東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中)   作:タツマゲドン

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今回は"異常に"説明が長いです

今回は"異常に"説明が長いです(大事な事なので(ry)


63 感情と理論

 ガミジンが腕を薙ぐ毎にその延直線上にある物体が切断され、アガレスが腕を突き出す毎にその方向にある物体が吹き飛ばされる。

 

 幽々子がアガレスの正面から弾幕を放つが、弾幕は見えない力で呆気無く消え去った。

 

 その隙にアガレスの背後から妖夢が接近し、刀を突き出す。

 

 アガレスが振り向き、開いた右手を突き出し、妖夢は何かに跳ね飛ばされた。

 

 地面に倒れ、怯んだ妖夢へとガミジンが背後から手刀を振り下ろす。

 

 突然、妖夢の半霊が人型になり、刀を持つと手刀を受け止め、その間に妖夢の本体は逃げた。

 

 右から藍が左から橙がガミジンを挟み撃つ様に弾幕を放つ。

 

 ガミジンはアガレスへ一瞬視線を向けると地面を蹴り、同時にアガレスがガミジンへ手を向ける。

 

 次の瞬間、ガミジンは少なくとも音速の1.5倍はあろうかというスピードで弾幕から離脱し、紫へと一気に距離を詰める。

 

「今よ皆!準備して!」

 

 紫がそう言った矢先、ガミジンは突然目の前に現れたスキマに勢い良く飛び込み、別の場所に現れたスキマから上空に飛び出した。

 

「境界「永夜四重結......」

 

「死符「酔人の生、死の夢......」

 

「奥義「西行春風......」

 

「式輝「四面楚歌チャーミン......」

 

「鬼符「青鬼赤......」

 

 その時だった。

 

 何かが5人の発動中のスペルカード全てを打ち砕いた。

 

 ガミジンはその隙に自分を囲む5人へとエネリオン塊を放ち、離れたアガレスも腕を伸ばしエネリオン塊を放つ。

 

 何とかダメージにはならない程度に避けた5人だが、未知の不安が過っていた。

 

「今のは一体......。」

 

「奴ね。」

 

 紫が視線で示した方向には黒い男がこちらを見て立っていた。

 

「恐らくエネリオンそのものをぶつける事でスペルカードを妨害したんだわ。」

 

 漆黒の体は光を全く反射させず、凹凸や遠近が分からず、まるでその空間だけ何も無いかの様に見える。

 

 顔と思われる部分にあるバイザー状の目は何処に視線が向いているのか分からないが、常にこちらを見ている様な錯覚に囚われ、見るだけで意識を吸い込まれそうになる。

 

 黒い男の姿は紫達の不安を恐怖へと駆り立てた。

 

 その内、紫の意識は本人が気付かない内に完全に吸い込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八雲、お前は何故幻想郷を創ったか知っているか?」

 

「当事者である私に質問する訳?貴方達がこうして幻想郷の存在を知っているなら当然知っている筈でしょう。それよりもレディに自分から名乗らないのは失礼だと思うわ。」

 

「私はルーラー。そうだ。だが最大の理由はお前は知らないらしいな。」

 

「最大の理由は私自身知っているわよ。外の世界の妖怪の存在が消える事を懸念したからよ。人間の科学の進歩やそれによる認識の変化によってね。」

 

「お前は恐れている。お前達にとって人間は薬品の様な物だ。本来自らに利益をもたらす筈の薬品は用途や用量次第で己を滅ぼす。」

 

「そうよ、生命を持つ妖怪と知恵を持つ人間、それぞれのバランスが重要なのよ。だから外の世界は人間で溢れているが故に不安定なのよ。」

 

「我々に妖怪は必要無い。人間との共生関係などもはや無い。何故ならもう人類は新たな進化を遂げ始めているからだ。知恵と生命両方を併せ持つ生物に。」

 

「......それがトランセンデンド・マンという訳ね。」

 

「そうだ。人類が生存する為に進化した成功体。妖怪の出現など進化の失敗に過ぎない。進化に失敗した生物が滅びる事は当然。だがお前はそれを受け入れなかった。だから幻想郷を創った。殻の中に閉じこもったのだ。だがそんな事はほんの一時的な対処に過ぎない。」

