東方不明録 ー「超越者」の幻想入りー / THE TRANSCENDEND MEN(現在更新休止中)   作:タツマゲドン

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はじめに

この作品のコンセプトは
・記憶を取り戻す
・幻想郷に対する脅威や侵略とそれに対する防衛
・幻想郷の世界観を科学的に考える
これら3つです

一応設定集がありますが、ネタバレになるので出来れば後から読む事をお勧めします

前半は正直駄文なので面白さ的には永夜抄から読み始める事をお勧めします

タグの「クロスオーバー」は東方よりも自分の設定が強く出ていると言っても良いです

最後に、この作品は長いです
最初から最後まで読む気が無ければ読む事をお勧めしません


Intro
0 幻想入り


 西暦1999年よりも昔

 ある科学者が超能力を研究し、その末研究が成功に終わることは無かった。

 

 西暦2000年

 世界が二度目のミレニアムを迎えると共にある組織が結成した。

 だがその存在を知る者は当事者達以外に居なかった。

 

 西暦2026年

 1つのベンチャー企業が世界初の有人火星探査に成功した。

 火星では驚くべき発見が多数なされたが、詳細は極秘扱いされた。

 

 西暦2045年

 世界でも有数の科学技術系企業「ペルセウス」社が世界において一際影響力を持つ様になった。

 また、暗黒物質・暗黒エネルギー研究の過程で、ある素粒子実験施設にて新素粒子「エネリオン」が発見された。

 

 西暦2050年

 地球上で天然に存在する新物質「ユニバーシウム」が発見され、地表には殆ど存在しない事やマントル・核部には「鉱脈」が存在するとまで判明した。

 

 西暦2060年

 当時のアメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市で特殊爆弾による大規模テロが発生した。

 何者の計画なのかは不明、当時の人口1200万人の内即死の死者が400万人以上で、残りは何かしらの軽重傷を負うか重傷によって死亡した。

 この頃、ある組織が手に入れた超能力研究の記録を元に超能力の存在を証明し、超能力者を開発する研究も進められた。

 いつからか超能力者達は「トランセンデンド・マン」と呼ばれ、次世代の兵器として期待が高められた。

 

 西暦2070年

 ある発展途上国間の争いが戦争に発展し、やがて世界中に広まった。

 その戦争は後に「第三次世界大戦」と呼ばれ、全ての国が戦争に巻き込まれた。

 新素粒子「エネリオン」の研究過程で、とある素粒子実験施設において新素粒子「インフォーミオン」が発見された。

 他にも、「エネリオン」、「インフォーミオン」、「ユニバーシウム」、「トランセンデンド・マン」それぞれが関係性を持っている事も発見された。

 

 西暦2085年

 「第三次世界大戦」は核兵器が使用される事は無かったが、15年間で地球人口は激減し90億人から30億人にまで下がった。

 

 西暦2100年

 「第三次世界大戦」によって全ての国家が崩壊した。

 この時点で人類の総人口は10億人。

 

 地球歴0001年(西暦2101年相当)

 西暦が廃止され「地球歴」なる新たな暦が使われた。

 ある組織によって管理社会化が飛躍的に進んだ。

 政策に反対する人民も居たが、組織効力と武力によって弾圧された。

 

 地球歴0010年

 ある人物がその組織に反対する者達をまとめる勢力を結成した。

 それから両組織間の戦争が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球歴0017年。

 

 ある施設にて二人の軍人が廊下を歩いていた。

 

 一方は40代半ばの中年だが、もう一方はまだ20歳にも達していない少年だった。

 

 二人とも暗い緑を基調とした軍服を着ており、左胸に「EMO」と書かれた刺繍が縫い付けられている。

 

「「スペースボム」と起爆の仕方は覚えただろうな。」

 

 と年配の方。

 

「はい。ディック中佐、質問が有りますが、「バーストポイント」はどうやって?」

 

 と少年の方。

 

 双方感情の籠っている様子を見せない抑揚の無い声だ。

 

 ただし年配の方は威厳を醸し出しているのに対し、少年の方は何の意思も無いただの最低限の喋りだ。

 

