《完》[ToV]愛する貴方に   作:つきしろ

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第2話

 

 下町の広場に子供が集まっていた。子供たちは手にお菓子を持ち、走り回る。

 

 集まった子供たちの中心に女性が居た。下町の人より上等な、けれど貴族の人より貧相で、小奇麗な格好をした女性だった。片手に大量のお菓子が入った紙袋を持ち、空いた片手でお菓子を配っている。

 

 一般女性にしては短い、けれど一般男性よりは長い肩へかかる灰色の髪を背中へと追いやり、彼女は笑う。

 

 彼女が笑えば子供たちも笑う。

 

 

「えせ貴族のねえちゃんありがとー!」

 

 

 一人の少年が飴を片手に握りしめて頭を下げる。

 

 

「うん。本当に貴族なんだけど。君たちは信じないねぇ」

 

「だってふく汚いし、えらそうじゃねえもん!」

 

「……小奇麗な服を選んだはずなんだけど。おかしいな?」

 

 

 首を傾げれば子供たちが笑いながら真似をする。

 

 自分の服を見ながら何が駄目だったのかを考えていると一人の子供が首にかかったペンダントを目ざとく見つける。

 

 一旦興味が変われば子供たちの中でそれは伝染する。

 

 女の子たちは綺麗だと言い、男の子たちは彼氏からもらったのかと冷やかす。

 

 下町の子供たちは自分に正直だ。羨ましくなるほどに。

 

 彼氏からもらったんだよ、良いだろ。子供のようにそう言って自慢すると男の子たちは頬を膨らまして走り去る。対して女の子たちはどんな彼氏か、結婚するのか。など目を輝かせて女性に詰め寄る。

 

 元々こういった色のついた話をするのが不得手な彼女は少女たちに詰め寄られるとどうにも弱い。好奇心で彼氏からもらったと言うべきではなかったかもしれないな。

 

 女の子たちにどう答えようかと悩んでいると少し大きな靴音が聞こえてくる。

 

 

「あれ、アンタ何してんの?」

 

「あ! キャナリしょーたいのお兄ちゃんだ!」

 

 

 ペンダントを渡した本人が通りかかり、少女たちの関心はまた変わる。

 

 お兄ちゃん、と呼んだ茶色の短髪を持つ青年へ駆け寄ると現在の状況を説明する。えせ貴族のお姉さんがいつもみたいにお菓子を配ってた。いつもはしていないペンダントをしていて、彼氏にもらったというから話を聞いていたの、と。

 

 分かりやすく短的。

 

 青年は一拍間を置いた後、顔を赤くして勢いよく女性へと視線を向ける。女性は何故視線を向けられたのかは理解できず、ただ嬉しそうに片手を振り返した。

 

 

「あ、わかった! お兄ちゃんがお姉さんにペンダントあげたんでしょ」

 

 

 女の子の無邪気な声に、青年は大いにたじろいだ。事実を言い当てられたから、だ。

 

 青年の反応に少女たちは大盛り上り。

 

 友達とあれやこれやを話し合い、楽しみながらお菓子を片手に自分たちの家へ向かう道を歩いて行った。

 

 珍しくお菓子が余ってしまったな。

 

 お菓子の入った紙袋に片手を入れ、棒付きの飴を取り出すと包装紙を解いて口に咥える。飴独特のべたりとした甘みと、果物に似せた酸味が舌へと染み込んでいく。

 

 同じ飴を取り出そうとして、やめた。

 

 彼女の前に立つ青年は甘いものが嫌いだった。

 

 

「ちょーだいな」

 

 

 けれど青年は彼女が取り出そうとしてやめた飴を見つけると同じように口に入れた。

 

 

「甘くないのあるよ?」

 

「これでいーの。ありがと」

 

 

 広場の噴水近くにある椅子に座った彼は自分の隣を叩く。

 

 女性が隣に座ったら満足そうに笑って背もたれに背を押し付ける。後ろ向きに伸びをすればすかさず隣の彼女が疲れたのか聞いてくる。

 

 

「俺はだいじょーぶ。流石にもう慣れたし。そっちは何してたの?」

 

「子供たちと遊んでいたんだよ。えせ貴族なんて言われているけどね。認めたくないんだろう。……優しいのが貴族だなんて」

 

 

 貴族は心の汚い、非道な人間だと思っているのだろう。

 

 そう言って笑うと青年は片手を伸ばして女性の髪を優しく撫でる。

 

 

「アンタ、無理するから。大丈夫? 貴族だって色々だろ。アンタみたいに優しいのがいて、俺みたいのもいる。それに、中身のきったないのもいる」

 

 

 けどさ。

 

 青年は立ち上がる。傾き始めた陽の中で振り向き、女性に向かって笑う。

 

 

「アンタが居るだけで変わる貴族みたいに、アンタが何したって変わらないのも居るんだよ。きっとそれはどうしようもない。だから、自分のペースでいいんだ。アンタが元気で、より多くの人が変われれば良いじゃん。だから、無理しないでよ」

 

「私が居て変わる貴族」

 

「居るだけで良いの。ね、だから。ずっと俺のそばに居て」

 

 

 夕陽が彼の頬を染める。

 

 女性は彼の姿に目を細め、困ったように笑う。

 

 

「私は、もう君のそばを離れられない。君から離れてしまわない限り」

 

「あはははっ、ないない。俺だって、もうアンタしか見えてないんだ。さ、帰ろ。家まで送ってやるから」

 

 

 伸ばされた大きな手を、彼女は握った。

 

 強い力で引っ張られ、バランスを崩した先で抱きとめられる。

 

 青年のせいでバランスを崩したのに彼は笑っていて、彼女はふくれっ面を返した。

 


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