東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中) 作:タツマゲドン
「お前がこの異変を起こした者か。」
「その通り。だけど邪魔させる訳には行かないわ。この白玉楼の主である西行寺幽々子の名に掛けてね。」
アダムの前方20m先には桃色のショートヘアの水色を基調とした着物を着た女性だった。
幽々子と言う女性の後方には巨大な桜がそびえ立っていた。
戦闘はアダムの銃撃から始まった。
幽々子は上空へと飛び上がり、弾丸を避けながらアダムから距離を取っていく。
アダムも幽々子との距離を詰めようとするが、空を飛べず、距離が縮まらない。
箒で飛ぶ、という手があるが、それを妖夢の戦闘の時に落とし、拾うのを忘れてしまった。
戦闘中に拾いに行くという事になればそれは大きな隙へと繋がるだろう。
だから、拾おうという考えはアダムの脳内には無かった。
アダムは休む間も無く銃を撃ち続けるが、上空へと離れた幽々子にとっては体感速度が遅くなるため、幽々子は焦る事も無く音速の5倍の弾丸を次々と躱す。
「桜符「完全なる墨染の桜」!」
その弾幕にはアダムも驚きであった。
何といっても弾幕は速度こそ無いものの、その分数量が多すぎる。
1秒で何百と放出される幽々子の弾幕に対し、アダムの1秒当たり発射数は50発。
そして、何百という弾幕がアダムに少しずつ近づいて来た所で、アダムはナイフを持ち、それによって弾幕を弾く。
正面だけでなく、横から、上から、後ろからと。
余談だが、もしアダムが箒を利用した空中戦を用いたのであれば、箒の制御は空中なので効きにくく、しかも自分の下からも弾幕が飛んで来るため、彼はたちまち弾幕の嵐にやられていただろう。
これもアダムがあえて箒を取らなかった理由の一つなのだが。
アダムは対一戦闘こそ得意であるが、対多数戦闘には向いていなく、こういった多数・多方向の攻撃が飛び交う戦闘には向いていない。
(危険は伴うが、アレをやってみるか。)
アダムはナイフで捌き切れなかった弾幕を、ナイフを持っていない右腕で、そして両足で弾き始めた。
これは弾幕ごっこをする者達にとっては異様な事なのだが、アダムにとって、これは相手のパンチやキックを同じく自分の腕や足でガードするようなものである。
そして、幽々子は少年がどうにか自分の弾幕を全て躱しきったのを見ると、次なる弾幕を放った。
「死ぬがいいわ。「反魂蝶 ‐八分咲‐」!」
蝶の形をした何百もの弾幕がアダムを上下左右前後から襲う。
アダムはこれもナイフのみで弾くのは無理と思い、左腕、両足を使い、弾幕を弾こうとしたのだが、それが間違いだった。
蝶が少年の腕にぶつかり、儚く散った。
それが幽々子の狙いだった。
(......?!意識が......。)
だが、
【脳に異常信号到達と同時に身体に異常信号送信を確認 脳に外部からの干渉を確認 脳への異常信号を消去し、身体への異常信号を消去 脳への外部からの干渉を消去】
「......何だ?!」
アダムは目の前に地面が迫っていた。
巧みに転がる事によって衝撃吸収と弾幕の回避を同時に行う。
左手に銃を持ち、それで次々と迫る蝶を撃ち落していく。
一方の幽々子は動揺していた。
「......そんな......あの技は少しでも触れれば即死の筈よ!何故......?」
この場に解説を書いておくが、それは幽々子が何故アダムが生きているのか理解しておらず、アダムも一瞬の間意識を失っていたため自分に何が起きたのか分からないからだ。
反魂蝶は触れた者の魂を奪うが、それは何故か。
答えは、触れた者の脳へ「自分が死んだ」という情報を与える事により、催眠術と同じように脳に死を錯覚させるからだ。
アダムは脳への外部からの干渉を受け付けない様に”出来ている”。
このため、「弾幕の美しさ」という精神攻撃もアダムには効かない。
だが、それには一瞬だが処理のかかる作業であり、一瞬だけ気を失っていたのはその為だ。
しかし、反魂蝶にはアダムにとっては数量という驚異が残っていた。
(こんな量をまともに浴びればどうなる事か......。)
体を捻りながらナイフと銃を上手く利用し、弾幕を減らしていくが、まだ大分の蝶が残っている。
だが、そんな蝶の大群とは別に、蝶の大群を生み出した張本人が未だに自分の能力が効かなかった事に動揺しているのを少年の目は捉えていた。
両足で地面を思い切り蹴り、幽々子の方へ跳んで行く。
銃を連射し、ナイフを持つ右手に力を込める。
銃弾が2、3発当たった事で、幽々子は自分の元へ少年が自分へ攻撃を掛けていた事にようやく気が付いた。
慌てて回避行動を取るが、放たれた銃弾の内7割近くが幽々子にヒットしている。
それによって怯んだ幽々子へ、アダムのナイフが幽々子の腹を浅く裂く。
幽々子は幽霊である為、出血は無く、切断されて死ぬことは無いが、痛みを感じない訳では無い。
さらにアダムの銃撃は幽々子に対して精神的な苦痛をもたらしていた。
苦痛に耐え切れなかった幽々子は体勢を崩し、地面へ足を付ける。
着地したアダムは、追い打ちを掛けるべく幽々子へと駆け込んだ。
幽々子はどうにか飛び上がり、辛うじてアダムの一撃を避ける事は出来た。
アダムは銃を幽々子に向け、引き金を引く。
一方、幻想郷の地上では、
「それは本当か?!」
『本当だ!』
リョウがモニターを通したロウを相手に喋っていた。
「冗談じゃないぜ。異変の場所すら分からないってのに......「管理軍」が送り込んだ場所は分かるか?」
『以前話しただろうが、場所を突き止める程の「インフォーミオン」操作技術は無いんだ。そして、エネルギー不足で人員を送る事も出来ないんだ......すまないな、本当に。』
「色々大変だなぁ......実はもう一つ異変が起きているんだ。」
『それは本当か?!』
「本当だ!と言っても異変かどうかも疑わしいが......実はここ数日、異変の捜査中に…何というか......黒い砂?違うな......もや、って言えばいいのか......とにかくその黒い粒子的な物を幻想郷のあちこちで見掛けるんだ。」
『成程。話を続けてくれ。』
「そして、その粒子もどきが「エネリオン」を発しているんだ。ところが変な事に、幻想郷や住人、妖怪にそれといった変化が見られないんだ。」
『という事はその余剰「エネリオン」が結界をこれ以上悪化させる、という事か?』
「という事だ。だけど、先に「管理軍」の奴を片付けるか、黒い粒子もどきをどうにかするか、どちらをすれば良いのか......。」
『そういった事はお前の判断に任せる、ってドニーさんも言っていただろう。お前が決めて良いんだ。』
「分かった。それじゃあ通信終了だ。」
モニターを切った。
壁に掛けてあるマシンガンを取り、背中に担ぐ。
能力の自己解釈について分からない人は「かがくのちからってすげー」と思えば結構です...