ロリ提督から幼妻に転職する羽目になった   作:ハンヴィー

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ゲーム内国家の簡単な設定その壱

国名:八紘帝國(やひろていこく)
元首:皇命
体制:立憲君主制
首都星:橿原

かつて地球上に存在していた日本国を継承する国家。
ゲーム内では、最も古い歴史と伝統を持つという設定。
保有する銀河系・星系などには、かつての旧国名などが充てられているが、
首都である橿原が存在する銀河系の名称が「遠国」だったり、
佐世保の存在する銀河系の名称が「中国」だったりと、
必ずしも地球上に存在していた頃と一致するわけではない。
領宙の六割以上が暗礁宙域となっており、八紘帝國領は世界随一の航海の難所が至るところに存在する。
身を隠す場所に事欠かないことから、宙賊(宇宙海賊)の跋扈に常に頭を悩ませているが、
それが天然の要害となっており、近隣諸国からの大規模な侵略を防ぐ役割も担っている。
また、暗礁宙域の随所にかつて存在した先史文明の遺構と思われる天体規模の建造物の残骸が浮遊しており、
ゲーム世界における七不思議のひとつに数えられている。
国号の由来は、かつての大日本帝國時代の大東亜共栄圏のスローガン「八紘一宇」にちなむ。


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 恒星系の最外縁部には、星系を球状に取り囲むようにして、オールトの雲と呼ばれる星系外縁部天体の密集した宙域が存在する。

 現実世界のオールトの雲は観測されていないため「たぶん、そういうものがあるのだろう」という仮説でしかないが、ゲームでは実際に存在するものとして設定されている。

 更にその内側には、これまた恒星を取り囲むようにドーナッツ状に小惑星帯や準惑星が密集している宙域エッジワース・カイパーベルトが広がっている。

 星系によっては、オールトの雲とカイパーベルトが連続しているところもあり、そういった宙域は、たいてい航海の難所となっている。

 対馬星系もそのひとつだ。上対馬星と下対馬星という二連星系であるため、オールトの雲からカイパーベルトに至る宙域の航路は、平時でも複雑怪奇を極めていた。

 それに加え、今回の宇宙震の影響で航路と通信網が寸断されてしまっている。崩壊した小惑星や準惑星の存在もそれに拍車をかけていた。

 

「対馬警備隊との連絡はついたか?」

「呼びかけを続けていますが、依然応答はありません」

 

 俺の問いに通信士が首を振った。

 

 対馬警備隊は、各星系に配備されている小規模な地方艦隊の一つで、護衛駆逐艦やコルベット艦といった小型艦艇で構成される小艦隊だ。

 侵略や災害が発生した際は、本隊の到着までの初動対処を行う部隊なのだが、現左翼政権による事業仕分けの影響で、十分な兵力が配備されているとは言い難い。

 依然として音信不通な彼らの安否も非常に気になるところだった。

 

「ところで、政務官と秘書はどうしている?」

 

 航海艦橋の司令官席から部下の作業を眺めつつ、もう一つの懸案事項をアデルに尋ねた。

 

「大人しくしているようです。いまのところは」

「ふうん。そりゃ良かった」

 

 佐世保を出港した直後の政務官と秘書は、割り当てられた部屋が狭いだの、従卒を付けろなどやかましかったのだが、俺は全て白菊に一任するというか、押し付けてさっさと艦橋に上がってしまった。

 実際、相手にしているほどの余裕も無かったわけだし。

 あまりにも音沙汰が無いので、さすがに少し心配になったのだが、どうやら、白菊が上手いことやってくれているらしい。あいつへの評価を改めても良いかもしれない。

 邪魔が入らないということもあって、今までのところ、啓開作業は困難ながらも順調と言っても良かった。

 後続する東郷さんの率いる本隊は、補給艦を引き連れ、それでも足らずに戦闘艦艇にも補給物資を満載しているため、普段にも増して艦隊の機動力が大きく制限されている。普段であれば航行に支障が無い位置にある障害物も念入りに排除しなければならない。

 星系外縁部のオールトの雲からカイパーベルトに至る空間にあるのは、小惑星や準惑星といった天体のみならず、過去に遭難した船舶の残骸、果てはかつて存在した先史文明の名残と言われている天体規模の巨大人工物の破片まで様々だ。

 障害となりそうなそれらを除去し、難しいようであれば、新たな迂回航路を選定しながら、俺の戦隊は対馬星系外縁部の天体密集地帯を進んでいるところだった。

 

