東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中)   作:タツマゲドン

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最近は投稿ペースが遅くなってきました

しかもサブタイを考える事にも一苦労です


57 乱れる日常

「へえ、核融合を、ですか?」

 

「そうだ。幻想郷のエネルギーは外の世界から通じているが、それでは外の世界で何らかの異常が起きエネルギーが絶えると幻想郷の存在が危うい。だから外の世界では確立されてない技術を利用して幻想郷で独立したエネルギー源を生み出す、というのが目的なんだ。」

 

 カイルは神奈子の話を熱心に聞いていた。

 

「核融合は外の世界では実現はしていますけど......つまり”磁場閉じ込め方式”という訳ですか。」

 

「その通りさ。本当に色んな事を良く知ってるね。」

 

 外の世界は地球歴0018年になるが”核融合と連鎖反応”は半世紀ほど前に”慣性閉じ込め方式”において成功し実用化されている。

 

 慣性閉じ込め方式の核融合は、燃料を球形の殻に封入し、そこへレーザーやビームを燃料に当てる事によって燃料をプラズマ化させ、プラズマ化した燃料は膨張するが、当てるレーザーやビームによって膨張する燃料を外側から押さえ、反作用で爆宿される事によって反応が起こる。

 

 一方で磁場閉じ込め方式の核融合は、プラズマが磁力線に巻き付く性質を利用して、強力な磁力でプラズマ化した燃料を閉じ込めるという方式だが、これはあらかじめ燃料をプラズマ化させる必要があるし、磁力線の性質上余剰磁力線が生まれるので慣性閉じ込め方式よりも効率が悪い。

 

 実際、磁場閉じ込め方式は”核融合反応”は成功例があるものの圧力が足りず”連鎖反応”にまでは至っていないが、慣性閉じ込め方式では”連鎖反応”にまで至っている。

 

 無論、実用化されているのは連鎖反応が出来るが為の効率の良い慣性閉じ込め方式だ。

 

「そもそもそれだけの熱と圧力はどうやって?まず炉が必要ですし。」

 

「そこが幻想郷さ。熱と圧力の一部は地底を利用し、そこへ太陽神を憑依させた地底の鴉の力を使うという訳だよ。地底の鴉が太陽神を憑依させるのに適しているからね。今から準備に取り掛かろうと地底へ行こうと思ってたんだ。」

 

「成程、八百万の神とはそんなに種類があるんですね。それじゃあお気を付けて。」

 

 カイルに手を振り、早苗と諏訪子にも行って来る、と挨拶した所で神奈子は目的地に向けて進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中尉、作戦開始時間です。」

 

 ポールは部下からそう呼ばれる前からオペレータールームの指揮官席に座っていたので一度号令を掛ける為に立ち上がった。

 

「では作戦第二段階を開始する。まずは「コントローラー」へ信号を送れ。」

 

 ポールの号令と同時に全員は持ち場に付き、幻想郷内へと信号が発された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ローブの男は幻想郷外から受け取った信号によって1週間ぶりに活動を再開した。

 

 そして片手に持っている漆黒の球体をその場に捨てる様に置くと何処かへと行った。

 

 球体は暫くするとその場に浮き上がり、やがて漆黒の人の形をした物へと姿を変えた。

 

 球体から生まれた物はローブの男と反対方向へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は地底の最も奥深くの地霊殿と呼ばれる場所にて。

 

「燐、最近何か気になる事でもあるのですか?」

 

「あっ、さとり様。そうなんだ。1週間前に手に入れたこれらの死体なんだけど......」

 

 さとり様と呼ばれる少女に言われた火焔猫燐が指し示したのは炎の海に横たわる6人の死体だった。

 

「1週間前から燃やしているっていうのに全く燃えないんだ。死体から死霊も出て来ないし。」

 

 さとり様と呼ばれた少女はその死体に自分の”3つの目”を向けた。

 

 彼女の名は古明地さとり、桃色に近い薄紫の髪に赤い目、水色のゆったりした上着とピンクのスカート、そして自身の頭にコードの様な物で繋がっている3つ目の大きな目。

 

「......何これ......。」

 

 3つ目の大きな目は死体からある物を読み取っていた。

 

 死体そのものに意志は無いが、何処からか別の意志がそれらを操作している様だった。

 

 そして、その操作している意志が、

 

「......近づいて来る......。」

 

 それを知った時は既に遅かった。

 

 黒いローブに見を包んだ男はさとりと燐から10mも離れていなかった。

 

 しかし、

 

「さとり様、どうしたんだい?」

 

「燐、貴方見えないの?!」

 

「え?誰か居るのかい?」

 

 さとりはその姿を認識しているが燐にはそれらしき姿は見えていない。

 

