東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中) 作:タツマゲドン
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「思ったんですけどカイルさん、貴方の能力で相手の考えとか読む事とかは出来ないんですか?」
「心を開いた者のみ可能だ。悪いけど奴らの思考は読めない。テレパシーでも心を開いた者にしか通じない。」
「そうですか......。」
(でも不思議だな。それだと初対面の時は何故テレパシーが通じたんだ?)
カイルは関係無い事を一瞬頭に留めておいたにも関わらず、一番早く異変を察知した。
彼はエネリオンやインフォーミオンの構造や分布や状態を広範囲で知る事が出来る為、莫大な量の光子が地面を気化し地面を掘り進めている事を、光子や地面を構成するインフォーミオンの変化によって知った。
「上からレーザーが来る、下がって!」
カイルがそう警告し、早苗と慧音が後ろへ下がり、離れた萃香と勇儀も回避動作を取った。
突如天井の岩が消滅したかと思うと眩い光の槍が降りて来た。
「これは......?」
「サムの能力か。地面をレーザーで気化してレーザーの通り道を作ったんだ。それにしても不味いな......。」
カイルはそう呟きながら照準をサムに向けた。
突然、カイルが地を駆けたかと思うと、電子の噴流がそこに吹き付けた。
電撃を躱したカイルはサムに銃を向けたまま引き金を引いた。
銃弾は光の柱から枝の様に伸びてきたレーザーによって撃ち落された。
そして何十本ものレーザーが連続してカイルに向かって伸びる。
エネリオンが光の柱に作用してレーザーが屈折するのを即座に知ったカイルはレーザーが伸びて来る以前から回避動作を行う事が出来たが、それでも秒速300000kmものレーザーを躱すのはギリギリだった。
「奴は僕が引き付ける。皆は他の3人を相手してくれ。」
そう言いつつ銃を連射させ、レーザーを回避する。
「......。」
黒いローブの男が何も言わずにこちらを睨み付けるような視線を向けていた。
すると、視線を隣の大柄な男に向ける。
「......。」『どうせお前は私に従う事になるから反抗するのを止めたらどうだ。』
「......。」『断る。俺はお前達の目的なんぞ興味が無い。俺に命令に従う義理は無い。』
何も声は聞こえなかったが、早苗達には何らかの雑音が聞こえ、何かを話し合っている様に感じた。
その雑音の様な音が聞こえるからこそ彼女らは”特別”である。
トランセンデンド・マンや妖怪はエネリオンを視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚と五感の様に感知する。
まるで二者が共通しているかの様に。
しかし、トランセンデンド・マンはそれだけで無くエネリオンを立体映像を俯瞰的に見る様に空間的に感知する事も可能だ。
まるでトランセンデンド・マンが妖怪を超えているとでも言うかの様に。
遂に大柄な男は何も動く気配を見せず、ローブの男が動き出した。
「はあああああ!!!!!」
「やあああああ!!!!!」
早苗と慧音が牽制に大量の弾幕をばら撒く。
しかし、弾幕は圧倒的な電撃によってその力をひれ伏され、無力化される。
「私達もだ!」
「ああ!」
勇儀の掛け声に萃香が返事し、2人共地面を蹴るとそれぞれ側面を取った。
勇儀が右側から跳び蹴り、萃香が左側からナックルを繰り出す。
次の瞬間、勇儀の足と萃香の腕はローブの男の手に簡単に掴まれた。
「何だこの力は?!」
どちらかの鬼がそう言った矢先、2人の体に電流が流れ、2人共脱力し倒れ込む。
そこに向かって水の槌が叩き落とされる。
勇儀は仰向けで正面から力づくで受け止め、萃香は霧状になって回避を試みる。
しかし、勇儀は地中からのウォータージェットによって2方向から挟みこまれ、萃香は霧状に変化出来なかった。
萃香が自らの密度を下げ霧状にする事で少なくともダメージ軽減をするつもりだったが、レックスは気体化する萃香を自らの流体制御能力によって押さえ付け、水流を浴びせる。
「えいっ!」
