細氷の華~遥か彼方のスヴェート~ 765PRO.Presents   作:dsyjn

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第一話 月の篝火

旧歴254-1年 帝歴763年 火星外縁部 一乃夏 十八日

 

「……はぁ、はぁ! ……んくっ!……はぁ」

 

 小さな船内に少女の荒い息遣いが響く。けたたましく鳴る警報機。点滅を続ける赤の警戒ランプ。全艦の機能低下や停止を示すモニター。彼女の乗っている艦は航行していること自体、奇跡だった。

 残された選択は、近傍の星への不時着のみ。この破損状況で不時着なんてできるのか。その前に大気圏で燃え尽きるのが先か。

 少女に迷いはなかった。

 

──何もせずにここで死ぬくらいなら必死に抗うのみ!

 

 だがしかし、彼女はもう一つの可能性も忘れてはいなかった。自分がもしここで死んでしまったら……。

 彼女は適当な紙を見繕うと、ペンを走らせる。

 

──こんなことをしている場合じゃないのかも……。

 

 彼女の頭にふとそんな思いが過ぎる。しかし彼女は書くのを止めなかった。それが彼女の生きた証になると信じて。

 

「……よし、書けた!あとはこれを……」

 

 彼女は自分の手記を入念に読み直し、満足げな笑顔を浮かべる。

 

「最期の言葉に誤字脱字はちょっといやだしね……。よし!急げ急げわたし!」

 

 独り言もつかの間、彼女はその手記を小型ポッドにつめこむとくるくるとハンドルを回し、座標の設定を終えた。目標値は月、冬の湖。普通の艦船でもふた月はかかる距離だ。この小型ポッドでは少なく見積もっても半年はかかる距離である。遠いな、と彼女はふと思った。

 

──いや、遠くまで来ちゃったんだ、私が。こんな、遠くまで。あの頃はこんなことになるなんて思わなかったし、想像もしなかった。ましてや離れ離れになるなんて。二人でいるのが当たり前で。当たり前すぎて、その幸せに気付くことすらできなくて。……遠いところに来ちゃったな、私。

 

 

 

──会いたい……。会いたいよ……。

 

 

 

「……最期にもう一度会いたかったよ、千早ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは夜空に散る華だった。彼女を乗せた艦船は轟音を上げ、流星のごとく空へと墜落した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧歴254-2年 帝歴764年 月 蒸気の海 月都 四乃冬 三日

 

 星影さやかな夜、月立四条王家記念博物館は静寂そのものであった。今日の月相は新月、つまり月都は深い闇に沈んでおり、館内もまたその例外ではなかった。

 博物館中央棟の三階、長廊下。既に閉館時間をゆうに過ぎ、無人のはずの館内の闇に一人の少女が抜き足差し足、静かに歩を進めていた。一歩、二歩。ヘレニズム的な力強い壁画の描かれた豪奢な長廊下には目もくれず、何かを確かめるようにゆっくりと。

 ふと、少女はある一室の前で足を止めた。彼女は自分の長髪から垂れる三つ編みを手持無沙汰にいじりつつ、窓の方に目を向けた。

 

「雪か……。あーあ、仕事さえなかったら今頃すばるんと雪合戦できたのになぁ……」

 

 少女はいかにも残念そうにため息をつくと、恨めし気に積もった雪を眺めた。暫くの間、彼女は外の景色に見入っていたが、ぱんっと自らの頬を叩くと、切り替え切り替え、と呟いた。

 

「そろそろ時間かな? 一応ストレッチもしておこっかな」

 

 彼女はそう言って腕を組んだり、脚を直立したまま手の平を地面につけたりと体をほぐし始めた。しまいにはおおきく開脚するとそのままストンと地面まで腰を落として、うん、と頷いた。お尻から伝わるひんやりとした大理石の冷たさは緊張で火照った彼女の身体に沁みて心地よく感じられた。

 

「今日も絶好調、絶好調!……うーん、それにしてもこの防寒全身タイツちょっと暑すぎるし、蒸れるかも。動きやすいからいいけど。……あとでみずきんに言っとこ」

 

 彼女が身に纏っていたのは黒い全身タイツ一枚だけだったが、どうやら彼女にとってはあまり着心地のよいものではなさそうだった。彼女は胸元を軽く開けると肌を露出させしばしの間、タイツのなかの熱気を逃がした。落とした目線の先にあるのは決して慎ましくはない、いやむしろ人並み以上の双丘。

 

「もうすこし大きくならないかなぁ……。はぁ……」

 

 しかしそれもまた彼女にとって満足できるものではなかったようだ。彼女は、はだけた胸元のチャックを再び閉めると扉に体を向け、拡光レンズを目に入れた。同時に、カチャッという扉の開錠音が静寂に小さくこだました。

 

「さっすが、みずきん! 時間通り!」

 

 彼女はそんなことを呟きつつも胸のうちではしっかりと数字を数えていた。……5、6、7。

 

「8……9……いま!」

 

 すっと彼女は無音で部屋へと侵入した。その瞬間であった。彼女のすぐ足元を赤い光線が横切ったのだ。しかし彼女は慌てる素振りも見せず足を上げそれを避けた。

 

