魔法少女リリカルなのは~Amantes Amentes~ 改訂版 作:鏡圭一改め鏡正
……正直言ってラインハルト君を強くし過ぎた様な感じがしますが、感想や意見などがあったら、遠慮無くお願いします!
時は午前に戻る。
ヴィルヘルムはヘルガとアンナから逃げていた。理由はヴァレリアンの経営している孤児院にいるヴィルヘルムと同じ歳のクラウディア・イェルザレムという少女と一緒に歩いている所を2人に見つかったからだ。
「あの2人を出し抜いてようやくクラウディアに会えたってのに、アイツらはどうやってオレの居場所を嗅ぎつけやがったんだ?」
ヘルガたちから逃げ切れたヴィルヘルムは乱れていた息を整えて周囲を見渡すと、そこは月村邸の近くだった。
「ここって確か月村ってガキの家の近くだったか? 世間じゃ有名な所みたいだが、オレには縁もゆかりもねぇな。……ん? あれはラインハルトさんか?」
ヴィルヘルムはラインハルトを発見し、挨拶をしようとしたが、ラインハルトの隣りに金髪の少女、フェイトがいることに気づき止めた。
「(ラインハルトさんってロリコンなのか? ……いや、迷子になって困っている女子を助けようとしてるだけかもしれねぇ)」
「む? ヴィルヘルムではないか。卿はそこで何をしている?(確か結界を発動させた筈だが、……なるほど、ヴィルヘルムにも魔力が存在するか)」
急に髪が伸び、口調が変わったラインハルトを見たヴィルヘルムは一瞬、誰なのかと思ったが、声がラインハルトであることを理解した。
「いや、なんていうか、実は……うっ!」
ヴィルヘルムはラインハルトに理由を話そうとしたその時だった。突然、体がだるく感じ始め、他人の血を吸いたくなるような吸血衝動に駆られ始め、ラインハルトに襲い掛からんとしていることから、明らかにヴィルヘルムに異変が起こり始めていた。
ヴィルヘルムの異変は外見からでもはっきり分かるような変化で、眼球が白から黒に染まっていた。
ヴィルヘルムの異変を見たフェイトはヴィルヘルムに警戒を強め、何時でも魔法を発動できるようにした。
「(ふざけんな。何の力か知らねぇが、オレが従うのはラインハルトさんだけだ! テメェの様な吸血鬼の力じゃねぇ! だから、オレのモノになりやがれ!)」
ヴィルヘルムがそう念じると、吸血衝動が無くなり、ラインハルトに襲い掛かろうとしていたのが嘘の様に納まっていたが、太陽の元にいてもだるさだけは無くなっていなかった。
だがヴィルヘルムの任意でこの状態を解除できて人間の感覚に戻ることができることを脳裏に流れる情報で理解した。
「ラインハルトさん……オレはアンタが何をしようとしているかは知らねぇ。だからよ、オレがするのはただ一つ。アンタに忠誠を尽くすことだ。アンタの元で力を使わせてくれ」
ヴィルヘルムはどうしてドイツ軍の軍服になっているのかについて疑問を持ったが、吸血鬼の力を維持しながら、ラインハルトの前に跪いた。
「……そうか、ならば私の爪牙として卿の力を存分に使うがいい」
「Jawohl, mein Herr.」
ヴィルヘルムがラインハルトに協力できることに狂気の笑みを浮べながら喜びを感じている中、フェイトはヴィルヘルムの力に警戒感を抱いていた。
「どうしたフェイト? 私の判断に異論があるかね?」
「ううん。……でもあの人。ラインハルトに攻撃しようとしてた」
フェイトはラインハルトを心配そうに眺めると、突然ラインハルトの手がフェイトの頭に優しく置かれた。
「あっ……」
「案ずるな。ヴィルヘルムが私に挑むなら私の愛を示すだけだ」
フェイトは顔を赤くしながら、ヴィルヘルムがラインハルトを裏切った場合のことを考え始めていたが、ラインハルトの手の温かさに意識が傾き、考えることをやめた。
「さて、作戦は手筈どおりに行う。ヴィルヘルム。卿は私と共に動いてくれ。詳しくは移動しながら説明しよう」
「了解。(オレはこの力を使ってラインハルトさんの為に戦う。例えそれが誰であろうともな)」
ヴィルヘルムが戦う決意をし、ラインハルトたちが移動を始めてから数分後、現在に至る。
蓮は何故ラインハルトと戦っているのか理解できていないまま戦闘を行っていたが、未だに『創造位階』に到達できていない蓮と創造位階に到達しているラインハルトの間には少しずつ差が開き始めていた。
「どうした? 卿の力はこの程度かね?」
「ふざけるな! アンタもあの宝石が危険な物だって分かってるだろ!?」
易々とソニックブームを避けているラインハルトに苛立ちを覚えている蓮は、薄々と自分が不利だということに気づいていた。そして、ラインハルトを自分の日常を奪う存在として認識し始めていた。
「(カールの目的は知らんが、ツァラトゥストラにも創造位階に達してもらわねばな)では、私も少し本気を出すか。壊れてくれるなよツァラトゥストラ」
次の瞬間、ラインハルトから膨大な殺気が溢れ出た。蓮は今までに感じたことのない殺気と魂ごと木っ端微塵に砕けそうな重圧に指一本すら動けなくなってしまう。
『今ある魔力を全力で放出しろ蓮! アイツの殺気に飲まれたら終わりだぞ!』
「分かってる! けどっ!! [こ、わ、い……] ……えっ?」