早苗が掛け声と共に両掌を突き出すと、勇儀と萃香を押さえ付ける水流が逸れる。
「やあっ!」
同時に慧音が、水流を操っている為両手の放せない状態のレックスに向かって弾幕の嵐を送った。
しかし、弾幕の嵐は突如出現した稲妻に打ち消され、稲妻はそのまま慧音へと命中し、怯ませた。
勇儀がローブの男へと駆け込み、跳び蹴りを放った。
ローブの男に蹴りが炸裂すると思ったその時、地面から熱水が勢い良く吹き出し勇儀を吹き飛ばす。
ローブの男が吹き出す熱湯に手を着けた。
地面から噴き出した水は地中に含まれる成分を含む。
それは伝導性が高い金属イオンも例外では無い。
純粋な水では通らない電気もイオンを溶かす事によって電気を通す様になる。
結果、勇儀は電気によって水流に逆らう力も出せず、そのまま壁に衝突した。
今度はあらゆる所から噴き出た間欠泉が残る3人に向かってウォータージェットとなって襲い掛かる。
「皆さん、下がってください!」
早苗がそう言いながら両手を突き出し、水流をせき止める。
「離れて!」
突然、親しい少年の警告する叫び声が聞こえ、後ろへ下がる早苗。
何処からか伸びてきたレーザーが水流にぶつかる。
水が一瞬で気化し、体積が1000倍の水蒸気に変化する。
その勢いは早苗、慧音、萃香を吹き飛ばしたが、カイルが警告したお蔭でダメージを軽く出来た。
「あ、ありがとうございます......。」
「いや、引き付けるという作戦を取っていた僕が迂闊だったよ。やはり全員で戦う事になるか......。」
「い、いえ、私も不注意でしたから......。」
「せめて連携を崩す事が出来れば何とかなるかも知れない。」
その時彼女が来たのはカイル達にとって大きな幸運だった。
「私達も戦います!」
カイルが先程逃げさせた少女達が戻って来ていたのだ。
「あれ、さとりに燐じゃないか。」
そう言ったのは恐らく以前から知り合いだったのだろう勇儀か萃香か。
「駄目だ、本当に危険な事だ。」
短い沈黙。
「......私は、相手の心を読む事が出来ます。だから、それで少しは役に立ちたくて......。」
言うのを躊躇った様な間は何故か。
「あたいも手伝いに来たんだ!」
隣の燐も主張する。
『成程。しかしエネリオンを見る限り彼女が戦闘向けとも思えない。もう少し作戦を変えよう......。』
さとりは己の能力でカイルの思考を読み取り、カイルに対して安心と期待を持った。
人間は信頼を得る為に本当の自分を知られたくないが故、己を偽る。
しかし、自分の本性が知られた時、信頼を断ち切る。
だからさとりは人間に忌み嫌われ続け、こんな地下深くにひっそりと暮らしているのだった。
だが彼からは嫌悪どころか負の感情を一切感じなかった。
それどころか自分を大切にしてくれている。
それだけで彼女は嬉しかった。
「......よし、じゃあ......2人共名前は何?僕はカイル・ウィルソン。」
「私は古明地さとりです。」
「あたいは火焔猫燐さ。」
「それじゃあ、」『2人共、聞こえるかい?』
「ふえっ?!」
頭の中で直接的に声が聞こえ、どちらかが間の抜けた声を上げた。
『テレパシーだ。さとり、君が奴らの考えを読む時に念じると僕が皆にそれを一瞬で伝えられる。これは君にしか出来ない事だ。任せた。』
『はい!』
霊夢は宙に浮き、魔理沙は箒に乗り、そしてアダムは地面を走り、黒い男を追っていた。
「まるで追い付かないわね。」
「あいつ何処に向かっているんだ?」
魔理沙の疑問に答えたのは隣を走るアダムだった。
「地底だ。ルーラーと「破壊神」と合流する為だ。」
「お前良くそんな事分かるなあ。」
「いや、僕も何故知っているのかは分からない。」
「へっ?」
「どういう事?」
2人共訳が分からず、霊夢が訊いた。
「今はその理由はどうでも良い。問題はその行動が何を意味しているかだ。」
「それも分かる?」
「多分。少し長い説明になるだろう。本来、幻想郷の結界を破るという目的であれば膨大なエネリオンを吸収できる西行妖を操ってそのエネルギーを利用するだけで良い筈だ。それなら全員で一斉に冥界を侵略すれば済む話だ。しかし、実際は3人という半分にも満たない人数でそれを実行した。」
