悪魔稼業を始めて数日、今では仕事は順調だ。深夜にもかかわらず汗を流しながら俺は今日も仕事に励む。・・・・チャリでチラシ配りを。
悪魔になってから昼間は体がだるくなっていたけど、日が沈んでからは力が倍増した状態になる。夜になったら調子が良かったのは悪魔の力によるものだったのか。
そんな悪魔の下積み時代、部長や朱乃さんなど他の部員たちは自分の使い魔たちにさせているため、悪魔になりたての俺は一人で指定されている場所へのチラシ配りをしている。
早く使い魔が欲しい!でもその為には悪魔の仕事も覚えないといけない。そもそもまだチラシ配りしかしていない。悪魔としての仕事をしないと階級も上がらない。自分の眷属も持てない。俺だけのハーレムも作れない!・・・何時になったら悪魔の仕事ができるんだろう?でも今は・・・
「うおおおおおお!!諦めるかあああああ!!」
街中でチャリを爆走させながら、叫び声をあげる。
~数日後~
部室に入るといつも通りチラシ配りに行く準備をしていると、部長に呼び止められる。
「待ちなさいイッセー。もう行かなくてもいいわよ」
「え?・・・ってことは」
「えぇ、今日から本格的に貴方にも悪魔としての仕事をせてもらうわ」
「おお!俺もついに契約が取れるわけですね!!」
「と言っても、初めてだから契約内容が比較的に低いものを選んだから、貴方でも大丈夫なはずよ」
よっしゃぁぁぁぁぁ!ついに、ついにこの時がきたぁぁぁぁ!やっと悪魔の仕事ができる!ここから俺のハーレムへの道が開けたぁぁぁ!
その後俺の手のひらに魔法陣を書かれた。これは依頼者の場所へ瞬間移動するためのもので、帰る時にもこれを使用するんだそうだ。これで俺もチャリでの移動も終わることができる。ありがとうチャリ。こんにちは魔法陣。もう使うことがないと思うと閑雅深いものがある。
「イッセー君。こちらに来て魔法陣の上に立ってください」
朱乃さんに呼ばれ、魔法陣の中心に立つ。
「あの、これは?」
「この魔法陣で依頼者のところへ直接飛ぶのよ。じゃあ、行ってらっしゃい!」
「はい部長!行ってきます!」
魔法陣が強く光りだす。あまりの強さに目をつむってしまうが、それがすんだら目の前には依頼者が目の前にいる!さぁ行くぞ!
パァァァァァァァ!!
・・・・・・。
光が弱くなり、目を開けると。
目の前には部長がいた。
あれ?瞬間移動は?なんで?しかも部長は困りが押してるし、ほかのメンバーも同じ顔してるし、なんで?
「イッセー。言いにくいことだけど、あなた、魔力があまりに無いもんだから、魔法陣が反応しないようね。そんなわけで直接依頼者のところへ行ってちょうだい」
「直接というと・・・もしかして・・・」
「えぇ、足で行ってちょうだい」
「うわぁぁぁぁぁ!!」
俺は絶望した。やっと、やっと悪魔らしい移動ができると思っていたのに、またチャリでの移動に逆戻り!夜中の街を涙を流しながら大急ぎで依頼者のもとへペダルを漕ぐ!こうなったら依頼者の希望を叶えて魔力が少ないのをカバーするしかない!目指せ!俺のハーレム!早く爵位を上げるんだぁぁぁぁ!!
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」(ダラダラ)
「イッセー。これはどういうことかしら?」
今俺は目の前の部長の前にいて、口調からすごくあきれられている。そんな部長からの質問に答えられず、汗をかいていた。
「依頼者との契約は取れないけど喜ばれるって、前代未聞よ。反応に困ってしまうわ。でも、あなたの意外性は面白いわね。次からはちゃんと契約を取りなさい。いいわね?」
「は、はい部長!次こそ必ず取ります!」
~二日後・夕方~
「はぁ~~~~」
部活が終わり、一旦家に帰る途中、俺は今ため息しか出ない。
昨日の依頼者のところへ行ったら、筋骨隆々のゴスロリの男が、いや“漢”が訪れた玄関に仁王立ちで出迎えていてくれた。
そのまま玄関の扉を閉めようかと思ったが、ここで帰ったら部長の期待に応えられないと思ったから意を決して部屋に入る。その人の名前は“ミルたん”。
ミルたんの依頼は魔法少女にしてほしいとのこと。いやいやいや、漢なのに少女って!?俺は即決で異世界へ行ってくださいと答えたが、すでに試したみたいで却下された。その後もなかなかいい案が出ず、最終的にはミルたんと一緒に魔法少女アニメを見せられた。
結局、契約自体はもちろん破談となったが、依頼者のアンケートでは好評だったため、部長も怒っていいのか褒めればいいのかわからない表情だった。
「あぁ~、早く契約がとりたい」
落ち込みながら独り言をつぶやいていた時、
「はわう!」
後ろのほうから驚いたような声が聞こえ、振り返るとそこにはシスターが転んでいた。
「あぅ~、なんで転んでしまうんでしょう」
「大丈夫ですか?」
あまりにも不便だったので俺はそのシスターに近づき声をかける。そしてそのシスターと顔を除くと―――――
一瞬で心を奪われた。
目の前にいるのは金髪の美少女でその瞳は緑色でついつい見入ってしまった。
「あ、あの~?」
「あ、あぁゴメン。だ、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。私よく何もないところで転んでしまって」
「そ、そうなんだ。えっと・・旅行か何か?」
「いえ、旅行じゃなくて、この町の教会へ赴任になったのでそこへ向かう途中だったんです」
「あ、そうなんだ。よかったらそこまで送ろうか?」
「わぁ!ありがとうございます!あ、すいません、申し遅れましたが、私アーシア・アルジェントと言います!」
「俺は兵藤一誠。イッセーと呼んでいいよ」
「はい!では私のこともアーシアと呼んでください!」
