東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中)   作:タツマゲドン

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27 切り札

 ドゴーン!

 

 リョウのストレートがバエルの顔面に、バエルのストレートがリョウの顔面に、これらが同時にヒットした音だった。

 

 互いに吹き飛ばされ、互いとも受け身を取って着地する。

 

「中々やるな。さすが”あの”バエルと言った所か。だが、何か隠し玉を持っているだろ?」

 

「それはこっちも驚いているぜ。”あの”リョウがこれ程強いとは予想以上だ。そして、お前も何か隠しているな?」

 

「まあその通りだ。折角だからお互い隠している物で決着を付けよう。」

 

「隠しているのは同じか。まあトランプやUNOであれ、何でも駆け引きは切り札を最後まで持っている方が勝つからな。」

 

 3m離れた地点で互いに黙り込む。

 

 そして、どちらも武器を仕舞う。

 

 暫く沈黙が流れる。

 

 次の瞬間、二人が同時に跳び上がった。

 

 二人とも右手を手刀の形にしている。

 

 互いの距離が最も近づいた所でどちらも手刀を横に振る。

 

 リョウの手刀がバエルの左胸を、バエルの手刀がリョウの首をなぞった。

 

 リョウの首とバエルの左胸どちらにも僅かな火傷痕が出来た。

 

 すぐさま、どちらも距離を取る。

 

「「プラズママン」、噂には聞いていたが、俺と同じ物体振動増幅系統なのか。」

 

「そう言うお前は「灼熱」だろ。”持ち物”は同じ、なら後は実力勝負か。」

 

 リョウはバエルへ右手を広げて向け、バエルもまた右手を広げてリョウへ向けた。

 

 バエルの掌からリョウへ向かってエネルギーの塊が放出された。

 

 熱量は500gのTNT火薬に匹敵する。

 

 これは50kgの水(温度は0℃と仮定)を水蒸気にするエネルギーである。

 

 しかし、リョウはまだ何もしない。

 

(何故撃たない?)

 

 エネルギー弾はリョウの右掌に命中した。

 

 普通の人間なら即死、”リョウ達の様な人間”でもかなりのダメージは負う。

 

 しかし、エネルギー弾が衝突する時に起こる熱膨張による爆風が発生しない。

 

 その事にバエルは驚いていた。

 

「......「フロスト」?!」

 

 バエルのその言葉は半分の驚きと半分の恐怖で構成されていた。

 

「まさかお前がその名前を言うとは......。」

 

「......参った、こうなりゃ俺に勝ち目は無い......殺せ。」

 

 今まで突き出していた掌に力を込めた。

 

 熱量はTNT火薬5kg分を誇るエネルギー弾がリョウの掌から発射された。

 

 エネルギー弾はバエルの胸に衝突した。

 

 10000℃を超えるプラズマの温度により、直撃した胸の部分は一瞬で気化した。

 

 熱は瞬く間にバエルの肉体に広がり、バエルの肉体は爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バエルの信号が切れました。」

 

「何ぃ?!”あの”バエルが破壊されたとは......残りの3体は大丈夫か?」

 

「異常は無い様ですが、詳細が分からないので......。」

 

(やはり何かを感じる。科学的では無い"何か"を。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......バエルがやられた。」

 

「何だと?!それは本当か?!ロブ。」

 

「今よ。結界「光と闇の網目」!」

 

「神霊「夢想封印・瞬」!」

 

「国体「三種の神器 郷」!」

 

「不死「徐福時空」!」

 

 霊夢達が一斉にスペルカードを唱える。

 

「ハモンド、今はこっちに集中しろ。」

 

 ハモンドは右手に剣を握ったまま左手に握る銃を仕舞い、今度は左手にサブマシンガン型の銃を手にした。

 

 ロブはライフルを仕舞い、両手に重機関銃型の銃を持つ。

 

 二人とも迫り来る弾幕をそれらで撃ち落していく。

 

