ロリ提督から幼妻に転職する羽目になった   作:ハンヴィー

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 紆余曲折の末、東郷さんのストーカー騒ぎは、ガンさん達の芝居だったということで解決した。

 かくしてこの一件以降、俺と東郷さんの仲は公認という事になってしまった。

 更に俺は、ガンさんの奥さん、かなえさんに気に入られてしまったらしく、彼女から頻繁に連絡が入るようになった。

連絡先を教えた覚えは無いんだけど、ガンさんが教えたんだろうか。

 鎮守府内でも、俺や東郷さんを見る周囲の目が、明らかに変わっていた。

 まあ、今更気にしても仕方が無いので、それについては、開き直っていつもどおりに過ごしている。

 ただ、軍の高官(東郷さんの事だ)の結婚ということもあって、手続きや査察があった。

 ハニートラップを防ぐため、士官の結婚には軍の査察が入り、更に将官ともなると、外国人や帰化人との結婚は原則認められない。

 俺の場合、純粋な八紘人という設定だし、なおかつ、軍人としてもそれなりの結果を出しているので、そこはすんなりと終わった。

 問題は、東郷さんの両親への挨拶だった。

 このゲームは、自分の分身となるプレーヤーキャラクターに、どういう家庭環境で育ったかを設定することが出来る。

 それによって、ゲーム開始時のステータスに補正がかかったり、特定の職業に就きやすかったりという利点があった。

 俺は自キャラである摩耶の設定以外はどうでも良かったので、そのあたりは完全にスルーしており、宇宙船の事故で死別という当たり障りの無い設定にしていた。

 凝り性の東郷さんは、自分の両親についての設定をきちんと考えており、父親は元軍人で、母親は普通の民間人という設定だ。

 なお、プレーヤーキャラの家族は、アデルのような強化人間と同じで、必ずNPCとなっている。

 外見や性格は、プレーヤーの設定にあわせて、自動的に決定されるようになっているらしい。

 両親がいるという設定は知っていたけど、実際に会うのは初めてだった。

 ちなみに、幼馴染で恋愛結婚という設定だと聞いている。

父親のほうは、東郷さんが年食ったらこうなるんじゃないかっていう、ナイスミドルなおじ様だった。

 元宙軍士官らしい、スマートな宇宙(うみ)の男ってかんじだ。

 母親のほうはというと、どこかかなえさんを髣髴させるような柔和な笑みを浮かべた、おっとり系の美人だった。

 かなえさんもそうだったけど、軍人の嫁さんって、そういう人が多いんだろうか。

 結論から言うと、俺は東郷さんの両親に気に入られてしまった。

 

「軍隊にしか興味の無いうちの息子に、こんな可愛らしい娘さんが降嫁してくれるなんて……」

「まったくだ。いや、目出度いな。これで、いつ死んでも悔いは無い」

 

 二人は物凄く乗り気で、式場はどこにするのか、式は和洋どちらが良いか、子供の名前は何が良いかとか、当事者の俺達そっちのけで大盛り上がりだった。

 

「お裁縫が趣味なんですって? 家庭的でとても素敵だわ」

 

 東郷さんが、俺のコスプレ趣味をそんな風に伝えていたのだろう。

お母さんがしきりに感心していた。

 コスプレ衣装は自分で仕立ててるから、あながち間違いではない。

 そんなかんじで、終始和やかな雰囲気で、ご両親への挨拶は終わるはずだった。

 俺が、結婚しても軍を退役する気は無いと発言するまでは。

 

「何だって! それはいかん! 結婚後はすぐに退役しなさい!」

「そうよ! 軍人なんて危険な仕事、女の子がやることじゃないわ!」

 

 お父さんが諭すように、お母さんが哀願するように言いながら詰め寄ってきた。

 態度を豹変させた二人に驚きつつも、ある意味正常な反応ではあるよなぁ、とも思った。

 思いはしたけど、それはリアルだった場合の話だ。

 第一、脳筋の俺にとって、いまさら軍人以外のプレイスタイルに変更することはできない。

 何とか、説得できないものかと一計を案じた俺は、二人にある提案をした。

 

「では、結婚後、子供が出来たら退役します」

 