「……それにさっすが私の体内時計!」

 

 彼女の瞳に写っていたのは室内を縦横無尽に走る赤い光線であった。それは対侵入者用の赤外線遮断感知機のレーザー。さきほどはめた拡光レンズのおかげで、本来不可視のそのレーザーが彼女には見えていた。

 彼女が扉の前で数をかぞえていたのも、ちょうどレーザーが扉に当たらない瞬間を見計らっていたのに他ならなかった。

 

「えへへ。この服の超音波感知と温度感知のジャミングもちゃんと機能してるみたいだし、暑くて息苦しいだけじゃなくて良かった。……あとは私のがんばりしだい、か。ふふふ! な~んか燃えてきちゃった!」

 

 彼女の独り言も束の間、無数のレーザーが折り重なって彼女の目前に迫ってきた。それは常人であればおそらく回避不可能な軌道。そう、常人ならば。

 

「……よっと」

 

 しかし、彼女は違った。その姿を傍から見た者は皆口を揃えて言うだろう。まるで極上の踊り子の舞を見ているようだと。彼女の動きは常人のそれではなかった。無限に迫りくる予測不能な軌道のレーザーも、彼女にとっては舞を際立たせるための要素の一つだった。

 足元と胸元に同時に迫りくるレーザーに対して彼女はまずその第一歩を決めた。

 体幹を優雅に背面に曲げ、脚を突き出す形。

 

「まずはこんなところかな……っと!」

 

 そのまま彼女は背中側の地面に手をつけ、ブリッジの状態へと移行する。ちょうど彼女の背面と腹上では、レーザーが斜めに走っていたが、彼女はそれを予期してかそのまま足を上げ、逆立ちになる過程でそれらを避けきった。そのまま身体を傾け、扉に脚を預けると、彼女は逆立ちの状態のまま、部屋の様子を再度確認した。

 彼女の目的は部屋の中央に設置された展示物。だが幾重にも連なるレーザーに阻まれ、一直線に向かうことはどうにも無理そうであった。

 だから彼女は目的地に向かうための最初の足掛かりを探す。

 

「そうだな~。……あそこかな?」

 

 彼女は適当な場所を見出すとそこへ向かうための最良の方法を瞬時に考えた。

 まずは足を曲げ、扉を通過するレーザーをやり過ごす。

 次に、そのまま腕に力を入れる。腕力で体を浮かび上がらせることで、両腕に迫りくるレーザーを避けるためだ。

 腕に力を加え、身体を浮かせると同時に、今度は扉を地面に見立て、しゃがみ込む形で彼女は体を丸めた。そのまま扉を爆ぜるように蹴ると、彼女は一気に部屋の中央手前まで跳躍した。

 赤外線の隙間を縫うように、転がりながら地面に着地した彼女は、最後に片膝を立てることで跳躍の勢いを殺した。

 そんな彼女の鼻先を赤いレーザーが横切る。

 

「うわっとっと……!ふぅ、もう少し勢いを殺してもよかったかも」

 

 間一髪のところで安堵の表情を浮かべる少女。それも束の間、彼女は脚を曲げたまま仰向けに地面に寝転がり、体を右側に傾けた。

 だが彼女は自らの三つ編みが遅れて左の地面に残ったのを、感じとった。

 考えている暇はない。彼女は頭を振ることで僅かにその位置をずらした。

 

 

 

 緊張に息を潜める彼女。

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

 

 警報機は鳴らなかった。どうやらレーザーは、彼女の三つ編みのすぐ脇を通り越して事なきをえたようだった。

 

「あー、ドキドキした」

 

 彼女はその場で二度転がると側面、上面を通過する赤外線をやり過ごし、上体を起こした。次に目指すべき場所を彼女は転がりながらも把握し、既に心得ていた。

 

「そこ……だ!」

 

 彼女は片脚を上げるとそのまま抱え込み、腰回りに照射された二本のレーザーの間に自らの身体を差し入れた。そして、レーザーの動きに合わせて華麗な回転を魅せ、次の目的地へと向かった。

 

「……よし!」

 

 彼女の動きは見事の一言に尽きた。優雅に、艶めかしく、鮮やかに、すべてを紙一重で避け切る。一度の失敗も許されぬその円舞を、彼女は心なしか楽しげに続けていた。

 

 彼女は腕を高らかと上げると、頭上で両の手を結び、両脇を通過するレーザーを避けた。そして仕上げとばかりにパッと腕を広げ、小さな声を上げた。

 

「……ついた!」

 

 彼女は無事に部屋の中央に辿り着いたのだ。

 部屋の中心に鎮座するもの。それは三本の金色の足により支えられた器に嵌め込まれた、巨大なダイヤモンドであった。”月の篝火”と人々に称えられているその逸品。この宝石を盗み出すのが、彼女の今日の任務である。

 

「さてと。……お仕事、お仕事♪」

 

 彼女は目の前の珠玉に興奮するも冷静な手際で“月の篝火”を囲う強化アクリル板に、背中に背負ってきた丸い円盤に取っ手が付属した装置を設置し始めた。

 