「ところで、マルクの様子はどうだ?アイツが暴走しているか心配だ。」

 

 迫り来る弾幕を避けながらハモンドが言う。

 

「......辛うじて暴走の一歩手前で止まっている、って所かな。まあアイツと「アンダーソンシリーズ」の実力からして余裕が見られるし、暴走する前に片付くだろう。最も、死体が出るかも知れんがな。」

 

「死体処理か......ソイツは埋めれば良いが、薬の効果は24時間分だ。奴らは奴の存在が消えた事に大騒ぎするだろうな。まあ俺達の存在は”存在しない”事になるから大丈夫だろうがよ。それにはコイツらを「ピカッ」とさせなきゃな。」

 

「言っとくが、「ピカッ」とするってそれ「メンインブラック」じゃないか、ハハッ。ちょっと笑ってしまったぞ。」

 

「アレは神映画だからな。今度観ようぜ。」

 

「いや、「ウィル・スミス」なら「アイ,ロボット」か「アイアムレジェンド」の方が良い。」

 

「え~?あれ真面目でそんなに面白くないだろ。やっぱり「バッドボーイズ」に......」

 

 霊夢はその会話の最初の部分の言葉をしっかりと聞いていた。

 

(......死体が出るって、アダムが殺される?!)

 

 霊夢は目を瞑って心を静かにし、

 

(......場所は......あっちね。)

 

 脳裏に流れる霊力の流れからアダムの居場所を突き止めた。

 

 霊夢はそのままアダムの方向へ飛んで行った。

 

(待っててアダム!今助けるわ!)

 

「ちょっと、霊夢!......言う事も聞かないで行ってしまったわね......。」

 

「今まで如何にかこちらが押していたというのに......おかげで劣勢になったな。」

 

 慧音がぼやく。

 

「慧音、これからどうする?」

 

「とりあえず今の状況じゃ勝てないし......霊夢が戻って来るかリョウが来るまでに目の前の奴らを如何にかしなくてはな。」

 

「私に至っては使えるスペルカードが残り3割も無いわ......。」

 

「それは良い知らせだな......。」

 

 妹紅が皮肉を込めた口調で言った

 

「しかも奴らはまだ何か余裕を秘めているかの様だな。」

 

 ちなみに、紫は先程のハモンド達の会話を聞いて疑問に思っている事があった。

 

(あのマルクという少年は暴走寸前、嫌な予感がするわね。他にも奴らの存在は”存在しない”事になる?色々気に掛かるわね。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竹林のとある場所で二人の少年が戦ってる最中だった。

 

「......ハア、ハア......。」

 

「......ハア、ハア......。」

 

 どちらも息を切らしていたが。

 

「......ペッ!......。」

 

 片方は血の混じった反吐を吐く程に余裕が無く。

 

「......フッ、フハハハハハ!」

 

 片方は笑う程の自信と余裕があった。

 

「やはり俺の方が優れている。そうだろう。」

 

「......まだだ。」

 

「負けを認めろ!」

 

 マルクがまだ息を切らしているアダムへと飛び掛かった。

 

 マルクからの攻撃を避けていくが、反撃の余裕が無い。

 

 駆け込みナックルを体ごと横に避け、続けて出される裏拳を受け止める。

 

 次々と繰り出される、肘打ち、ミドルキック、ストレート、連続パンチ10発、を躱していく。

 

 フックをしゃがんで避け、ローキックを跳び上がって避ける。

 

 跳び上がったアダムを追い掛ける様にマルクも跳び上がり更なる攻撃を加える。

 

 マルクの空中連続蹴りを受け止めていく。

 

 マルクの足を掴み、自分側に引き寄せる。

 

 引き寄せると同時に裏拳をヒットさせる。

 

 掴んだままの足を握り締め、落下し、地面に着く瞬間に勢い良く叩きつける。

 