「私とした事が、言い忘れていたな。起爆装置同様、この端末に「バーストポイント」を示すマップを搭載している。ちなみに他にも色々機能はあるが、説明の必要は無いだろう。」

 

 ディック中佐と呼ばれた男性は思い出した様にそう言うとポケットから携帯端末らしき物を取り出し、もう一人の軍人に手渡した。

 

「はい。」

 

 二人は歩いていくと、やがて、広い部屋へと辿り着いた。

 

 部屋には中央に量子加速器か核反応炉の様な物がある。

 

「テレポートの際は乗り物酔いに似た症状が現れるそうだが、短時間で治る。そのような症状が出たらまずはコンディションを整えるまで行動を起こすな。」

 

「はい。」

 

 少年は最低限の返事をすると、量子加速器らしき物に乗り込んだ。

 

「よし、起動しろ。」

 

「はい、では「スペースマシン」起動......異常無しです。」

 

 技術者の一人が量子加速器の様な外見をしたスペースマシンと呼ばれる物を起動し、パネルを操作し徐々に出力を上げていく。

 

 スペースマシンは、始めはほんの少し程度の光を発していたが、徐々に光量は増していった。

 

 やがて照明器具の光など必要無い程輝いていた。

 

「「エネリオン」量、誤差範囲内。異常なし。テレポート実行します。」

 

 技術者は操作パネルにある【テレポート開始】のボタンを押した。

 

 白く激しい閃光が辺り一帯を襲う。

 

 閃光が止んだ瞬間、そこに少年の姿は無かった

 

「成功か?」

 

 ディック中佐が技術者に問う。

 

 技術者はモニターの数値やグラフを見ながら、

 

「観測データによれば今までで異常は有りません。「エネリオン」値も理論の誤差範囲内です。確実に成功でしょう。しかし、ついに始動しましたな、「ユニバーシウム・マイン計画」が。」

 

 と言った。

 

「ああ、これが成功すれば人類はエネルギーの不足を心配する必要は無いし、「反乱軍」を短期間で制圧出来るだろう。」

 

 嬉しがるその声にも抑揚は無かった。

 

 まるで視点を何か一点だけに見据えている様な......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、人類進化の段階で捨てられた物が最終的に行き着く場所「幻想郷」にて。

 

「今日も全然参拝客が来ないわねぇ......どうしてかしら。」

 

 そう愚痴をこぼしたのは、ここ博麗神社の巫女である博麗霊夢だ。

 

「何かの本で読んだことがあるんだが、商売というものは自分の利益ではなく、他方の利益を優先すべき、だそうだ。」

 

 今度は霊夢の親友である、魔法使いの霧雨魔理沙が言った。

 

 二人は博麗神社の縁側でお茶を飲みながら雑談をしている最中だった。

 

「その本、馬鹿じゃないの。何で態々敵を儲けさせるのよ。戦っている相手に自分の武器を渡すようなものじゃない。」

 

「ま、まあ、あくまでその本を書いた奴が言っているんだから、別に考え方なんて色々あるんじゃないか。」

 

「まあ、それもそうね......。」

 

「それと私が思うことなんだが、お前は客の事考えていないから儲からないんじゃないか?」

 

「人の事考えていないのはあんたも同じじゃない!」

 

 こんな具合に会話がなされていた。

 

 談笑する2人は未来の事など気にせず今を生きていた。

 

 突然、二人の正面から白い閃光が発生した。

 

「一体何?!」

 

「うわっ!眩しい!」

 

 少しして閃光は消えた。

 

 二人とも目を開け、閃光がした方向を見た。

 

 魔理沙がある事に気が付いた。

 

「......なあ、霊夢。あれ何だ?」

 

 魔理沙が指を指した先には一人の男が倒れていた。

 

 二人はその男に駆け寄って行った。

 

 男はまだ10代後半位で少年と呼ぶ方が正しいだろう。

 

身長は170cm弱位、髪は青がかったような長めの黒髪だった。

 

 服装は暗い緑を基調とした目立たなく動きやすさと丈夫さを重視したような服が、体全体を覆っていた。

 

