東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中)   作:タツマゲドン

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5 冷静

「パチュリー、この本借りていいか?」

 

「いいけど、ちゃんと返しなさいよ。」

 

「そういやパチュリー、お前も魔法使いなんだろ。外の霧どうにかしてくれよ。」

 

「霧はここの主であるレミリア・スカーレットが発動させた物よ。私はそれを手伝っただけ。霧の解除は彼女しか出来ない様になっているわ。というか貴方も魔法使いじゃない。」

 

「私は戦闘用の物しか使えないぜ。それならそのレミリアって奴に何とか言ってくれないか?」

 

「それこそ無理。彼女やるからには確実にやる、という気質なのよ。しかも派手に。さらに人の話を聞かないのよね。困った親友だわ。」

 

 魔理沙は紅魔館の大図書館にいた。

 

 アダムはフランのいた所から離れろとは言ったが、どこまでとは言及していなかった。

 

 だからこの大図書館で好きな本やらを探しているという訳だ。

 

 すると、アダム達のいる部屋から轟音が響いたと思うと、扉が突き破られ、そこから途轍もない威力の弾幕が途轍もない速さで飛んで来た。

 

 魔理沙たちはその場に伏せ、弾幕から回避したものの、弾幕は止まる素振りを見せぬまま、図書館の壁を突き破り、そのまま外部へと飛んでいった。

 

 魔理沙たちはようやく安全だと思い、床から起き上がった。

 

「......何が起こったんだ?」

 

「......あの扉が破られた事なんて一度も無かったのに......。」

 

 すると、破壊された扉から誰かがゆっくりと歩いて来た。

 

 魔理沙とパチュリーにはその顔に見覚えがあった。

 

 アダムだ。

 

「アダム!大丈夫か?!腹が切られているうえに火傷しているじゃないか!」

 

 魔理沙が駆け寄って言う。

 

「僕は大丈夫だ。それよりここの最上階へ行くぞ。」

 

「待って、アダム。フランドールはどうしたの?」

 

 パチュリーは壊された扉の奥から、まるで人っ子一人の気配さえしないのを察知していた。

 

「それなら僕が殺した。」

 

 アダムはあっさりとそう答えた。

 

 まるで人殺し(この場合は吸血鬼殺しか)禁忌を覚えていない。

 

「おい!冗談だろ?!」

 

「......貴方、なんて事を!レミィに何て言えばいいのよ!フランは確かに貴方達にとっては悪魔かもしれない、でもフランはこの紅魔館の一員であってさらにレミィにとっては紛れもない家族なのよ!私達はフランを恐れてはいるけど見捨てる様な事はしていないわ!大体、何故殺したのよ?!」

 

「奴を生かしておけばこの先異変解決の邪魔どころか脅威、いや、幻想郷中の脅威にすら成り得るだろう。攻撃はほとんど無効。あの威力の光線。暴れ出したら誰にも止められない。つまり暴走させない方が被害を最小限に抑えられる。僕は暴走しかけているのを止めるにはこれしか方法が無いと考えた。それだけだ。」

 

 パチュリーの強い口調に対しアダムの声には全く感情と言う感情が無かった。

 

「......呆れて物も言えないわ......小悪魔、一応調べて来て。」

 

「は、はい......。」

 

 アダムから受けたダメージをすっかり回復した小悪魔は破壊された扉へと急いで行った。

 

「嘘だろ......そんな、殺すなんてダメだ!」

 

「なら魔理沙、君なら殺さないと仮定して暴走した奴をどう止める?君ではどうやっても無理だ、自身でも体験しているだろう。」

 

「それは......。」

 

 魔理沙は言葉を失った。

 

「こんな所で議論をしている暇は無い。行くぞ。」

 

「あ、待ってくれよ!」

 

 アダムは階段を上り始め、魔理沙がその後に続いた。

 

 アダムには何の感情も見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やるわね、あんた。」

 

「貴方こそ人間にしてはやるじゃない。」

 

 霊夢は紅魔館最上階でここの主であるレミリア・スカーレットとの戦闘を行っている最中だった。

 

 レミリアは、水色の髪をしており、体型は十歳前後だが目つきや態度は大人の物に似ている。

 

「さっさと決着を付けましょう。霊符「夢想封印」!」

 

「それはこっちのセリフよ。紅符「スカーレットシュート」!」

 

 霊夢の弾幕とレミリアの弾幕がぶつかり合った。

 

 レミリアの弾幕数発が霊夢の弾幕に当たらず、弾幕がかき消されて来ないだろうと油断していた霊夢を襲う。

 

 霊夢はそれに気づき、何とか躱した。

 

 だが、レミリアがそこへスペルカードを唱える。

 

「消えなさい。神槍「スピア・ザ・グンニグル」!」

 

 巨大な槍が途轍もない速さで霊夢を襲う。

 

「しまった!」

 

 霊夢は避け切る事が出来ないと思い、目をつぶった。

 

 直後、ガキーン!という大きな金属音が鳴り響き、霊夢にグンニグルが命中する事は無かった。

 