「つまり地底に何か重要な事でもあるって訳?」
「そうだ。それこそがトレバーを殺した男「破壊神」だ。それを操るのが奴らの真の目的なんじゃないかと思う。」
「でも何故わざわざ幻想郷で?」
偶然かどうか、丁度同じ頃、ディック中佐も同じ事を話していた。
それを聞いているのは彼の”元”部下のポールだ。
「全く素晴らしい作戦だな。幻想郷でなら我々の目が届かず、それを実行出来るという訳だろう。だがあれは非常にリスクが高い。失敗すれば我々は少なくとも甚大な被害を被るだろう。それを成功させるためにあれだけ大量の「トランセンダー」を用いた訳だな。通常なら自我を保つ事など出来ない量だ。それでも失敗した時の為の保険が「カオス」という訳だな。あれなら絶対に失敗しない。あのプログラムはその為だ。だろう?ポール。」
「......。」
何故ポールが黙っているのか、中佐は分からなかった。
「奴は危険過ぎる。何せ奴1人で戦略兵器に匹敵する程だ。あの鎧はその力を抑える為の物だ。だが、100%の安全が保証されなければ絶対に鎧を外してはならん。動かしてはならん。我々も滅びる可能性まであるのだぞ。」
「......。」
少なくともポールは何も言い返せなくて何も言わない訳では無い、と中佐は感じた。
「教えろ、何故そこまでして「破壊神」を操るろうとする。何故「コントローラー」や「カオス」、大量の「トランセンダー」まで持ち出そうとする。」
「......。」
まるで何かタイミングを待っている様だ。
「教えろ!!!!!」
もう遅かった。
扉から2人のエージェントらしき人物が入って来てディック中佐を取り押さえたのだ。
「何時の間に呼んだんだ......。」
「心配いりません。貴方にとって必要無い記憶は消されますから。」
(阻止しなくては......。)
「それで、その「破壊神」とか「コントローラー」とか「カオス」って一体どんな奴なんだ?」
魔理沙が疑問を抑えられずに聞いた。
答えが遅れて出たのはすこし整理した為か。
「......まずは「コントローラー」は2つ名で本名はルーラー、奴は人間を操るという能力を持っている。あのローブの男だ。「カオス」はルーラーを元にして作られた「エネリオン体」だ。エネリオンで擬似的な肉体を作っている。」
「だからあんな真っ黒な見た目なんだな。」
「ああ、ユニバーシウムを利用してそれで行動や維持に必要なエネリオンを供給している。体の内部にあるユニバーシウムを破壊する事で倒せる。」
ここまで一通り説明したアダムだが、本来彼は知らない筈の事である。
何故知っているのかなど彼にとっては今やどうでも良い。
今はそれを利用するだけである。
「そして、「コントローラー」と「カオス」には「破壊神」を操るという目的についてだが、「破壊神」に関しては詳しくは分からない。しかし、それ程の力があるという事は確かだろう。」
「あのデカい男だっけ。私と霊夢とアリス、そしてトレバーと合わせて戦っても全く敵わなかったからなあ。」
魔理沙が記憶を思い起こして言う。
「そして、その力を操る為の物が「トランセンダー」という薬品だ。トランセンデンド・マンの能力を向上させる。」
トランセンダーに関しては春雪異変時に現れた謎の男の急激なパワーアップを通して以前から知っていたが、その”名称”を知ったのはつい先程だ。
「でもそこまでして操るという事は余程の事情なのだろう。それ程力が強大なのか......。」
しかし、本来アダムが知らない筈の知識は肝心な所が抜けていた。
「......。」
「フッ、フヘヘヘヘヘ!!!!!」
リョウは狂った様に笑っていた。
第三者から見たらまるで自分が追い詰められて頭がおかしくなった様に見えるだろう。
リョウは全身が傷だらけに加え、痛覚を倍増された事による精神的な苦痛もある。
対するトレバーはある程度傷を負っているものの大したダメージにはなっておらず、相変わらず無表情のままだ。
彼はある意味で2体の敵に対峙していた。
奴は彼を、そして大量の罪無き人々を苦しめてきた存在。
8年前とっくに治った筈の「癌」が再発したのだ。
(止めろ!俺の友達なんだ!)