 胸には「EMO」と書かれた刺繍があった。

 

「おいっ!大丈夫か?!」

 

 魔理沙が声を掛ける。

 

 しかし返事は無く、瞼が開く気配も無い。

 

「......息はあるわ。気絶しているだけみたい。魔理沙、彼を中まで運んで。私は布団を用意するから。」

 

 霊夢は注意して見ながらそう言うと布団を用意しに神社内へ戻った。

 

 魔理沙が少し離れた所にリュックを見つけた。

 

「......ん?このリュックもこいつのか?とりあえず持っていくか。さて、大変だな。」

 

 大き目のリュックには何が入っているのか、興味が沸いた。

 

 魔理沙はリュックを背負い、少年を箒に乗せ、運んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、幻想郷の何処かで。

 

『今情報が入った。「管理軍」の奴が来たらしいぞ。場所は分かるか?』

 

「ああ、こちらのレーダーにも結界を弄った形跡が映っている。調べて来よう。それでは通信を切る。」

 

『あまり目立無い様にな。こちらの存在がばれれば......。』

 

「ああ、アイツにも言われているよ。それに、幻想郷にも混乱を招くからな。全く、対処する立場の事も考えてくれや。」

 

 男は通信を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界が開いた。

 

 瞼に映る暗闇が消え、代わりに景色が目に流れ込んでくる。

 

 見慣れない和風の一室。

 

 自分は布団の中に。

 

 隣には見知らぬ少女の姿が......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、起きたみたいね。大丈夫らしくて良かったわ。」

 

 少年の隣に座る少女が言った。

 

 黒く長い髪を後ろで纏めた紅白の巫女服姿だった。

 

 少年は返事に対し何も喋らず首を傾げた。

 

「あなた名前は?」

 

 少年は少し考え込み、

 

「......分からない。僕は誰だ?」

 

 挙句そう返事したが、今度は少年が説明した。

 

 年の割には落ち着いた、抑揚の無い、何の感情も無い、声だった。

 

「もしかして何も覚えていないの?」

 

「......ああ、何も分からない......君は誰だ?」

 

「私は博麗霊夢。ここの博麗神社の巫女よ。」

 

「博麗神社?分からない......説明を頼む。」

 

 知らない単語を聞き質問する少年。

 

 少年は未知の世界に居る筈なのに冷静だった。

 

「あなたが今いるこの世界は「幻想郷」よ。分かるかしら?」

 

「全然だ。難しくても良いから説明を続けてくれ。」

 

「簡単に言えば妖怪なんかの外の世界での存在が無くなった者達が最終的に行き着く所よ。外の世界から結界で遮断されているから普通なら外の世界から何かが入ってくる事は無いんだけど、稀にあなたみたいに外の世界から人や物が入ってくる事があるのよね。」

 

「要するに簡単に言えば僕は特殊な世界へと迷い込んだ、という訳か...なら霊夢、どうして僕は此処にいるんだ?難しくても良いから説明してくれ。」

 

「少し言わせて、あなた凄いわね。こんな時なのに冷静に状況把握出来るなんて。普通なら混乱してしまうけど。それで詳しい事はまだ分からないけど、仮説としてはいくつかあるわ。」

 

「続けてくれ。」

 

「まずはあなたの存在があなたのいた世界から認められなくなった事。これは昔はよくあったけど、今はあまりないわ。恐らく外の世界の文化が無くなっているからかもね。」

 

 少年が頷くのを見て霊夢が話を続ける。

 

次にスキマ妖怪が外の世界から勝手に連れてくる事。これがよくあるパターンなのよね。でもそれにしてはあなたは私たちの目の前に突然現れたとき、それらしき痕跡がなかったのよ。」

 

 素振りから見てこれも少年には思い当たる節が無いらしい。

 

「最後に何らかの拍子で結界が一時的に破られ、その間に入ってくる事。これはあくまで可能性としてで、第一結界が外部の物を入れるほど不安定になったことも無いから実際には全くないのよね。この3つが挙げられるんだけど、あなた何か覚えていることはないかしら?どんな些細なことでもいいわ。」

