細氷の華~遥か彼方のスヴェート~ 765PRO.Presents   作:dsyjn

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ひょえー!


第八話 亡霊の幻影

──懺悔を

 

 天使が寂しげに囁く。

 

──贖罪を

 

 悪魔が悲しげに嘯く。

 

──弾劾を

 

 死神が──楽しげに微笑んだ。

 

 

 

旧歴254-2年 帝歴764年 月 冬の湖 冬岸鉱山 四乃春 十日

 

 テラフォーミングの時、重力や磁気、大気組成、圧、と惑星規模の変革の次に優先されたのは水。海、湖や池、あるいは川だった。水の循環を生み出す川は、開発初期において人類の主導下で引かれたのは想像に難くない。が、それも束の間の話に過ぎなかった。

 水は循環の過程で徐々に人智を超えて地上に、そして地下に、その身を張り巡らせていった。そのためテラフォーミング初期の月面では、予想だにしない水害事故の発生も少なくなかった。

 ここもその一つだ。冬岸鉱山地底湖。かつてここで、鉱山施設の一つが稼働していた。だが、今やそれもひっそりとした水の底、泡沫の記憶である。

 ──不注意な掘削が招いた結果だった。記録によると、誤って水源を決壊させてしまったかつての開拓者たちは迫りくる濁流に為す術もなく呑まれ、今もこの湖に眠るという。しかし、この湖でかつての名残りを見せるのも、今や水面から伸びる錆びたトロッコの線路ぐらいのものだ。

 そんな逸話を知ってか知らずか、地底湖に歌が響く。まるで鎮魂のように。

 

 自由を夢見る孤独な鳥の詩。未来を信じ、はばたく蒼い鳥。愛に満ちた過去を断ち、前だけを見つめていく、と。歌は最後にそう締めくくられた。

 

 歌が終わると同時に青白く光る地底湖に拍手がこだました。

 

「綺麗な歌ですね」

 

「……誰?」

 

 千早は自身の歌に賛辞を贈る姿の見えない少女の声に訝しげな表情を浮かべた。

 

「ごめんなさい……! 驚かせちゃったかな?」

 

 ひょこっと岩陰から白い人影が顔を出す。

 

「いえ……たしかに少し驚いたけど。ありがとう、私の歌を褒めてくれて。素直に嬉しいわ」

 

 千早に微笑みかけられて白い少女も笑みを浮かべた。

 

「あんまりにも綺麗だったので……つい!」

 

 少女は興奮気味にふんすと鼻息を鳴らした。

 目の前に現れた少女に対する千早の第一印象は白い、だった。茶色いショートボブの髪に真白い肌。どこか儚げな印象を受ける幽遠な立ち姿。貴音とはまた違う幻惑を抱えた少女だった。

 四条貴音が月下に咲く高嶺の花ならば、彼女は雪に残された歩みの軌跡。目を離したすきにふと消えてしまいそうな憂いを感じさせられる。服装もこの洞窟ではまず見かけることのない白いパフスリーブのワンピース。

 千早は笑みを浮かべる反面、鮮烈に周囲から浮いている彼女への警戒心を強めた。

 しかし、そんな千早の胸の内に気付く素振りも見せず、彼女はひたすら無邪気だった。

 

「こんなところまで人が来るなんて珍しいね」

 

「そうなの……? こんなに綺麗な場所なのに」

 

 千早は感慨深げに呟くと地底湖を見渡した。

 彼女達の前に広がる地底湖はヒカリゴケの金緑の光と異なり、夜空に浮かぶ星のように青白い光を湛えていた。

 

「……ツチボタル、初めて見たわ」

 

 千早は蒼白の瞬きを前に静かに声を発した。

 この地底湖を青白く照らしていた光の正体はツチボタルの幼虫だった。かつての開拓者たちの置き土産か。はたまた長い時間をかけて別の洞窟からここまで移動してきたのか。

 それはもはや月の開拓から数百年も後の世界の住人である千早たちにとっては分かりえない壮大な神秘の欠片に過ぎなかった。

 

「あなたは……地球人?」

 

 千早は躊躇いがちな口調で少女の正体を尋ねる。だが少女の返答は千早の想像していたものとは違った。

 

「……どう、なのかな?」

 

「……?」

 

 曖昧な少女の返答に千早は隣を見た。

 彼女は表情を変えることもなく千早と同じように青白い光を眺めていた。

 

「私、よく分かんなくなっちゃった。……今の私は、私なのかなって。もしかしたら私はもう死んじゃっていて、今の私は、私を私だと信じている何かお化けみたいなものなのかも」

 

「……」

 

 千早には彼女が何を言ってるのかまるで分からなかった。……そしてこの少女もまた千早に理解を求めているようには感じられなかった。あるいは自分に言い聞かせているのかもしれない。

 ──青い光が揺れる少女の瞳に映る。

 彼女は自分の掌をかざすと何かを確かめるように握りしめ、千早に目を向けた。

 

「萩原雪歩。私の名前は萩原雪歩。……あなたのお名前は?」

 

「……如月千早」

 

「如月千早。ね、千早ちゃんって呼んでいいかな?」

 

「それは構わないけど……萩原さんはここで何をしていたの?」

 

 千早は雪歩に別の質問をぶつけてみた。目の前の少女は見るからに怪しい。もしかしたら彼女なら何かこの鉱山の秘密を知っているかもしれない、と。それに萩原雪歩という少女にも純粋に興味を感じた。

