ロリ提督から幼妻に転職する羽目になった   作:ハンヴィー

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 俺が東郷さんと知り合ったのは、このゲームを始めたばかりの頃。今から二年ぐらい前の事だ。

 二年前というのは、もちろん、リアルで二年前という意味だ。

 余談になるがこのゲーム、ゲーム内でどれだけ日数が経過しようとも、年月は全く進まずキャラクターも加齢しないことになっている。リアルで一年が経過してようやく、ゲーム内での年数も進み、キャラクターも歳を取るというシステムになっている。

 そのため、俺の摩耶も13歳で、今以上に完全無欠の幼女だった。

 ゲームシステムの殆どをまともに理解できていなかった当時の俺は、自分のロリキャラを愛でていることだけに終始していた。

 しかし、いかに素体が高スペックのハイロリータでも、それだけではやはり飽きてしまう。

 せっかくの高性能幼女なのだから、色々と着せ替え人形にして楽しむのが紳士(ロリコン)の嗜みというものだ。

だが、そうやって耽るためには、先立つものが必要になる。そこは、リアルでもゲームの世界でも同じだ。

そんなわけで、手っ取り早く金を稼ぐ方法として、ハイリスクハイリターンな手段を選ぶことになった。

 そんな仕事は色々あったが、一攫千金を狙えるものとしては、小惑星帯などの暗礁宙域での資源採掘だった。

 宇宙船の精密部品に使用される希少金属の鉱床なんかを発見できれば、かなりの見入りを期待できるからだ。

 当然のことながら、リスクはかなり大きい。

 何しろ、隠れる場所に事欠かない宙域なので、常に宙賊の襲撃に晒され、あっさりキャラデリなんて事にもなりかねない。

 帝國領内は、他国に比べれば治安が安定しているほうだが、それでも辺境宙域となるとそうはいかない。

 正規軍の艦隊が巡察を行ってはいるが、カバーしきれているとは言いがたい。

 そして、そんな危険宙域だからこそ、希少金属を産出できる有価小惑星帯が数多く眠っているのだ。

 かくいう俺も、そんな山師の一人として、軍の輸送艦だったものを払い下げられた中古の貨物船『きよかわ丸』を駆って、対馬宙域や壱岐宙域といった、国境宙域で採掘作業に勤しんでいた。

 ちなみに、船員は俺一人。操船以外はすべてAI任せという状況だった。

 調査を行う前段階として、周辺宙域の状態や目標と定める小惑星などの測量行動は必須だ。

 たとえ空振りに終わったとしても、ただでさえ変動しやすい暗礁宙域の地形データは、通航上・国防上重要な情報でもあるので、政府に報告すれば、それだけでもそれなりの報酬を受け取ることが出来る。

 事故や宙賊の襲撃といった危険要素は大きいが、それに見合うメリットは大いにあるのだ。

 運が良かったこともあって、いくつかの鉱床を発見し、それを帝國に売却することで、それなりの金を稼ぐことが出来た。

 そのお陰もあって、鍛えに鍛えた縫製系スキルを活用し、様々なコスプレ衣装を作成して自慰行為に勤しんでいた。

 そんなわけで、金がなくなると暗礁宙域で採掘し、余裕が出来るとコスプレで耽るというのが、俺のゲームの楽しみ方になりつつあった。

 そうやって、だんだんとルーチンワーク化してくると、次第に油断が生まれてきてしまうのは、リアルもゲームも同じだ。

 その時の俺は、船のエネルギーを節約できるからという理由で、あろうことか、警戒システムを全てシャットダウンしていたのだ。

 今考えると、とても正気の沙汰じゃない。気が付いたときには、宙賊の艦隊に取り囲まれて、どうすることも出来ない状態だった。そりゃあ、もう大パニックだ。

何せ、このゲームはキャラクターが死んだら、それでおしまいだ。これまで、丹精込めて育てた俺の摩耶が消えてなくなってしまう。もちろん、グラフィックのデータ自体はバックアップしているが、このゲームの中では間違いなく死んだ事になり、大量に製作したコスプレ衣装も全てデータの藻屑となってしまうのだ。

