ロリ提督から幼妻に転職する羽目になった   作:ハンヴィー

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 その後は、安全な宙域まで曳航してもらい、応急修理の済んだ『きよかわ丸』に戻り、改めて通信で丁重に礼を言って別れた。

 その後暫くの間は、それまでと同じような生活に戻っていたが、あまり危険な宙域に出張る事は控えるようにした。

 多少実入りが減っても、軍の艦隊が巡察に訪れる宙域を選んで、安全第一の操業を心掛けていた。

 損傷した自船の修理代金を払い終えた頃、東郷さんから連絡が入った。

どうやら、俺の船の船籍認証番号から、個人情報を割り出したらしかった。

 

「あなたのこれまでの実績を確認させていただきました」

 

 この時はまだ軍人ではなかったし、東郷さんは上官というわけでは無かったので、俺に対する口調は民間人に対するときと同じような丁寧で物腰柔らかなものだった。

 

「はあ。実績、ですか」

 

 そう言われてもと首を傾げそうになったが、ひとつだけ思い当たる節があった。

 それは、暗礁宙域で採掘調査時に行い、帝國に提出した測量情報のデータだ。

 確かに、安全保障上重要な情報かもしれないが、提供しているのは何も俺だけじゃない。

 それに、軍の偉い人が注目して態々コンタクトを取ってくるような、特別なデータを提供した覚えは無いはずだ。

 

「どうだろう。あなたの能力を軍で生かしてみる気は無いだろうか」

 

 俺は面食らった。まさか、リクルートだとは思っていなかったからだ。

 能力を生かすも何も、測量自体は船のAI任せで、俺は何も特別なことはしていない。

 突然、そんな打診をされて困惑してしまった。

 まさか、ロリコンか。ロリコンなのか。俺と同じ紳士なのか。という思いが頭に浮かんでいた。

 

「ひとまずは、傭人(ようにん)という形で、私の仕事を手伝って欲しい」

 

 傭人とは、高級士官のポケットマネーで雇われる軍属のことだ。軍属なので、当然軍の命令には従うが、軍人ではないので戦闘に参加する必要はない。といっても、軍艦に乗り組んだりする場合は、戦闘に巻き込まれて死ぬ可能性はあるが。

 

「仕事の内容なんだが、私が指示する宙域の測量を行って欲しいのだ。指示の無い間は自由に行動して構わない。もちろん、待機状態時の給金も出すし、必要なら船員もつける」

 

 金額や条件を詳しく聞いてみたところ、提示された条件は悪くは無いように思えた。軍の後ろ盾を得られるという事を考えると、メリットも小さくは無い。しかも、それなりの功績を挙げれば、軍の士官として推挙してもらえるという。しかし、なぜ俺に声が掛けられたのかという疑問は残る。

 

「魅力的な提案ですが、どうして私なのですか、東郷提督」

「ここだけの話、気が合いそうな子飼いの部下が欲しいと思っていた所だったのですよ」

 

 ますます分からない。それなら、この間偶然出会ったばかりの俺よりも、もっと相応しい人材が居るだろうに。

 

「理由の一つとして、あなたが私と同じプレーヤーだからというのがあります」

 

 この発言で、俺は東郷さんがプレーヤーであることを確信したわけだが、どう返答すればよいのか、言葉に詰まってしまった。

 こういうメタい発言は、このゲームでは基本的にご法度だからだ。

 

「プレーヤー同士なら、色々と融通を利かせられることもあるでしょう。どうですか?」

 

 確かにその通りだとは思ったが、どうしようか判断に迷った。

 その口振りからして、東郷さんがベテランプレーヤーであるらしいことは分かった。そんな人と懇意になれれば、ゲームをプレイする上で大いに助けにはなるだろう。だけど、どうして初心者プレーヤーでしかない俺にそんな提案をしてきたのかという疑問があった。そもそも、偶然顔を合わせた程度の俺と、何を根拠に気が合いそうだと考えたのか。

 即答できないでいる俺に、東郷さんは更に言葉を重ねた。

 

「気が合いそうだと感じたのは、あなたが私と同じミリオタだからですよ」

「……そう思った理由をお伺いしても?」

「あなたの名前が、軍艦の名前だからですよ」

 

 確かに俺のキャラの名前は、大東亜戦争時の帝國海軍の駆逐艦『秋月』と重巡洋艦『摩耶』を組み合わせたものだ。

 だけど、わりとありそうな人名だし、たまたまこんな名前という可能性だって考えられるだろう。

 

「それに、何人かプレーヤーの知り合いは居ますが、『東郷平八郎元帥と同じ』と言ってくれたのはあなただけなのです」

 

 そんな理由でと、俺は少し呆れてしまった。

 そのぐらいのことは、軍事に興味が無くても、多少日本史の知識があれば、知っていてもおかしくは無いだろうに。

 今にして思えば、東郷さんは、この頃から少しずれていたのかもしれない。

 

「まあ、いいですよ。別に」

「そうですか。助かります」

 

 断る理由は無かったし、俺は東郷さんの申し出を受け入れることにした。安定した収入源があれば、安心して趣味に耽ることもできると考えたからだ。

 それからはとんとん拍子で話が進み、俺の身分は三等宙佐(少佐)待遇の軍属ということになった。

 それによって、俺の持ち船である『きよかわ丸』は、任務に耐えられるようにと、東郷さんのポケットマネーで大改装が行われた。

 耐用年数ギリギリだった『きよかわ丸』は大規模近代化改修(FRAM)を経て、見た目は変わらないものの、内部は完全に別物となってしまった。

 危険宙域の測量行動に従事するということもあって、特に武装の強化が重点的に行われた。

 自衛用の小火器程度しか備えていなかった中古の貨物船だったのだが、採掘した資源を貯蔵するための倉庫を潰し、船体埋め込み式のレーザービーム砲を搭載することで、駆逐艦並の砲戦力を獲得することになった。