 

 少年は考え、やがて口を開いた。 

 

「覚えている事...駄目だ、何も思い出せない......。」

 

 すると突然、障子扉が開き、別の少女が入ってきた。

 

「霊夢、これ近くに落ちていたリュックの中身なんだが......おっ、どうやら起きた様だな。」

 

 癖のある金髪と金目、黒いワンピースの上に白いエプロン。

 

「ええ、でも何も覚えていないみたいなのよ。」

 

「へぇ、それは大変だな。おっと、自己紹介が遅れたな。私は霧雨魔理沙。魔法の森に住んでいる普通の魔法使いだ。」

 

「そうか。よろしく、魔理沙。」

 

 礼儀正しく挨拶をする少年だが相変わらず声に感情は籠っていない。

 

「ああ、よろしくな。ところでこれお前と一緒に落ちていたリュックなんだが、お前のか?」

 

 少年はリュックを見つめ、観察すると、

 

「......これは......僕のだ。何故なのかは分からないが、そう思う。」

 

 確信しそう答えた。

 

「そうか、やっぱりお前のだったか。」

 

「ところで魔理沙、さっきの話の続きは?」

 

 霊夢が言った。

 

「おっと、話が逸れていたな。このリュックに入っていた物をいろんな奴らに見せてみたんだが、皆がほとんどの物は何で出来ていて、どんな用途に使うのか全く分からないんだ。」

 

「本当?他に誰かに見せてみたりした?それからその入っていた物って何?」

 

「霖之助は留守だったし、阿求や小鈴にも見せたんだが2人ともまるで全く分からなかった。里の皆にも見せたんだが、分かる奴は誰一人いなかったぜ。中身は、これだ。」

 

 魔理沙はリュックから色々な物を取り出した。

 

 入っていた物としては、携帯端末らしき物、銃らしき物、刃渡り20cm弱のナイフ、サングラス、電子部品、工具類、その他、そして一辺2.5cmのルービックキューブらしき物。

 

 大体の物は判明したが、このルービックキューブらしき物体だけは何に使うのか見当が付かない。

 

「僕は何をしていたんだ?」

 

 他の2人も全く同じ考えだった。

 

「これ、外の世界の銃っぽいんだが、銃口に当たる部分が変な結晶らしき物に覆われていてさらに弾倉が全くないんだぜ。引き金を引いてみても弾は全く出なかった。このナイフにしてもこれ程の長さの物はあたしでも見たことが無い。狩りに使えるんじゃないか?この携帯端末らしき物は少し弄ってみたんだが、何の反応も無く、さらに他の物もそうなんだが、河童たちの工具でもどうにも出来なかったんだ。」

 

「へぇ。ねえ、あなた何か思い出した?」

 

 少年は少しの間黙ってから、携帯端末らしき物を取ると、

 

「何故だろう。何だか使い方を知っている気がする。」

 

 と呟きながら液晶画面に指を当てた。

 

 すると、画面が光った。

 

【指紋認証クリア アダム・アンダーソンと確認 端末を起動します】

 

 液晶画面に文字が浮かび上がり、やがてホーム画面らしき画面が映った。

 

「アダム・アンダーソン、これが僕の名前なのか?......何故かは分からないが、そんな気がする。」

 

「アダムか。いい名前だな。改めてよろしく、アダム。」

 

「ああ、あと霊夢も改めてよろしく。」

 

 アダムは霊夢と魔理沙と握手を交わした。

 

 アダムは再び端末を見て何か思い出したように操作し始めた。

 

「......確かこうしたら......出たぞ、IDだ。」

 

 画面にはアダムの顔写真や個人情報の類が載っていた。

 

 氏名:アダム・アンダーソン

 

 人種:トランセンデンド・マン

 

 所属:地球管理軍TM特殊戦闘部隊

 

 生年月日:地球歴0001年7月13日

 

 血液型:B+

 

 出身:ノースアメリカ-ロサンゼルス

 

 総合戦闘値:44 (ランク:A 内訳 A:8 S:10 D:8 E:8 P:10)

