星喰みから世界が救われて一年が経った。
レイヴンは青い空に向けて大きく両手を伸ばした。今日は久しぶりの丸一日の休み。
魔導器が無くなり魔物への防備を失った人たちの生活もある程度安定し、騎士の中で魔導器を使える唯一と言っていいほどの存在である自分に魔物の討伐が任せられることも少なくなった。ようやく出来始めた自由な時間。
空から下ろした左手が日光を反射する。薬指に嵌った銀のリングの片割れは今、彼の首から下がる。
何年かかっても返してやる。何年かかってもこれを読み切って。
人が誰も来ない小高い丘の上。彼は今日も朽ちた本を開く。
――にゃあ。
この場所に来るのは人ではない存在ばかり。『彼』もそんな存在ではない。
「久しぶり。お前がこれを読めたら少しは早く会えたのにね」
小さな頭を撫でようと伸ばした右手は爪を出したままの猫パンチに遮られ、レイヴンの手には赤い筋が刻まれた。
「お前と会うと生傷が増えるわね」
柔らかな光に照らされてすぐに傷は消え、刻まれた赤と同じ色を持つ小さな存在はひょいと胡座をかいたレイヴンの膝の上に乗ると本を強請るように片手を伸ばした。
「ちょっとは待ちなさいな。何もなしには読めないでしょ」
猫を落とさないよう気をつけて鞄の中をあさりいくつもの紙束と本を並べる。
「さてさて、今日は何頁進むかね。おかしな訳し方したら止めてちょーだいね、カレン」
にゃん。
猫は二本の尻尾を振って猫でも見える位置に立てられた本へ視線を向けた。
知識をつけた彼らが本を読み切るまで、あとひと月。
彼が再び赤の剣を手に取るのは、ひと月後。
ひと月後、彼らは世界の<敵>となる。
?...end...?
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以下、あとがき
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閲覧をお気に入りのみにしぼっても閲覧してくださった1名様。本当にありがとうございました。貴方様のおかげで……形はともかくとして終わりを迎えることが出来ました。
ありがとうございます。
さて、伏線を回収もできておらず多数の疑問とモヤっと感を残したかも知れませんこの物語の起源と、その後についてお話させていただきます。
<起源>
星喰みは始祖の隷長がエアルを取り込みすぎた成れの果て。物語上そう銘打たれておりますが、始祖の隷長は意思持つものであり世界の解放後それは形を変えて精霊となりました。
それだけの力を持った存在の集まりに意思は無いのだろうか?そう思ったのが始まりでした。星喰みの本体っぽいところは人みたいですし。
そしてあとは好きなキャラつめつめの救済盛り盛りの物語。
ただし、星喰みは世界の「崩壊」そのもの。生かすなら世界を捨てることになる。というのが最後のお話。
もともと、その形のまま救うことは出来ないと思っていました。
<これから>
当時のメモには続きがありました。小説としては書けないのでこちらにて発散致します。
レイヴンは後に本を読み切ります。もちろんイチトシちゃんを呼び戻す方法なんてありません。イチトシちゃんは穢れた始祖の隷長の集まりであり、それは既に飛散しているので。
でも、読み切るまでの時間で考えます。世界にはまだ始祖の隷長が居るな、と。意思を持って精霊化しなかった始祖の隷長。そして新たに生まれるという始祖の隷長。
呼び戻せないなら、もう一度生まれさせればいい。
ただそれに邪魔になるのが「正義」なだけと。
続きはありません。
ただし、この物語は私が大好きなのでこっそり書き直すかも知れません。今度はもっとシンプルに、もっと深く。
気力が戻ったらX2のような血塗れエンドの道も書いてみたいとは思っています。
感想の文字数には制限を設けておりますので、もし。もしも書き直した先を知りたい方や血塗れエンドを知りたい方はメールで言ってもらえた方が、反応できます。何より嬉しいです。
ぜひ。お気軽に。