「これをここに……。えっと。……うわっとっと。危ない危ない、レーザーにもちゃんと気を付けとかなきゃ」

 

 もちろん、彼女の周りを巡る無数のレーザーは健在である。彼女はその包囲網を潜り抜けつつ作業を続ける必要があったが、涼しい顔でそつなく作業は続いた。最後に、吸盤のついた棒状のものを、円盤から上下左右に伸ばして、同様にアクリル板に貼り付けると一通りの工程が終わった。

 

「よし! たぶんこれでいけるでしょっ! ……おっと、またレーザー。しつこいなぁ」

 

 彼女は自らが設置を終えた装置を一回り点検するとよしっ、という一声とともに装置の取っ手部分を握り、電源を入れた。それは一見して、何も起こっていないように見えた。が、突然、装置を中心に丸い亀裂が入ると、ついにはアクリル板が円状に外れてしまった。

 

「相変わらず便利だな~、この機械。こんなの世の中に出回っちゃったら、家とかにも入り放題……。怖いなぁ……みずきんの発明は」

 

 彼女は自分の手に持っている機械の恐ろしさに再認識すると、今は仕事仕事、と呟き、アクリル板のくっついた装置を背中に背負いなおした。次に腰に巻いていた小型の鞄からおにぎりの置物を取り出すと、彼女は身体をひねらせレーザーを避けつつ、注意深く“月の篝火”ともう片方の手に握りしめていたおにぎりの置物をスライディングさせるようにすり替えた。

 

「…………ふぅ。重力感知にも引っかからず、か。今回の仕事はちょっと辛かったかな~。まぁ、でもなんとかなりそう♪」

 

 安堵の息を漏らした彼女は“月の篝火”をおにぎりの置物と引き換えに腰の鞄にしまうと先程と同じように部屋の扉へと向かおうとした。しかし、そこで彼女にとって予想だにしないことが起こった。

 

「……え?」

 

バンッ、バンッ、バンッ、という音が館内に響き渡る。それは館内の電気がつく音だった。彼女のいる部屋ももちろんのごとく電気がつく。

 

「うわわっ!」

 

 彼女は音に気付いて慌てて目を閉じたが光の暴力は彼女の閉じた瞼の隙間に容赦なく叩きつけられた。目の前は眩暈がするほど真白く染まり、彼女はフラフラとその場に座り込んでしまった。

 それもそのはずだ。彼女の目にはめていた拡光レンズは不可視光線を見えるようにするだけでなく、暗視効果も付属していた。つまり、突然強い光を目にすると当然のごとく目はつぶれる。急いで拡光レンズを外したとはいえ、この状況は彼女にとって非常にまずかった。

 

──ちょっとやばいかも。このままじゃ……

 

 彼女は最悪の事態を想定した、つまりそれは……。

 

「そこまでよ、宇宙海賊さん! あなたは完全に包囲されてるわ!」

 

 こういうことだった。

 

「……それともちゃんと名前で呼んであげた方がいいかしら、高坂海美さん?あなたを窃盗の現行犯で逮捕するわ!」

 

 彼女を取り囲んでいたのは数十人の警察だった。全員が銃を構え、一瞬の隙も見せまいと警戒を露わにしていた。

 それも当然のこと。彼らの目の前で座り込んでいる少女はただの少女ではない。世間を騒がす宇宙海賊“眠れるあふぅ”の構成員が一人、高坂海美。宇宙海賊“眠れるあふぅ”の構成員を未だかつて誰一人として捕まえたことのない警察としては面子もかかっていた。

 

「……その声は、秋月律子警部!」

 

 そして今回彼らを取り仕切っているのは系帝直轄警察庁より出向してきた秋月律子警部である。彼女は眼鏡をくい、と上げるとにやりと不敵に笑った。

 

「あら、私も随分有名になったものね。まさかあの宇宙海賊様の一人、高坂海美に名前を憶えていただけているだなんて」

 

「私たちみたいな人たちの間で悪名轟いているんだもん。鬼の律子ってね」

 

「……そ・れ・は、良かったわ! あなたたち犯罪者の間に広まる悪名分だけ功名ってね! みなさん! 油断しないでくださいよ! まだ何か仕込んでるかもしれませんよ!」

 

 律子は海美の挑発にも冷静に対処し、周りの警察達に警戒を呼びかけた。だがそれは海美にとって好都合な展開だ。

 

──やった! このまま目が回復するまで時間を稼げれば!

 

 とはいえ、海美にはこれといった方策は特に思い浮かばなかった。ただ目の前にうすぼんやりと見えている景色からどうやら出入り口という退路が警官達、人の壁によって既に断たれているということくらいしか分からなかった。となるとあとは窓だけ……。

 どうにか時間を稼いで隙をつき、窓から飛び降りる。

 

──うん! 完璧な計画!

