東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中)   作:タツマゲドン

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64 受け止めてみろ

「「破壊神」「コントローラー」「カオス」の使用、「トランセンダー」の大量持ち出し、「カオス」の謎のプログラム......一体何が起きているというのだ......。」

 

 ディック中佐はパソコンの画面を見ながらそう呟いた。

 

「ここまでアクセスが厳重でやっと侵入に成功したが、上手く情報を持ち出せるか。侵入した以上逆探知されるかも知れんから一刻も早くせねば......。」

 

 いつもよりも5割増しのスピードでキーボードをタイピングさせる。

 

「......「破壊神」の鎧を解除し操るというのか?!......という事は「コントローラー」のみの力では足りないから大量の「トランセンダー」を持ち出したのはその為か......これはもう1つ極秘作戦があるのか?!......どれ、強力なエネリオン吸収源を「コントローラー」もしくは「カオス」によって操る......あのプログラムはこの為か!」

 

 ディック中佐が驚き発する言葉は凡人には何の事かサッパリ分からないだろうが、彼自身はそれがとんでもない事を示す事を理解していた。

 

「少なくとも「破壊神」だけでも如何にかせねば......アダム、居るのか?......お前があの中に居るのなら頼む、計画を止めてくれ......酷い事をして来たこの私が言える様な事では無いが......最も私の思考など幻想郷の結界を超えるどころか誰にも通じないだろうが......。」

 

 中佐は願う様に、後悔や反省する様に、そして親しい者に言うかの様に呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......。」

 

 アダムの視線は先程まで向いていた黒い男とは明後日の方向を向いていた。

 

「どうかしたの?」

 

「誰かが僕に話し掛けた気がする......。」

 

 霊夢が少し不安になったのか質問したが、十分な解は得られなかった。

 

「誰かって?」

 

「分からないが、僕はその誰かを知っていて向こうも僕を知っている……今は別にどうでも良い。僕はあの黒い男......」

 

 アダムは突然頭痛に襲われた様な感覚に襲われた。

 

「......あの「カオス」を相手する。皆はガミジンとアガレスの相手をしてくれ。」(何故奴の名前が分かったんだ?)

 

「分かったわ。」(アダムは奴の名前を知っていたのね。)

 

 と霊夢が了解の返事をしたのだが、予定通りには行かなかった。

 

「受け止めてみろ。」

 

 何時しかガミジンが言った言葉がそっくりそのまま再現された。

 

 アダムが声のした方向を振り向くとガミジンが指を真っ直ぐ伸ばしたまま手刀を繰り出している最中だった。

 

 慌てて取り出したナイフで受け止め、もう片方のナイフを突き出すが、ガミジンの腕に阻まれた。

 

 そのまま2人の連続斬撃が互いに攻防を繰り広げる。

 

「仕方無い。僕はガミジンを相手する。」

 

「それでも良いわよ......」

 

 紫は少しの間何かを考えた。

 

「......霊夢、魔理沙、妖夢、幽々子、貴方達はあのアガレスという男を任せるわ。藍、橙、貴方達は私とあの「カオス」という奴を相手するわよ。」

 

 7人から了解の返事が返って来るとそれぞれのポジションに着いた。

 

 アダムとガミジンの実力は拮抗していた。

 

 相手が攻撃したかと思うとはじき返し、そこへ攻撃を叩き込む。

 

 その攻撃が弾かれたかと思うと、相手がそこへ攻撃を繰り出す。

 

 アダムのナイフとガミジンの腕のぶつかり合い。

 

 簡単に言えばその繰り返しだ。

 

 アダムが次々と攻撃を防ぎ、隙を突いてローキックを放つ。

 

 しかし、ガミジンはそれが見えていたにも関わらず回避動作どころか防御しようという意志すら見せなかった。

 

 アダムは直感的に危機を察知し、蹴りを中断して距離を取った。

 

 対するガミジンは空いた距離を埋め、斬撃のラッシュを仕掛ける。

 

 アダムは次々と斬撃を受け止め、次に来る回し蹴りをブロックしようと腕を胸の高さに掲げた。

 

 次の瞬間、アダムが後ろへ退いたかと思うと、回し蹴りはアダムの着ているプロテクターを掠めた。

 

 その瞬間、プロテクターの蹴りが掠めた箇所が刃物に裂かれた様な傷を作った。

 

(足でも切断可能か。だがあの様子では他はどうか。)

 

 アダムはそんな事を考えながらガミジンへとナイフの嵐を送っていた。

 

 ガミジンの頭を狙った横薙ぎを受け止められ、隙を突かれてガミジンの腕がアダムの腹に伸びる。

 

 左のナイフで突きを払い除け、右のナイフをガミジンの喉へと突き出す。

 

 アダムのナイフを回し蹴りで払い飛ばし、回転の勢いを利用してもう3回回し蹴りを放つ。

 

 回し蹴りを2発躱し、最後の1発をナイフで受け止めると横へ移動し、腹を狙ってもう片方のナイフを振り出す。

 