 

「探し物について考えに耽けっていた、と言えばいいのかな?」

 

 だが返事はやはり雪を掴むようにふわふわしたものだった。

 

「正直に言っちゃうと何もしていなかったってことかな、えへへ。ただぼっーとしていたの」

 

 雪歩は照れくさそうに笑う。

 

「私、いつもここで隠れているの。誰かに見つからないように。でも千早ちゃんの歌に感動して出てきちゃったけど」

 

「……そう。そういうことなら、このことは誰にも言わないわ。萩原さん」

 

「ほんとに! ありがとう、千早ちゃん! また遊びに来てよ! もっと千早ちゃんのこと、知りたいな」

 

 雪歩は満面の笑みを浮かべると千早に抱きつかんばかりに詰め寄って手を取り、ぶんぶんと握手を交わした。

 

「ええ、いいわよ。ふふ、私もなんだか萩原さんのこと、興味が湧いてきたわ」

 

 雪歩に気圧されるように戸惑いをみせるも千早はすぐに気を取り直し、笑みを返した。

 

 そこへ。

 

「おーい! 千早さーん!」

 

 静香の呼び声だった。

 待つ間もなく静香が地底湖から伸びる坑道からひょっこり姿を現した。

 

「こんなところにいらしたのですね、千早さん」

 

「えぇ」

 

「……あれ? お一人ですか?」

 

「いえ、そんなはず……」

 

 千早は静香の方に向けていた視線を正面に戻し、息を呑んだ。

 そこには、ついさっきまでいたはずの少女の姿はなかった。

 

「千早さんがどなたかとお喋りしているのが聞こえたので来たのですけど」

 

「……」

 

 千早はくるくる周りを見渡してみたが萩原雪歩という少女がいた形跡はどこにも見当たらなかった。まるで霧のように突然消えてしまった彼女。

 さっきのは夢だったのだろうか……。ふと、そう考え込んでしまうくらい、見事な消失だった。

 千早はゆっくり息を吐くと、いえ、と首を横に振った。

 

「歌を歌っていたのできっとそれが聞こえていたのでしょう」

 

「歌?」

 

「えぇ。……嫌なことや辛いことがあった時は歌を歌うんです、私」

 

 静香は驚いた素振りを見せたがすぐに柔和な笑みを浮かべ

 

「素敵ですね」

 

 と答えた。

 

「行きましょう、千早さん。恵美さんもだいぶ調子が戻って来たみたいです。一緒にご飯を食べに行きませんか?」

 

 千早は頷くと静香の後ろについた。最後に、彼女はもう一度背中の湖に目を向けた。そこに少女の影は、やはりなかった。

 

 

 

「あの地球人の少女はどうされました?」

 

 静香と並んで歩いていた千早はふと疑問を口にした。

 

「あの子でしたらうちの待機室で手当をしたのですけど、すぐに洞窟に帰ってしまいました」

 

「あの傷で……?」

 

「仕事をしてないとまたああいった仕打ちを受けると体に覚え込まされているのでしょうね……。彼女たちのほとんどは恐怖に突き動かされています。……一度そうなってしまった彼女達に、私は何もしてあげられない」

 

 悔しげに唇をかむ静香に千早は何か声をかけねばと思った。だがそれを無粋な濁声が邪魔する。

 

「……よう」

 

 坑道の暗がりから二人の前にぬっと現れたのは、さきほど少女に暴行を加えていたあの憎たらしい男だった。

 

「さっきは随分と偉そうな口きいてくれたじゃねーか」

 

 身構える千早を庇うように静香は一歩前に踏み出す。

 

「……それで?」

 

「いいや、たまたまここを通りがかっただけさ。そう身構えるなよ」

 

 男はその巨躯を揺らしながら静香の横を通り過ぎようとする。そこへ。

 静香の肩に男が手を乗せる。そして耳元で下卑た笑みを浮かべ、囁いた。

 

「あとで覚えとけよ、地球人贔屓の売女が」

 

 乱雑に静香を押しのけると男はその場を後にした。

 よろめいた静香を千早が慌てて支える。

 

「大丈夫、最上さん!?」

 

「えぇ、ありがとうございます。それよりも千早さんは大丈夫でしたか?」

 

「大丈夫も何も……」

 

 千早は男の去っていった方向に目を向け、怒りを顕わにする。

 

「あの男、どこまで野蛮な人なの!」

 

「いいんです、千早さん」

 

「いいって……!」

 

「私、こういうのには慣れていますから」

 

 千早は静香がここまでされるがままなのに我慢ならなかった。ああいった輩には言葉など通じない。力づくにねじ伏せるのも時には必要なのじゃないか。そして静香はおそらくそれをできるだけの力があるはずだ。

 だからこそ静香の言葉に千早は憤慨した。

 

「こんなこと慣れたらいいってものじゃないでしょう!」

 

「分かってます!」

 

 千早の叱咤に静香は怒鳴り返す。

 

「そういえばまだお話していませんでしたね。私の隊に私以外いなかった理由を」

 

 

 

 きっかけは一人の地球人を助けたことだった。

 この開発支局に来て、静香は地球人の受けている惨状を目の当たりにした。だが、静香は地球人を助けることはしないことに決めていた。彼女には金星軍に入り、果たしたい目的があった。そのためにもこんなところで躓くわけにはいかないと。自分を殺して、見て見ぬふりをした。

