東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中) 作:タツマゲドン
同じく竹林で異変解決に来ていた者はあと1組いた。
「そういえば藍、最近人間達に怪しい動きは無い?」
「......一人だけ怪しい者が、柏リョウという外来人が居るのですが......。」
「続けて。」
「それが、怪しいには怪しいのですが......その行動が、何か変な服を作っている事、外界にある映画や音楽といった事、それ以外にはこれと言った事が無いのです......。」
「そう......それと萃香から聞いたのだけど、高橋オーク、という名前の人間はいるかしら?」
「高橋オーク、そんな者は確か居ませんでした......ところで紫様、何か不穏な気配を感じませんか?」
「私にも感じるわ。藍、もっと急ぐわよ。」
二人の直感は正しかったが、今や紫達は異変解決を優先すべくしている為、不穏な気配がこちらを見ている事など気付いていない。
「100m先か......全然いけるな。」
男は銃を構え、100m先に居る二人の内、藍の体の中心部を狙った。
銃は口径がバズーカ砲程の大きさのあるショットガン型の物だった。
引き金に指を掛け、引こうとする。
「むっ?」
引き金を引く動作を中断し、体を後ろに向ける。
見ると、体格が自分と同じ位の男が立っていた。
茶色い長髪と手入れされた顎鬚が特徴的だった。
「5m内に居るというのに俺に気配を感じさせないとはやるな。誰だ。」
「それを言うならこのマントを付けているのに俺に気付いたお前も中々やるじゃないか。人に名前を訊くときは自分から、って習っただろ。」
「良いだろう。バエル・ソロだ。お前は?」
「俺かい?柏リョウだ。しかし、”あの”バエルか......。」
「まさかお前が”あの”リョウか......こんな所で会えるとはな。」
二人とも武器を仕舞い、互いに格闘の構えを取った。
ある場所では互いの武器を打ち鳴らす金属音が鳴り響いていた。
少女が手にする槍から刺突が繰り出され、男が手にする片手剣がそれを受け止めていく。
しかし、その逆は無かった。
「遅い攻撃で詰まんねぇな。もうチョイ楽しませてくれよ。」
「な、何を!」
一瞬は頭に血が上ったレミリアだが、アダムと戦った時の敗因を思い出す。
それは自分の逆上のし易さだった。
如何にか怒りを抑えて冷静になったレミリアだが、
「とおっ!」
「?!」
男の下段蹴りがヒットし、バランスを崩して倒れる。
「足元がお留守になっていたぜ。」
それでも相手の動きについて行けない。
「やあ!」
倒れた状態で突きを繰り出すが、男の体は宙に舞い、当たる事は無かった。
高度をつけた男から降下踵落としが繰り出される。
地面を転がって如何にか避け、男へ突きを繰り出していく。
しかし、突きは躱されるだけでダメージは与えられない。
今度は男が斬撃を繰り出していき、攻守が逆転した。
レミリアは次々と繰り出される攻撃を冷静に捉えられたが、全てを避ける事が出来る訳では無かった。
右頬、左小手、右腿、左脛、右脇腹と次々に斬り傷が出来ていく。
大した痛みは無いが、レミリアは一旦体勢を立て直すべく、男から距離を取り、スペルカードを取り出す。
それと同時に男が剣を両手に持ち、地面を叩いた。
「「スカーレットディステ......」
スペルカードを唱え終える直前、地面から激しい揺れを感じ、スペルカードは不発に終わる。
男が地面を叩いた時の衝撃波など本来はレミリアを一時行動不能にする程度の威力は無い。
だが、衝撃波は剣の機能によってレミリアへと一直線に向かったのだった。
地面の揺れによってバランスを失ったレミリアは男が自分の方へ距離を詰め、自分の首の後ろを殴られたのを確認すると気を失った。
「能力はあるが活かしきれていないなぁ......もっと強い奴と戦いたい所だ。」
男は気絶したレミリアに注射銃を刺し、引き金を引いた。
もう一人、気絶した咲夜にもそれをするのを怠らなかった。
別な場所では男目掛けて特大のレーザー弾幕が放たれている最中だった。
「随分と凄い威力だ。しかも1000m離れているというのにかなり正確に当てて来るとは。」
賞賛と同時にレーザーを避ける。
「それじゃあ、弾速を音速の10倍にでもするか。」
ライフルの機関部についているツマミを動かし、調整する。
一方で魔理沙は箒に跨り、自分が弾幕を撃った方向へ、つまり自分を狙った者が居る方向へと向かって行く。
「気付かれたが、どうでも良い。」
男と魔理沙の距離は200mを切っていた。
男はライフルの”スコープを見ず”に引き金を引いた。
音速の10倍を誇る弾丸は魔理沙の顔面に当たったが、大したダメージでは無い。
それでも箒に乗った魔理沙を一時無力化する事は可能だった。
男がバランスを失った魔理沙に向けて自身のエネルギーを1秒間溜めた音速の5倍を誇る弾丸を発射した。
弾丸は魔理沙の腹に炸裂し、魔理沙を気絶させた。
男は無言で魔理沙に注射銃を刺し、引き金を引く。
これを1000m離れた気絶しているアリスにもわざわざ近づいて注射した。
アダム達の目の前には異変を引き起こした張本人二人がいた。