 しかも運が悪いことに、その時遭遇したのはNPC宙賊や、ロールプレイしているまともなプレーヤー宙賊ではなかった。

 通信でこちらに「ネトウヨ、死ね」などと下品な罵声を浴びせてきた「アッチ系のプレーヤー」だったのだ。

 「アッチ系のプレーヤー」が執拗に八紘帝國籍にPK行為をしているのは知っていたが、遭遇したのはその時が初めてだった。

 救難信号を出すことも忘れ、慌てて機関を始動して逃げようとするが、エンジン基部を砲撃によって撃ち抜かれ、あっという間に行動不能に追い込まれてしまった。

 もうお終いだと覚悟を決めたその時、レーダー上から宙賊の艦艇数隻の表示が消滅した。

 航海艦橋のガラス越しには、俺の船に接舷しようとしていた宙賊艦が真っ二つに圧し折れて火球となって消滅する姿が見えた。

 火球が消滅した後、推進剤の軌跡を宇宙空間に残しながら身を翻す、戦闘機の姿が目に入った。帝國軍の局地戦闘攻撃機『瑞雲』だった。

 『瑞雲』の対艦ミサイルによるアウトレンジ攻撃で、宙賊艦隊は為す術もなく撃沈されていく。

 中には、白旗のホログラフを出して降伏の意思を示す艦があったが、問答無用で宇宙の藻屑となっていった。

 やがて、レーダーに映るのは、俺の船を守るように展開する『瑞雲』と、後方から接近する一隻の宇宙船のみになった。

 後部カメラで艦影を確認すると、両舷から前方にカタパルトデッキが突き出すような形状の軍艦の映像が表示された。

 国籍を示す軍艦旗や国旗のほかに、目立つ位置に『停船せよ』を意味するL旗のホログラフが掲揚されている。

 同時に、その艦艇からの通信が入ってきた。

 

『こちらは、八紘帝國宇宙軍第二機動艦隊群所属、機動巡航艦『おおよど』。貴船の船籍認証番号を示せ』

「こ、こちらは、八紘帝國籍採掘船『きよかわ丸』。乗員は、船長秋月摩耶一名のみ。船籍認証番号は……」

 

 状況が飲み込めず呆けていた俺だったが、軍艦による臨検だと理解し、慌てて船籍番号を申告した。

 船籍番号は、各宇宙船に割り振られているユニークな番号だ。

 航路局や軍に照会を求められた場合、提示しなければならない義務があり、国際法でもそのように定められている。

 

「救援感謝します。お陰で助かりました」

 

 宙賊に襲われていた被害者であることをしっかりとアピールすることも忘れなかった。

 誤解を防ぐためにも、こういうときは、自分の立ち位置をはっきりと主張するのは大切なことだ。

 

『『きよかわ丸』貴船の船籍照合が取れた』

 

 その言葉に、ほっと胸を撫で下ろした。何にせよ、これで、最悪の自体は避けられた。

 

『自力航行は可能か?』

「ネガティブ。本船は現在漂流中。救援を必要とする』

 

 回答しつつ、救難要請を示すN.C旗のホログラフを表示した。

 姿勢制御スラスターは何とか生きているものの、メインリアクターは完全に破壊されている。

 他に異常個所が無いか確認してみると、船内エアロックが数箇所破損して、空気漏れと気圧の低下が発生していた。

 あわてて、宇宙服に着替えながら、俺は船内の生命維持機関に重大な損害が発生していることも申告した。

 やがて、『おおよど』から発進した内火艇(カッター)が俺の船に横付けされ、乗り移るように指示された。

 暗礁宙域での修理は危険が伴うため、いったん安全な宙域まで曳航し、そこで応急修理を行うことになった。

 空気漏れが発生していることもあり、『おおよど』に移乗することになったのだ。

 医務室でメディカルチェックを受けた後、俺は艦内の休憩室のような場所に案内され、修理を終えるまでの間、そこで過ごすことになった。

 