 霊夢は目を開けてみると、そこに親しい少年の姿を確認した。

 

 霊夢は少年の手にナイフが握られている事を見て、恐らくそのナイフで巨大な槍を弾いたのだろう、と思った。

 

「危なかったな。」

 

 少年はアダムだった。

 

「おーい!大丈夫か?」

 

 魔理沙が少し遅れて来た。

 

「アダム!何で私たちの所へ来たのよ。来ないでいいって言ったじゃない。」

 

「心配だから来た。外を見てみろ。」

 

 霊夢と魔理沙はアダムのその言葉を聞き、レミリアの背後にある巨大な窓の外を見てみた。

 

 レミリアもアダムの話を聞いていたのか、窓の外を見た。

 

 先程まで異様な程に紅かった霧は、その鮮やかさを失い、黒ずんでいた。

 

「ど、どうして?さっきまで紅かったのに......。」

 

「おかしいわね。こんな風にはならないはずだけど......まあいいわ。さっさと片付けようかしら。」

 

 霧を広げたはずの張本人であるレミリアでさえ不思議に思った。が、どうでもいいらしく、早速戦闘を再開させる様だ。

 

「なら僕が相手だ。」

 

「ちょっと、アダム?!」

 

「心配は無い。戦略はある。魔理沙と一緒に下がっていてくれ。」

 

「わ、分かったわ。あなたを信じるわ。」

 

「いいわよ。だけど戦いをつまらなくさせないで欲しいものね。ならば貴方からかかって......」

 

 アダムは躊躇なくレミリアへと飛び掛かり、跳び蹴りを顔面にクリーンヒットさせた。

 

 アダムは着地して言った。

 

「戦闘において相手に隙を与えるのはどうかと思うが。」

 

「人の話ぐらい最後まで聞きなさい!」

 

 レミリアは先程までの大人びた態度を捨て、アダムに体当たりを仕掛けた。

 

 アダムは軽く(と言っても2m程だが)跳び、レミリアの後頭部に蹴りを決め、そのままレミリアの反対側へと着地した。

 

「......うぐ......い、いてて......。」

 

 レミリアは起き上がり、スペルカードを唱える。

 

「ならば本気で行くわ。喰らいなさい、天罰「スターオブダビテ」!」

 

 アダムは右手にナイフ、左手に銃を握り、ナイフで弾幕をかき消しながら銃を連射し、さらには体を上手く捻りながら躱し、距離を詰めて来た。

 

 互いの距離が縮まる分、互いの体感速度は速くなる。

 

 アダムは冷静に判断し、上手く避けているが、レミリアは逆に焦って来た。

 

 ついにアダムの銃弾数発がレミリアに当たり、レミリアは怯む。

 

 その隙にアダムはレミリアの腕を掴み、床に叩きつけた。

 

 アダムは距離を置き、銃を連射した。

 

 レミリアはアダムの弾をどうにかこらえ、立ち上がってスペルカードを唱える。

 

「「レッドマジック」!」

 

 今度は、動きは遅いものの一発一発が大きい物だった。

 

 アダムは弾幕をナイフで弾かず、後退しながら避けていく。

 

 レミリアは逃すまい、と弾幕を放ちながら追いかけて来る。

 

 アダムは後退する勢いで足を後ろの壁に付け、そのまま壁を蹴り、レミリアへと突撃していった。

 

 レミリアは弾幕を更に放つが、アダムは体を上手く捻り、レミリアへ跳び膝蹴りを喰らわせた。

 

 吹き飛ばされたレミリアはすぐには止まれず、窓を突き破り、何とか空中に停止した。

 

 レミリアはすぐさまアダムへと鉤爪を前へ突き出した姿勢で突進した。

 

 アダムは咄嗟に右手に銃を握り、一発レミリアへと放った。

 

 レミリアはその一発でダメージはほとんど無いものの、突然の事だったので一瞬だが目をつぶってしまった。

 

 その一瞬で、アダムはレミリアの腹にアッパー2発、蹴り上げ1発を決めた。

 

 レミリアは蹴り上げにより、天井に叩きつけられ、そのまま床へと落ちた。

 

 アダムは天井ギリギリの高さ(紅魔館は広いので、少なくとも10m程はあるだろう。)まで跳び上がり、降下キックを仕掛けた。

 

 レミリアは間一髪の所で避け、距離をとった。

 

 アダムの降下キックは不発に終わり、さらにはキックを仕掛けた右足が床を突き破り、めり込んだ。

 

 レミリアはその隙を逃さず、アダムへ体当たりを掛けた。

 

 アダムはめり込んだ右足を軸にし、レミリアへと回し蹴りを掛けた。

 

 アダムの回し蹴りが、一足先に決まった。レミリアは吹き飛ばされたものの、何とか体勢を整えて着地した。

 

 アダムはめり込んだ足を床から引き上げる。

 

「妹と同じで才能はあるが、隙が大きいな。」

 

 アダムはまるで勝負が決まったかの様にそう言った。

 


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