 

「幻想郷は認識を要にして作り上げた世界よ。殻なんて物じゃないわ。」

 

「違う。確かにお前は幻想郷の存在は認識による物だと思っているらしいな。それは間違いではないが正解でも無い。お前はどうして”此処”に幻想郷を創ったかお前自身理解していないらしいな。お前はこの世界に何が埋まっているか知っているか?外の世界には無い物だ。」

 

「......それがユニバーシウムなのかしら?」

 

「そうだ。何故かは判明していないがユニバーシウムは幻想郷に大量に存在している。ユニバーシウムは特定の信号に反応し、それに応じてエネリオンを吸収し変換する。その”一例”が人間や妖怪の複雑な意志だ。お前の「隔離壁を作る」という意志が幻想郷を創り出したのだ。だから幻想郷が此処に存在している。他の場所にはユニバーシウムは微量にしか存在しないからだ。お前はそこで外の世界とは違う世界を作り上げるつもりだっただろうが完全に別物にする事は出来ない。ユニバーシウムやエネリオンも物理法則に従うからだ。だから人間はユニバーシウムやエネリオンによって幻想郷を発見した。幻想郷が元から存在していたのではなく外の世界から隔離した世界という事なら必ず外の世界と重力以外の繋がりがある。余剰次元理論よりも遥かに劣る力で作られた壁など簡単に崩れる。」

 

「つまり幻想郷は此処でしか創れない世界だという事?外の世界では戦争が起きていると聞いたけど、つまり私達が貴方達から受ける被害は只のとばっちりという訳?」

 

「そういう事だ。我々が人類を導く為だ。我々こそが人類の後継者だからだ。お前は自然の流れに逆らっている。お前は怖いんだ。お前自身が人間の恐ろしさを理解しているだろう。」

 

「何を......。」

 

「それが最大の理由だ。お前は人間が、人間の知恵の力が怖いんだろう。本当は人間を隔離するつもりだったが自分が殻に閉じ籠るしか方法は無かった。お前には世界を支配する力など無いからだ。ユニバーシウムの性質を利用する以外には。だがお前はユニバーシウムの事や存在すら知らなかった。だからお前は幻想郷を創っただけで安心した。だが人類はお前よりも先にユニバーシウムの存在を知った。人間の知恵、それがお前の犯した誤算だ。この世界に居る限り法則には逆らえない。お前の作った世界など元からあった世界のコピーを改造しただけに過ぎない。お前は偽りの力を信じ続けて来た。物質や性質や認識などエネリオンやインフォーミオンで構成可能な一種のプログラムに過ぎない。」

 

「つまりこの世界は全て数字で表されるという訳?貴方達はそんな寂しい物事の考え方しか出来ないなんて大した文化も無いのね。」

 

「そうだ。だがそれはお前達もエネリオンやインフォーミオンの存在を知らなかったという程度の文明しか持っていないだろう。文化は確かに力を与える。しかし、その力は感情という不安定な物が根源である以上不安定である。文明も力を与えるが文化とは違い、根源が理論という安定、いや不変な物である以上文化よりも遥かに安定している。何時壊れてもおかしくない世界と永遠に安定している世界、お前はそれでも文化を選ぶというのか?お前は失敗を繰り返す人類を救いたいのか?」

 

「人間は感情と理論両方を併せ持つ生物よ。感情によって人類は変化を生み出し理論を見つける。片方を失えばそれこそ人類は終わりだわ。以前聞いた事があるけど人間にコンピューターチップを埋め込んで人民を制御しているそうね。そんなの人間じゃなくて只の社会という巨大な機械を動かす為の部品よ。」

 

「確かに以前や現在の人類は感情と理論を併せ持っているかも知れんが、今に感情という不安定な武器が必要無くなる日が来る。変化は我々が起こせば良いだけだ。その日は近い。その時こそ人類は安泰だ......ムッ?」

 

 突如紫の見る景色が何も無い空白から見慣れた景色に変化し、紫の意識は急速に現実に引き戻された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紫、どうしたのよ!」

 

「紫様!」

 

 紫は目を開いたまま動く事無く立ち止まっていた。

 

