東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中)   作:タツマゲドン

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今回で風神録は終わりです

まあEVPの一作目が終わった様なものです

くどい説明もあるので注意


55 嫌だ

 永遠亭にて。

 

 リョウは耳に通信機を当てていた。

 

「よお慧音......俺は無事だ。そっちは?......そりゃあ良かった......え?ああ外から来た俺の仲間が一人死んだが、他の皆は無事だ......ああ、それじゃあまたな。」

 

 そして通信機をオフに、皆に向かって言った。

 

「里の奴らは全員無事だってよ。」

 

 近くでは魔理沙が目を覚ました。

 

「魔理沙、大丈夫か?」

 

 1番最初に元に寄って声を掛けたのはアダムだった。

 

「......まだ体のあちこちが痛いけど大丈夫だ。」

 

「また箒を使わせてもらった。勝手に使ってすまなかったな。」

 

「別に良いぜ。もうあの箒も半分アダムので良いかもな。ハハハ......そういやあの、トレバーって奴はどうしたんだ?」

 

「死んだ。」

 

「......そうか、それは気の毒だな、良い奴だったのに......というかお前って良くそんな悲しい事を平然と言えるよな。」

 

 紫はカイルに質問し始めていた。

 

「それで、あの立方体が奴らの目的と聞いたのだけど、どういう意味かしら?」

 

「あの立方体はいわゆる「爆弾」ですよ。どうやって管理組織が結界を破るのか今までは判明しなかったけど、それが内部でエネリオンを爆発的に放出させてその圧力で破るという仕組みで結界を破ると最近判明したんです。それが向こうで「ユニバーシウム・マイン計画」とか呼ばれているそうです。」

 

 紫が袋から立方体を1個取り出した。

 

「こんな小さな物で破れるというの?もっと数量はあるけど総数合わせてもそれ程の破壊力を生み出せるとは思えないわ。」

 

「僕が見た所この爆弾一つでも相当な威力を秘めている。これはユニバーシウムで出来ていて容積の遥かに上回るエネリオンを蓄える事が出来ますよ。」

 

「それじゃあわざわざ幻想郷に来なくてもこの爆弾を送って爆破するだけで済まないのかしら?」

 

「恐らく爆弾の使用量を出来るだけ減らす為に結界を破壊するのに必要な最低限の爆弾を送る事にしたんだろうと思います。それには絶妙な配置に置かなくてはならないし、現代の技術では結界を超えて配置させるには制度が足りないし、爆弾の量を増やすにしてもユニバーシウムは非常に希少価値が高いからですし。」

 

「成程、コストを最低限まで削減......本当に合理性しか考えない様な連中なのね。」

 

 そして、今までカイルの隣に座り、黙ってカイルの話を聞いていた早苗が質問した。

 

「あの、何故私が幻想入りしてきた時に管理組織も幻想入りしたんでしょう。何だかただの偶然には思えなくて。」

 

「ああ、今から説明しようと思っていたよ。結界は内部や外界からの刺激によって不安定になり、外部と内部を遮る壁が薄くなるから出入りしやすくなる。今回は早苗、君が幻想入りした時の影響で結界が不安定になり、そのタイミングで管理組織は人員を送り込み、僕達も阻止する為に来たという事さ。」

 

「それじゃあ......私が幻想入りしたせいで......」

 

「大丈夫だ、君は悪くない。悪いのはそれを利用する管理組織だ。ナイフが料理にも殺人にも使える事と同じだよ。要は使い方だ。」

 

 カイルの励ましに早苗はホッとした顔になり、今度は紫が次の疑問を投げ掛けた。

 

「それにしてもそのスペースマシン、リョウから少し聞いたわ。その原理を知りたいのだけれど。結界を意図して超えるという事自体が幻想郷にとって脅威なのよ。」

 

「そうだな......トンネル効果は知ってますか?」

 

「ええ、物理は幻想郷内でも通用するから。」

 

 紫は知っている様だが早苗の頭の上には疑問詞が浮かんでいた。

 

 その様子にカイルが気付いたのか説明をし始めた。

 

「それじゃあ、簡単に説明すると、宇宙空間内の素粒子をボール、宇宙同士を仕切る次元を高い壁と仮定しよう。ボールを壁の向こう側に送るには高い壁以上に高く投げなければならない。つまり壁の高さは次元の壁を破る為に必要なエネルギーを表している。ところが量子学では素粒子は波動の性質を持っている。壁の向こう側にボールを送れなくとも声なら聞こえる。だから素粒子を波に置き換えられるなら次元の壁を超えられるという理論さ。分かったかな?」

 

「......何となくですけど、まあ。」

 

「そして、結界を超える方法もこのトンネル効果と同じ理論さ。現代の技術では宇宙空間を超える事は出来ないけど、幻想郷の結界の場合は次元の壁よりも遥かに劣るから人程の質量を持つ物体でも送れる訳だ。」

 