 

 他にも多少の事は書かれていたが、これだけしか今分かるアダムの情報が無い。

 

「そういえば僕は軍人だった気がする......だが他に分かる事が何も無いのが残念だ。」

 

「大丈夫よ。ゆっくりでもいいから少しずつ思い出していけばいいわ。」

 

「そうだな。それまでこの幻想郷で色々やってみるといいぜ。」

 

「ああ、きっと思い出せるはずだ。そう信じよう。」

 

「で、あんた金も泊まる宿も無いんでしょ。だったらこの博麗神社でしばらく暮らしてみたらどう?」

 

「......そうだったな。これから世話になるな霊夢......しかし、どうも変な気分だ。」

 

「変って、お前具合でも悪いのか?」

 

「いや、そうでは無い。僕には何か重要な使命があってこの幻想郷という場所に来た、そんな気がするんだ。これもただの直感だが......。」

 

「ふーん、じゃあその使命を思い出せると良いな。まあそれは置いといて、今からは生活に必要な物を買いに行こうぜ。」

 

 とアダムの疑問は解かれず、アダムは何処か引っかかった様な感情であったが、魔理沙の言う通り、里へと買い物に行く事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが里よ。」

 

「中々活気に溢れているだろう。」

 

「......個人的には何だか和むな。」

 

「ええ?そうか?」

 

「僕のいた世界は此処よりも遥かに科学技術が優れているからその為だろう。」

 

「なるほどな。てかお前、早速だんだん思い出してきたんじゃないか?」

 

「一般常識程度なら思い出し易いんだろうな。だが、自分自身についての記憶は思い出せない。」

 

 アダムは霊夢と魔理沙と三人で一緒に人里へ来ていた。

 

 勿論アダムの為の生活物資を買うためだ。

 

 ちなみに魔理沙は特に理由もなく、暇つぶしとしてアダムと霊夢について来ている。

 

「着いたわ。ここは服を売っているの。仕立てもしているわ。」

 

「あとここでは外の世界から流れ着いた衣服なんかも販売しているんだぜ。」

 

「魔理沙良くそんなことを知っているわね。」

 

「というかお前がここに来ていないだけだろ。お前いつも同じような服ばっかし着ているからな。」

 

「私に金が無いのは知っているでしょ。あんたにはあって良いわねえ。」

 

 霊夢が皮肉を込めて言った。

 

「心配するな。金欠なのはあたしも同じだぜ......だけどファッションは大切だろ?」

 

「心配するな、って余計心配するわよ。服なんて体を包み、暑さや寒さを凌げればいいじゃない。」

 

「えー、そうか?アダム、お前からも何とか言ってやれよ。」

 

「何故そこで僕なんだ......僕も霊夢の意見には一理あると思う。装飾なんて必要あるのか?何でも作られた物の目的とは何かを考える事は重要だ。」

 

「えー?お前もかよ......というかさっさと入ろうぜ。」

 

 追い詰められた魔理沙が言い出し、3人はようやく店へと入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい。よう、魔理沙。また来たのかい?霊夢、お前とは久しぶりだな。たまには来いよ。」

 

 三人が中に入ると、店主の友好的な声が聞こえてきた。

 

 店主は20代半ば位で身長185cm程、長い茶髪と手入れされた顎鬚が目立つ。

 

 また、薄い黒のサングラスを付けていて、暗いが中の目が見える。

 

「ああ、私はちょっと暇つぶしだ。」

 

「要件は私じゃなく彼ね。」

 

 和洋服店の店主は霊夢と魔理沙の後ろにいる少年に目をやった。

 

「見かけない顔だな。あんた外来人かい?名前は?」

 

「そうだ。名前はアダム・アンダーソン。よろしく。」

 

「俺は柏リョウという。ちなみに俺も外来人だ。よろしくなアダム。」

 

 二人は握手した。

 

 ただ、リョウの日本的な名前に対し、顔立ちはステイツ系なのか、という違和感を心の中で思った。

 

「それで、どんな服がいい?」

 

