送ってくれ。』
『ええ。』
『分かりました。』
『皆も出来るだけ奴を妨害してくれないか?』
承諾の返事は全員からすぐに返って来た。
ふと叫び声が消える。
(あと15秒。)
「破壊神」は本能(?)のままに苦痛を与えた元凶であるカイルへ突進を始めた。
「させないよっ!」
諏訪子が地面に手を置くと地面が隆起し「破壊神」の行き先を邪魔する。
「破壊神」が手を向けると進行方向にある土の壁が消え失せた。
「私もだっ!」
「私もですっ!」
神奈子と早苗が両手を突き出すと空気塊が発射され「破壊神」を押し戻そうとする。
空気塊は「破壊神」の表面の防壁にぶつかり、「破壊神」は押し戻されはしなかったが目に見える程の減速はした。
(あと12秒。)
左方向からアダムが2丁の銃を乱射しながら突撃して来る。
対する「破壊神」は銃弾を身に受け止めながら左回し蹴りを繰り出して迎撃しようとする。
アダムからナイフが2本飛んで来た。
当たっても突き刺さる事は無いが巻き付かれるのを回避すべく回し蹴りの軌道を変え体を回転させる。
ナイフは空振りだったが、霊夢と魔理沙が前方から弾幕を撒き散らしていた。
アダムはナイフを戻し今度は跳び蹴りを放つ。
弾幕を体の表面のバリアーで防ぎ、跳び蹴りに対してストレートで迎え撃つ。
アダムは体を捻って回転させ、向こうのストレートを絡める様に足を引っ掛ける。
そのまま体を回転させる勢いで相手を押し倒そうとする、が、「破壊神」は力ずくでアダムの力を蹂躙し、アダムの足を掴んで地面に押し倒した。
「破壊神」はそのまま喉を狙って足を振り下ろす。
だが踏み付けは突然「破壊神」がバランスを崩した事で不発に終わった。
体を後ろに引っ張られた感覚を覚え、自分の体を見ると肩にロープが巻き付いており、ロープは自身の背中の後ろを通ってアダムに繋がっている。
予め巻き付かせたロープにアダムの意志を送る事によって巻き取られ、引っ張られたのだ。
アダムが起き上がりながらブレイクダンスよろしく足を回転させ、「破壊神」の足元を刈り連続で蹴りを命中させる。
地面に倒れた「破壊神」は起き上がると頭に血が上っていたのを自覚し、カイルに向かって走行を再開する。
(あと7秒。)
カイルは間に合わないと思ったのか後退し始める。
「爆符「メガフレア」!」
幾つもの巨大な火の玉が「破壊神」を襲う。
それを「破壊神」は正面からボールを弾く様に腕で防ぐ。
火の玉と腕が衝突し合う度に爆発が起こる。
最終的に「破壊神」は全ての火球を正面からぶつかって防ぎ切り、目的を達成すべく再び走り出す。
(あと5秒、この調子じゃあ間に合わない......。)
「倭符「邪馬台の国」!」
慧音がスペルカードを唱え、弾幕を発射させる。
それに対して「破壊神」は真正面から弾幕を連続して被弾する。
舞い上がった砂煙の中からダメージを受けた素振りを見せていない「破壊神」が飛び出した。
(せめて白澤の時の力だったら......。)
慧音は自分が行った事の希望に対し満足出来ない結果を得た事に悔んだ。
リョウはアダム達から数百m離れた所で立ち往生していた。
アダム達の居場所が分からないからでは無い、アダム達の居場所が分かっているからこそ迷っていた。
(行けよ。”力”を使え。お前だってそうしたいだろう。)
(駄目だ。そんな事をしたらあいつらまで殺してしまう。)
(だがそれがお前にとっての一番の快感だろう。最初は15年も前だったか、分かっている筈だ、あの最初の時が一番だった。お前を信頼している奴を殺した時を覚えているか?俺に怯えながら信じている顔を。その信頼を壊す、そして奴らは裏切られた時の絶望を顔に浮かべる。最高だ。)
(止めろ。だから俺はもう殺したくない。)
(良く言うぜ、さっきは友人であるトレバーの奴を殺したじゃないか。お前は楽しさに笑っていた。お前は殺人鬼だ。その運命から逃れられん。)
リョウは黙り込んだ。
(どうした?反論できないか?)