 幽々子達が声を掛けても返事が無い。

 

 突然アガレスが地面を殴り付けたと思うと衝突点とその周囲にある石畳が砕かれてめくれ上がり、宙に浮いた。

 

 するとガミジンも破片に向けて手を伸ばす。

 

 暫くして破片は急発進したかと思うと幽々子達目掛けて飛散し始めた。

 

 低質量だが高速故に銃弾並に強力なエネルギーを持つ破片に対し、幽々子達は弾幕を放って撃ち落そうとする。

 

 突然、ガミジンが勢い良く手を突き出すと飛翔中の破片が全てさらに細かく分裂し、勢いは変わらぬまま襲い掛かる。

 

 分裂し、軌道が変わる事を予測していなかった4人の放っていたのは低速ながら軌道を変えられる弾幕だったが、高速のまま突然数量が増えベクトルも変化した破片のスピードに付いて行けず撃ち落し損ねる。

 

 大量の破片を被弾した4人は怯み、続けてガミジンが腕を薙ぎ払ったのに気付くと回避行動を取ろうとする。

 

 しかし、何かが押さえ付けた様な感覚を覚えると体が回避を取る前の場所に戻り、体を捻るなりして躱そうとするが体の何処かしらに切り傷が出来上がった。

 

 ガミジンが腕に力を込めながら妖夢へ接近する。

 

 妖夢は振り下ろされる腕を片方の刀で防ぎ、もう片方の刀を持った人型の半霊が横から攻撃を仕掛ける。

 

 2方向から攻撃の隙を与えぬ連撃を繰り出す中、藍がスペルカードを唱えた。

 

「式神「橙」!」

 

 橙が燐光を纏ったかと思うと超スピードで飛び回り始め、弾幕をばら撒きながらガミジンの背後へと突進する。

 

 アガレスが腕を突き出すとガミジンを狙う2本の刀が変な軌道を描き空ぶったと思うとそれを持つ妖夢の体が何かに押されたように前に投げ出され、後方からガミジンが蹴り飛ばす。

 

 急接近する橙は妖夢を避けようと一旦距離を取ろうとするが、背中に強い衝撃を受けると地面に墜落した。

 

「桜符「完全なる墨染の桜 ‐開花‐」!」

 

 幽々子がスペルカードを唱えるとアガレスの四方八方を埋め尽くす様にして弾幕が出現した。

 

 アガレスは橙から周囲の弾幕に意識を向けるとその内一方向に手を向けた。

 

 手を伸ばした先にある弾幕が消滅し、アガレスはその穴に向かって飛び出す。

 

「掛かったな。式輝「狐狸妖怪レーザー」!」

 

 藍が唱えたスペルカードはアガレスを狙う大量のレーザーを出現させた。

 

 アガレスが手を伸ばし、ガミジンも十数m離れた所から手を伸ばす。

 

 藍の放った大量のレーザーはどれもまるでそこに鋭い剣があるかの様に真っ二つに分断され、軌道を逸らされる。

 

 次の瞬間、幽々子と藍は体に数百kgもの重しを付けられたように地面に倒れた。

 

「幽々子様!」

 

「藍様!」

 

 主を封じられた手下2人は慌てて主を救おうと腕を伸ばしたままのアガレスに襲い掛かる。

 

 それを阻止するべくガミジンが間に入ると妖夢が2本の刀を持って構え、橙が離れて援護射撃の体勢を取る。

 

 妖夢の二刀流独特の手数の多い攻め方と橙の後方からの高速大量弾がガミジンを翻弄させ、反撃の暇を与えない。

 

 アガレスは幽々子と藍を押さえ付ける事に意識を使っている為攻撃はして来ないだろう。

 

 しかし、ガミジンはそんな妖夢達の思考を裏切った。

 

 妖夢の一太刀がガミジンの頭に決まったと思ったら、まるで何も斬れた手応えが無い。

 

 切断とは1つの集合体を2つに分割する事であり、その2つに分ける過程で切断面から外側へ、分けられた物体は互いに逆方向のベクトルを与えられる。

 

 切断の逆とは結合であり、ガミジンは自身に切断の逆ベクトルを与える事で自身の切断を防いだのだ。

 

