東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中) 作:タツマゲドン
「悪いな。ただ、僕は友人を助けたいだけだ。」
「分かったわ。降参。」
咲夜は両手を挙げた。
アダムはまだ咲夜の首筋にナイフを当てている。
「一つ訊いてもいいかしら?」
「別に構わない。」
「何故、私は負けたのかしら?」
「少し長い話になる。まず咲夜、お前は時を止める事が出来ると言った。それには少なくとも膨大なエネルギーが必要だし、第一どうやって自分だけが動けるのか。僕はそう思った。」
まず咲夜はこの少年の考え方に驚きを受けた。
自分は自分の能力を受け止めるだけで疑問に思った事など無かった。
「そうして疑う内に、僕はある事に気付いた。時間を止められるのなら、止めている時に僕を攻撃した方が明らかに楽なはず。つまり、時を止めている間に僕をナイフで刺したりしないのは時が止まっている物には影響を与えることが出来ないからだ。」
「良く分かるわね......。」
咲夜の呟きが無視され、アダムの説明は止まらず更に続く。
「また、僕はお前が時を止める時、お前の周囲にエネルギーを感じた。僕の仮説が間違っていないならば、正確には時を止めるのではない。自分と動かしたい物をエネルギーバリアで包む事で時間から独立し、さらに時を遡る事によって相対的に時を止めているという事だ。時の止まっている物に影響を及ぼせない理由はそれだ。しかも、それならばバリアを張るために多少の時間が必要だ。僕はその僅かな時間を突き、時を止めさせない様にしただけだ。これがお前の負けた理由だ。」
「悪いけど私にはこれっぽっちも分からないわ。あと名前だけでも訊かせて。私を倒した者として覚えておきたいわ。」
「アダム・アンダーソンだ。」
咲夜は頭に強い衝撃を受けた。
アダムがナイフの柄で殴ったからだ。
咲夜は力なく倒れた。
「しかし不思議だ。何故僕は"見えない"筈のエネルギーを感じたんだ?」
「ここも広いのか。大量の本と巨大な本棚が幾つもある、図書館か?」
アダムは紅魔館の地下に来ていた。
辺りには大量の本があるだけだった。
「......近くに誰かいるな。隠れるか。」
アダムは右手にナイフを、左手には銃をどちらも腰のホルスターからそれぞれ持ち、また銃のホルスターとナイフの鞘をベルトに付け、身を本棚の陰に潜めた。
「フンフーン。」
鼻歌を歌いながら本棚の整理らしき事をしている、赤毛で背中と頭に羽と、尻尾が生えている少女がいた。
(異変の真最中なのに呑気な奴だ。さて、丁度良いし聞き出すとしよう。)
アダムはその少女の後ろへと近づく。
アダムと少女の距離は3m。
しかし、少女は全く気付いていない。
そして、アダムは少女に飛び掛かり、動かない様に絞め、口を塞ぎ、ナイフを首筋に当てた。
「モゴモゴモゴモゴモゴ?!」
少女は必死に抵抗するが、アダムの力には勝てなかった。
「今から少し緩めるが、大声を出したらこのナイフがお前の首を切り落とすと思え。お前に聞く。この異変の首謀者は誰だ。そしてそいつは何処に居る。」
アダムの声はいたって本気であり、実際に逆らおうとすれば今にもナイフに斬られそうだった。
「......うう......げほげほっ......レミリア・スカーレット様です。ここの一番上にいます......。」
「そうか。」
アダムはそう言うと、ナイフの柄で少女の頭を殴った。
当然、少女は気絶し、倒れた。
「小悪魔?どうかしたの?」
奥から別の少女の声が聞こえて来た。
その少女は長い紫髪で紫のパジャマの様な服を着ていた。
そして、少女は倒れている小悪魔と、傍にいる見知らぬ少年を見つけた。
「あなたもこの異変を解決しに来たの?」
(しまった!気付かれたか。)
アダムは振り返り、右手にナイフ、左手に銃の戦闘態勢を取った。
だが向こうは戦闘態勢を取っていない。
「別にあなたと戦おうって事じゃないのよ。さっき戦ったばかりで疲れているし。私はパチュリー・ノーリッジ。このヴワル図書館の管理人よ。」
アダムは少女から敵意を感じず、単に質問しているだけの感じだったので、戦わない事にして答える事にした。
「僕はアダム・アンダーソン。君の言う通り異変を解決しに来た。」
「もしかして、あの魔理沙とか言った白黒の服を着た魔法使いの知り合いかしら。」
「そうだ。その子は何処へ行った?」
「どうしても行く気なら教えるわ。後悔することになるかも知れないけど、いいかしら?」
「それでも良い、教えてくれ。」
「あそこに分厚い金属の扉があるでしょう。その奥よ。」
少女は奥にある金属のいかにも分厚そうな扉を指差した。
「分かった、ありがとう。しかし、やけに親切だな。」
「ええ、私はただの友人のわがままに付き合ってるだけよ。でもその先は気を付けなさい。私には入る勇気も無いわ。」
(どんな所にも話の通じる奴は居るものだな。しかし、後悔するとはどういう意味なんだ?)