 マルクから距離を取り、マルクが起き上がる。

 

「......チッ、しぶとい野郎だ。」

 

 次の瞬間、マルクが地面を駆けた。

 

 次々と繰り出される連続攻撃を避けていくが、さっきよりも速く、余裕が無い。

 

 パンチをガード出来ずに自分の腹にボディブローを受けた。

 

 アダムが怯んだ隙に足を掴み、自分側へ引っ張り、バランスを崩す。

 

 地面に倒れたアダムへ怒涛のラッシュを喰らわす。

 

 1秒間に何十発も繰り出されるパンチがアダムを吹き飛ばす衝撃でアダムの倒れている地面の箇所にクレーターを作る。

 

「......ぐはっ!」

 

「......まだ生きているか。」

 

 次の瞬間、アダムが起き上がると同時に放った回転蹴りがマルクの脛に決まり、マルクを地面に倒す。

 

 そのまま踵落とし、ナックルを決める。

 

 しかし、更に繰り出す肘打ちを決める前に、マルクが後方へバク転して避けると同時にアダムの顔面に両足蹴りを決めた。

 

 アダムが後方へと吹き飛ばされ、背後に回ったマルクがそれを受け止める。

 

 マルクのアッパーカットが決まり、アダムを上空へ吹き飛ばす。

 

 追い打ちを掛けるべくアダムを追い掛ける様に跳び上がり、アダムへとオーバーヘッドキックを繰り出し、アダムを地面に叩き落とした。

 

 落下中に両手を組んで頭の上に振りかざし、着地と同時に組んだ両手を振り下ろす。

 

 ボキッ!

 

「うおあああああ!!!!!」

 

 降下両手ナックルはアダムの右足に決まり、右腿の骨を折った。

 

「後は、殺すだけだか。もう少し楽しませてくれるかと思ったが、とうとう終わりの時が来た様だな。だっ!」

 

 ボキッ!

 

「ぐ、ぐあああああ!!!!!」

 

 マルクの蹴りがアダムの左足の骨を折った。

 

「おりゃ!」

 

 ボキッ!

 

「ぐあああああ!!!!!」

 

 マルクの肘打ちがアダムの左腕の骨を折った。

 

「次は右腕を折り、その次は心臓と脳を除く器官を潰し、それから心臓を突き破り、最後に頭を潰して殺すとしよう。最高の殺し方だと思わないか、なあアダム。」

 

 不意にマルクの足を何かが掴んだ。

 

 アダムの右手がマルクの足を掴んでおり、アダムが腕を引き、マルクを地面に崩し倒した。

 

「クソッ!このっ!」

 

 マルクはすぐ起き上がり、力を込めた握り拳を頭上に振りかざした。

 

「アダムっ!」

 

 後方から少女の声がした。

 

 二人がその方向を振り向く。

 

 アダムは自分の最も信頼できる人物の姿を確認した。

 

 マルクは少女が自分へ向けて弾幕を放っていたのを確認した。

 

 マルクが体を捻りながら避け、後方へと下がっていく。

 

「アダム!大丈夫?!」

 

「......霊夢......逃げろ......!」

 

 アダムが強く、しかし弱々しい声で警告する。

 

「クソッ、この”低知能”で”低性能”の人間めが邪魔しやがって......お前も死にやがれ!」

 

「アダム、あなたを見捨てるなんてとても出来ない。絶対にあなたを助けるわ。」

 

 霊夢は何か決心した様な顔でマルクの方を睨んだ。

 

 それに対し、マルクの方は余裕に満ちた笑みを浮かべた顔で、

 

「どうした?”文化だけが取り柄”の”低知能”で”低性能”なお前が俺と戦うつもりか?それは無理だ。試してみるか?」

 

 と、嘲笑う様に言った。

 

「......「夢想天生」......!」

 

 霊夢が静かに、そして怒りが籠った口調で、自分の切り札を発動した。

 


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