 

 自分が今いるのが何階なのか、とか、飛び降りた先にも警官がいるかもしれない、という考えは彼女の中に一切なかった。というより、おそらく考えが行き着いていなかったのだろう。

 ただ彼女にあるのはどこからどう逃げ出しても、走ることさえできれば無事逃げ切ることができるという自分自身の身体能力と足の速さへの自信のみだった。

 しかし彼女のその、ともすれば浅はかな思惑ももう一人の少女の登場により打ち砕かれてしまうのであった。

 

「……いいえ、律子警部。捕まえるなら今ですよ。彼女はおそらくほとんど目が見えていないはずです」

 

「千早! わざわざ現場まで来なくてもこちらで対処できたのに」

 

「少し気になってしまって」

 

──うわぁ、これじゃ時間稼ぎしてる暇がないかも。

 

 海美は目の前に現れた少女のことを知らなかった。だが警察が躍起になっても捕まえることができなかった彼女をここまで追い詰めた功労者は秋月律子警部ただ一人ではない。むしろ海美の目の前に立つ彼女こそが今回の宇宙海賊“眠れるあふぅ”の計画を先読みし、先手を打った一番の貢献者であった。

 その名は如月千早。探偵紛いの何でも屋を生業とするしがない一人の少女である。青みがかった長髪をなびかせ、彼女は海美の前に立った。

 

「彼女は新月の闇の中、感知器にかかることなく“月の篝火”に辿り着くことができたのです。何かしら目に細工を施していることは容易に想像できます」

 

「あなたが電気をつけろと指示したのは彼女の目をつぶすことも想定していたのね!」

 

 流石だわ、という律子警部の言葉に千早はこくりと頷いた。

 

──これはいよいよまずくなってきちゃった。まだあんまり目は見えないけどここで捕まるわけにはいかないし! ……窓にさえ辿り着ければ!

 

 海美の判断はまったく間違ってはいなかった。手の内がすべてばれている今となっては、一瞬の躊躇いも命取りだ。逃げ出すなら今しかなかった。

 彼女は思いっきり部屋の側面に並ぶ窓の方へ走り込んだ。頭を腕の中にうずめて、体重を乗せた走り。加えて彼女の着ている全身タイツはナノダイラタンシーコーティングを施したリキッドアーマー。つまり、彼女は鎧を着た状態で窓に突っ込んだのにも等しかった。一般的なガラスを割るくらいなら造作もなく、ガラス片から自らを守ることも可能……のはずだった。

 ゴン、という鈍い音に海美はまず違和感を覚えた

 

──あれ? あれあれ?

 

 窓は傷一つついておらず、自分は尻もちをついていた。彼女は一瞬自分の身に何が起きたのか、理解が及ばなかった。

 

「窓からの脱出も不可能ですよ、高坂海美さん。私たちがなぜ窓側にまで警官を配置しなかったと思いますか? 嵌め込み式の強化ガラスですよ、それ」

 

 海美の焦りを知ってか知らずか、千早の言葉は的確で落ち着いていた。

 

「おとなしく投降してください、高坂さん。これ以上の抵抗は無駄です」

 

 海美は暫くそこに項垂れていた。これ以上方法はないのか、と。……あの方法以外にないのか、と。しかし彼女には元よりそれ以外の策が思いつかないことも分かっていた。

 だから彼女はまず謝った。

 

「……ごめん、かなりん! これしかなかったの!」

 

 千早は気付いていた。彼女が懐から何かを取り出すのを。しかし止めに入ろうにも時すでに遅し。海美の手に握られていたのは小型の録音機であった。

 

──なぜこんな時に録音機を……?

 

 そんな千早の疑問は爆音とともに解けた。

 

『パ~ンツ、パ~ンツ♪ な~んでわ~たしだけ、い~のしし~なの~♪ ちょっとこの下着、みんなのと比べると子供っぽいかな。……まぁいっか! お気に入りだし! パ~ンツをた~たんで~……♪』

 

「ぅうっ……! ちょっと、何これは……! すごい……」

 

 律子が耳を塞ぐとその場によろよろと倒れ込む。

 

「くっ……!」

 

 千早もまた鼓膜を揺さぶる不快感にその場で座り込んでしまっていた。それほどまでに今流れている歌らしき旋律は壊滅的に音痴だった。

 千早は床に手をつき、朦朧とした表情で海美を睨み付けた。

 

──なんで彼女は平気なの?

 

 千早の疑問はどうやら自身の表情にも表れていたようだ。その場にいる皆が倒れ込む中、悠々と背中に背負ってきた装置で窓に穴をあけた彼女は、去り際に目が合った千早に笑いかけると耳を指差した。

 

──耳栓!

 

 千早は歯軋りをするも後悔先に立たず。海美は颯爽と手を振って録音機を懐にしまうと、窓から飛び降りてしまった。千早は穴の開いた窓辺まで走ると窓から下を覗いきこんでぎょっとした。ここは三階、しかも外は墨を塗ったような闇でまるで下は見えなかった。

 

──なんて無茶苦茶な人なの!?