「提督。白菊二佐より上申です。政務官が航海艦橋を見学したいと言っているそうですが」

「ふむ」

 

 願わくば、ずっと船室に引き篭もっていてほしいところだが、適度に息抜きをさせてやる必要もあるか。

 

「いいだろう。許可する」

「分かりました」

 

 それから程なくして、白菊が政務官と秘書を連れて航海艦橋にやって来た。

 いかにも視察しています、と言いたげなしゃちほこばった顔で、対して広くも無い駆逐艦の艦橋を闊歩してまわる。時折白菊に何かを尋ね説明を受けては、感銘を受けたように頷いたりしていた。

 やがて気が済んだのか、今度は俺の陣取る司令官席へと向かってきた。

 

「部下に仕事を任せきりにして、良いご身分だこと」

 

 唐突にそんなことをのたまったのは、秘書のおばさんだった。

 ちょっと何を言っているのか分からなかったので少し驚いたが、とりあえずシカトを決め込むことにする。

 噛み付きそうな表情になっているアデルを目で制すのも忘れない。

 

「状況はどうなっているのかね」

「航路啓開作業であれば、順調に進行しています。間もなく、対馬星系のオールトの雲の啓開を完了し、カイパーベルトへ進入、内惑星系への経路啓開作業に入るところです」

 

 鷹揚に尋ねる政務官に対して、事実のみを簡潔に答えた。

 邪魔が入らなかったので順調でした、とまではさすがに言わなかったが。

 

「私が言っているのは、そういうことではないのだがね!」

「……と仰いますと?」

 

 ちょっとイラついた感じの思いのほか強めの口調だったので、根が小心者の俺は少しびっくりした。

 

「現地に到着するのはいつになるのかと聞いているのよ。察しの悪い子ね。そんなことで、よく司令官なんてやっていられるものだわ」

 

 追従するように噛み付いてくる秘書を華麗にスルーしつつ俺は考えた。

 震災発生時から、ゲーム時間で10日程度経過している。

 各惑星や星系単位で警備をしている地方艦隊の初動対処もあって、初期の混乱は収まりつつあったが、航路が寸断されて孤立している対馬や壱岐といった辺境宙域の様子は依然不明のままで、被災状況の確認と救援が急務だ。

 既に対馬星系外縁部への進入を果たしている俺の戦隊だったが、星系内の有人惑星の状況が全く掴めていない。駐留しているはずの帝國軍地方艦隊とも未だに連絡が取れないまま。

 被災者に寄り添っているアピールをして政治宣伝をしたい政務官にとっては、いつまで経っても目的地に到着せず、イライラが募っているところなのだろう。

 そろそろ、ばらしても良い頃合かもしれないな。

 

「現地? 何のことでしょうか」

「対馬への到着に決まっているでしょ! 市民が私達を待っているのよ!!」

 

 すっともぼけたように言ってやると、秘書はあんぐりと口を開けた後、顔を真っ赤にして唾を飛ばしてきた。

 アデルや近くに居るクルーは、政務官や秘書からは見えない位置で、ニヤニヤと笑っている。

 

「白石三佐。説明を」

「はっ。こちらをご覧ください」

 

 名前を呼ばれるや、瞬時に小馬鹿にするような笑みを引っ込めたアデルは、政務官と秘書にコンソールを示し、状況と目的を説明した。二人の顔が赤黒く変色していく様は中々見ものだった。

 

「お、おい、提督! いったいどういうことなんだ!?」」

 

 掴み掛からんばかりの勢いで詰め寄ってくる政務官の鬼気迫る表情に若干ビビッたが、俺は淡々と、戦隊に課せられている任務を説明した。

 

「白石三佐の説明にあったとおりです。我が第二宙雷戦隊の任務は、東郷司令長官率いる救援艦隊本隊に先行して、寸断された航路を啓開し、啓開作業完了後は、航路の保全活動に従事します。従って、対馬星系外縁部、オールトの雲からカイパーベルトにかけての宙域より星系の内側に入ることはありません」

「だから、どういうことかと聞いているんだ!」

「端的に申し上げますと、有人惑星には降りない、ということです」

 

 遠まわしに説明しても一向に理解できないようなので、はっきりと言って差し上げることにした。直後の政務官と秘書の百面相は中々見ものだった。

 

「ば、馬鹿な! そんなことは聞いていないぞ!」

「ご存じなかったのですか?」

 