 アダムはしばらく考え込んだ。

 

「とりあえず下着は幾つか必要だな......どんな服か......そうだな、動きやすい服とか。」

 

 リョウは少し辺りを見回し、一つの服に目をやった。

 

「最近外の世界から流れ着いた服もあってな、これ、お前に似合うんじゃないか?」

 

 リョウが手に取って広げたのは、黒っぽくて目立たなく、丈夫そうな素材の服で、黒い革ジャンと暗い緑の長袖だが割と薄いTシャツ、デニムの長ズボンだった。

 

「このジャケットは通気性に優れていてな、動きやすさならこれが一番と思う。」

 

「成程、いいものだ。」

 

 アダムは実際に着てみて言う。

 

「お前そのジーパン似合うな。」

 

 魔理沙が言った。

 

「そうか?そういえば僕はジーンズが好きだったような気がするな。」

 

「ふーん、やっぱり癖とか習慣とかは記憶がなくなっても残るものなのか?」

 

 するとリョウがその話を聞いていたらしく、

 

「記憶が無くなっても、ってじゃあお前はここに来る前に記憶喪失になったのか?」

 

 と聞いた。

 

「ああ、そうらしい。このリュックには色々外の世界の物があって、何か僕の過去が分かるかも知れないんだが、今の所分かった事はあまり無いんだ。」

 

「へぇ、ならその中の物を見せてくれないか。俺も外来人だから何か分かるかもな。」

 

「ああ、構わない。今取り出すよ。」

 

 アダムはリュックに入っている物を一通り出した。

 

 リョウはそれらを見てしばらく考え呟き始めた。

 

「これは......ハンドガンか。良い奴じゃねえか。」

 

「でも銃弾や弾倉らしき物が無いんだぜ。」

 

「それがな、俺のいた世界は最近の技術だと銃は金属弾ではなく特殊なエネルギー、お前たちから言うと霊力や魔力の類だ。それを利用する。それをビームに変換して発射するような仕組みになっているんだ。このナイフもその特殊なエネルギーを利用して非常に細かい振動を起こしたり、ナイフそのものの強度を上げたりする仕組みになっている。」

 

「すごいな!外の世界がこんなに技術が進んでいたとは。月の技術にも匹敵するんじゃないか?」

 

 魔理沙が感心した様に言う。

 

「だが、これは何だろうな。これだけは俺にも分からない。ルービックキューブとしても一個なら分かるが、なんでこんな大量ににあるんだ?」

 

 だがリョウが唸りを挙げたのは大量にあるルービックキューブらしき物だ。

 

「いや、十分参考になった。ありがとう、リョウ。それにしても、あの銃やナイフやはり僕は軍人だったのか?」

 

「そうだ。ところで霊夢、服の代金は前回の異変解決の件があってチャラでいいぞ。」

 

「本当?!ありがとう!」

 

「霊夢お前本当に金に困っているんだな......最近妙な噂を聞いたぞ。異変解決の礼金目的で自ら異変を起こしている、って聞いたけど本当か?」

 

「何よその噂。誰から聞いたの?」

 

「俺が今考えた。」

 

「馬鹿にしないでよ!金には困っているけど、だからと言って私が妖怪と同じ事をするわけがないでしょ!」

 

 霊夢は怒ったのか、一歩一歩わざと ドシン と踏み鳴らす様な足取りで店を出て行った。

 

「アダム、私たちも霊夢の後についていくぞ。まだ買い物全部済ませてないからな。」

 

 魔理沙のこの台詞で、霊夢に呆気にとられていたアダムが我を取り戻した

 

「......ん?ああ。それじゃあまたなリョウ。」

 

「ああ、いつ来てもいいぞ。何なら中二服でも譲ってやるよ。自信作だぜ。」

 

 アダムと魔理沙は店を出るとすぐさま霊夢を追った。

 

 そんなこんなでようやく買い物を終え、アダム達は博麗神社へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リョウはアダム達が店を出て行った後、二階の自室に来ていた。

 

リョウの目の前には個人用のコンピューターがあった。

 

勿論、幻想郷にはそんな物を作れる技術は無い。

 