 だが。ある日一人の、自分と同い年くらいの金髪で癖っ毛の少女が集団で嬲られるのを目の当たりにしたとき。彼女は自分のタガがはずれるのを自覚した。

 それは正直に告白すると、別にその少女に何か特別な感情を抱いていたから、とかそういうことではなかった。ただ、今まで溜まっていた何かがその時溢れてしまったのだ。

 

 それから彼女は自分が何をしたのか曖昧にしか覚えていない。ただ、次の瞬間、自分の周りには先ほどまで少女をいたぶって悦に浸っていた下種たちがのびていた。

 やってしまった、と静香は思った。だが後悔先に立たず。彼女は本来、地球人奴隷のために作られたという懲罰房送りになった。

 その時、横山局長だけが、よくやった、と笑って肩を叩いてくれたことを静香は妙に覚えていた。

 ほとんど光も射さぬ懲罰房の暗闇で、彼女は思った。これも地球人への虐待を見過ごしてきた自分への罰なのだと。

 

 懲罰房から出た静香に待っていたのは同僚から虐げられる日々だった。鬱屈としたこの職場でただ一人の女性でもある静香は同僚たちからしてみればいい餌に違いない。

だが、数々の屈辱的な仕打ちを受けるも彼女はやり返すことをしなかった。

 ──こんなものではなかった。かつて自分が見て見ぬふりをしてきた地球人への凌辱の数々は。静香はかつての自分の非道さに唇を噛みしめ、甘んじてその待遇を受け入れたのだ。

 見かねた奈緒が新しく予備隊として第三小隊を作り、静香をその隊長に指名するまで彼女はそのすべての仕打ちに耐え続けた。

 

 予備隊にはこういった事情と無縁で、地球人に寛容な月の人々を採用しようと奈緒は静香に提案した。静香も奈緒の必死な説得に応じることにした。やがて静香の元に新しく部下が迎え入れられた。静香もそれを素直に喜んだ。

 

 だが、それも束の間だった。

 

 地球人に対等に接し、何かと静香に賛同して反抗的だった月の住人をGRDFの面々は快く思わなかった。そして静香の部下にまで彼らは悪逆の手を広げた。

 静香は二度目の懲罰房送りとなった。自分の目の届かぬところで部下が繰り返し暴行を受け、脅迫されていたことを知った静香は激昂し、首謀者も実行者もすべからく重傷に追い込むほど痛めつけた結果だった。

 酌量の余地があるとしてGRDFから追い出されることだけは許されたが、次はないと奈緒は申し訳なさそうに静香に告げ、彼女を懲罰房から解放した。

 そこにかつての彼女の部下はもういなかった。静香が懲罰房に閉じ込められた間も続いた責め苦に耐えられず一人、また一人と辞めていってしまったという。

 

 静香はもう部下もとらないと奈緒に告げた。だが奈緒は最後のチャンスだと、最後にもう一回だけ頑張ってみないかと頼み込んだ。今の流れを変えないかと。

 

「静香、私もこのままやったらあかんと思ってる。静香だけやない、地球人の、いや私の社員のためにも、あいつらを見返したれるような、そんな流れに変えたい! 静香はそのための希望や! な、頼む!」

 

 奈緒の言葉の真意は静香にも分からなかった。だが、少なくとも彼女は自分のことも地球人のことも考えて行動を起こそうとしていると予感した。だから静香はその頼みを承諾した。最後だけですよ、と。

 

 

 

「千早さん、私はあなたたちに辞めて欲しくないんです。少なくとも現状を打開できるようなそんな状況になるまでの間は。だから千早さんたちにあいつらの興味が向かないようにしたいと思っています」

 

 静香の真剣な表情が坑道の明かりに薄く浮かび上がる。

 

「幸いなことにあいつらの憎悪の対象は私です。かつて二度も自分や自分の仲間を病院送りにされた屈辱を晴らしたいとおそらく彼らは思っています。私が彼らの鬱憤を引き受けている間は少なくともあなたたちにも、あるいは地球人たちにも、彼らの狼藉の矛先はほとんど向かないでしょう」

 

 あんな例外もいますが、と彼女は男の去っていった方向に目をやり、肩をすくめた。

 

 千早は自分を恥じた。──自分はなんて残酷なことを彼女に言ってしまったんだろう。彼女が今まで築いてきたものを根底から否定するようなことを言ってしまったと。

 だが。やはり彼女の言い分は間違えっている。自己犠牲ですべて解決するだなんて、そんなことあっていいはずがない。

 

「……最上さん」

 

 しかし、千早はそれを敢えて言うことはしなかった。それは……少なくとも今の自分が言ってよいことではない。彼女には彼女なり考え方があって、それを何の関わりもない自分が否定しても、お互いに良くない結果しか生み出さないことを如月千早は知っている。

 だから今は、一言だけ。それだけで十分だと思った。

 

「ありがとう」

 

 

 

「恵美さん、入ってもよろしいですか?」

 

「あぁー! どうぞどうぞ!」

 

 第三小隊の待機室のカギが開く。扉が開くと同時に恵美が出迎えてくれた。

 

「千早! どこ行ってたの? 静香、すっごい探してたよ! あ! 静香もおかえり! 一人で寂しかったよぉ!」

 

 恵美は二人に抱きつくと頬をスリスリ押し当ててきた。

 

「ちょっ、ちょっと恵美さん!?」

 

 恵美の突然の過剰なスキンシップに戸惑いを隠せない静香だったが隣の千早は慣れたもので恵美をなだめると自分から引き離した。

 