 

 千早は律子の元まで戻ると口元に耳を寄せた。

 

「……うーん。なんて音痴なの」

 

 律子の寝言とも判別つかない言葉に千早は安堵すると。

 

「誰か律子警部をお願いします! 外で待機している警官にも無線で伝えてください! ホシが逃げた、と!」

 

 彼女はまだ倒れていない警官たちに向かって指示を送り、自分の携帯電話を取り出した。

 

「……未来!」

 

「あっ、千早さん! 終わったのですか? 聞いてくださいよ、今猫ちゃんが……」

 

「ホシに逃げられたわ。後を追って! 今あなたの目の前に落ちてくると思うの」

 

「えっ!? えええええええ!?」

 

 如月千早の助手、春日未来は突然の千早からの電話に驚きを隠さずにはいられなかった。何よりも、あの千早さんが自分を頼ってくれるという状況に、である。

 今回も待機を命じられ、蚊帳の外と決め込んでいた身としては思ってもみなかった状況である。未来は手持無沙汰のあまり髪留めをとっかえひっかえしていたのをやめ、髪留めを留め直してサイドアップの髪型を整えた。

 頼られたからには絶対に逃さないようにしよう、と意気込んではみるものの、しかし、彼女には気になることが一つあった。

 

「落ちてくるって、どういうことなんだろう……?」

 

 彼女は首を傾げるとおそらく今千早がいるであろう窓を見上げた。そして彼女の視界を縦に走る黒い影に気付いた。ドスン、という音とともに目の前に現れたのは全身黒タイツの見るからに怪しい少女であった。

 

「もしかしてあなたが……宇宙海賊の……」

 

「……あ、あははは。ど、ど~も~。間違えちゃったみたい」

 

 目の前の少女は苦笑を浮かべると、さっと身を翻して壁をよじ登り始めた。未来がポカンと口を開けて眺めている間に彼女はあれよあれよと建物の半分近くまで登って行ってしまった。

 

「……し、しまった、逃げちゃう! ま、待てー! ……とその前に千早さんに連絡!」

 

 未来からの連絡を受けた千早は律子警部の看護を現場の警官に任せ、階段へと走った。長廊下を走り込んだ勢いで階段を二段飛ばしに登り、屋上へと突進した。

 屋上ではちょうど海美が壁を登り終えたところなのかいかにも、しまった、という表情で屋根に足をかけていた。

 

「うわっ……! なんでこっちにもいるの?」

 

「もう観念しなさい、高坂さん」

 

「……ふふふっ! そんな簡単に観念なんてしてたら宇宙海賊なんてやっていけないよ!」

 

 楽しそうに笑うと背を向けて走り出す海美。

 

「この敷地内には多くの警官が詰めているわ! 逃げ場なんてどこにもないのよ!」

 

「そんなの、私が決めるも~ん!」

 

 海美は身軽に屋根から屋根につたうと博物館の中央にそびえる時計塔の外壁をよじ登り始めた。

 

「……またあんな無茶を!? 宇宙海賊はみんなああなのかしら?」

 

 千早もそんな彼女に呆れつつも同じように屋根づたいに追いかけ、時計塔内に続く扉に走り込んだ。再び彼女は携帯電話を取り出すと未来にも応援に来るように頼み、階段を駆け上がり始めた。

 

「それにしても、はぁはぁ。……はぁ、長い階段ね。……一体何段あるのかしら? はぁはぁ……」

 

 千早は、数百はあると思われる階段を、息を切らせやっとの思いで登り終えると倒れ込むように時計塔のテラスに通じる扉を開けた。

 

「あははっ! 思ってたより早かったね♪ もう来ないかと思ってた」

 

 テラスの上空では雪が舞い、厚い雲の隙間からは青い惑星が鈍く光って見えた。海美はさっきまで壁をよじ登ってきたとは思えない余裕の表情だ。彼女はテラスの柵の上に腰かけ空を見上げると、きれ~い、と呟いた。

 

「見てよ、今日は地球が綺麗に見えるね。雪も一緒で。今日は新月だしね」

 

「……そうね」

 

 千早も空を見上げ思わず同意した。互いに立場は違えどもそこから見える景色に変わりはない。千早はただ素直に同意したかった。綺麗な蒼い星、地球への賛辞に。

 

「……ねぇ! 名前! 名前なんて言うの!?」

 

海美は柵の上に仁王立ちすると千早に笑いかけた。

 

「名前? ……そんなこと聞いてどうするの」

 

「いいからさ!」

 

 千早は訝し気に海美を見たが屈託のない彼女の笑みに溜息をつくと答えた。

 

「千早。如月千早よ」

 

「千早……。如月千早さんかぁ……。うん」

 

 千早の返答に彼女は噛みしめるように頷く。

 

「うん! いい名前だね! 私、千早さんのこと気に入っちゃったかも!」

 

 えへへ、と海美は笑うと手を広げた。

 

「じゃあね、千早さん! 今日は楽しかったよ!」

 

 海美は別れの言葉とともに、両腕を広げたまま自分の身体を背後に投げ出す。墜ちる十字。海美はテラスの下へ自ら墜落したのだ。

 千早は声にならない声をあげ、彼女が身投げしたところまで走り出した。が、それを制すかのような轟音が響く。

 

「ばいば~い、千早さ~ん!」

 

 次の瞬間、千早の目に強烈な光が差し込み、逆巻く風が髪やコートをなびかせた。細めた千早の瞳にゆっくりと上昇してくる小型艦船が映りこむ。

 開かれた後部ハッチからは海美が全力で手を振っており、あまりに予想外の展開に千早はただ茫然とそれを見送ることほかなかった。

 