 アダムのナイフはガミジンの左脇腹に食い込んだ、ものの切断した手応えが無かった。

 

 ナイフはガミジンの腹を斬り裂く事無く、その位置に留まっていた。

 

 アダムが突き出した腕を斬るように腕を振り下ろすが、その前にアダムの蹴りが顔面に炸裂した。

 

 吹き飛ばされるが空中で体勢を整えて着地する。

 

(やはりか、腕か足以外、恐らく神経の末端部分以外では切断が出来ない。腹にナイフを当てて切断しなかったのは切断の逆ベクトルを加えているのか。ならば……。)

 

 アダムは少しの間思考を巡らせるとナイフをロープに繋ぎ、投げ飛ばす。

 

 2頭の蛇は主の思考通りに動き、ガミジンの動きを抑制する。

 

 荒れ狂う龍蛇を素手で(エネリオンで表面や内部を強化した状態を素手と言うならば)受け止めるが、アダムはその内に少しずつ接近していく。

 

 距離を十分に詰めた所でアダムは地面を蹴り、一気に間合いを縮める。

 

 同時にロープを戻し、ナイフを両手に持ちながら突進する。

 

 2本のナイフと腕が接触し合い、互いの力を外から加える。

 

 すると、アダムは微かに何かが切れる感触がナイフを通して伝わって来た。

 

 同時にガミジンは腕とナイフの接触点が熱くなってきているのを感じ、慌てて距離を取る。

 

 ガミジンがナイフに触れていた箇所を見ると、見事な切り傷が出来上がっていた。

 

 アダムのナイフ「シルバーウルフ」は切断以外にもう1つの使用方法がある。

 

 それは「融解」条件によっては「気化」だ。

 

 「シルバーウルフ」は使用者のエネリオンを変換して強靭性を上げるだけでは無く、高周波でナイフを振動させる事で物体を切断しやすくする所謂高周波ブレードである。

 

 振動によって触れた物体を振動させ局所的に液化させる事によって物体の結合力を下げることで切断しやすくし、通常の刃物より力を加えなくても済む。

 

 ガミジンが行った切断の逆ベクトルを加える事による防御は物体を左右に分断する単純な力にしか働かない。

 

 その為、物体の振動という複雑な力には働かない。

 

「……懐かしい気分だ。以前もお前と戦った事が有る様な、そんな気がする。」

 

「……。」

 

 まるで遠い昔の事の様に言うガミジンと、無言のアダム。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古明地さとりは目を開けると堅い地面の上に身を伏していた。

 

(ええと、確か......)

 

 体が痺れるような感覚で頭がぼんやりとしている。

 

 隣にはペットの火焔猫燐が同じく横たわっていた。

 

「......燐!大丈夫?!」

 

「......ん?何か頭がボーっとするけど何とか......。」

 

「あの時妙な男が来て......死体が動き出して......あっ。」

 

 さとりが辺りを見回して見えたのは、燐が集めて来た死体3体に対し、地底の鬼2人そして見知らぬ地上の者らしき者4人が戦闘の最中だった。

 

 すると、さとりは合計3つの目で彼らの様子を窺い始める。

 

『「破壊神」の支配完了まで敵対する者を排除せよ。』

 

(......どういう事?)

 

 死体3体からは自身の意志は感じられず、何者かからの命令が聞こえた。

 

(彼らは命令されているのね......。)

 

 命令している者は......命令している者が何処に居るのか突き止めようとする。

 

 地底の最も奥に、機械的な命令する意思とそれに拒絶する強い意志を確認した。

 

『標的追加。』

 

 命令する意思からそう読み取ったかと思うと、3体の死体の内、大柄な1体がこちらを向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「強いぜ奴ら、以前より絶対に力を増しているな。」

 

「だね。それ以前に身体に致命的なダメージがあってどうやって蘇ったのか、それも謎だ。」

 

 リョウの呟きに対して答えるカイル。

 

「2対1でやっとですもんね......。」

 

「せめて何か変化が起これば良いのだがな......。」

 

 早苗と慧音も不安を口にする。

 

「こんな圧倒的に強い奴なんて初めてだよ......。」

 

「あと誰か加わってくれれば頼もしいんだけど......。」

 

 勇儀と萃香の鬼達も不安を呟く。

 

「偵察のつもりが戦闘になるとは、もう少し慎重に行動するべきだったな......。」

 

「アダムの奴らも大丈夫かねえ。」

 

「アダム?......そういえば何時の間にか居なくなっている。霊夢と魔理沙もだ。」

 

「どういう事だ?」

 

 リョウが話の急な転換に戸惑う様に言った。

 

「分からない。周辺から感じられないという事はもう地上へ出たのだろうけど、今まで居た位置からして少なくとも今僕達が居る所を通らなければ出られない筈だ。考えられる事は......」

 

「......まさかアダムさん達がやられたんですか?!」

 

 早苗がパニックを起こした様な声で訊いた。

 

「......いや、可能性は他にも有る。アダムが突然ステルス系の特殊能力を付けた可能性もある。彼の能力からして有り得ない事では無い。」

 