そして、アダムは扉を開けた。
「いてて......何て奴だ。まるで私の弾幕が全く効いていないみたいだ......。」
魔理沙は目の前に居るコウモリらしき羽の生えた金髪の少女と戦っていた。
「わはは、すごいすごい魔理沙。中々壊れないね。」
「まるでこの霧雨魔理沙様をなめているみたいだな......。」
少女は余裕で面白がっているが、魔理沙は今にも負けそうだった。
「でももう飽きちゃったから壊す。禁忌「レーヴァテイン」!」
少女のスペルカードは大地を焼き払う神の炎の大剣を生み出した。
「バイバイ!」
それを魔理沙に振りかざす。
魔理沙は疲労で躱せないのか、そのまま目をつぶった。
魔理沙は死を覚悟した。
ガキーン!
強い衝撃音。
しかし、何時になっても魔理沙を襲う衝撃は来なかった。
耳を澄ますと、ギシギシという金属が擦れる様な音が聞こえて来た。
魔理沙はそっと目を開けると、そこには親しい少年が相手の剣よりも遥かに短いナイフで、その剣を受け止めていた。
金属音は勿論、大剣とナイフの鍔迫り合いによるものだった。
「......アダム!どうして来たんだよ!私たちで十分って言ったじゃないか。」
「魔理沙、少なくとも今さっきはそんな状況では無かったはずだ。僕も何も考えずに来た訳では無い。それより魔理沙、ここから離れた方が良い。」
「わ、分かった。」
魔理沙はすぐさまこの場から逃げる。
一方のアダムは流石に短いナイフで相手の剣を完全に受け取れる訳では無いため、少し押される。
「お兄さんだれ?私はフランドール・スカーレット。」
「アダム・アンダーソンだ。」
アダムはそう言うと鍔迫り合いからのミドルキックを見事に決めた。
フランはその為一瞬脱力し、その隙にアダムが追い打ちを掛けた。
ジャブ10回、アッパー、回し蹴り、肘打ち、裏拳、手刀。
フランは吹き飛ばされ、壁に激突した。
しかし、何事も無かったかの様に体勢を立て直し
「すごいねアダム。私しばらくアダムと遊ぶ!禁忌「クランベリートラップ」!」
四方八方から弾幕がアダムを襲う。
フランのスペルカードはアダムが予想していた以上に派手で強力な物だった。
「かなりの数だな。本気でやるか。」
アダムは左手で腰のホルスターから銃を取り、右手のナイフと共に構える。
左手の銃で射撃、右手のナイフで弾幕を弾く、という確実さを重視した戦法だ。
ナイフはアダム自身のエネルギーによって細かい振動を行ったり耐久力を上げる。銃もアダム自身のエネルギーを利用してビームを発射する、という物で、通常のナイフやマガジンが必要な銃よりも威力が明らかに高い。
一方、フランの戦法は、無茶苦茶だった。
避けられるはずの攻撃を避けず、自身の耐久力任せで、とにかく大量の弾幕を撃っていた。
勿論、アダムもそこに気付かない訳では無かった。
(威力と耐久力は大したものだ。だが、スピードはそうでも無く、動きは単調で隙が大きい。力任せといったとこか。)
「どんどん行くよ!「禁忌 フォーオブアカインド」!」
少しの間、フランがぼやけて見えたと思うと、フランの姿が4体にもなった。
「分身か?いや、全部本物か?」
2体のフランが正面からアダムを襲う。
アダムは攻撃の暇が無く、攻撃をひたすら避けるのみであった。
しかし、左前方から一発、右前方から一発喰らい、怯む。
さらに後ろから二体のフランがアダムの背中へと蹴りを二発喰らわした。
アダムは吹き飛ばされ、壁へ叩きつけられた。
4体のフランは、さらに追い打ちとして大量の弾幕を放った。
「不味い!」
アダムはギリギリ躱し、銃で応戦するも、あまり効かなかった。
そして、ついに弾幕に当たってしまう。
そこへ追い打ちとして一体のフランがストレートでアダムを吹き飛ばした。
アダムが吹き飛んだ先では別のフランが待ち構えており、アッパーを喰らわした。
アダムは天井にぶつかり、そして地面に倒れた。
(これでは勝てない......いや、待てよ......可能性は薄いが、あれしか方法が無いな。)
アダムはそんな事を考えながら、起き上がった。
咲夜の能力の自己解釈は一応活動報告に分かりやすい解説書いています