 

 

 

 

「いや~、助かったよ! みずきん!」

 

 海美は操縦席に乗り込むと操縦舵を握る少女に声をかけた。

 

「遅かったですね、高坂さん。何をされていたのですか?」

 

 彼女の名は真壁瑞希。宇宙海賊“眠れるあふぅ”の技術担当であり、艦船の操縦も専ら彼女がこなしている。

 “月の篝火”が安置されていた部屋のロックをはずしたのも彼女であれば、海美が今まで使ってきた道具もすべて彼女の手製、さらに今回の盗難計画を立てたのも概ね彼女であった。

 銀色がかった短い髪は計器の光に鈍く反射して、彼女の顔をも浮かび上がらせる。一見、無表情ともとれる表情だったが、どうやら彼女は海美の帰りが遅いことをかなり心配していたようだった。

 

「ちょっといろいろあってね~。大丈夫大丈夫、ちゃんとモノは盗ってきたからさ!  でも最終兵器も使っちゃった。かなりんが洗濯物畳んでいる時の歌」

 

「……あれを聞いた人はみんな悶絶しますからね。でもあれはたしか、矢吹さんにばれていませんでしたか? 誰かに聞かせたら絶対に許さないと涙ぐんでいましたよ、たしか」

 

「仕方なかったの! 手持ちの曲もあれしかなくって。あ、ミキミキ船長また寝てる~」

 

 海美は操縦席の後ろに設置されたソファで寝ている“眠れるあふぅ”の船長、星井美希の頬をつついた。小さな寝息を立てながら金色の長髪を枝垂れさせている彼女の姿は、同性から見ても魅力を感じるほど美しく見えた。

 

「……ハニー」

 

「寝言まで言っちゃって……」

 

 海美はふっと笑って美希の寝顔を眺める。しかし、瑞希には気になることがあるようで寝ている船長もお構いなしと言わんばかりに海美に質問をぶつけた。

 

「盗ってこれたのであればよいのですが。……もう少しで捕まるところだったんですよね? 先程時計塔のテラスで話されていた方とも何か関係あるのでしょうか?」

 

「あれ? みずきん、よく分かったね! すごーい! それもみずきんがよくやってるエスパー?」

 

「……私がいつもしているのは手品です。どちらにせよ違います。……さきほど、高坂さんが潜入されている時に私は重大なことに気付いたのです」

 

「えー! なになに!?」

 

 興味津々に身を乗り出してくる海美に瑞希は操縦の邪魔になるので座ってください、と海美を諫めた。隣の席に座って足を投げ出す海美の姿を確認して瑞希は言葉を続けた。

 

「それは“月の篝火”本体に対する超音波感知器です。超音波によって対象の形状、質量、体積を常に把握し、もしその形状が変わってしまった場合に警報機が鳴るというものです」

 

「う~ん……?」

 

「つまり、私が用意した替え玉おにぎりくん四号と“月の篝火”をすり替えたところでばれちゃうということです」

 

「あー、なるほど! だからりっちゃんにもばれちゃったのかぁ!」

 

「誰ですか、その方は」

 

「秋月律子警部! 律子だからりっちゃんだよ!」

 

「……あの鬼の律子と名高い方ですか。何やら噂によると狙った犯罪者は地獄の底まで逃がさないとか。そこからついた通り名が鬼の律子。また変な人に目をつけられちゃいましたね」

 

 まぁね、と得意気な海美に瑞希は、褒めてませんよと言い目を伏せた。

 

「気付いてしまったのはそこじゃないんです。私は海美さんがすり替えを行う予定時刻よりも前に、その感知器に気付いていました。だから感知器を止めようと思いまして、ハッキングをかけてみたんです。でも……」

 

「……でも?」

 

「既に感知器は止められていたんです。不可解なことに」

 

 彼女はそこで首を傾げると海美にここからは私の推論です、と前置きを置いた。

 

「おそらく、私たちが“月の篝火”を盗みに行くことを既に誰かが知っていたうえで、敢えて、高坂さんを捕まえるためにセキュリティーを緩くしたのではないでしょうか?」

 

「えー! じゃあ私、騙されてたってこと?! それって……!?」

 

 海美は自分を陥れようとした人物に心当たりがあるとすれば律子と他にもう一人いた。その名を海美が口にする前に別の声が先んじた。

 

「……それは律子、さんと千早さんに違いないの」

 

「ミキミキ船長!?」

 

「……起きていらしたのですね」

 

 いつの間にか起き上がっていた船長、星井美希は眠そうに目をこすると言葉を続けた。

 

「……あふぅ。たぶんミキたちの情報がどっかで漏れちゃったの。それを嗅ぎつけた千早さんが律子、さんと協力してミキたちを捕まえようとしたんじゃないのかなって思うな。あんまり有名じゃないかもだけど、月で警戒すべき人と言えば千早さんなの」

 

 それに、と美希は手を海美に差し出した。

 

「盗ってきた“月の篝火”見せて欲しいの」

 

「はい!」

 

 海美は腰の鞄に入れていた“月の篝火”を取り出し、美希に渡した。

 