「ロウ、聞こえるか?」

 

リョウは目の前の液晶画面の上の方にあるカメラを観ながら言った。

 

『ああ、聞こえるがリョウ、せめて名前を言えよ。』

 

液晶画面から人の顔が映り、そのロウという人物はそう言った。

 

 ロウはリョウと同じくらいの歳のアジア系の黒髪黒目の短髪の男性だ。

 

「まあそれは良いとして、お前がさっき言っていた通り、「管理軍」の奴らが一人送り込んでいたみたいだぜ。」

 

『やはりか。で、そいつはどうした?始末したのか?』

 

「それが、記憶を無くしているらしいんだ。何も知らないのに始末するのもアレだろ?」

 

『成程、それなら上手く引き込めばこちらの味方になってくれるかもしれんな。』

 

「そいつはアダム・アンダーソンと言っていたが、出来ればそいつの事を調べてくれないか?」

 

『ああ、調べておこう。他に何かそいつについて分かる事は無いか?』

 

「それなら顔写真を撮っている。今送るぜ。あとついでに、この写真のルービックキューブみたいな物も何なのか分からなくてな、こいつも調べて欲しい。」

 

 リョウは付けていたサングラスを取り、縁にある端子部分にコネクタを取り付けた。

 

 このサングラスは極小カメラが付いており、写真や短時間の映像を撮る事が出来る。

 

『ありがとよ。これならすぐ分かるかも知れんな。』

 

「サンキュー。それじゃあまたな。」

 

液晶画面には「チャット終了」の表示が映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アダムの幻想入りを祝って乾杯!」

 

 魔理沙のその一声で、アダムと霊夢と魔理沙の3人はアダムの幻想入り祝いの食事を食べ始めた。

 

「この棒は箸と言うのか。使い辛い食器だな。それにしてもいかにも美味しそうな料理だ。たぶんこんな料理は食べた事無いな。」

 

「へぇ、じゃあお前の世界ではどんな料理を食っていたんだ?」

 

「うーん......何て言えばいいか......合理性のみを重視した様な......説明が難しいものだ。」

 

「もしかして和食ってのを知らないのか?」

 

「和食と言うのか。これに似ている料理はあるけど、そういった区別は僕の世界には無かったな。この黄色くて中に何か有る様な物は何だい?」

 

「それは天ぷらだぜ。外の衣はサクサクで中の具材と合うぞ。ちなみにこれの中身はエビだな。」

 

 アダムは箸でその天ぷらを取った。つもりだったが、滑り落ちてしまった。

 

 もう一度つかむ。が力が思うように入らず、取れない。

 

「違うわよ、箸はこうやって鉛筆やペンを持つようにして、こうよ。」

 

 霊夢がすぐ箸の使い方を教える。

 

 そして1分後

 

「こ、こうか?」

 

「そうよ、あんた上達が早いわね。」

 

「さてと、食べようぜ。」

 

 アダムは先ほど取れなかった天ぷらを取り、口元に寄せ、一口食べる。

 

(美味い。魔理沙の言った通り衣と具が見事に合っているな。)

 

 アダムはその美味しさに感激したのか無言で次々に食べる。

 

「黙って食うなんてそんなに気に入ったのか?」

 

「他にも料理はあるわよ。この刺身なんかどう?」

 

「生魚か。僕のいた世界では生魚を食べる習慣はあまりないんだが、折角だし食べよう。」

 

「こっちの日本酒もどうだ?」

 

「日本酒...酒という事はアルコールか。僕のいた世界だとエタノールのほとんどは燃料に使われているんだ。こういった飲料用の物は規制が多く、値段も高いんだ。健康にも悪い。確か僕の年齢では飲む事が出来ない。」

 

「酒を燃やすだと?!外の世界は思わないことに使っているんだな。折角だし飲んでみろよ。飲まないのは人生の半分を無駄にしている様なものだぞ。」

 

「たまには良いかもな。」

 

 こうしてアダムの幻想入り初日は楽しく過ぎた。




設定集を見ても良いですけどネタバレになります

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