「まさか外界の人間が結界の性質に気付くなんて......私も外の世界を調べた事はあるけど人間にこんなに技術力があるなんて知らなかったわ。」

 

 紫が驚いたような口調で言った。

 

 すると突然早苗が椅子から立ち上がった。

 

「そうだ、神奈子様と諏訪子様に伝えなきゃ。ちょっと帰ります。」

 

「それなら説明に僕も立ち会うよ。まだ言ってなかった事もあるし。」

 

「良いんですか?わざわざ私の為にありがとうございます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ディック中佐は自分の研究室でうなだれていた。

 

「ポールの奴め......。」

 

 時間が経ち、いくらか落ち着くと立ち上がった。

 

 部屋を出ると別の部屋へ向かった。

 

 暗証番号を入力し、ロックを解除し、ドアを開く。

 

 広がるのは等間隔に並ぶ大量のガラスシリンダー。

 

 それらは5種類に分かれていた。

 

 中佐が注目したのはその中の内の2種類。

 

「......アンダーソンシリーズはまだ1体、ディックシリーズは2体......両方の1体ずつは死亡、いや、アンダーソンシリーズは生きている可能性があるが......ディックシリーズのもう1体はまだ調整中......リスクが大きい計画だが私にはこれをするしか他に無い......。」

 

 片方は青い髪の少年達ともう片方は赤い髪の少年達。

 

 どちらも、というかシリンダーの中に入っている人間達は誰も動く気配を見せない。

 

 中佐は部屋の更に奥に入った。

 

 そこには1つのドア。

 

 外にあったドアよりも幾分厚みを帯びていて暗証システムもその分強化されている様だった。

 

 暗証コードを3パターン入力し、指紋認証、眼球認証、血液認証をクリア。

 

 重そうなドアがそれ相応の遅い動きで開く。

 

 中に入ると中佐は2つのシリンダーに注目した。

 

「......アダム、マルク、今日ユニバーシウム・マイン計画の責任者から解任されてしまったよ。でもその分お前達の面倒を見られる。2人共早く治してやる。それまで待っていてくれ。母さんの為にもやらなければならない事だからな......。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖怪の山の中腹の湖の近く、そこに守矢神社は建っていた。

 

「神社ごと引っ越して来たのか。凄いな。」

 

「私達の目的は幻想郷で信仰を得る事なんです。向こうだともう宗教を信じる人すら居ませんから。」

 

「君はオーストラリア大陸のクィーンズランド辺りの出身なのかい?」

 

「え?いえ、ずっと日本に住んでいましたけど。」

 

 早苗が使っている日本という呼称は、国家が解体され世界共通でジャパンと呼ばれる様になった以後も現地人は良く使ってる。

 

「冗談のつもりだったんだけど、流石に通じなかったな。そのクィーンズランドって所では昔、家ごと引っ越しをする風習があったそうだ。」

 

「へえ、面白いですね。」

 

 今のはその風習とカイルの冗談両方に対して言った言葉だ。

 

 2人は守矢神社の門の前に着いた。

 

「神奈子様、諏訪子様、ただいま帰りましたー!」

 

「お邪魔します。」

 

 すると神社の本殿から2人の女性、の姿をした神(片方は少女の姿だったが。)が姿を現した。

 

「おかえり早苗、無事だったみたいで何よりだ。」

 

「おかえり、早速知り合った子とデート?」

 

 少女の姿をした方の神、洩矢諏訪子が早苗をからかって言った。

 

 それに対して赤面する早苗と笑いをこらえるカイル。

 

「やめてださいよ諏訪子様。そんなんじゃなくて......ほら、カイルさんにも笑われたじゃないですか。」

 

「違うよ、リョウが同じ事を言ってたからそれを思い出してね。あっ初めまして。カイル・ウィルソンと言います。貴方達が守矢神社の神ですね。」

 

「こちらこそ、私は八坂神奈子。早苗がお世話になったみたいだね。」

 

「私は洩矢諏訪子だよ。それで、早苗とはどこまでいったの?」

 

「もう、諏訪子様!」

 

 更にからかう諏訪子と更に赤面する早苗。

 

「止めなよ諏訪子、早苗が嫌がっているだろう。」

 

 諏訪子のからかいは神奈子によって制止された。

 

「そうだ、今まで起こった事を説明しなきゃ。」

 

「ああ、僕もその為に来たんだったね。」

 

 2人は2柱の神に説明し始めた。(といっても早苗は現人神なので1柱と数えるが。)

 

 前半はカイルと早苗両方とも説明に当たっていたが、後半になると難しい事ばかりなので殆どカイルが説明していた。

 

「......そんな事が、地球管理組織が関わっていたなんて......。」

 

「今回も良く無事だったね。」

 

「ええ、カイルさんのお蔭で。」

 

「僕はするべきだと思った事をしただけだよ。」

 

 カイルはちょっとした違和感を覚えたので訊いてみた。

 

「......今回"も"?」

 