「セキュリティーを緩くしていたんじゃなくて緩くしないといけなかったんじゃないのかなってミキ思うな。瑞希、天井透明にして欲しいの」

 

 美希はそう言うと“月の篝火”を開いた天窓に向けて掲げた。天窓には一面の星空が広がっていた。既に雲よりも上にこの艦が高度を上げていたのだろう。

 美希の素振りを見て瑞希も自分の違和感の正体に気づいた。

 

「……そういうことですか」

 

「えっ!? えっ? 私は分かんないよ!?」

 

 一人分からず顔を振る海美に美希は語りかけた。

 

「”月の篝火”はね、月で発掘された最初のダイヤモンドと金なの」

 

 美希の言葉に続けて瑞希も人差し指を立て、説明に補足を加えた。

 

「……そうなのです。それに、”月の篝火”という名前にはこれから始まる宇宙開発の未来を照らす道標になって欲しいという人々の願いも込められていたのですよ」

 

「へー! すっごいロマンチックな宝石だったんだね!」

 

 美希と瑞希の話に海美は瞳を輝かせて自分が盗ってきたその宝石に熱い視線を向けた。瑞希はそんな彼女に、資料は読まなかったのですか、と呆れたように呟く。

 

「だーって。別に読まなくても盗ってこれるもーん」

 

 瑞希は、たしかにそうですね、と頷いた。

 

「……でも今回はその限りではなかったみたいですよ、高坂さん。”月の篝火”はたしかに、小規模太陽系に帝国として君臨している私たち人類の、宇宙への最初の一歩を象徴する石という意味でも、数千年前も前に作られた古さという意味でも、その歴史的価値は計り知れません」

 

「……?」

 

 海美は瑞希の勿体ぶった言い方に首を傾げた。そんな彼女を横目に美希は”月の篝火”を夜空に透かして見た。

 

「でもね、海美。“月の篝火”のすごいところは昔からあるとかそういうのだけじゃないの。“月の篝火”は文字通り月に灯った篝火そのものなの」

 

「……みずきん、つまりどういうことなの?」

 

 解説を求められた瑞希は待ってましたとばかりに解説を始める。

 

「知りませんか、海美さん。“月の篝火”は月のどこにいたとしても、月から見える夜空に透かした時、星々の煌めきを一点に集めて、より輝きを増させる“ムーングリーム”と呼ばれるカットがされているんです」

 

「……む、むーんぐりーん?」

 

「“ムーングリーム”です、高坂さん。……これは機械などでは再現することが不可能で、このカットができる職人もこの“月の篝火”が作られて以降、歴史上現れていないそうです。つまり、現在では失われてしまった技術によって作られたとされる“月の篝火”は唯一無二の存在で、一部のオカルトマニアからはオーパーツ扱いを受けているほどなのです」

 

 見てください海美さん、と瑞希は海美に自らの戦利品を見るように促した。

 

「今、船長はあなたの盗ってきた“月の篝火”を星空に掲げていますがまるで輝いていません」

 

「……えっと。ということは……」

 

「……はい。あれは偽物です」

 

「えー! せっかく頑張って盗ってきたのに偽物だったの!?」

 

「……そうなりますね。おそらく超音波感知器では身代わりとして置いた偽物を検出して警報が鳴ってしまうため、やむなく最初から切っていたのでしょう」

 

「……なーんだ。じゃあ今回、私は仕事のやり損だったのかぁ。悔しい!」

 

 本気で悔しがる海美を瑞希はどうどう、と落ち着かせる。美希はそんな二人を横目に大きなあくびをしてから、二人に言った。

 

「ミキたちを捕まえるために罠をはっておくだけじゃなくて、万が一逃げられた時のための保険として偽物まで用意していた周到さはさすが律子、さんと千早さんなの。……今回は相手が悪かっただけ。あんまり気にする必要はないってミキは思うな。……あふぅ」

 

 ミキは眠いからまた寝るの、という言葉を最後に操縦席後方から聞こえてくるのは再び寝息のみとなった。

 海美と瑞希はそんな船長の寝顔を眺めるとはぁと、どちらからともなく大きなため息をついた。

 

「なんか今日はもう疲れたね」

 

「そうですね。……早く帰ってこたつに入りたいです。……ブルブル」

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁ……。遅く……はぁ、なりました! あれ、どうしましたか? 千早さん……?」

 

 時計塔を全速力で一階から登ってきた未来はテラスにへばりつくようにゴールインした。しかし、そこにいたのは夜空を見上げ、一人佇む千早の姿のみであった。千早は未来に一瞥をくれると、もう全部終わったわ、と言った。

 

「……」

 

 千早は夜空に向かって白い息を吐いた。この厚い雲の向こう。何千何万の星の煌めきの中の遥か彼方、そのどれかに彼女がいるかもしれないと。

 

 寒いですね、と未来は手を擦り合わせながら千早の隣に立ち、空を見上げた。

 

「明日は細氷ですね、千早さん」

 

 

 

「……そうね」

 

 

 

 