 俺は大袈裟に目を見開いて、わざとらしく驚いて見せた。

 

「私はてっきり、ご承知の上で同行を願い出たと思っていたのですが」

「そんなわけあるか! 惑星に降りないのでは意味が無いではないか! 市民が私の到着を待っているのだぞ! どうしてくれるんだ!!」

「さて、そう仰られましても……」

 

 被災者が待っているのは、癇癪持ちのアンタではなく、軍による救援ですよ、政務官殿。

 

「い、今すぐ引き返しなさい! 命令よ!」

「拒否します。一民間人であるあなたに、私に命令する権限はありません」

 

 早速秘書がヒスを起こすが、俺の返答はにべも無い。

 

「ぐ、軍人が市民の命令を無視する気なの!? 文民統制に反しているわ!」

「文民統制とは、国民によって選出された政治家が、法制の元に軍隊を制御するシステムです。軍隊を一民間人の使い走りに出来るという意味ではないのですよ。宙軍大臣政務官秘書が、その程度の認識では困りますな」

 

 いい加減、俺もイライラしていたので、威圧するような強めの口調で言い放ってやった。

 威圧と言っても、ロリが大人相手に精一杯虚勢を張って必死に抗弁しているようにしか見えないので、とても愛らしい。

 ぐぎぎぎぎ……みたいな表情になっている秘書との対比が面白かった。

 

「さすがに、冗談で仰っているとは思いますがね」

 

 怒りでどす黒い顔色になっている秘書に向かって、鼻で笑って言い捨ててやることも忘れない。

 嫌味ったらしい仕草も、ロリがやるならば、やられたほうにとってはご褒美のはずだ。

 

「ならば、私が君の上司として正式に命令する! 我々を今すぐ、救援艦隊に移送したまえ!」

「拒否します。政務官に私に命令する権限はありません」

「な、なんだと! 私は君の上司だぞ!?」

「はい。いいえ、政務官。あなたは私の上司ではありません。私の上官は第二機動艦隊群司令長官であります。更に申し上げますと、私の任務は軍令部が策定した基本方針に基づき、宇宙艦隊司令部の指令を受けた第二機動艦隊群司令長官の命令の元に実行されています。この指揮系統の中にあなたは存在しません」

「私は宙軍省の人間だぞ! 宙軍大臣政務官だぞ! ちゅ、宙軍省の命令に逆らうというのか!?」

「宙軍省は軍政を担当する中央省庁であり、そもそも軍に命令する権限はありません」

「私は政務官だぞ!」

「存じ上げております。宙軍大臣政務官であるからこそ、軍政と軍令の区別は付けていただきたい。それをないがしろにして、よくも文民統制などと言えるものですな」

 

 文民統制云々を抜かしたのは秘書だが、秘書の落ち度は議員の責任だって、秘書に全ての責任を押し付けてバックレたどこぞの代議士先生が言ってたし。

 

「小娘が! ただで済むと思うなよ……!」

「ひとつ、ご忠告申し上げておきますが」

 

 俺はニヤリと口の端を吊り上げ、司令官席から身を乗り出した。

 

「艦内の通信や通話については、全て記録をとっております。これまでのお二方の発言も含めてね」

 

 途端に二人の顔が青ざめる。

 軍艦に限ったことではないが、宇宙船は情報保全や船内の治安維持、果ては遭難時のフライトレコーダー代わりに通信記録や艦内の主要区画での乗組員の会話などは逐一記録されている。

 今更ながら、そのことに思い至ったらしい。

 

「政務官。そろそろ、お部屋にお戻りください」

 

 見かねたのか、白菊が淡々とした声で告げた。

 政務官は何か言いたそうに口元を震わせていたが、ここで何か言えばこれ以上に墓穴を掘るわけにも行かなかったようで、猟犬のような目でこちらを睨みつけながら白菊の後に続いた。

 その背中に、性格の悪い俺は追い討ちをかけるのを忘れない。

 

「ああ、そうそう。先程の私を小娘呼ばわりした差別発言、後日何らかの然るべき回答があるものと信じております」

 

 怒りに肩を震わせていたが、こちらを振り向かず、政務官は航海艦橋を後にした。

 

「大人しくしているでしょうか?」

「その時は憲兵に対処させるまでだ。誓約書に署名はしているんだからな」

 

 心配げなアデルに向かって、気にするなと軽く手を振った。


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