(だがそうしなければお前は生きられない、そうだろう?殺せよ。お前も望んでいるだろう、あの感覚を。あれ程気持ち良い事など他に無い。)
(違う、俺はもう以前の俺とは違う。俺はもう「フロスト」の犠牲者を増やしたくない。)
(だがそれがお前の本性だ。俺から逃れる事は出来んぞ。さあ、あの力を使え。思い出せ、あの快感を。)
リョウは何時の間にか”その力”を使っていた。
「ヒッヒッヒッヒッヒッ!!!!!」
リョウは目の前の人間を殺したい衝動に駆られていた。
「......。」
対するトレバーは何も感情を見せていない。
リョウが地面を蹴り、距離を詰める。
トレバーはそれを迎え撃つ。
リョウが突き出す拳をトレバーが受け止める。
反撃にトレバーが右フックを放った。
リョウはトレバーの右フックを離さない様に掴み止めた。
トレバーが腕を離そうと引っ張るが離れない。
「スピードではお前には敵わないが、何時もパワーだけは俺が上回っていたな。」
「......。」
そしてトレバーは右腕に寒気を感じた。
恐怖に身を震わせたのではなく、本当に寒いのだ。
何時の間にかトレバーの右腕は感覚を失っていた。
リョウが更に握力を込めた瞬間、右腕は陶器の様に粉々に砕けた。
引っ張られる力が急に解け、トレバーは後ろによろめいた。
左ストレート、右フック、左フック、右ブロー、左ナックル、右アッパー。
リョウの連拳を受け、後方の岩に叩きつけられた。
続けて迫り来る跳び蹴りを横に避け、壁に足を着けたリョウに向かって左肘を突き出す。
肘打ちが腕に阻まれ、そのまま手にエネリオンを込めながら裏拳を繰り出す。
裏拳はリョウの腕に防がれたものの、相手の腕はエネリオンを送り込まれ、リョウは神経がすり潰される様な痛みにのたうち回る筈だ。
しかし、リョウは顔を顰めただけだった。
「痛えなこの野郎!」
トレバーは人類共和軍の兵となった頃から現在に至るまで幻覚を利用して大量の人物を葬った。
あらゆる者が幻痛に苦しみ、死んでいく様を数え切れない程見て来た。
しかし、目の前のこの男はそれをまるで叩かれた程度にしか感じていない。
先程までは効いていた筈だ。
トランセンデンド・マンは空間から吸収したエネリオンを幾つかの”力”に利用している。
自身の出力増加(瞬発的出力増加)、自身の加速(持久的出力増加)、自身の防御(外部からの圧力、熱、振動、光、毒物、等の軽減・無力化)、自身の処理能力増加(神経伝達速度加速)、そして特殊能力を持つエクストラは特殊能力に利用する。
要するにエネリオンとはトランセンデンド・マンの並外れた能力を発揮するのに必要な”燃料”だ。
そして”燃料”は前述の様にあらゆるエネルギーに変化する。
その中の自己防御を利用して外部からのエネリオンをシャットアウトする。
以前は効いていたのに今は効かなくなった、つまり以前は防壁を打ち破れたが今は防壁が補強されて破壊出来ない。
それだけリョウは”燃料”であるエネリオンの吸収量が増えたという事だ。
トレバーは寒気を感じていた。
実際に周囲の空気が氷点下に感じる程冷たい。
リョウは周囲の空気中の熱を吸収し、それをエネリオンに変換している、それだけの事だ。
しかし、それだけの事でリョウは力を倍以上に増し、トレバーは恐怖を覚えていた。
「......「フロスト」?」
トレバーがやっと言葉を口にした。
「フロスト」、正体は謎に包まれ、判明しているのは「熱を操る」という能力と「フロスト」というミドルネームのみ。
彼の正体を知った者は男、女、子供、大人、そしてトランセンデンド・マン、これらを問わず全員が命を奪われた。
「......リョウ、お前が「フロスト」なのか?!」
トレバーは驚きの余り我を取り戻した。
しかし、リョウはそれに対し、エネリオン塊を返した。
トレバーの脳内は驚愕に埋め尽くされ、避ける余裕も無かった。
目の前の人体が気化し、跡形も無く消え去る。
「フッ、フハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!」
リョウはそれが楽しくて仕方が無いという様に笑い狂っていた。
しかし、彼は我に返った。
力無く両膝を地面に着き、前に倒れた上半身を両手で支えた。
目に熱い感覚。
「......グスッ、グスッ......クソッタレ!!!!!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!......あの野郎!!!!!」
泣き崩れ、怒り狂う。
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