仕事を終えて帰宅した俺は、クライアントを起動してゲームにログインする。
最近、リアルが忙しすぎて、ここ1週間ぐらいゲームにIN出来なかったんだけど、ようやく修羅場がひと段落着いて、まとまった休みを取ることもできた。
これで、暫くは廃になることが出来る。
ちなみに、俺のキャラが所属しているのは、その大日本帝國を髣髴とさせるゲームの主役国家・八紘帝國だ。
八紘帝國は、開発チームが大日本帝國にしたかったというだけあって、領内の星系や惑星の名前、軍艦の命名規則など、いたるところに日本の実在の名称が使われている。俺が拠点として活動している惑星、佐世保もその一つだ。
「おっと、いけね」
俺は慌てて、傍らにあるヘッドセットを手に取り装着した。
このゲームの特徴の一つに、精度の高い音声認識機能がある。
従来のMMORPGでは、自分以外のプレーヤーとコミュニケーションを取る際、チャット機能などを使ってキーボードから文字入力を行うのが一般的だが、このゲームはボイスチャット機能を使い、音声で他のPCやNPCと実際に会話をしなければならない。そのため、ゲームを行うためには、音声チャットを行うための環境が必須となる。
しかも、自分の発する声は作成時に設定したキャラの声として、相手に聞こえるようになっている。
つまり、中の人のリアルの声は、相手には全くわからないのだ。
この音声変換機能が良く出来ていて、ボーカロイドっぽい棒読み音声でも無ければ、声優の声からサンプリングされた音声というわけでもない。
いったい、どういう仕組みなのかは分らないけど、実際のプレーヤーの発声を正確にトレースして、それをプログラム的にキャラクターボイスとして変換しているようなのだ。
ゲームを始めたばかりの頃、変換された自分の声のあまりのロリボイスっぷりに、結構びびったものだった。
しかもこのゲーム、一部の例外を除いて、パッと見ただけでは、PCとNPCの区別が全くつかないようになっている。
普通のMMORPGなら、キャラクターにマウスのカーソルを合わせたりすると、キャラの名前が表示されたりするものだが、そういった機能が無いのだ。
NPCのAI自体かなり優秀なので、注意深く言動を観察してみないと、そのキャラがPCなのかNPCなのか判断が難しい。
さらに、中の人がメタな発言を一切行わず、ゲームのキャラに成りきってロールプレイなんかしていたら、判別するのはほぼ不可能だ。
さすがに俺は、キャラクターに成りきってまでのプレイなんて、そこまでの事は出来ない。
想像して欲しい。
いい年した20代半ばの男が、パソコンのモニターを前に気色の悪い女口調(それもロリ)でくっちゃべる様を。
そもそも俺は、ロリを演じたいわけじゃなく、ロリを愛でたいがために、このゲームをやっているのだ。成りきりプレイなんぞする必要性は何処にもない。
ログイン処理が完了すると、パソコンのモニターには、年の頃14,5歳ぐらいのナイスロリが表示された。
俺が心血を注いで作り上げた理想のロリ――秋月(あきづき) 摩耶(まや)だ。
ゲーム画面は、昨今では対して珍しくも無い、三人称視点の3DCG画面だ。
そのため、画面には常に自分のキャラが表示された状態になっている。
サバイバルゲームのようなFPS視点でなくて、本当に良かったと思う。
何故ならFPS視点だと、せっかく手塩に掛けて作成したマイロリータの姿を堪能することが出来ないからだ。
「さーてと」
俺がマイク越しに呟くと、モニターの中の摩耶も全く同じ台詞を呟いた。もちろん、幼女声で。何度聞いても不思議だ。
俺が以前ログアウトしたのは、佐世保にある自宅の自室だ。
室内には、ゲーム内で手に入れたアイテムや装備品を保管したり、調度品を並べたりすることが出来るんだけど、そういうことにあまり興味の無い俺の部屋は、執務用の机と端末以外、大したものは設置されていない。
ただし、俺は自分のロリキャラを着せ替え人形にして愛でているため、服飾系の装備は室内のドレッサーに大量に収納していた。
ログインしてまず最初にやることは、いつも決まっている。
俺は摩耶を操作してクローゼットに向かわせると、観音開きの扉を開けた。
そこには、俺がこのゲームを始めてから、収集したり自分で作成したりした数々の服飾装備が収められていた。
巫女服やメイド服なんかの基本は当然ながら抑えている。西洋の町娘風のエプロンドレスや、最近作ったものでは、ウェディングドレスや白無垢なんかもある。
「ふひひひひ……」
モニターの前で気色の悪い笑みを浮かべながら、俺は摩耶を着せ替え人形にして至福の時間を堪能する。
幼女は何を着ても似合うが、ウェディングドレスやら、綿帽子の白無垢といったものを着たときの背徳感と犯罪臭は素晴らしい。
俺もいづれ、リアルでこんな幼な妻が欲しいものだ。
そんな事を考えながら、室内の姿見を前に様々なポーズを取っていると、そこに自分以外の人物の姿があった。
姿見の反対側は、丁度部屋の入り口になっている。
いつの間にかそのドアが開いており、鏡越しに冷めた目で俺を見つめている猫耳少女と目が合った。