「彼女、いつもこうなんですか?」

 

「所さんは……そうね、大体いつもこんな感じかしら」

 

「ぶーぶー、二人とも、なーんかテンション低いよ! これからお昼御飯だよ! もっとテンション上げていくよ!!」

 

 恵美はたしかに普段から元気というか元気すぎてこちらが疲れるくらい元気だが今日の彼女は少し変にも千早には思えた。

 ──無理もないわ。あんな光景を見た後だもの……。

 千早は地球人が虐げられている光景に動揺していた恵美の姿を思い出した。あんな姿の恵美を千早は初めて見た。一週間ほどとは言え寝食を共にした仲である。まさか彼女がここまで動じるとは千早も予想していなかった。

 恵美は自分が思っている以上に繊細な人だったのかもしれないと千早は彼女への考えを改めた。そう考えると目の前で見せている元気な姿もから元気かもしれない。

 

「恵美さん、お身体の調子は大丈夫ですか? なんだか優れないみたいでしたけど」

 

 だがどうやら静香はそれに気付いていないようだった。恵美も少しバツの悪そうな表情に戻ると照れくさそうに笑った。

 

「あ、あはは……。ごめんね、さっきは柄にもないところ見せちゃって。アタシはもう大丈夫だからさ! ほらほら二人とも行くよ! お昼御飯!」

 

 恵美はにゃははは、と笑って二人の背中をぐいぐい押すと廊下を歩かせた。

 

「ところでさ、静香」

 

「……何でしょうか」

 

「食堂ってどこなの?」

 

「……反対方向です」

 

 

 

 広いとは言い難い広さのためか食堂は案外混雑していた。食堂の壁や床は打ちっぱなしのコンクリートで、ところどころ何かシミのような黒い汚れも目立った。机や椅子も埃っぽく、お世辞にも綺麗な空間とは言えない。

 三人はGRDFの男たちに混じって食事を受け取ると、小さな机に肩を寄せて座った。

 

「うーん! このお魚おいしー! あ、千早の唐揚げもおいしそう!」

 

「良かったらあげるわ、所さん」

 

「えっ、いいの!? えっへへ、それなら遠慮なく……!」

 

 狭苦しく小汚い食堂だったが、どうやら食事はその限りではない様だった。存外悪くない味の食事に新人二人は安堵する。

 千早と恵美がお互いにおかずの交換をするなか、静香は真剣な表情で自ら頼んだうどんを睨み付けていた。

 

「……どしたの、静香?」

 

「待ってください、恵美さん。今、私は精神を集中しているんです」

 

「……?」

 

 千早と恵美は顔を見合わせると静香の様子を見守る。どうやら彼女はぶつぶつと独り言のようなものを呟いているようだ。

 

「この麺はおそらく月見製麺が生産している半生うどん……。特徴は地球から見た月を意識した、このわずかに黄色味がかった艶のある色調ともちっとした食感。今まで再三に亘って食堂の意見箱に月見製麺のうどんを食べてみたいという旨の投書をしてきたけどついにこの時が……!」

 

「あ、あの……最上さん?」

 

 千早の声に耳を傾けることもなく、静香は目を閉じるとうどんの匂いをかぐ。

 

「めんつゆは匂いからおそらくいつものかつお出汁……。月見製麺のうどんは昆布出汁とよく合うという話だけど、ここは及第としましょう。さて、うどんの方は……」

 

 ぱちんと割りばしの割れる音。箸を構え、静香はいざ、と口にした。そしてうどんを挟んだ瞬間。彼女の目が見開かれる。

 

「これは……!」

 

 尋常じゃない静香の様子に千早と恵美は開いた口が塞がらなかった。静香はうどんを箸で掴んだまま固まっていた。

 

「……なんだか静香、様子が変だね」

 

「どうやらうどんに相当の思い入れがあるみたいね、彼女」

 

 二人は静香に聞こえないように小声で静香の様子を窺ったが、どうやらその必要もないほど、彼女は本当に周りの様子が見えていないようだった。

 幾分の間固まっていた静香がわなわなと震え出す。千早たちも固唾をのんでその様子を見ていたが。

 

「……甘い!」

 

 突然の静香の叫びに二人は肩をびくっと震わせた。

 

「甘すぎる! 湯切りが甘すぎだわ! これじゃあうどん本来のもちもち感を味わうこともままならない!」

 

 静香の言葉に二人はまたも唖然とした。あんまりにも二人の予測を超えた静香の行動に一瞬、二人の思考が固まる。

 

「これは抗議するしかないわ! いいえ、いっそ私が一からうどんの作り方を教えて……!」

 

「ちょっ、タンマタンマ! 待ちなよ、静香! どうしちゃったの!?」

 

「止めないでください、恵美さん! やはりこの食堂にはうどんのイロハから教えないといけないんです!」

 

「静香、それ本気で言ってるの!?」

 

「私はいたって本気です!」

 

 静香の暴走に恵美が慌てて止めに入る。それを眺めていた千早はつい肩を震わせて笑い出した。

 

「……ふふ、ふふふ!」

 

「ち、千早! 千早も笑ってないで止めてよ!」

 

「ご、ごめんなさい、所さん……! うふふ、でもなんだか面白くって!」

 

 もう、と恵美は頬を膨らませてみせたがぷっ、と噴き出すと彼女も耐え切れず千早につられる形で笑い声を上げた。

 

「どうされたのですか? 二人とも笑い出して……」

 