ドカーン!
離れた所から爆音が響き渡った。
(騒がしいな。)
「......そうだな、騒がしいな。」
(さっさと......待て、何だ?)
“声”はリョウが言葉を口にしている事に違和感を覚えた。
「そうだ、俺は何でこんな詰まんない奴と戦っているのか。あいつらはああして未知の敵と迷う事無く戦っているというのに。俺は一番知っている奴に迷い、戦うどころか逃げようとしている。全く馬鹿だったぜ。」
(おい、何だ?!)
「もう二度と会いたくない。いや、合わんな。」
(待て!お前......)
“声”が途切れる。
リョウの意識は数百m先の戦いに向いていた。
カイルが銃にエネリオンを溜めながら下がっている。
十分にエネリオンが溜まった所で撃つのだろう。
それを追い掛けるのは大柄な男。
見た所とんでもない速さで走っている。
別の方向から慧音が弾幕を撃っているがあの男は怯みもしない。
リョウはその「力」を使った。
人を殺す為では無く、人を守る為。
周囲の空気や地面が凍り付いた。
エネルギーは高から低へ、一点から周囲へ、均質化する。
周囲に広がり均質化する筈の熱はリョウ一点に集まっていた。
熱を発射する為にエネリオンに変換する。
更にリョウ自身が吸収するエネリオンの分も加算される。
「行けっ!!!!!」
一点に集まったエネリオンがリョウの掌から発射された。
それは突然だった。
何処からかエネリオンの塊が飛来し、「破壊神」へと命中した。
大爆発が起きた。
中心は瞬間的にプラズマ状態となり、気体の体積が一気に膨張した事によって「破壊神」は吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた「破壊神」は地面に倒れるとエネリオン塊が飛んで来た方向を見る。
何百mも離れた所に誰かがこちらに掌を向けていた。
「破壊神」にとっては見知らぬ顔だが、他の者達にとっては良く見知った人物だった。
「リョウ?やっと来てくれたか。」
慧音が何か安心した様に言った。
「破壊神」は我に返り、再びカイルを追い始める。
『カイル、俺はこれ以上無理だ。頼んだぜ。今度何か奢ってやるからさ。』
『分かってる。それじゃあ蕎麦でも頼むよ。』(あと2秒。行ける。)
「破壊神」とカイルとの距離は残り数十m。
音速で走れるカイルだが向こうはそれを遥かに超えるスピードを持つ。
今の調子では0.5秒も掛からないでカイルに追い付くだろう。
だからカイルは急な方向転換をした。
後退からいきなり前進に、進みながら飛び蹴りを仕掛ける。
対する「破壊神」は咄嗟に腕を胸の前に構える。
カイルと「破壊神」がすれ違い合った。
その相対速度は音速の3倍を超える。
その時カイルが後ろ蹴りを繰り出し、「破壊神」の背中に決めた。
反動でカイルは前に跳び「破壊神」は後ろに飛ばされる。
両者とも着地し、片方が逃げ、片方がそれを追う。
(あと1秒。)『さとり、紫さんに伝えてくれ。』
カイルは後ろを向き、銃を構え、引き金に指を掛ける。
『左に大きく動きます!』
『分かったわ。』
「破壊神」の思考をさとりが受け取り、それをカイルを介して受け取った。
動く場所が事前に分かっている為、スキマを生み出すのは十分に間に合った。
直径2mの大穴が空間に現れた。
飛行能力の備わって無い「破壊神」は勢いのままそのスキマの中へと突っ込んで行った。
すると別のスキマがカイルの前方斜め上に開き、そこから「破壊神」が飛び出した。
飛行能力が無い「破壊神」は空中で身動きは取れても軌道を自在に変えることは出来ない。
カイルの狙いは「破壊神」の後頭部にしっかりと照準されていた。
引き金に掛けた人差指を引く。
銃弾の持つエネルギーはTNT火薬24kg分。
そのエネルギーは「破壊神」の張るシールドの一点を貫く。
銃弾はそのまま後頭部から頭を貫通した。
終わっちゃいねえってんだよ!(地霊殿のストーリー的な意味で)