《完》[ToV]愛する貴方に   作:つきしろ

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第11話

 

 ダングレストの中心にある大きな建物の中にいた。

 

 少年に引っ張られるまま建物の中へ連れられる。

 

 見張りが二人もついた扉をグッと押し広げると独特の威圧感と視線がイチトシに集中する。そして、彼女がこの街に来るまで護衛をしてくれていた男の姿も見える。

 

 彼はイチトシの姿を認めると慌てて駆け寄ってくる。

 

 

「イチトシ様!」

 

 

 ノードポリカでイチトシとベリウスを引き合わせたとも言える一人。ナッツと名乗った体格の良い人は少し目を離しただけでいなくなったイチトシを探したが見付けられず、応援を頼むため、先に目的地へと足を踏み入れていた。

 

 

「あれ、ナッツさんだ。良かった、合流できた」

 

「ご無事でしたか……」

 

「うん。この子が案内してくれたから。じゃあここがユニオン」

 

 

 ダングレストにあるというユニオンという組織。

 

 いくつものギルドをまとめた組織。かつて騎士団をも退けたという。街の中心にある建物に拠点を構えるその組織に彼女たちは用があった。

 

 正確にはナッツの隣に立っているナッツよりも大柄な男に。

 

 

「じいちゃん、あの、俺」

 

「ハリー。今は客がいるんだ。下がってろ」

 

 

 どうやら少年ハリーの言うおじいさんとは今イチトシたちの前にいる巨漢の事のようだ。実際使っているのかどうかは調べようがないが常人の数倍はある筋肉。

 

 体重を落とさなければと筋力トレーニングを頑張る女性たちも突き詰めるとあんなことになるのだろうか。恐ろしい。

 

 

「あ。私は後でいいですよ。外に居ますので、お孫さんの話を聞いてあげてください」

 

 

 ナッツの心配をよそにイチトシは優しく笑い、ハリーに向けて片手を振った。

 

 巨漢の男は隠しもせず眉を寄せると視線をナッツへと向けた。

 

 

「……。近くに俺が拠点としてる酒場がある。飲んで待ってろ。おい、案内してこい」

 

 

 控えている見張りに声をかければすぐに行動する彼ら。客人だからと丁寧な対応にイチトシは頭を下げ、同様に丁寧な対応で返す。

 

 貴族"らしい"対応にギルドの人は焦り、ナッツが場を諌める。彼女が貴族であることは目的の人物以外に知られては面倒だ。

 

 叱るように彼女を見ると彼女は誰にも見えないよう両手のひらを合わせる。ごめんね。音のない言葉が聞こえてくるようだ。

 

 ため息が出る。

 

 統領の頼みで貴族一人を彼に会わせなければならない。加えて女ひとりの言葉でベリウスの紹介だと信じてもらうことはできない。

 

 戦士の殿堂二番手としても知れ渡っているナッツならば。

 

 

 だが、どうだろう。

 

 街に着いた途端彼女は勝手にいなくなり、勝手にユニオンに入ってきた。

 

 すごいといえば確かにすごいだろう。だが、勝手すぎるといえば勝手すぎる。

 

 貴族とはこういったものなのか。絶対に彼女がおかしい。

 

 

 ユニオンのトップ天を射る矢(アルトスク)が拠点のひとつとする酒屋、天を射る重星。

 

 目的の人と話すために通された特別な部屋で、彼女は水を片手に周りを見回している。

 

 

「イチトシ様、その、統領とはどういった関係なのですか?」

 

 

 そもそも、自分が敬愛する主と友人だという彼女は一体。

 

 いい機会だと意を決して話しかけると彼女は水のグラスを両手に持ったままニッコリと笑う。

 

 

「分からない」

 

「は?」

 

 

 予想外の言葉に間の抜けた声が出てしまう。

 

 

「ただベリウスさんは私の忘れた記憶の中で出会った友達だそうです」

 

「記憶、ですか」

 

「私は両親に拾われるまでの記憶が無いのです。なので貴族というのも嘘みたいなものですね」

 

「それは、言っても良いのですか?」

 

「貴族としての籍は近々捨てる予定です。今はもう、力ある立場である意味も目的も。ふふ、初めましてドン・ホワイトホース様」

 

 

 ナッツの方向。酒場の入口に立つ男。

 

 ナッツは、振り向くことができなかった。

 

 何故かは分かっている。

 

 

 ふわりと柔らかく微笑むイチトシが彼女だと思っていた。ふらふらと目的なく歩きながら気になるものへ手を伸ばすのが彼女だと思っていた。

 

 ナッツの前で光無い瞳を開く虚ろな体には、誰がいる?

 


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