東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中) 作:タツマゲドン
今回はそれ程でもないが。
10 冬が来た
赤霧異変が終わって4か月後の12月のある日。
現在の場所は魔法の森の何処か。
地面には少なくとも5cm雪が積もっており、木々の枝にも雪が積もっている。
目標までの距離、10m。
目標は今の所こちらに気付いていない。
目標との距離を少しずつ詰める。
相手がこちらを振り向いた。
瞬間、物陰に隠れる。
何とかこちらの存在に気付かれなかった。
目標との距離、5m。
目標へと一気に駆け寄る。
相手がこちらの存在に気付き振り向いたのと、自分のナイフが目標の胸の左側を突き刺したのは、ほぼ同時だった。
相手は抵抗しようと残った力で必死にもがくが、蹴り飛ばす事すら出来ない力で自分を突き放す事は無く、二度と動く事は無かった。
「これは高値で売れるな。」
アダムの目の前には自分のナイフによって力尽きた牡鹿が横たわっていた。
「鹿は僕の居た世界であれば高級食材だし、角は薬に使うと聞いた。霊夢も喜ぶだろうな。」
アダムは推定体重80kgはある鹿をソリに乗せた。
ソリには既に猪と熊が一頭ずつ乗っていた。
これらも鹿同様に少年のナイフによって一瞬で命を落とされた物だ。
アダムは合計重量410kgの(鹿が80kg、猪が80kg、熊が250kg)荷物を載せたソリを重そうに感じる事無く難無く引いて行った。
鹿、猪、熊の肉はいずれも外の世界では1kg当たり30ドルで取引されている。
幻想郷の賃金や物価は外の世界の約4000分の1。
外の世界では地球歴開始のすぐにデノミネーションがあった為、その結果として地球歴0017年の物価は西暦21世紀初期と同等になっている。
つまり西暦21世紀は1ドル約100円なので、幻想郷は1ドル約400000円。
動物の体重の内、40%は内臓と骨である。
よって、取引出来る肉の量は、鹿48kg、猪48kg、熊150kgの合計246kg。
これらの値段は7380ドル。円に換算すれば738000円、幻想郷の物価であれば184.5円。
アダムの知っている情報からすればこの値段になる。
そして、これらはアダムの予想通りの値段で売れた。
さらに、これらの毛皮は防寒具に用いられるので毛皮もかなりの値段で売れた。
また、鹿の角は薬の原料となるので、角もそれ相応の値段で売れた。
「さて、霊夢に報告しようか。」
アダムは帰ろうと神社へ向けて歩いて行った。
途中で自分を呼ぶ声がした。
「アダム、うちに寄って行けよ。お前、その格好寒そうじゃないか。」
アダムは特に急いでいる事も無いので、リョウの言う通り店に入った。
アダムの今の服装といえば、上下共に黒の素材の分からない長袖インナーと上半身は長袖Tシャツとジャケット、下半身は長袖ジーンズ、と見た目は夏の服装と変わらない。
「別に寒くは無いが......そう見えるのか?」
「お前の服装はここ数か月見た所、一度も変わっていないよな......この前お前にヒートテック(実際は違う名称だが)そいつをやったが、見た目的には寒そうだぞ。」
「そうだな......ところで、奥にあるコートは何だ?」
アダムは店の奥の棚にある黒いロングコートを指差した。
「これか?これは非売品だが......あんまり着る機会無いし、折角だからタダでお前に譲ってやるよ。」
「ありがとう。あと、コートの横にあるシャツとズボンは......」
「ああ、それはコートとセットだ。下にもブーツとベルトがある。ちなみに全部黒だ。それも持って行け。折角だから今着て行けよ。」
アダムはリョウに言われるがまま、そのシャツとズボンを着、ベルトを付け、ブーツを履き、コートを羽織った。
「これは......体に上手い具合にフィットするし、伸縮性も優れている。気に入った。しかし、無料で良いなんて何か悪い気がするな。」
「気に入って嬉しいぜ。この服幻想郷の奴で買ってくれる奴なんて居ないからなあ......。」
「良い物をありがとう。」
アダムは店から出て行こうとした、がリョウによって呼び止められた。
「あっ少し待ってくれ。渡し忘れた物があるんだ。」
そう言ってリョウは店のカウンターの棚を探り、ある物を取った。
「これだ。カッコいいし、便利だし、何よりその服に似合うぞ。」
リョウの手からアダムへと黒いサングラスが渡された。
「それじゃあな。やっぱお前その格好似合うな。その格好、救世主みたいだぞ。」
リョウはわざと「救世主」のフレーズを強調した様な言い方だったが、アダムは気にしていない。
アダムはようやく店を出た。
「ただいま、霊夢。」
「お帰り、アダム......というかその格好一体何なのよ?黒メガネとか不気味なんだけど......。」
「リョウにタダで譲ってもらった。雪は光を反射するからサングラスは便利だぞ。それから、今日は良い獲物に出くわした。お蔭で70円程稼げた。」
「ほ、ホントに?!」
アダムは取引で得た札束を霊夢に渡した。
霊夢は信じられない物を見る様な目つきでそれを見ている。
「貴方は本当に凄いわね。凄い能力を持つし、頭は良いし、異変は解決するし、こんなに稼ぐし。」
「今日は偶然だ。午後からは修理業の手伝いの仕事が入っている。」
「それだけでも十分な金よ。こんなに金銭に余裕が出たの、生まれて初めてかも知れないわ。」