 埋め込み式なので、砲塔の旋回能力は無いに等しいが、構造が簡素で保守性に優れ、未使用時はシャッター等で塞いでおくことで偽装も容易だ。

 これで、民間船だと思ってノコノコ接近してきた宙賊を返り討ちにすることも可能となったわけだ。

 後から聞いたことだが、『きよかわ丸』の近代化改修には、駆逐艦一隻新造するぐらいの金が掛かったと言われ、ひっくり返りそうになったのを覚えている。

 軍艦並の性能を手に入れたことで、操船を俺一人で賄うのは困難になり、船員をつけてもらうことにもなった。全員軍人で、その中の一人、最も階級の高い将士の中に、当時一等宙尉(大尉)だったガンさんこと、岩野八太郎がいた。

 ガンさんを始め、その時俺の船に乗り組むことになった連中は、その殆どが陸戦隊上がりのマッチョな野郎共だ。

 東郷さんに要望を出して、あえてそういう連中を船員として選んでもらったのだ。

 

「上官の命令だからとりあえずアンタの船に乗り組むがな、嬢ちゃん。くだらねえ命令は聞かねえから、そのつもりでな」

 

 不満を微塵も隠そうとせずに、俺に凄んで見せたのが、ガンさんだった。まったく、幼女相手に大人げが無い。

 まあ、この時のガンさん達の心情は理解できなくも無い。

 軍人ではない軍属の船長の船に乗り組みを命じられ、しかもその船長とやらが、特優者の小娘(コーペル)と来たもんだ。

 ガンさんで無くとも、暗澹たる気分になるだろう。

 

「くだらねー命令を出すつもりは無いから安心してくれ、ガンさん」

「が、ガンさん……? 誰の事だ、そいつは」

「アンタだよ、副長。岩野なんて、舌足らずな俺には言い難いからな。そういうわけで、よろしく、ガンさん」

 

 目一杯に背を伸ばし、呆気にとられるガンさんの肩をポンポンと叩いてやった。

 内心では結構ビクビクものだったが、いちおう、俺が船で一番偉い船長なんだし、虚勢でも何でも張り倒す必要があった。

 そんな必死さが伝わったのかどうかは分からないが、東郷さんから下される任務をこなしていくうちに、ガンさん達の態度も徐々に軟化していった。

 ガンさんを始めとした当時の『きよかわ丸』のクルーは、陸戦隊上がりというだけあって血の気が多い奴ばかりだった。

 そんな猛者共の余りある血の気を発散する手段の一つとして、任務の合間に宙賊狩りを行った。

 わざと宙賊に襲われた後、降伏の意思を示し、拿捕しようとノコノコ近づいてきた宙賊船に至近距離から砲撃を叩き込んで撃沈したり、接舷してきたところを逆に、ガンさん達を吶喊させて宙賊船を拿捕して物資を強奪したりもした。

 脳筋揃いのクルーには好評だったし、何より収奪した物資で自分の財布を潤すことが出来たというのも大きかった。

 本来なら、降伏を装って騙し討ちする行為は国際戦時法違反だが、相手は人権の無い犯罪者なので何の問題も無かった。

 そしてもう一つ、俺が彼らの信任を得るためにやった行為は、幼女の手料理だった。

 このゲームの優れているのは、スキルを持っていなくても、プレーヤースキルで補うことが出来るところだ。

 俺はゲームとしての料理スキル自体は持っていなかったので、プレーヤースキルで何とかした。

 例えば料理の場合、スキルを持っていれば、レシピと材料を揃え、作ろうとしている料理が自分の料理スキルで作れるものであれば、作成することが出来る。

 料理スキルを持っていない場合、材料の下ごしらえや実際の料理手順をマウスやキーボードを駆使して行って初めて、料理を完成させることができるのだ。

 当然、ミニゲームのような単純なものではないし、スキルを持っている場合に比べて、時間も手間も大幅に掛かる。

 格闘や銃撃など、個人戦闘に関するスキルの場合、マウスやキーボードのみで行うのは不可能なので、プレーヤースキルで補えるのは、料理や縫製といった生産系のスキルや、指揮や統率といった会話系スキルのロールプレイにほぼ限られた。

 とはいえ、キャラクターがスキルを持っていなくても、プレーヤースキルで補完できるというシステムは画期的で好評だった。

 俺自身はそれほど料理が得意というわけではないが、男の一人暮らしなので、それなりに家事は出来る。

 なにより女性の、しかも幼女の手作り料理を喜ばない紳士など、この世には存在しない。

 幼女が、不慣れながらも自分達のために懸命に料理をする姿に、心ときめかない男など居ないのだ。

 もちろん、カンストさせていた縫製スキルで、時たま服のほつれを直してやったりもした。

 そんな不断の努力が実を結び、何とかクルーを掌握することに成功したのだった。

 んで、それから半年ぐらいの間、東郷さんの指示する宙域の測量をやったり、東郷さんとリアルの話で盛り上がったりしながら、ゲームを続けていた。

 東郷さんの中の人が俺と同年代の女性だと知ったのも、大体この頃で、彼(彼女)が俺のことを「ロリ」と呼び始めたのも、だいたい同時期だったように思う。


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