補足

ミリオンライブ、グリマス勢について
 いろいろ知りたければ自分で調べた方が早いと思います。補足程度の知識。

高坂海美
趣味:ボルダリング 特技:常人にはできないポージングができる
 だそうなので、壁登ったり、レーザー避けたりやりたい放題させました。
 スリーサイズは82-57-84ですが、どこで自信を喪失しているのかプロポーションは上半身に自信がないとか……某72に謝るべし。
 体内時計には自信があるそう。

永吉昴
 海美の台詞に出てきたすばるんこと永吉昴くん。海美とどれくらい仲が良いのかは実は謎。

矢吹可奈
趣味:なんでも歌にすること 特技:合唱 好きなもの:屋上で歌うこと
 劇場版アニマスに出ていたのでご存知の方も多いかも。
 とにかく歌好きな反面、歌が壊滅的に下手。発声練習でプロデューサーが逃げ出すほどなので相当なものと思われます。後々うまくなるので是非ともうまくしてあげたい。今回の歌下手いじりに関してはやりすぎ感があるので不快感を持った方には申し訳ないです。ついでに、海美はかなりんと呼んでいます。

春日未来
 趣味:可愛い髪留めを集めること
とっかえひっかえするくらいは持っているでしょう、たぶん。
 信号機の赤さん。本家の春香、デレの卯月、ミリの未来といった感じでしょう。

真壁瑞希
 趣味:手品
 エスパーはデレにいたような。堀裕子さん。かわいい。
 表情を作るのが苦手なだけで人並みの感情はあります。
 衣装や小道具等々自作できるくらい器用。リトルミズキも出したいですねぇ。

SFとかの設定
 SF考証は結構ぐだぐだななんちゃって科学です。参照ウィキペディアとかそういうレベルですよ! でもウィキ参照するだけでも疲れることに気付くというまさかの真実。サイエンス“フィクション”ということで大目に見て欲しいです。


 千早たちはテラフォーミングを終えた(あるいはテラフォーミング中の)月に住んでます。地球はどうしたかとかはまた別な話。
 話で出てくる月相はもちろん、地球から見た基準。でもそうなると新月とはどういう状況かというと、一日中太陽が当たらないということ。つまり極寒です。
 実は最初の年号とか場所の名前が書いてある隣の春夏秋冬は、金星基準の一年における月の季節変化。「四乃冬」とは月での一年における四度目の冬ということ。
 月都はその名の通り王家が住む月の都。首都みたいな。いや王都か。
 最初に出てる年号の隣の“蒸気の海”とは月の地名。詳しい場所はググった方が早いです。

年号
 金星基準の年号。金星は日の出から次の日の出まで117日もあり、それを金星に住む人たちは新たに一年と規定しました。つまり764年とかは地球の暦的に考えると大体その三分の一。なんでいろいろ金星基準かというと金星が千早たちの住む宇宙帝国の中心だから。
 月では一年の間に4度、太陽が巡ってきます。そこで月の住人は一つの季節を7日に分け、「一乃冬」、「一乃春」と続けて「四乃秋」まで数えて一年としています。
 でもこの計算だと
 4(季節)×4(巡ってくる季節の数)×7(一季節の日数)
で計112日と金星の暦と実質2日のずれが生じます。
 そこで月では14年に一度「五乃季節」を迎えることで14年で溜まった暦のずれを解消します。しかし、これは金星人からすると非常に不便な状況でお互いの時間間隔のすり合わせの為に企業などは地球の暦である旧歴をいまだに使い続けているのが現状です。
 つまり金星の威光のためには帝歴を慣例的に用いることを強要されるなか、月は我関せずと言わんばかりの独自の暦の利用をしていることからも月と金星の対峙が垣間見えてしまうのです。おそろしや。感覚的には地球の暦が西暦、月の暦は元号みたいな。
 一日の基準は地球の自転に合わせています。さすがに一日24時間を変更すると人類の体内時計的に厳しいという判断です。余談ですが人間の体内時計によると一日は25~6時間。2時間のずれは太陽の光によってメラトニンが調節してるとか。……別に考えるのが面倒だったわけじゃないですよ。

背中に背負ってきた装置
 名前はまだない。瑞希のネーミングセンスはおそらくかなり適当(予想)なのできっとろくでもない名前でしょう。
 瑞希の作り出した便利アイテム。取っ手みたいなのを貼り付けると対象物体の振動数に合わせて、最適化された微振動を発生させることができます。最終的には伸ばした棒みたいなのを半径に円状に穴が開けられます。何を言っているのか分からないと思いますが、作者もよく分かってないです。

ナノダイラタンシーコーティングを施したリキッドアーマー
 なんかカタカナ語が並んでかっこいいです。ダイタランシーは液体だけど強い衝撃を与えると固体みたいな振る舞いをするとかいうアレのこと。リキッドアーマーにも応用できるとか昔テレビで言ってたようなと思ってたらウィキペディア先生ができると教えてくれました。ご自宅でも片栗粉と水で作れるそう。

ムーングリーム
 こんなのはありません。こんなカットも不可能でしょう。でもちょっとしたロストテクノロジー要素を出せて満足です。


 誤字脱字等の指摘うれしいです。日本語がおかしい、なんか口調が変、等の指摘も受付中。


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