「いや、静香が面白くって! あははははっ!」

 

「お二人とも! 私にとっては笑い事じゃないんですよ! では皆さんにうどんの素晴らしさをプレゼンするところから始めましょう!」

 

 

 

「気に食わねぇ」

 

 楽しげな女性陣の様子を眺める一人の男。地球人を毛嫌いするあの男だ。

 男は机に脚を投げ出してつまらなそうに身体を揺らした。

 

「お前らもそう思わねぇか?」

 

 男は周りに座る同僚たちにも同意を求める。だが彼らはみな一様に暗い表情だ。

 

「おい、なんとか言えってんだよ!」

 

「なぁ」

 

 苛立たし気に声を荒げる男に同僚たちは気まずそうに目を逸らす。しかし、哀れなことに目が合ってしまったそのうちの一人が、観念したようにおずおずと男に話しかけた。

 

「んだよ」

 

「もうあまり目立つことはしないでくれよ。……お前も知ってるだろ? あの局長が亡霊を連れてきたって話をさ」

 

「……あぁ、知ってるさ。あれだろ? 悪い子にはお仕置きするってぇ子供騙しの噂だろ?」

 

「子供騙しなんかじゃねぇ! 聞いたか? 第一小隊の隊長が変わったって話をよ。あの人、地球人いびりにかなりご執心だったそうじゃねぇか。……そのせいで枕元に亡霊が化けてでたんだとよ。相当痛めつけられたってぇ話だ。ブルッた隊長はそのままGRDFを辞めて金星に逃げるように帰ったんだとか」

 

 男は黙ってその話を聞いていたが、やがて乾いた笑い声をあげ。

 

「馬鹿にしてんのか!」

 

 と大喝。

 

「幽霊に痛めつけられた? 馬鹿言え、幽霊に実体があったとでも言いてえのか? 笑い話じゃねぇか! くっ、ははははは!」

 

 男はひとしきり笑うと机を拳で思い切り叩き潰した。同僚たちの昼食が机の割れ目に吸い込まれていく。床に料理と皿が散乱した。自分達の昼ご飯を床に没収された同僚達は悲しげに床を見つめたが覆水盆に返らず。

 

「良いこと教えてやる。俺の枕元には二回、幽霊と名乗る女が出てきた。二回目は襲いかかっても来たが、電気をつけりゃ逃げ出したのか、あっさり消えていなくなってたぜ。あぁ、たしかに噂通りだ。だがな、俺はそんな与太話信じちゃいねぇ! この施設に女なんざしみったれた地球人とあのGRDFの女ぐらいしかいねぇ。俺はその幽霊の正体をあの最上とかいうクソ生意気な雌餓鬼だと睨んでる」

 

 男は試してやろうじゃねぇか、と不敵に笑った。

 

「どうせ今まで受けてきた虐待の復讐とかそういった下らねぇこと企んでるんだろ。幽霊自称してるほどの死にたがりだ。俺が白日の下に引きずり出して、冥土に叩き返してやらぁ」

 

 くつくつと。男はかみ殺した笑い声とともに立ち上がり、少女たちの方へ歩み出した。

 

 

 

「幽霊騒ぎ?」

 

 恵美が首を傾げて静香の言葉を反芻する。静香は頷くと、うどんを啜って顔をしかめたが、恵美の疑問に答えるべく言葉を続けた。

 

「そうです。最近GRDFの間で噂になっているそうですよ」

 

 恵美は千早の横腹を肘でつつくと小声で話しかける。

 

「これってもしかして……」

 

「……えぇ、何か生物兵器の噂の手掛かりになるかもしれないわね」

 

 千早も恵美の合図を察して小声で返事を返すと。

 

「それで、その幽霊の噂というのは一体どんなものですか?」

 

 と静香に続きを促した。

 

「えぇ、噂によりますとその幽霊、地球人を苛めていた人の枕元に現れるそうです。最初はただの忠告、懺悔を、と耳元に消え入りそうな声で囁いてくるらしいです。幽霊を見た人によりますと、白い天使のような少女の見た目だとか」

 

 幽霊、白い天使のような少女、という単語に千早は一瞬、地底湖で出会った白い少女のことを思い出した。

 

「……まさか」

 

「どうかしましたか、千早さん?」

 

「いえ! なんでもないの」

 

 静香が首を傾げて正面に座る千早の様子を窺うも、何でもないと答えられてはそれ以上の追及もできそうになかった。静香もあまり千早の様子を気にすることもなく、ふと千早の隣に座る恵美に目を向けた。

 

「恵美さん!?」

 

 だが恵美はというと、彼女は今までにない形相で虚空に目を泳がせていた。隣に座る千早が無表情なぶん彼女の様子は一際目についた。

 

「ア、アタシ、あんまり怖い話とか普段聞かないからさ。なんていうか、別に怖いとかそういうんじゃないよ! あはは、あはははは!」

 

「ごめんなさい、話の腰を折ってしまったようですね。続けてください」

 

 それを知ってか知らずか千早は事も無げに静香に話の続きを催促した。静香は恵美の様子を訝しく思いつつ、彼女の言葉を信じて話の続きを話すことにする。

 

「……そうですね。まぁ、話の続きですけど、その忠告を無視して地球人に危害を加え続けた人の元には再度、少女の亡霊が現れるそうです。今度は赤い瞳に2本の角を持つ悪魔のような少女が。そしてこう呟くんだそうです。──贖罪を、と。それは合図だそうです。少女の獲物になった、という。そしてその幽霊は一気に襲いかかってきて──!」