ロートスに声で励まされているおかげでなんとか意識を保つことができている蓮は少女の声を聞いて思わず反応する。
[怖い、あの人が怖い――]
「マリィ……なのか? そうなのか!?」
怯えているような声がマリィだと分かった蓮はどこにいるか分からないマリィに声をかける。すると、視界が一変し、夕日が差す海の浜辺に蓮はいた。
「ここは? 確か俺はラインハルトさんと闘っていた筈なのに……」
蓮は浜辺を歩いていると、浜辺に座って泣いているマリィを見つけた。そして蓮はマリィに心境を悟られないようにしようと笑い優しく声をかける。
「マリィ」
「……! レン!」
蓮を見つけたマリィは涙を浮かべながら抱き着いた。蓮はマリィを抱き寄せ優しく頭を撫で、マリィが落ち着くのを待った。
「落ち着いたか?」
「……うん。あのねレン、レンが戦っていることわたし最初から知ってたんだよ」
「えっ?」
マリィの言ったことに最初は意味が分からなかった蓮だったが、次第にマリィの言っていることに気づいて顔が青くなるのを感じたが、先程とは逆にマリィが蓮の頭を撫で始めた。
「レンが戦ってる時はこの砂浜でレンのことずっと見てたの。レンに声をかけたかったけど声が届かないから、辛そうにしてるレンの体を抱きしめてたんだよ」
「マリィ……」
蓮はマルグリットが毎日抱きついてくる理由を聞いて、思わず涙を流しそうになった。そして改めて誓った。
「もう大丈夫だよマリィ。もう俺は負けないから」
蓮は名残惜しそうにマリィから離れるとマリィも残念そうな表情を浮べるが、すぐに笑顔に変わった。
「レン。あの人に負けないでね?」
「ああ、約束する」
蓮がそう言った瞬間、視界が月村邸の近くに戻る。時間からして一瞬の出来事だったが、先程から感じていた殺気と重圧が苦にならないレベルになっていた。
「ラインハルトさん。アンタがどうしてこんなことをしてるかについては聞かない。けど、俺には負けられない理由があるんだ。 だから、アンタを倒す!」
「大きく出たなツァラトゥストラ。かかって来るがいい」
ラインハルトは笑みを浮かべながら聖約・運命の神槍を構える。
『大丈夫なのか蓮? 形成位階だとアイツに勝てないぞ』
『分かってる。だからロートス。アンタの力が必要だ』
『俺の力を? ……ってまさか! 『創造』を発動させる気か!?』
ロートスは蓮がやろうとしていることに驚きを隠せなかった。
『創造位階』……それは自分の心の底から願っている渇望をルールとした世界を文字通り創造する。いわば必殺技である。
ロートスが驚いていたのは今まで一度も『創造』を成功させていない蓮が失敗したデメリットを考えずに『創造』を発動しようとしたことだ。
『安心しろよ。俺は誰にも負けないってマリィに約束したんだ。絶対に成功させる!』
『……分かった。やるぞ蓮!』
『ああ!』
蓮は一度目を閉じ、深呼吸してから目を開けると、蓮の瞳には『カドゥケウス』が宿っていた。そして今まで思い浮かばなかった『創造』に至るための詠唱が頭の中に浮かび上がり詠唱を始める。詠唱の瞬間、蓮の周辺は膨大な蒼色の魔力に覆われていた。
『『|Die Sonne toent nach alter Weise In Brudersphaeren Wettgesang《日は古より変わらず星と競い》.』』
『『
『『|Und schnell und begreiflich schnell In ewig schnellem Sphaerenlauf《そして速く 何より速く永劫の円環を駆け抜けよう》.』』
『『Da flammt ein blitzendes Verheeren Dem Pfade vor des Donnerschlags《光となって破壊しろその一撃で燃やし尽くせ》;』』
『『
『『
『『創造―
蓮の詠唱が終わった瞬間、『罪姫・正義の柱』の紋様が変わり、髑髏の部分も少女を思わせる様な絵に変化した。
「ほう、創造位階に到達したか。(さすが聖遺物の申し子というべきか。私が言うのも可笑しいが、わずか数日で創造位階に至るとは末恐ろしいな)ならば、私も全力で卿の相手になろう」
次の瞬間、ラインハルトの周りには膨大な黄金の魔力によって発生した強風が吹き荒れる。その時、蓮は自分の時間を加速させてラインハルトに攻撃をするが、ラインハルトの魔力によって斬撃を防がれてしまう。
『
ラインハルトの創造により、思わず目をつぶってしまった蓮が目を開けると、そこは神が住んでいるであろう宮殿が目の前にあった。
ラインハルトの周りには、アルフとの戦いには存在しなかった翼を生やし華やかな鎧を纏った聖なる魔力が宿った武器を持つ女戦士たちである『ワルキューレ』と魔剣・魔槍・弓などといった禍々しい魔力が宿った武器を持つ鎧の戦士たちである『エインフェリア』が存在していた。
「いかがかねツァラトゥストラ? これが私の全力だ。フェイトがジュエルシードを回収する迄しか時間がないが、それまで戦おうではないか」
「上等だ! かかって来やがれ!!」
この瞬間、創造位階同士の本当の意味での戦闘が始まった。