 ガミジンは妖夢の頭を乱雑に掴むと、迫り来る弾幕を妖夢を盾代わりに防ぎながら橙へと距離を詰める。

 

 妖夢を投げ飛ばし橙にぶつけ、今度は2人を両手に鷲掴みし、地面へ叩きつけた。

 

 ガミジンは足で2人を抑え、腕を高く上げた。

 

 妖夢と橙は死を覚悟し、それを何も出来ず見ているだけの幽々子と藍。

 

 その時、ガミジンが後ろを向いたかと思うと腕を体の前に振りかざした。

 

 ガミジンの切断能力を持たせた腕が突如襲い掛かって来たエネリオン弾を弾く。

 

 エネリオン弾は音速の5倍もの速さで1発だけでなく1秒に50発というペースで際限無く襲い掛かって来る。

 

 その為ガミジンは防御と回避を余儀なくされ、仕舞いには妖夢と橙から突き放された。

 

 ガミジンは視界に少年の姿を捉えていた。

 

 少年は目にも止まらぬスピードでガミジンに接近すると両手に持った2本のナイフで連撃を放つ。

 

 連撃を次々と防ぎ、反撃を次々と繰り出すガミジン。

 

 ガミジンの足薙ぎを跳び上がって避け、そのまま回転水平蹴りを放つ。

 

 体を後ろに反らして少年の蹴りを避け、カウンターに手刀を突き出す。

 

 少年はガミジンの突き出される腕を自分の手で下方向に払い除けると、そのまま体を浮かせ回転し、ガミジンの首に足を引っ掛けるとそのままガミジンを地面へ蹴り倒した。

 

 回転の勢いが残っているまま着地し、何時の間にか西部劇のガンマンよろしくナイフを銃に持ち代えるとアガレスへと連射する。

 

 アガレスは幽々子と藍に向けていた手を離し、銃弾の嵐に向かって手を向け銃弾を念動力でかき消す。

 

 幽々子と藍は自分の体が軽くなる感覚を覚えると起き上がった。

 

 幽々子達は少年が立ち止まるとようやくその姿を確かめる事が出来た。

 

「アダム君?」

 

「ガミジンは切断、アガレスは念動力か。」

 

 幽々子の言葉に答える事も無くそう呟いたアダムは銃を連射しながらアガレスへ接近する。

 

 アガレスは後退しながら銃弾を全て防ぐか躱す。

 

 アダムは慣れた手つきで素早く2丁の銃を2本のナイフに代えるとナイフをロープに繋ぎ、投げ飛ばす。

 

 アガレスは何の迷いも無くナイフを念動力で打ち返した。

 

 しかし、ロープに繋がれたナイフは念動力で幾らか軌道が変わったものの、まるで鎌首を振り上げる蛇の様に再びアガレスへ襲い掛かる。

 

 アダムが愛用するナイフ「シルバーウルフ」に繋がれているロープの名は「スマートアナコンダ」直訳すれば「賢いアナコンダ」。

 

 このロープは武器が使用者から離れていてもエネリオンを安定的に送る事を目的に作られた。

 

 しかし、それだけで無くエネリオンでロープ自体の強度を増したりする事も可能だ。

 

 そして、アダムはこのロープの使い道をもう一つ見つけた。

 

 ロープに送るエネリオンを運動エネルギーに変換する事でロープ自体を動かす事だ。

 

 アガレスは不規則なロープの動きに翻弄され、左腕と右脇腹に掠り傷が出来上がる。

 

「アダム、速過ぎよ。」

 

「お前なんちゅうスピードだよ。というか良くここまで飛んで来たなお前。」

 

 丁度良く霊夢と魔理沙が到着した。

 

 そして、アダムは西行妖の傍らに硬直している紫と黒い男を発見した。

 

 黒い男の赤く光るバイザー状の目がこちらを向いた、気がした。

 

 すると紫が硬直から解放された。

 

「......アンダーソン......。」

 

 黒い男は初めて声らしき低い音を発した。

 




6000文字まであと200文字足らずだった今回

マトリックスのスミスみたいな説明を一度やってみたかったんです

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