 

「うわぁああああ!!!」

 

 静香が話のクライマックスにかけ、盛り上がりを見せ始めたところで恵美の叫び声が重なった。

 

「待った待った! ごめん、嘘! さっきのは嘘! 本当は怖い話、アタシ結構苦手なんだよぉ!」

 

 恵美が泣きそうな表情でブンブン手を振る姿に静香は噴き出した。

 

「し、静香?」

 

「あはは、やっぱり怖かったんですね!」

 

「……あー! 静香、それ分かってて話し続けたの!?」

 

「ふふふ、だって恵美さん、怖いわけじゃないってご自分で言いましたから! あはは!」

 

「察してたなら気遣ってよぉ!」

 

「ふふふ、だって怖がってくれそうなのは恵美さんしかいなかったですし」

 

「……えぇ!? そうなの!?」

 

 恵美は静香の指摘で千早の方に目を向ける。千早はというと落ち着いた様子で食後のお茶をすすりつつ、恵美に向かって心底疑問な表情を浮かべていた。

 

「あの、所さん? まだ怖がるところではないと思いますけど?」

 

 千早の様子に恵美は脱力するように机に顔を突っ伏した。静香も全く怖がる素振りを見せない千早に首をすくめた。

 

「まぁ、千早さんの言う通り、別に死人が出るような怖い話ではないんです。たしかに、その二度目の幽霊の襲撃にあった方はいらっしゃるそうですけど、精々地球人に手を出したことを一生後悔する程度に痛めつけられて終わりだそうです」

 

「そ、それはそれで不気味な話だね……」

 

 恵美は顔を上げることもなく感想を述べた。だがふと恵美は一つ疑問に思った。

 

「ん? でもそれってなんで幽霊だと言われてるの? もしかしたらただの強くて怖い女の子かもよ?」

 

「所さん、そちらの方がむしろ怪談な気がするけど……」

 

 恵美の指摘はたしかに当然なことだった。だが、GRDFよりも強くて残虐な少女がこの施設をうろついているという話は、千早からしてみれば幽霊なんかよりよっぽどぞっとしない話だった。

 

「これも横山局長のあの噂と絡んでくるんですけど……」

 

 静香は恵美の疑問を受けて小声になって答える。

 

「横山局長がここに左遷される原因となったトンネル崩落事故では金星人の犠牲者を大々的に報道する陰で実は多くの地球人労働者も亡くなっていたそうなんです。そんな地球人の犠牲者の一人が横山局長に憑いてここまできたとか……」

 

「……聞かなかったら良かった」

 

 恵美はげっそりとした表情を浮かべ、再び机に顎を乗せた。

 

「で、この話はこれで終わりじゃないんです」

 

 もう終わったと思っていた静香の怪談にはまだ続きがあるようで、恵美はさらに脱力した。かたや千早は眉を顰めると静香の話に耳をそばだてた。

 

「実はこの二度目の後にも懲りずに悪事を行うともう一度、幽霊が枕元に訪れるそうです。そしてそうなったら──」

 

「どうなるんだよ。教えてくれよ」

 

 三人が囲んでいた机に大きな影が差す。

 

「あなたは……」

 

 静香が身構えるよりも早く、影は静香を殴り飛ばした。静香は椅子から崩れ落ち、床に身体を投げ出した。

 

「あぁ、わりぃ。答え聞くより先に手が出ちまった。で、どうなっちまうんだ? 俺にもその幽霊ってやつが二回来たんだよ。ほら、今日また不本意とは言え地球人を殴っちまっただろ? 三回目、何が起こるのか今夜は気になって眠れやしねぇなぁ」

 

 それは二人にも見覚えのある男だった。あの傍若無人で地球人を執拗なまでに足蹴にした輩だ。

 突然の凶行に茫然としていた恵美と千早だったが、二人はお互いに頷くと身構えようとする。だが。

 

「待って!」

 

 静香が二人のこれからしようとすることを察して制止する。

 

「でも、静香──!」

 

「恵美さん、大丈夫だから! 千早さんも! 分かってるでしょう!」

 

 静香の言葉によって、千早の脳裏によぎる彼女の今までの苦難の日々。千早は自分の行動に躊躇いを感じた。

 静香は床に座り込んだまま男を睨み上げる。

 

「なんだ、その反抗的な目は」

 

 男は舌打ちすると机の上のうどんの残り汁を静香にぶちまけて、彼女の腹に蹴りを入れた。

 静香は男の蹴りに身体をくの字に曲げると止めどなく咳をする。どうやら男の蹴りで肺も圧迫されたのか。咳をするたび、静香の綺麗な黒髪から汁が滴り落ちた。

 

「おうおう、やり返してこねぇのか? まぁ、俺もそっちの方が都合がいい。お前には地球人共の前で大恥かかされたんだ! これくらいで済むと思うな──」

 

 男の罵声はしかし最後まで静香に聞き届けられることはなかった。それもそのはずだった。男は文字通り横に吹き飛んでいた。

 

──静香は信じられないものを目の当たりにしていた。

 

あの温厚かと思われた千早が、人を殴り飛ばしていたのだ。

 

「最上さん、私はどうやらあなたの思っている以上に頭の悪い人間です。私はあなたが今まで努力して努力して、ここまで積み上げてきた全てを知ったうえで、それを全部否定します」

 

 千早は強く拳を握ると静香をきっと見下ろした。

 