『作戦二段階目開始。』

 

 さとりはローブの男からそう読み取れたと同時に今まで身動き1つしていなかった死体6体が起き上がったのを見た。

 

「死体が......」

 

 次の瞬間、さとりと燐は体中に走る激痛を感じると同時に意識を失った。

 

 地霊殿の主が倒れ、6人分の死体達が起き上がる事に驚いた地底の怨霊達は暴れ出したが、ローブの男と6体の死体は気にする気配も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイルは地面から伝わる僅かなエネリオンのノイズを感じていた。

 

 だから早苗視点でカイルが普段は穏やかな笑みを浮かべている表情を突然本気の目つきになった事に戸惑った。

 

「......あの、カイルさん?」

 

「......遠いがエネリオンが大きく乱れた......一応警戒はしていたが対応が間に合うか......異変かも知れない。」

 

「えっ?!私には何も感じませんでしたけど......。」

 

「ここから非常に遠く離れているからね。恐らく地下深くだろうか、高い知覚能力が無ければ読み取れない程だよ。確かな事は分からないから実際に行ってみる必要があるな。」

 

 エネリオンは質量を持たないが故に原子間に働く重力、弱い力、電磁波、強い力の影響を受けず、更には物質を通り抜ける事が出来る。

 

 つまりエネリオンはどんな壁に遮られても通り抜けられるのだがそれでも距離が離れていると周囲に拡散する為離れている程感知し辛い。(これは全ての素粒子の最小単位であるインフォーミオンにも無論当てはまる。)

 

 ちなみにTM専用武器で銃弾に変換されたエネリオンは「質量体に衝突する事で熱、力学エネルギーを与える」というプログラムを与えられる為、原子を貫通しない。

 

「地下深くって事は異変だとすれば神奈子が危ないかもね。二人とも気を付けて行っておいで。私はもしもの時の為にここに残るから。」

 

 諏訪子も会話の中に入った。

 

「では行って来ます。」

 

「あくまで調査だけど何が起こるかは分からないから最悪の場合を考えて常に警戒するんだ。諏訪子さんも何かあったら連絡下さい。」

 

「分かっていますよ。」

 

「分かった。そちらも気を付けてね。」

 

 2人はすぐに守矢神社を出るとカイルが先行し、早苗がそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アダムはいつも通り霊夢と修行をしていた。

 

 霊夢から連続して繰り出される拳を左右へ払い除け、がら空きになった霊夢の足元へローキックを繰り出す。

 

 アダムのローキックを跳び上がって避け、回し蹴りを放つ。

 

 霊夢の蹴りを片手で掴み取り、地面へ引き倒す。

 

 地面へ叩きつけられた霊夢だが体勢を直し、アダムへと駆け込みながらお祓い棒を突き出す。

 

 上へ下へ、右へ左へ、振り出されるお祓い棒を手刀で受け止める。

 

 突きを手刀で滑らせるように上に逸らし、霊夢の顔面に裏拳が決まる。

 

 アダムに呼吸の乱れは無いが、霊夢はすっかり息を切らしていた。

 

「少し休んだらどうだ?」

 

「そうするわ。」

 

 すると霊夢の修行を見ていた魔理沙が割り込んだ。

 

「それじゃあ私ともやらせてくれよ。」

 

「良いぞ。」

 

 突然魔理沙が手を伸ばし、周囲に弾幕が出現するとアダムに降りかかった。

 

 それを難無く1つも触れる事無く躱したアダムだったが、魔理沙が八卦炉を向けていた事に気付いた。

 

「折角カイルにパワーアップしてもらったんだから今使うぜ。」

 

 八卦炉からは細いレーザーが幾つもアダムに伸びてきた。

 

 宙を舞ったアダムの身体は空中で回転し、レーザーを全て避ける。

 

 その隙に魔理沙はアダムに接近し、力の籠った右手でパンチを繰り出す。

 

 パンチはアダムの腕に阻まれたが、続けて左足で真っ直ぐ蹴りを突き出す。

 

 魔理沙の蹴りを右腕で絡め取る様に掴み、背後に回りつつ掌底を魔理沙の後頭部に決めた。

 

 よろめいた魔理沙は自分が倒れるのを踏み止まり、左ジャブ、左フック、右ストレート、左ボディブロー、右アッパー、と仕掛けるが全ていなされる。

 

 最後のアッパーをしゃがんで避けたアダムは無防備な魔理沙の腹へと裏拳を決めた。

 

「いてて......やっぱり格闘なんてやった事無いからなあ......。」

 

「力が入り過ぎだ。常に力を抜いた状態で攻撃の瞬間にのみ力を入れるんだ。」

 

「弾幕みたいにごり押しは効かないんだな。」

 