 このゲームには、結婚のシステムは存在するが、子供が生まれるというイベントは存在しない。

 しかし、ゲームの世界で人間のように行動するNPCには、当然そんなゲームの仕様なんて思考ルーチンに入ってはいない。

 それを逆手に取った苦肉の策だ。

 もっとも、今後のアップデートで実装される可能性が全く無いとは言えないところが、完全に安心できない部分ではある。

 東郷さんの両親は、あまり良い顔をしなかったが、不承不承といったかんじで、何とか納得はしてくれた。

 

「ああー、疲れた……」

「悪かったな、ロリ。まさか、両親からあんな発言が飛び出すなんて予想外だった」

「んー、まあ……大丈夫だよ」

 

 済まなそうにしている東郷さんに、俺は笑って言った。

 家族の設定はプレーヤーが行うが、家族として設定されたNPCがどう判断し行動するかまで、プレーヤーが統制できるわけではないのだから、東郷さんのせいじゃない。

 たまたまかもしれないが、東郷さんの両親といいガンさんとこといい、軍人一家は保守的な家庭が多いんだろうか。

 ともあれ、結婚前にやるべきことは一通り終わったので、さっさといつもどおり、宇宙(うみ)の男の艦隊勤務に戻った。

 

「なかなか良い艦ですな、こいつは」

「でしょー?」

 

 俺とガンさんがいるのは、鎮守府の軍港エリアのドック区画だ。

 アデルは、司令部へのお使いに出しているため、いま俺と一緒に居るのはガンさんだけだ。

 俺達が見上げる先には、造船技師である平坂さんにおねだりして作ってもらった新型艦が鎮座している。

 これまでの特型ミサイル駆逐艦と大きく変わらないが、より接近戦と電子戦に特化した仕様になっている。

 これまで使用していた『特Ⅲ型』までは、本来であれば接舷切り込みなんて戦術は考慮されていなかったので、接舷強襲用のカラスは舷側に増設されていたが、今回の艦は艦首部分に格納されており、ラムアタックよろしく敵のどてっ腹に突っ込み、カラスをブチ込み、そこから陸戦要員を突入させる仕様になっている。

 それが、外見的な特徴にもなっており、それまで一貫して優美な流線型だった特型駆逐艦の中でも、かなり無骨なシルエットになっている。

 それ以外の変更点としては、従来型では、四連装光子魚雷発射管二基だったものが、五連装光子魚雷三基に増加し、姿勢制御用のスラスターも増設されていて、接舷時や緊急回避時の操艦レスポンスが格段に向上している。

 近距離での被弾を考慮して、装甲材質も駆逐艦としてはワンランク上の素材が使用されており、戦艦の副砲クラスなら、一度や二度の直撃にも耐えられる構造となっているのだ。

 そのぶん、他の兵装が減らされているわけではなく、主砲やVLSは据え置きのままだ。

 その中でも俺の乗り込む旗艦『あまつかぜ』は、指揮通信機能と電子戦機能を強化したつくりになっており、囮となって敵を誘引する機会も多いため、ECM装備も充実している。

 更に、艦対空ミサイルと光子魚雷の数を減らし、その箇所には、最新式の航走式アクティブジャミングデコイが多数搭載されている。

 アクティブジャミングデコイは、あらゆる光学・電子捜索機器を欺瞞する装置で、相手のレーダーなどの探知機器にこちらの任意の情報を投射することで、相手の電探に映る情報を、好きなように改竄できるのだ。

 たとえば、複数のデコイから発信される情報に戦艦のレーダー反射波や映像を設定することで、一隻で大艦隊を装うことも出来るのだ。

 もちろん、相手方の電子戦能力によっては看破される場合があるため、万能なわけではないが、レーダーを含む電子機器の性能が著しく低下する暗礁宙域では、強力な武器となる。

 えらく高価な装備なので、軍全体に行き渡ってはおらず、俺の戦隊でも配備されたのは今回が初めてで、しかも旗艦である『あまつかぜ』のみの兵装となっている。

 受領したこれらの新型艦は、これまで使用していたの『特Ⅲ型ミサイル駆逐艦』と大幅に仕様が異なるため、新たに『特Ⅳ型ミサイル駆逐艦』という型名が付けられた。

 これらの新型艦を受領してから暫くの間、俺の第二宙雷戦隊は慣熟訓練に勤しんでいたが、それもようやく終わり、次からはこの『特Ⅳ型』での通常任務に就く事になる。

 