「あなたにはあなたのやり方があるように私には私のやり方があります」

 

そして今度は男に目を向け、千早は身構えた。

 

「そして、私の友達をここまで侮辱する人間を私は見過ごせない!」

 

「私達、だよ! 千早!」

 

 にゃははは、と恵美も笑い声をあげて千早の隣に立つ。二人は互いに頷き合うと男に向かって駆けだした。

 男も最初の不意打ちにめげることなく立ち上がると、怒号を上げて千早に向かって拳を突き出した。だがそれも空を裂くばかりだった。

 千早はゆらりゆらりと男の拳を躱し、一歩ずつ下がっていった。さながら水の流れのように掴みどころのない優雅な捌き方で男の攻撃をすべていなし、壁際まで下がる。

 

「追い詰めた……ぜ!」

 

 男は舌なめずりすると思い切り振りかぶって千早に渾身の一撃を与えようとする。だが追い詰められたのは男の方だった。

 千早は今までの流れるような動きから打って変わって直線的で俊敏な動きに切り替わって男の脇をぬけ、背後をとると身体の回転にのせて男の後頭部に掌底を繰り出した。

 男は千早の攻撃で壁に顔面を打ち付け、痛みに声を上げる。だがすぐに立ち直ると振り向きざまに千早の足を掬った。千早がその場に倒れる。男は好機とばかりに千早にのしかかろうとするが、彼の目の前を銀色の物体が宙を走り抜け、後ろの壁に突き刺さった。よく見れば食堂のナイフとフォークだ。

 

「アタシのこと、忘れてない?」

 

 恵美はさらに机の上にあったナイフを何本かとり、男に向かって投げつけた。ナイフは縦に回転しながら男の肉を裂かんと吸い込まれていく。危険を察して男はその場から飛びのいて難を逃れた。だが恵美はそれを予想してさらにフォークを追加で、今度は回転を加えず一直線に男に向かうように投げつけていた。

 男は飛びのいた先に置いてあった机を倒し、それを盾にフォークも難なく防御する。

 

「うー、くそー! 案外すばしっこい!」

 

 男の意外な身のこなしに恵美は地団太を踏むがすぐに気持ちを切り替え、ナイフやフォーク、時に皿を投げて牽制しつつ、千早を助け起こしに行く。

 

「大丈夫、千早!?」

 

「ありがとう、所さん。おかげで助か──」

 

 千早は感謝の言葉を最後まで口にする間もなく恵美に抱きついて地面に倒れ込む。

 

「え、千早! 大胆!」

 

「もう! ふざけている暇はないわよ!」

 

 恵美が振り返った視線の先、ついさっき自分が千早を助け起こそうと中腰で立っていた場所で男が椅子をフルスイングしていた。空を切る椅子の感触に男は舌打ちすると椅子から手を放し、急いで食堂の柱に身を隠す。男の背後で手放した椅子とともに銀色のナイフも飛んでいく。

 

「うーん、おしい!」

 

「所さん! 私があの男の注意を引くからあなたは男を無力化して!」

 

「りょーかい! あはは!」

 

 千早と恵美は二手に分かれるとそれぞれ食堂の壁沿いに走り込んで男に接近する。打ち合わせ通り先に躍り出たのは千早だった。

 千早は男の懐に潜り込むと踏み込みを入れて掌底を男の下顎に突き上げた。だが。

 

──踏み込みが浅い!

 

 どうやら男の方が一歩上手のようだった。千早の直截な動きが裏目に出たのだろう。千早の動きに合わせて男も身体の位置を僅かにずらしていた。

 甘い攻撃に男はほくそ笑むと千早の腕を掴み取り、すぐ横の柱に叩きつけようとする。

 だが千早もそこで諦めるようなことはしない。男の行動を見切って腕を掴まれた時点で、男の腕にぶら下がる形で地面をけり、男の顔面を蹴り上げた。

男は痛みのあまり千早の腕を離す。千早も無理な体勢で男に攻撃を仕掛けたため、まともに受け身も取れず、全身を地面に打ち付けて呻き声を上げたが、どうにか恵美に合図を送った。

 

「今よ! 所さん!」

 

 恵美がナイフを片手にふらつく男に走り込む。そして。

 

──瞳に銀色の反射光が写り込む。刃先だ。このままでは目が。抉り飛ばされる。

 

 男は本気でそう思った。実際、恵美の凶刃は彼の眼球の目前数ミリのところでぴたっと止まっていた。だがそれ以上動く気配はなかった。その原因はすぐ分かった。

 

「な……!」

 

 千早と恵美はその一声でぱっと食堂の出入り口に目がいった。

 

「なんやこれは!!?」

 

 出入り口には先程まで食堂にいた人々が避難しており、野次馬の人だかりができていた。その合間を縫うようにぱっと顔を出した少女、横山奈緒が悲鳴のような声を上げる。

 

「何が起こってん!? 自分ら! 自分らが何をしたか周りをよう見てみい!」

 

 奈緒の言葉に恵美と千早は冷静に周りを見渡した。ただでさえ汚い食堂は惨憺たる状況だった。すべての椅子や机は薙ぎ倒され、ある椅子に至っては壁にめり込んでいた。壁中に突き刺さるナイフやフォークは裸電球に照らされて怪しく反射している。壁や床も前以上にひびが入り、所々くぼんですらいた。加えて揺れる裸電球がこの惨状を演出する。

 

「……これは」

 