 すると突然、アダムが動いたかと思うと頭を押さえた。

 

「ぬっ?」

 

「アダム?どうしたの?」

 

「一体何だ?」

 

 アダムは僅かだが苦痛に顔を歪ませていた。

 

 霊夢はアダムが怒鳴り散らすのを見たことがあり、その時は恐怖すら感じ、この様にアダムの表情が引き攣ると怒り出すのではないかと考えてしまう。

 

 一方、アダムの脳内は頭痛の様な幻痛と超音波の様な幻聴がよぎっていた。

 

 しかし、それは大した程でも無くすぐに収まり、いつもの無表情な顔に戻った。

 

「何だこれは?......」

 

『......。』

 

 アダムは何か声の様な物を聞き取った気がしたが、音が小さいのか離れているのか良く聞き取れなかった。

 

 ただ何か意志の様な物を感じていた。

 

 無意識にアダムは声のする方向を向いていた。

 

「......何かが呼んでいる......。」

 

 アダムはその方角へと歩き始めた。

 

「ちょ、ちょっと。」

 

「待ってくれよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リョウは慧音と無縁塚に来ていた。

 

「これがコーヒー豆の木なのか?」

 

「そう。豆とは言われているが実際は豆じゃないからな。実の形が似ているだけだ。最近エメラルドマウンテン以外にもブラジルやコロンビアとかの色々な品種が見つかっている。」

 

「それで、豆が足りなくなったから取りに来たんだろう?」

 

「ああ。それとこの前は俺が一番好きなキリマンジャロって奴が見つかってな、良いブレンドが出来そうだ。」

 

「と言っても私にはどれがどの品種なのかサッパリ見当も付かないんだが……。」

 

「そこはプロに任せろ。素人はそこで指を咥えて見ていれば良いさ。」

 

 わざとらしく言ったリョウは迷い無くコーヒー豆を採り始めた。

 

 歌を歌いながら。

 

 俺を引き離す事なんて出来るものか

 

 例え百人もの男が止めようとしても

 

 アフリカに降る雨を讃えよう

 

 新しい何かを始めるためには、まだ時間が掛かりそうだ

 

「相変わらずだな。」

 

「キリマンジャロコーヒー見つけたからな。アフリカを讃える曲さ。これで酸味と苦みを抑え、香りとコクを伸ばしたブレンドが完成するぜ。」

 

 そう言っている内にあっという間に収穫が終わった。

 

「早いな。」

 

「まあな、トランセンデンド・マンだからな。」

 

「それにしてもこの無縁塚にコーヒーの木が生えているとは聞いたが、これ程生えているとは凄いな。」

 

「無縁塚よりもどちらかというと埼玉寄りだがな。知り合いの河童達が植えたり管理したりするのを手伝って貰っているぜ。」

 

「河童と言うと玄武の沢に住む河童達か。あいつらは人間とは仲が良いからな……というか埼玉って何だ?」

 

「物の例えだ。それと慧音、以前コーヒーの木を移植する為に穴を掘った事があるんだが、その時に金やら何やら高価な金属が出て来たんだが……」

 

「確か無縁塚の間欠泉は旧地獄や地底の熱による物だが、それと同時に地底の怨霊が時間を掛けてそういった金属に変化し、やがて地上に現れるんだ。」

 

「成程、以前お前がバチが当たるとか言ってたのはそれか。」

 

 その時だった。

 

 地面が揺れ動いた気がした。

 

「地震か?」

 

「リョウ、あれを見ろ。」

 

 リョウが慧音の視線を辿って見たのは地表から大量に溢れ出す間欠泉だった。

 

「ここは無縁塚とは近い距離にあるが間欠泉までは噴き出さない筈。」

 

 2人が見る限り間欠泉の数は数十程、高さは大体5m程。

 

「これじゃあ折角のコーヒーが流されてオシャカだぜ。」

 

 リョウの思惑を余所に突然間欠泉が止んだ。

 

 突然の出来事に呆然とする2人だったが、

 

「なあリョウ、あれは何だ?」

 

 すぐに慧音が沈黙を破った。

 

 慧音が指差したのは空中に漂う半透明の球体だった。

 

 球体は1つだけでなく大量に存在し、どれも意志を持ち、パニック状態の様に暴れ回っている。

 

「こいつら何かに驚いているのか?」

 

「多分怨霊か?何か助けを求めているようにも見えるな。」

 

 すると、大量の球体が突然動き出したかと思うと全ての球体が同じ方向へと飛んで行った。

 

「追うぞ、リョウ。」

 

「ああ。」

 

 リョウは背中から銃を取り出し、構えながら慧音と共に球体達の後を追った。

 




歌詞:Africa/TOTO

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