ロリ提督から幼妻に転職する羽目になった   作:ハンヴィー

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「じゃあ、悪い話から……」

 

 嫌いなおかずから最初に片付けてしまおう。

 

「お前をはじめ、複数の部隊指揮官から陳情が上がっていた対馬宙域方面の軍備増強案だが、軍令部より正式に却下された」

「……やっぱりか。まあ、そうなるだろうと思ってたよ」

 

 『インペリアルセンチュリー』における各国の惑星名や宙域名は、その殆どが元となった国の地名が付けられている。

 日本がモデルになっている八紘帝國は、当然日本の地名が付けられているわけで。

 そのひとつが、厄介な隣国との国境宙域でもある対馬宙域だ。

 リアルの対馬がそうであるように、このゲームの対馬宙域も色々と厄介な問題を抱えている。

 それは、とある隣国による度重なる挑発行為だ。

 その隣国の名は、大リャンバン共和国。プレーヤーが選択できないNPC国家だ。

 名前を聞いただけで、どこの国をパロっているのか丸分りなこの国は、帝國とは比べ物にならないくらい低い国力にもかかわらず、身の程知らずにも、言い掛かりレベルの様々な軍事的・政治的恫喝を行ってきている。

 帝國に対して直接そういう態度を取るだけならまだしも、全く関係の無い第三国に出向いてまで、帝國の悪口を告げ口して回るのだから始末に悪い。

 そんな気持ち悪いところも、元となった国にそっくりだ。 

 で、この国が顔を真っ赤にして主張しているのが、帝國の領宙である対馬宙域を、「半億年前の古来からわが国の領土!」という根拠の無い妄言だ。

 そして、自国領なのだから何をやっても良いという屁理屈の元、採掘船の違法操業や産業廃棄物の不法投棄など、やりたい放題なのだ。

 それだけならまだしも、軍艦を領宙ギリギリに派遣しての挑発行動も後を絶たない。

 肝心の対馬宙域には、惑星防衛用の近距離型護衛駆逐艦数隻が配備されている程度と、非常に心もとない。

 同じ駆逐艦という名称ではあるが、俺が乗っているような艦隊型駆逐艦とは異なり、あくまで惑星近辺の防衛用の艦艇のため、航行性能や戦闘力は限定的だ。

 さっきの宙賊が使っていたスループよりも、少しマシな程度でしかない。

 分りやすく例えると、俺が乗っているミサイル駆逐艦が海上自衛隊や米軍のイージス艦クラスだとすれば、護衛駆逐艦は海上保安庁の巡視船クラスということになる。

 性能差にそのぐらいの開きがあるのだ。

 ふざけた主張と挑発を繰り返す隣国との国境にもかかわらず、その程度の戦力しか配備されていないのは、隣国を刺激しないためという政治家どもの頭の悪い政策によるものだ。

 

「早いところ、今のクソ政権を引き摺り下ろさないとやばいな」

「そうだな。だが、まだゲーム時間で1年も任期が残っている」

 

 『インペリアルセンチュリー』において、プレーヤーは政治家になることが出来ない。

 そのため、国を動かす手段としては、自分と似た考えのNPC政治家に対し、政治献金を行うという方法がある。

 保守的な考えの政治家が大勢を占めれば、保守的な方向に、左翼的な考えの政治家が大勢を占めれば、お花畑な方向に国が舵をきることになるのだ。

 八紘帝國は、現在の日本と同じく議院内閣制をとっている。

 そして、現在の帝國の政権を担っている政党は、残念ながら左翼政党だ。

 そのため、自国の利益にならない政策を次々に打ち出して、俺達プレーヤーが四苦八苦している状況なのだ。

 なぜ、そんなことになってしまったのか。

 保守系の政治家に金を握らせて、大量に当選させればよかったのではないか、という疑問が当然湧き出てくる。

 理由は大きく分けて二つある。

 ひとつは、大量の複アカウントを作成して帝國国籍のキャラを作った思想的に問題のあるプレーヤーが、左翼系のNPC政治家に多額の献金を行い、そいつらを大量に当選させてしまったこと。

 もう一つは、俺や東郷さんをはじめ、真っ当な帝國国籍のプレーヤーの殆どが軍人を職業に選択している脳筋だったこと。

 ガチの艦隊戦なんかは得意だが、その手の搦め手で来ることを全く考慮していなかったのだ。

 気付いた何人かのプレーヤーが慌てて保守系の政治家に資金援助を開始したが時既に遅く、議席の過半数を獲得した左翼政党による政権が誕生してしまったのだ。

 そんな左翼政党が与党に居座っている関係で、俺や他のプレーヤーが何度も提案している国防上の勘案が、ことごとく却下され続けているのだ。

 そんなわけで、国境宙域である対馬宙域は、隣国大リャンバン共和国の侵略の危機に晒されているのだ。

 

「と、まあ。これが悪い話だ」

 

 予想はしていたが、溜息しか出ないな。

 まあ、いい。残りの良い話を聞くとしよう。

 