「ちょっとやりすぎたかしら……?」

 

 千早と恵美は自分たちが破壊しつくした食堂を前に苦笑を浮かべる。

 

「やり過ぎ、で済むと思う?」

 

野次馬に混じって避難して、様子を窺っていた静香はそんな部下二人にため息をつく。だが。心なしか少し嬉しそうに見え、千早と恵美は笑みを浮かべた。

だが、哀れ、ここの局長、横山奈緒は頭を掻きむしると叫んだ。

 

「うー! 事情は知らんけど、こんだけ食堂ボロボロにされては擁護しきれへん! そこの三人は全員懲罰房行きや! 覚悟しとき!!!」

 




 お待たせしましたー
 今回も展開に悩みましたがうまいこといきました(と思います)

 さて今回はついに! やっと! 雪歩が登場しました。
 長かった……。本当に。延べ八話目にしてやっと出せました。最初期に設定した本家13人のうちメインキャラに据えようと画策したキャラの一人がまさか出すまでにこんな時間かかるとは思ってませんでした。しかもこんな端役みたいな感じで。
 ……これからどうやってもっと本編に絡ませていけばいいのだろう。難しい配置になってしまいましたが、どうにかこうにか存在感出させてあげたいです。

 そして相変わらずの下種男さん。“男”とか名前すら与えてなかったわりにどんどん存在感と戦闘力が高まっていますな……。

 今回の話でやっと今書いている話の中盤に物語を転がせたと思います。後は終盤に向けてうまいこと転がしたいのですがどうなることやら。

 余談ですが、今年の作者の出席番号が72番で作者満面の笑み。

グリマスキャラ

前回忘れていた(!)横山奈緒
 可愛い。とにかく声が可愛い。そしてあほ可愛い。関西弁。いい。
 Pといる時はあほ可愛い奈緒だが、グリマスキャラたちの間では割と常識人の部類で何かとツッコミ役に回される苦労人な一面も。そのせいかこの小説内でもアホキャラよりもインテリキャラとして登場。
 地味に腹ペコキャラだがその片鱗はこの小説で未だ見せていない。いつのことになるのか。
 関西弁に関して、関西出身の自分としては書いてて楽しかったです。ただ厳密には大阪弁使いのわけじゃないので少し悩む場面も。あと、奈緒は案外こてこての大阪弁ではないところもむしろ悩みの種に。

所恵美
 幽霊怖い設定は極めて怪しいところ。肝試しのオフショットで可憐に脅かされて泣いてしまったという話が出ていたり、可憐のちょっとした怪談オチにビビり役として使われたり。どっちかというと怖い話は苦手な部類かなと。

最上静香
 ざ・うどん。うどんのなかのうどん。うどんの王者。通称うどん中毒者(ジャンキー)とは正に彼女のこと。うどんのためなら我が身も顧みない。と二次界隈でまことしやかに噂されるほどの饂飩好き。……なに、漢字が読めない? 「渾身の解答 最上静香」で検索。饂飩の漢字を間違えているキュートな静香が拝める。

(本家だけど)萩原雪歩
 とにかく会話がめちゃくちゃ難しかったです。基本的にキャラ同士の会話は原作に合わせてます。(千早と静香の会話は除きますが。先輩後輩の関係が入れ替わっちゃってますからねぇ……)雪歩はPには常に敬語ですが、実は千早とは存外親しげで、敬語は使いません。敬語を使わない、しかし、幻想的な雰囲気を残したいとなって、雪歩の会話調がなんとも難しいことに。
 参考資料として聞かせていただいた生っすか05はぐっとキマシタワ。

その他設定

テラフォーミング
 惑星規模の改造とかどうやってやったんでしょうか……。作者も分からん。テラフォーミングという超技術を出してしまったためにこの世界の科学力の基準が想像の域を超えた高さになってしまって作者も四苦八苦しています。とりあえず、テラフォーミング以外の技術は現代の技術力の延長と考えていますが……。
 水害事故ネタは元ネタあります。分かる人なら一瞬で分かるでしょうねぇ。
 あらゆるものは昔の何かしらの出来事に影響されて生まれたのであって、いわば歴史が秘められているんだなぁと、思ったり思わなかったり。
 そういった描写も思いつく限り書き加えていければ少しは世界観に深みを持たせられるかな?

ツチボタル
 幼虫は青白い光を発光するとかなんとか。湿度が高い場所にしか生息していないので地底湖とセットで登場。またツチボタルの幼虫は他の虫を光でおびき寄せて捕食することからこの地底湖には他の虫も生息しています。そこから想像するにこの地底湖の位置は地球人達が働かされている場所から考えると相当地上に近い場所です。
 テラフォーミングの際、これだけ多種多様な動植物がどのように輸入されたのかはうーん。まぁ、頑張ったんでしょう!

千早の歌
 ご察しの通り「蒼い鳥」
 今回の話に登場するある人物の境遇に重なる詞ですよ。誰かはまだ言えませんなぁ。

懲罰房
 本来は地球人を苛めるために作られた恐ろしい施設。横山局長が来てからはその本来の役割である、文字通り悪いことをした人を懲罰目的で閉じ込める部屋となる。
 本来なら警察案件の出来事も軍部につながるGRDFは警察組織の介入を嫌って独自にルールを規定して勝手に断罪したりしている。検察や裁判所とGRDFが法の取り扱いについて揉めたりする火種となる。
 なんだかんだで金星の軍部は闇が深いなぁ。

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