「え?あ、以前、7、8年前に管理組織が共和軍へと侵攻した時なんですけど、その時共和軍の方に助けられて、でも家族や友達が亡くなったショックで良く覚えていないんですけど......。」

 

「ああ、ナガノ戦か。あれは管理組織が外部から詳しく幻想郷の調査をする為に領地拡大をしようとしたと言われている。」

 

「外側から?結界で遮られているのに調べられるんですか?」

 

「前トンネル効果って話したけど、その技術が使われているボールは壁を通り抜けられないけど音なら通るだろう?音を発して通り抜ける、または返って来る音によって光が届かない洞窟でも内部を知る事が出来る。それと同じさ。」

 

「複雑な様で重要な事は結構簡単なんですね。」

 

「それが科学なんだ。知らない事を知る為の手段。そして新たに得た事を利用して更に分からない事を解明する......ごめん、話が関係ない事に逸れていたね。」

 

「いえ、別に。」

 

 自分の行動に苦笑するカイルと手を振って大丈夫と伝える早苗。

 

「そういえばカイルさんはこれからどうするんですか?」

 

 ただ単に思い付いただけの質問に、

 

「ん?幻想郷にはスペースマシンが無いから暫く幻想郷で暮らす事となるな。じゃあリョウの所にでも泊めてもらおうか......。」

 

 思った事を言っただけの答え、

 

 しかし、この後の諏訪子の台詞は完全に面白がっていた。

 

「じゃあうちで暮らしていけば?」

 

「諏訪子様?!」

 

「な、何を言ってるんだ!」

 

 その台詞に何故か赤面する早苗と神奈子だが、

 

「......別に断る理由も無いし、良いですけど?」

 

 カイルには拘りも断ろうとする意志も無く容認した。

 

「じゃあよろしくねカイル。」

 

「い、良いんですか?カイルさん。」

 

「まあ特に迷惑でも無いから良いよ。」

 

 邪心の無いカイルは諏訪子の悪ふざけを知らず簡単に受け入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある少年が廊下を走っていた。

 

 まるで何かから逃げる様に。

 

 廊下の右ドアからロボットが一体出て来た。

 

 ロボットが少年に対して銃を向け、少年はロボットへ飛び掛かった。

 

 ロボットが引き金を引いたのと少年の拳がロボットを使用不可の状態に破壊したのは同時だった。

 

 砕かれたロボットは力なく倒れ、少年の腹には銃から発射された麻酔弾が突き刺さった。

 

 少年は慌てて麻酔弾を引き抜こうとしたが、既に麻酔弾中の麻酔の半分が自分へと注入されていた。

 

 少年は麻酔の効力に抗い、ただひたすら逃げ続ける。

 

 ロボット達はひたすら少年を追いかける。

 

 廊下を走り続けるが、行き止まりに差し掛かった。

 

(もうこんな事は嫌だ!)

 

 少年は突き当りに向かってタックルした。

 

 タックルは突き当りの壁を砕き、少年がそのままそこにあった部屋へと入り込む。

 

 しかし、前には何十台ものロボットが自分に麻酔銃を向けて待ち構えていた。

 

 後ろからも何十台も押し寄せ、少年は囲まれた。

 

 ロボット達が道を開けた。

 

 そこを通って少年の元へ来たのは1人の中年男性。

 

「アダム、お前は私達に必要な存在だ。だから戻って来てくれ。頼む。」

 

「嫌だ!僕は独りになりたいんだ!皆がどう思っていても僕は消えたいんだ!」

 

 男性の差し伸べる手と言葉に対して子供の様に反抗する少年。

 

「アダム!」

 

「嫌だ!」

 

 突如少年を囲むロボット達の半数が倒れた。

 

「マルク!何をするんだ!」

 

「いいじゃん、本人が消えたいと思ってんならさ。」

 

 マルクと呼ばれた少年を取り押さえようとするロボット達だったが、止められず次々と破壊される。

 

「ほら、行けよアダム。消えたいんだろ?早くしねえと加勢が来るぜ。」

 

 少年はマルクの言う通りすぐさまその場を去った。

 

「アダム!帰って来い!」

 

「余計な事言うなクソ野郎。」

 

 男性はマルクに殴られ、地面に叩きつけられ、マルクは倒れた男性を遊ぶ様に踏みつける。

 

 少年はそんなシーンを走りながら振り向きざまに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アダムはそんな夢を見終わって起きた。

 

 同じ様な夢を見た所為か以前よりも落ち着いていた。

 

「......マルクは何者だ?僕に協力していたのか?でも嫌っている筈の僕を何故......あの男も一体......。」

 

 アダムの思考はそこで止まり、別の事に変わった。

 

「......。」

 

 無言で愛用のナイフ「シルバーウルフ」を持っていた。

 

 消えたい。

 

 衝動的にそう思ったアダムは何かを恐れてナイフを戻した。

 




今回のアダム君の夢については春雪異変の時の夢を一度見返して下さい

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