「んで。最後の良い話っていうのは?」

「うん。お前の第2宙雷戦隊(2宙戦)に新型艦が配備されることが決定した」

「お、マジでか!」

「喜べ。平坂さんの新作だぞ」

 

 『インペリアルセンチュリー』には、2種類の軍艦のタイプが存在する。

 一つは、デフォルト艦と呼ばれる、国ごとにあらかじめ用意された艦艇で、戦艦や空母、巡航艦や駆逐艦など、一通りの基本的な艦種が揃っている。

 性能的に突出しているものは無いが、コストパフォーマンスに優れて使いやすく、どこぞのモビルスーツのように特徴が無いのが特長とでもいうべき基本の艦艇だ。

 もうひとつが、カスタム艦と呼ばれる艦船設計スキルを持つプレーヤー造船技師が設計したオリジナル艦だ。

 俺が今乗っている艦に限らず、今現在帝國宇宙軍で運用されている殆どの艦艇は、実はゲームの設定として予め用意されていたデフォルト艦ではない。

 平坂(ひらさか) 譲一(じょういち)という、東郷さんに並ぶ古参廃プレーヤーが設計したものなのだ。

 とにかく、造船に命をかけている人で、今では、戦艦や空母はもとより、補給艦などの補助艦艇にいたるまで、平坂さん設計の艦艇が八紘帝國宇宙軍のデファクトスタンダードとなっており、デフォルト艦の殆どは姿を消してしまっている。

 それだけ、平坂さんの造る艦が高性能だということでもある。

 中でも、俺達宙雷戦隊の使用する駆逐艦は傑作中の傑作といわれ、他国でも評価が高く、いくつかの国からは輸入したいという問い合わせがあったくらいだ。

 平坂さん設計の駆逐艦シリーズは、特型ミサイル駆逐艦と呼ばれている。

 製造時期によって3つのグループに分けられ、それぞれ特Ⅰ型、特Ⅱ型、特Ⅲ型と命名されているが、流線型の優美なシルエットと、見た目の美しさに似合わない凶悪な武装(駆逐艦クラスにしては)を備える点は、全てのタイプに共通している。

 また、特Ⅰ型は、ネームシップとなった1番艦『ゆきかぜ』の艦名から『ゆきかぜ』型、特Ⅱ型、特Ⅲ型も同様の理由で、それぞれ『しぐれ』型、『うしお』型と呼称されることもある。

 ちなみに、俺の乗っている『みちしお』をはじめ、第2宙雷戦隊に配備されているのは、最新の特Ⅲ『うしお』型に分類される艦だ。

 このネーミングセンスから、この人も相当なミリオタであることがわかる。

 特型という艦級は、かつての大日本帝國海軍が、ワシントン軍縮条約下の厳しい制約の元で建造し、欧米列強を驚愕させた傑作駆逐艦から取られたものだからだ。

 何気に、それぞれの型の1番艦に大東亜戦争時の武勲艦の名を充てているところにも強いこだわりを感じる。

 

「平坂さんが、お前の要望書を読んで無駄にやる気を出してしまってな。ほぼ要望どおりの艦が完成したようだ」

「やった! 平坂さん、愛してる!」

 

 最後のは、間違いなく良い話だった。

 今乗っている艦は、特型の最新バージョンということもあり、高いレベルでバランスの取れた良い艦ではあるんだけど、万能タイプの量産型ということもあって、俺の得意とする戦術にはちょっと向いていない。

 俺の要望どおりの艦になるなら、今まで以上に宙賊狩りに精が出せるというもんだ。

 平坂さんにも、あとでお礼を言っておかなくちゃな。

 

「私からの話は以上だ。お前から何かあるか?」

「いや、特には」

 

 一瞬、さっきの白菊の件をチクってやろうかとも思ったが、やめておくことにした。

 あの手の女は、非常に面倒くさい。

 極力、関わり合いになるのを避けたほうがいいだろう。

 

「よし。じゃあ、あとは鎮守府で会おう。例の件、くれぐれも頼むぞ」

「気が進まないけど、仕方がないね。あー、それはそうと……」

「どうした、ロリ」

「俺と東郷さん、ごっことはいえ、婚約するんだよな?」

「ああ、そうだ」

 

 摩耶の年齢設定は15歳だが、たしか東郷さんは25歳という設定だったはずだ。

 この状況って、周りから見たら。

 

「むしろ、東郷さんのほうがロリコンってことじゃね?」

 

 10歳年下の未成年と婚約するイケメンエリート提督。実にいかがわしい。

 気付いていなかったのか、気付いてはいたけど突っ込まれたくなかったのか、東郷さんは難しい表情になってしまった。

 まあ、どっちにしろ、艦隊内で噂になってるっていうくらいなんだから、手遅れでしかないと思うけど。

 

「寄り道しないで、さっさと帰って来いよ」

 

 無愛想に告げた後、通信は切れてしまった。


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