一人は銀髪の長い三つ編みで、赤と青の服を着た女性。
もう一人は長い黒髪で、桃色を基調とした服を着た少女。
女性の方は八意永琳、少女の方は蓬莱山輝夜、という名前だ。
「異変を元に戻せ。さもなくば後悔する事になる。」
「こちらも自らを守るためにしている事なのよ。」
アダムが素早い動作で銃を取り出し、引き金を引く。
永琳が同じく素早い動作で弓と矢を持ち、矢を放つ。
銃弾と矢がぶつかり合い、相殺された。
それをきっかけに霊夢と輝夜も弾幕を放ち始めた。
永琳は武器を弓矢から弾幕に変更し、アダムは銃に加えてもう片方の手にナイフを握った。
アダムが前進し、銃弾を撃ちながらナイフで相手の弾幕をかき消す。
永琳が後退し、弾幕を放ちながら相手の銃弾を避けていく。
アダムの銃弾は量こそ永琳の弾幕に劣るものの、弾速に関しては遥かに上回っている。
永琳の弾幕は弾速こそアダムの銃弾に劣るものの、量に関しては遥かに上回っている。
“遠距離攻撃のみ”の長所短所を総合すれば互いに優劣は無い。
だが、永琳にとって音速の5倍程もある銃弾を躱す事は困難だ。
更に盾の役目をする道具等が無い。
一方でアダムには音速の5倍を誇る銃弾が見え、躱せられる程の回避反射を備えている。
それ以前に、永琳の放つ弾幕は音速にすら達していない。
更に盾の役目をするナイフがある。
体全体を動かすのと腕だけを動かすのとでは後者の方が明らかに消費エネルギーが少ない。
つまり永琳が負けるのも時間の問題だ。
「......長期戦であれば諸に差が出てしまう。一気に勝負を......天呪「アポロ13」!」
短期戦に持ち込もうとする永琳だったが、その判断は一般論では正しいが、
アダムが地面を蹴り、弾幕が飛び交う中をくぐり抜け、接近していく。
短期戦は永琳以上にアダムが得意である。
体を捻って弾幕を躱し、ナイフと銃弾で弾幕をかき消していく。
永琳は後ろへと下がって行くが、音速に匹敵する速度で来るアダムを振り切る事は出来ない。
「禁薬「蓬莱の薬」!」
大量の弾幕が辺りを埋め尽くすかの様にアダムを襲う。
アダムは迷い無くナイフを腰に取り付けたロープに繋げ、ロープを1m程伸ばす。
ロープを回転させ、迫り来る弾幕をかき消していきながら、銃弾を放っていく。
(一発一発の弾では無くレーザーならばロープに阻まれない筈。)「「天網蜘網捕蝶の法」!」
永琳の考えは”1対1”の戦闘であれば正しかった。
するとアダムはナイフ、ロープ、銃を仕舞うという奇妙な行動を取っていた。
だが、この戦いは1対1では無く、”2対2”だ。
アダムは武器を全て仕舞い終えると地面を蹴って右方向へと駆けて行った。
その方向には、
「はっ!輝夜、後ろ!」
自分の守るべき子がいた。
輝夜は霊夢と戦闘中でアダム達の戦闘には目を遣れない程苦戦していた。
永琳が咄嗟に声を掛けたのだが、アダムは音速を超える速度で輝夜へ駆けていた。
つまり、もしもアダムが永久機関を搭載していれば音はアダムを抜かす事が出来ない。
物理法則の通り、輝夜に永琳の警告の声が聞こえたのは、アダムに腕を掴まれてからだった。
掴んだ輝夜を地面に投げ倒し、腹に肘打ちを決める。
再び輝夜を掴み、背中から抱え、上空へと跳び上がった。
最高到達高度に達すると、輝夜を抱えたまま落下していく。
輝夜は頭から地面に激突し、アダム自身は上手く着地してダメージを無くし、地球投げが成功した。
輝夜は呆気無く気絶した。
「輝夜!貴方随分汚い手を使うわね!」
しかし、永琳のアダムに対する怒りは、
「戦法に綺麗汚いは無い。勝つか負けるか、それだけだ。」
呆気無く無視された。
「でも、アダム......。」
霊夢が言い過ぎだ、と言わんばかりに止めようとするが、
「戦闘は勝たなければ意味が無い。負ければ全てを失う。」
「......。」
あっさりと言葉を失う。
丁度そこへ、
「やっと来たわ。どうやらあと一息といった所みたいね。」
「どうやらあの二人だけでも十分だったみたいですがね。」
紫と藍が到着した。
「ところで霊夢、他に異変解決に来ている筈の幽々子達や紅魔館の吸血鬼、貴方と親しい魔法使い達を見なかったかしら?」
「え?ここに来たのは私達だけよ。」
「え?それじゃあ......。」
「此処に来る間に異変解決を邪魔する者達は全て倒しておいた筈だ。とすると......。」
その場に居た5人(永琳を含む)は言葉を失った。
突然、アダムが銃を取り出しながら後ろを振り向き、銃を向ける。
目の前には同じく自分に銃を向ける少年の姿があった。
身長170cm程、赤がかった長めの黒髪、深い赤色の目。
服は胸に「EMO」の刺繍のある迷彩柄の軍服だった。
手には自分の物と同じハンドガンが握られている。
「......。」
「......。」
「お前はアダム・アンダーソンか?」
「そうだ。お前は誰だ?」
「マルク・ディックだ。お前は俺を知っているか?」
「知らない。お前は僕を知っているのか?」
「知っている。」
アダムは言葉を失った。
「お前は俺達の仲間だった。だが、不思議な感じだ。」
「何が不思議だ?」
「俺はお前に直接会った事は無いが、何故かは分からないが......」
マルクの銃を握る手に力が籠ったのをアダムは見落とさなかった。