「それだと良いな。でもそうしたら何故アダム達は地上に出たんだ?」

 

「援軍を呼ぶには1人で十分な筈。だからきっと地上で何かが大事が起こっているのかも知れない。」

 

「それじゃあ俺達も早くこいつらを片付けなきゃあな。」

 

 突然、敵対していたトレバーが後ろを振り向いた。

 

 カイルが慌てて視線を辿ると先程まで倒れていた見知らぬ2人が起き上がっている最中なのを確認した。

 

 反射的にカイルは銃を構え、音速の10倍もの銃弾が秒間10発というスピードで吐き出される。

 

 トレバーは表情1つ変えずに高速の銃弾をあっさりと躱す。

 

「てめえ!いい加減起きろ!仲間じゃねえか!」

 

 リョウはトレバーに大声で怒鳴るとトレバーへ接近し、跳び蹴りを繰り出す。

 

 トレバーはその蹴りを手で掴んだかと思うと後ろ方向へ蹴りを逸らす。

 

 リョウは体勢を整えて着地すると後ろを向き、トレバーに向かって銃を構え、1秒に100発というスピードで銃弾を発射する。

 

 トレバーはバク転しながら距離を取ると共に銃弾を避ける。

 

「トレバーは俺が殺す。お前達は絶対に手を出すな。良いか、絶対にだ。」

 

 リョウは「絶対」という単語を強調する様に言うとトレバーを追い、2人の姿は遠くへと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さとりは1体の死体が「殺す」という一念のみを込めながらあっという間に目の前まで迫っている事に怯え、動けなかった。

 

「さとり様!危ないよっ!」

 

 燐が逃げる様に促すが、今動けたとしても完全に間に合わない。

 

 突然、速い何十発もの銃弾が彼女を守る様に死体へと襲い掛かる。

 

 しかし死体は難無く銃弾を躱す。

 

 次の瞬間罵声が聞こえたかと思うと、死体と敵対していた者達の内1人がこちら側へ飛び込む様にして来たかと思うと銃を連射し、死体を遠ざける。

 

 その男は何かを言うと死体の後を追って姿を消した。

 

 だが、まだ終わりでは無い。

 

 残る2体の死体の片方は開いた手をこちらに向け、もう片方は勢い良く地面を蹴った。

 

 空気塊と地面の揺れが真っ直ぐ迫り来るのに対し、それを食い止めようとする誰か2人。

 

 空気塊が突風で弱体化され、地面の揺れを踏み抑えられる。

 

 それでも完全では無く、さとりは弱まった地面の揺れによってバランスを崩し、弱められた空気塊によって簡単に地面に倒された。

 

 さとりが起き上がろうとした瞬間、彼女の目に映った景色は死体の中で一番若そうな男とそれに対する1人の青年が目の前でぶつかり合っている所だった。

 

『絶対に助ける!』

 

 さとりは純粋で強い青年の思考を聞き、何故か安心感を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイルはバランスを崩して倒れた少女へと追撃しようとするサムの姿をいち早く捉えると地面を蹴った。

 

 サムが少女へ振り下ろしナックルを仕掛けるのに対し、カイルは裏拳を放つようにして腕を伸ばす。

 

 サムの拳はカイルの腕に阻まれると、サムは自分の腕が下方向へ引っ張られるのを感じた。

 

 サムのナックルを腕を翻して下方向へ逸らし、続けて腕を掴むとカイルを地面へ投げ倒した。

 

「逃げて!」

 

 カイルが目の前の少女にそう言うと、隣の少女はすぐに走り出したが、もう1人は驚いているのか怖がっているのか動かなかった。

 

次の瞬間何かに気付いたカイルは少女の腕を離さない様に掴み、後ろへと駆け込む。

 

 丁度横方向から迫るウォータージェットを躱した所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げて!」

 

 さとりは青年にそう言われたが、体が強張って動けなかった。

 

 隣の燐は既に逃げ出している。

 

『不味い、来る。』

 

 次の瞬間、青年はさとりの手を取り、引っ張る。

 

 次の瞬間、勢い良く吹き出す熱湯が先程まで居た所を貫いた。

 

『まだ来る。』

 

 カイルはさとりを掴みながら軽やかな身のこなしで次々と迫り来る衝撃波や空気塊や水流をさとりに当てさせる事無く避ける。

 

「カイルさん、危ない!」『助けなきゃ!』

 

 離れた所に居た少女からそう聞こえると、このカイルと呼ばれる青年を守る様に弾幕を放った。

 

「では僕も。」

 

 青年は前に走りながら後ろを向くと背中に背負っていた銃を構え、連射し始める。

 

 ある程度下がると青年は手を離した。

 

「君達は逃げて。」

 

「えっ?ああ、はい。」

 

 さとりは突然の出来事に一瞬戸惑ったが、それが無くなると安心感が湧き出て来た。

 

(あの人なら何とかしてくれそう、そんな気がするわ。)

 


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