「ところで、提督。ちょいと伺いたいことがあるんでさ」

「なんだい?」

 

 妙に真剣なガンさんの声に、俺は少しだけ身構えた。

 

「東郷閣下から伺ったんですがね。結婚しても軍を退役しないってのは本当ですかい?」

「ああ、そうだけど?」

 

 成り行きで結婚することにはなったけど、別にそれで自分のゲームスタイルを変えるつもりは無い。

 艦隊を率いてヒャッハーするのは楽しいし、ゲームそのものを引退するか戦死するまで、俺はずっと軍人のままでいるつもりだ。

 

「そいつはいけませんぜ」

 

 真っ直ぐに俺の目を見つめ、ガンさんは強い口調で言った。

 

「いいですかい、提督。特優者とはいえ、あんたは女だ」

「そ、それが、どうかしたの……?」

 

 いつもと違うガンさんの雰囲気に、俺はやや気圧された。

 

「女が軍人なんてヤクザな商売をいつまでもやってちゃいけません。矢面に立ってドンパチやるのは男の仕事ですぜ」

「……何が言いたいんだ、ガンさん」

 

 東郷さんの両親に続き、ガンさんまでそんな事を言い出すのか。

 正直少しうんざりしながら、俺はガンさんを睨み返した。

 

「女は自分が幸せになる事だけを考えていれば良いんです。良い男を捕まえて、好きになった男の子供を産む。それが女の幸せってやつでさ」

「そんなのは、個人の主観だろう」

「いいや、違いますね」

 

 ガンさんは即座に断言した。

 何を根拠に、そんな自信満々に言ってのけるんだ。

 

「良いですか、提督。男ってのはね、それはそれは単純な生き物なんです」

 

 諭すような悟ったような、そんな複雑な表情で、ガンさんは俺に言い聞かせるように話し始めた。

 

「疲れた身体を引き摺って家に帰ってきた時、可愛い嫁さんに笑顔で「お帰りなさい」と迎えられただけで、その日の疲れなんて、あっという間に吹き飛んでしまうんでさ」

 

 ……言わんとしている事は理解できる。

 確かに、そんなシチュエーションで、摩耶とかアデルみたいな幼妻にお出迎えされたら、俺だってそうなる。

 この笑顔を守るために、俺は昨日にも増して、粉骨砕身馬車馬のように働くぜ! 

 ……って感じに奮起しちゃうな、うん。

 

「そんな程度のことで、男を奮い立たせることが出来るんだから、楽なもんでしょう。それで、世の中上手く回っているんです。男の居場所を守り、鼓舞するのが女の務めってものですぜ」

 

 つまり、ガンさんはそうやって、かなえさんに奮い立たせてもらっているわけか。

 そういや、どこかで、本当に賢い女とは、結婚して主婦になる女だって話を聞いたことがあったっけ。

 

「だからね、提督。東郷閣下と結婚した後は、何も考えずに、俺達に任せてください」

 

 はっきり言って、大きなお世話である。

 結婚したら仕事を辞めろなんて、ある意味、セクハラとも取られかねない発言だ。

 だいたい、何で俺にだけそういうことを言うんだ。

 俺の戦隊には、女性兵士(ウェーブ)だって結構いる。

 副官のアデルだってそうだ。

 色々と言ってやりたいことはあったけど、正直、この話題をこれ以上引っ張りたくはなかった。

 そんなわけで、俺はさっさと話を打ち切ることにした。

 

「……子供が出来たら、退役するってことに決めてるから」

 

 結局、東郷さんの両親を渋々納得させた理由で説得することにした。

 

「……まあ、そういうことなら良しとしましょう」

 

 俺はほっと胸を撫で下ろした。

 子供が出来たらというフレーズが効いたのかもしれない。

 

「おし! んじゃ、今後一切、この話は無し! 良いな!?」

 

 まだ少し言い足り無さそうなガンさんを無視し、俺は強引に話を終わらせた。


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