「大変だったでしょう。もう大丈夫ですよ」

 

 俺が女性で、しかも宙賊に襲われていたということもあってか、女性兵士が一人、世話係として付いてた。メンタル的なケアも考えての事だったのだと思う。

 ひと心地着いた俺は、とりあえず、一番偉い人に直接お礼を言ったほうがいいかな、と考えた。助けてもらったわけだし、媚を売って少しでも心象を良くしようと思ったわけだ。

 世話役の女性兵士にそのことを告げると、すぐに確認を取ってくれたところ、会ってくれることになった。

 彼女の案内で、現在一番偉い人とやらが詰めている航海艦橋に案内された。

 

「第二機動艦隊群司令長官、東郷三笠宙将です」

 

 軍艦なのだから、一番偉い人は艦長だと思っていたし、そこそこ歳のいったオッサンが出てくるものと思っていた。

 しかし、そこで爽やかなイケメンスマイルと共に現れたのが、東郷さんだったのだ。

 後から知ったことだが、その時は、就役したばかりの『おおよど』と艦載機『瑞雲』の運用テストの視察を行っていたらしい。

 そこで、偶然俺が宙賊に襲われているところに居合わせたのだ。

 一瞬呆けてしまった俺だったが、慌てて頭を下げて、助けてくれた礼を述べた。

 

「礼には及びません。国民を守るのは、我ら帝國軍人の務めです」

 

 イケメン提督はそう言って、軽く手を上げて笑った。涼しげな笑顔が、腹が立つぐらいに様になっていた。

 

「東郷平八郎元帥と同じ姓なんですね」

「偉大な先人には、遠く及びませんが」

 

 社交辞令ついでの世間話でお追従してみたところ、少しはにかんだように頬を掻いてみせた。

 この人の三笠という名前も、東郷平八郎提督が日本海海戦でバルチック艦隊を撃滅した際に座乗していた聯合艦隊旗艦であった戦艦『三笠』と同じ名前だ。

 もしかしたら、この人はプレーヤーで、キャラクターの姓名をそこから取ったのかもしれない。

 社交辞令としての挨拶を済ませてさっさと戻るつもりだったんだが、俺の目に東郷さんの制服の袖口のボタンが目に入った。背広の袖口なんかについている飾りボタンだ。

 それがほんの僅かに解れていたのだ。

 注意深く見てみないと分からない程度ではあったが、服飾系スキルを全てカンストしていた俺の目には、妙に気になって仕方が無かった。

 俺はつかつかと東郷さんの元に歩み寄り、その手を取った。

 

「ん……?」

 

 東郷さんを始め、その場にいた全員の目が俺の行動に目を見張った。

 

「ボタンが解れてます。駄目ですよ、船乗りは身嗜みが第一でしょ」

 

 呆気に取られる周囲を尻目に、俺はいつも常備している裁縫道具でボタンの解れを直してやった。

 

「え、ああ……。これは申し訳ない」

 

 僅かに顔を赤くして、困ったように反対側の手で頭を掻く東郷さんに、その場に居た全員から笑いが漏れた。

 そこで、余計なことを仕出かしたことに気付き、ばつが悪くなった。

 

「やあ、うらやましいですな、閣下」

「東郷提督……。相手は未成年ですよ……?」

 

 揶揄するようなそんな声がそこかしこから上がった。

 

「あ、ええと! み、みなさんも、解れ物があったら繕いますよ! 裁縫は得意なんです!」

 

 誤魔化すように言うと、さらに笑いが起こった。

 お調子者っぽい兵士が「じゃあ、俺のもお願いします!」などと言って自分の制服のボタンを引き千切り、上官に殴られていたりした。

 まあともあれ、それが俺と東郷さんの最初の出会いだったわけだ。


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