霊夢はアダムの稼いだ金を見ながら目を輝かせていた。
丁度、魔理沙が神社に到着した。
「よう、二人とも。金の話でもしてたか?......というかそのサングラス一体何なんだ?」
「それで魔理沙、この前言っていた僕に会わせたい人物とは誰なんだ?」
「今から行くから私の後ろに乗ってくれ。霊夢も行くか?」
「じゃあ行くわ。私もどうせ暇だし。」
魔理沙はアダムを箒に乗せ、三人はある方向へ向かって飛んで行った。
アダム達が着いたのは、「香霖堂」と呼ばれる外に何なのか分からない物が無造作に置かれている店だった。
「霖之助、入るぜ。」
魔理沙がドアを開け、霊夢とアダムも続く。
「いらっしゃい......君が噂の外来人かい?」
香霖堂の店主と思われる、銀髪で青、黒、白を基調とした服を着ている身長180cm程の眼鏡を掛けた男性がアダムに対して言う。
「そうだ。アダム・アンダーソンと言う。」
「僕は森近霖之助。この香霖堂の店主さ。ところで魔理沙、どうして彼を僕に会わせかったんだ?」
「アダムの持ち物で本人にはおろか、あたし達にも分からない物があるんだ。それでお前の能力の出番ってわけさ。」
アダムはリュックから自分が幻想入りして来た時の持ち物を全て出す。
「少し待っててくれ。」
霖之助はそう言うとアダムの持ち物を観察し始めた。
「霊夢、彼の能力とは一体何だ?」
「霖之助は「道具の名称と用途が解る程度の能力」という能力を持っているの。だから霖之助ならこれらの道具が分かるからアダムの記憶や過去の手掛かりになるかも、って訳。」
霖之助は観察を終えたらしく、説明し始めた。
「これは「シルバーファルコン」と言われる、「トランセンデンド・マン」という者専用の拳銃だ。」
「その「トランセンデンド・マン」とは何だ?」
「僕は道具の名前と使い方位しか分からないから言葉の意味は分からないが、恐らく君の事を指しているんじゃないか?君はこの銃を使えるんじゃないのかい。」
「確かに僕には使えた。他に分かる事は?」
「使用者の「エネリオン」、言葉の意味は分からないが、それを変換してビームにさせ、それを発射する、という仕組みだそうだ。丁度この「シルバーウルフ」と言われるナイフも同じ仕組みでナイフに超振動を起こし、切断力を上げる、という代物だ。」
「「エネリオン」......聞いた事はある気がする......。」
「それと、この端末は色々機能があって僕では全部説明が出来ないが、使い方は分かりやすく簡単だ。使う内に慣れて来るとは思うけどね。最後に、」
霖之助は誰もが何も分からなかった立方体を手に取って言い出した。
「これは......簡単に言えば容器だ。」
「と言っても何で出来ていて何が入っているんだ?」
「それが、この素材は特殊すぎて僕にも分からない。どうやらその素材が僕の能力を無効化しているらしい。だからこれが容器であるという事しか分からない。すまないな、力になれなくて。」
「いや、僕にとっては十分に参考になった。感謝する。」
すると、霖之助は少しの間黙り込み、やがて口を開いた。
「これなら幻想郷の管理人である八雲紫というスキマ妖怪なら分かるかも知れないが......霊夢、彼女の居場所は分からないか?」
「さあ......ここ数か月くらい外の世界に行ったきりで戻って来ていないらしいのよ。」
「その紫という者ならば分かるのか?」
アダムが疑問をぶつける。
その質問に答えたのは霊夢だった。
「たぶんね。千何百年と生きているらしいから紫に知らない物は無いと言っても過言ではないわ。」
「そうか。機会があれば聞いてみよう。」
そして、魔理沙が話題を切り替えた。
「それから、どうする?せっかく来たんだし、品物でも見て行こうぜ。」
アダムと霊夢もその言葉に従う事にした。
そして、アダムの目にある物が入って来た。
「霖之助、このケーブル、いや、ロープは何だ?見た所、普通のロープでは無さそうだ。」
アダムが手に取ったのは太鼓型リールの様な巻き器に巻かれた太さ0.5cmのロープだった。
「おや、丁度良い所に。これは君にしか使えない物だ。」
アダムは言葉の意味が分からず、首を傾げた。
「簡単に説明すれば、これは「スマートアナコンダ」と言って、君のナイフに繋いで使う物だ。ナイフを貸してくれないか?」
アダムはナイフを渡すと、霖之助は説明し始めた。
「ロープの先端はこのような端子になっていて、ナイフの底面のこの部分に差し込んで使うんだ。」
「成程、これで離れた相手への斬撃も可能だし、壁や柱に引っ掛ける事も出来るのか。」
「更に使用者の「エネリオン」をナイフに伝える作用もあるそうだ。これぐらい分かればもう言う事はないよ。ちなみに、それを使えるのは君だけだし、タダで良いよ。」
「ありがとう。しかし、良い物を貰った。」
突然だが、場所は冥界と呼ばれる所に移る。
「妖夢、この桜にはある物が封印されていると聞いた事があるでしょう。何があるのか知りたくないかしら?」
そう言われた妖夢という少女は質問に答えた。
「ええ、これだけ存在感が有りますから...何をおっしゃりたいのですか?幽々子様。」
先程妖夢へと質問をした幽々子という女性が答える。
「私もそう思うわ。なら手伝ってくれないかしら?この「西行妖」を咲かせる事に。」
「......分かりましたけど、私は何を?」
「貴方は、ここへ誰も来れない様に守りなさい。」
「......はい。」
妖夢は即答では無く、少し躊躇ってから言った。