聞くところによると、自分の生まれた土地から外に出るのは初めてのことで、しかも地図を持っていなかったから、相当に困っていたらしい。しかも自分の言葉が英語だったため、話しかけても皆よけて通り過ぎて行ってしまったという。ではなぜ俺は言葉が通じたかというと、先日部長が悪魔の説明をしたときに、自分の言葉は万国共通になったらしく、自分の話す言葉は相手の最も聞きやすい言葉となり、相手の言葉は自分の親しんだ言葉になるみたいだ。
そしてお互いの話を聞きながら歩いていくと、途中の公園で膝をすりむいて泣いている男の子がいた。シスターはその光景を見るとすぐさま駆け寄り、傷口に手を当てるとそこから緑色の光があふれだした。その光景を見た俺は、驚くと同時にこの子も神器を持っていると推測した。その後再び教会へ向かう途中、自分も神器を持っていると話すと、さらに会話は弾んでいった。その途中、
「おや、兵藤君。こんなところで何をしているんですか?」
道の先には、ちょうどコンビニから出てきた同じクラスの東雲が出てきた。
「よお、東雲。今このシスターの子の道案内をしているところなんだ」
そう言って、隣のシスターを紹介する。
「えっと、この方は?」
「あぁ、こいつは同じ学校のクラスメイトなんだ」
「・・・兵藤君、君はいつからそんなに外国語が淡々としゃべれるようになったんですか?」
「え?・・あ!」
俺とアーシアとの会話は周りから見れば、外国語でしゃべっているように見えるので、クラスメイトからしてみれば違和感しか浮かばないのも当然のことである。
「そ、そりゃあ俺だって駒王に入ったわけだし、これくらいはできるさ」
「へぇ~、1年の時の成績は悲惨なものだったのに、何があなたをそうさせたんですかね?」
「う、うるせぇ!」
「ところで・・・」
颯は兵藤から隣の少女へと視線を向ける。
「ふむ、Nice to meet you, a sister. I say Shinonome Hayte. Are the greetings in English all right?」(初めまして、シスター。私は東雲颯と言います。英語での挨拶は大丈夫ですか?)
「Yes, it is all right. Nice to meet you, I am Arsia Argento.」(はい、大丈夫です。初めまして。私はアーシア・アルジェントと言います)
「おい、東雲!お前だって英語結構しゃべれるじゃねぇか!?」
「簡単な語学でしたら授業で教わりますし、後はそれを合わせたら文にできますし、発音に関しては、要練習ですから」
「ぐぬぬ、成績に関しては負けるから何も言えねぇ」
「さて、Sister Arsia welcome to Japan. By the way, was it not done what it was by this man?」(シスター・アーシア、ようこそ日本へ。ところで、この男に何かされませんでしたか?)
「おーい!!それどういう意味だよ!!」
「おや、よく英語が聞き取れましたね?」
「いや、それより何俺が変なことする前提で話しかけるんだよ!」
「学園の日頃の行いを今ここで暴露してもいいんですよ?」
「スマンオレガワルカッタダカラコノバデイウノハヤメテクレ」
「わかればよろしい」
「Isse is a very good person. Because I was nice to me who understood nothing so much.」(イッセーさんはとてもいい人です。何もわからなかった私にこんなに親切にしてくれたのですから)
「ふ~ん、親切、ね」
アーシアの兵藤に対する評価が高めだったため、横目で兵藤を見る。
「な、なんだよ」
「下心アリで近づいたのかと」
「うぐ・・・あ・・いや・・その・・」
「否定しないと」
「あ・・でも、道案内というのは間違っちゃいねぇからな!困ってたし、普通声をかけるだろう!」
「・・・まぁ、気持ちは分からなくもないですがね。では、A good-bye sister. If there is chance, let's see again」(さようならシスター。縁があればまた逢いましょう。)
そういうと、颯は手を振りながら去っていった。
「えっと、いい人そうですね」
「まぁ、実際いいやつだよ。学校では常にだれかの手伝いをしてるし、教師より教師らしいことしてるんじゃないかと思えてくるから」
「また時間があったら、あの人ともお話してみたいです」
「そうだな。また機会があったら改めて紹介するよ」
しばらく会話をしていくと、古くなっている教会が見えてきた。その瞬間体中から冷や汗があふれ出してきた。そりゃ俺悪魔になったんだもの、神様関係はダメだもん。早くこの場から離れたかった。そして分かれる間際、
「二度と教会に近づいちゃダメよ」
その日の夜。何時も通りに夜の悪魔活動のため部室に行くと、部長に咎められた。どうやら俺の行動は部長に筒抜けになっているらしい。それによると、悪魔と教会はもちろん敵対関係であるため、教会近くにいたら問答無用で俺を始末したらしい。そうならなかったのは、アーシアを送ってくれた俺の行為が善意であったため、相手もこちらに対して気を使ったんだということを知った。そうでなければ、俺は相手から攻撃され、無に帰したらしい。無と言われてピンとこなかったが、その後の説明で、体ごとチリと化し、消滅したらしい。
・・・こぇぇぇぇ~~~~。
「あらあら、お説教はすみましたか?」
俺の後ろから声が聞こえると、そこには朱乃さんがいた。
「朱乃、どうしたの?」
「大公から討伐依頼がきました」
その報告を聞いた瞬間、部室にいたメンバーは真剣な表情になる。
「討伐依頼?」
「そうね、イッセーは初めてね。ちょうどいいわ。一緒についてきなさい」
部長から声をかけられ、出かける用意をするように言われ、訳もわからぬまま準備を始めた。